新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
レイ達三人は、メインゲート以外の扉を片っ端から調べたが、軒並み無反応。
本部に連絡を取るべく携帯電話を確かめてみたところ、全員が『圏外』。
緑色の公衆電話も試してみたが、呼び出し音すら鳴りはしない。
有線・非常回線ともに完全不通の状態だ。
一部故障などという生易しいものではなく、大規模な停電…。
正・副・予備の三系統からなるNERV本部の電源が一度に落ちるという、
緊急時のマニュアルに従って『第7ルート』と呼称される非常地下通路へと向かった三人は、
薄闇の中で「07」と赤くナンバリングされた扉の前に立っていた。
扉の横には『
普段は電子ロックで閉じられていて、無理に開けようとすれば警報が鳴る仕組みだが、
それらが動かない今、この『手動ドア』が役に立つ。
「ほーら、シンジ。
「…男女で仕事を分けるのは、前時代的だって言ってなかったっけ?」
「あーもうっ!いちいち細かい事ばっかり覚えてるわね!
適材適所!アンタ、女に力仕事やらせる気?」
「わ、解ったよ。アスカって、こういう時だけ人に頼るんだもんなぁ…」
「大丈夫大丈夫。碇くん、前に比べてだいぶ筋肉ついたし、楽勝よ。
ほらっ、腰落として!
意識して、いってみようっ!」
「うん、やってみるよ」
「ふーん、バカナミ相手には素直じゃないの。
彼女の前だからってカッコつけちゃってさー」
「っ…うるさいなぁ…うぅんっ…!」
少女達に答えつつ、シンジは開閉装置の前に踏ん張り、レバーに両手を掛ける。
軽々とは行かぬまでもクランクは確実に回り、両開きの金属扉はゆっくり開いた。
ふぅ、と一息つくシンジ。レイは彼の背をポンポンと
「お疲れー碇くん。んじゃ、行こうか!」
「ちょっとバカナミ、なにリーダー気取ってんの?勝手に仕切らないでよ!」
「んー、アスカっちがリーダー張りたいんなら、別に構わないけどさ。
本部の構造解る?あたしは大体頭に入ってるけど、慣れないとマジで迷路だよ?」
「
素直に任せた方がいいんじゃないかな?
「うぐっ…!そ、それは…」
シンジに自分の言葉を返され、アスカは口籠った。
シンジがこの街に訪れてからせいぜい数ヶ月、アスカが来日したのは更に後…
基地構造の点では、年単位で過ごしているレイと比べれば差は歴然だ。
プライドが先行し、リーダーシップを取りたがったアスカだが、
この非常時…真っ暗な本部の中で迷ってしまったら、大惨事どころではないのは理解している。
リーダーとは威張るだけでなく『何かあった時に責任を取る』のが仕事なのだから。
「とゆーことでアスカっち
不肖、綾波レイ…ご命令とあらば見事、本部発令所までご案内致しましょう!」
「へっ…?」
人差し指を立ててみせたレイに、アスカは間の抜けた声を上げる。
アスカにリーダーの名目を譲りつつ、自分がナビゲートできる形をレイは提案した。
少女達のやりとりを見てクスクスと笑うシンジ。
「むっ」と喉声を搾って彼を睨んだアスカだったが、やがて諦めたような笑みを浮かべた。
「あぁ、もう…アタシの負けよ。じゃあ、
「
ビシリ、と敬礼を決めるレイ。
改めて三人は、暗い基地の中へと歩を進めていく…
いつもならばエレベーター、エスカレーターを使い、
5分と掛からず行けるジオフロントまでの道が、今はとてつもなく長い。
暗い道を照らす灯りは、アスカが身に着けた腕時計のライトのみ。
この停電がいつまで続くか解らない以上、携帯電話のライトは使うことを避けてバッテリーを節約している。
「うわっ!?」
「ほら、碇くん、あたしの手ぇ取って」
実質、裏道のような第7ルートは、整備のための予算がほとんど行き届いておらず、コンクリートも配管も剥き出しになったままである。
シンジはデコボコの足場に
「こんな時までイチャつかなくてもいいでしょうが、このバカップ…!」
「はい、アスカっちも」
「っ…!?」
差し出されたレイの左手に、アスカは言いかけた文句を飲み込んだ。
何秒かの間があり、アスカはおずおずとその手を掴む。
体温が低いのか、レイの手はひんやりと冷たく…
なのに、適度に力を入れた柔らかい掌は、何故か温もりと安心感があった。
その感触に、温泉旅館での一件を思い出し、顔を背ける。
暗さで紅潮した顔が解らないのは、アスカにとって幸いだった。
暗闇の中…危なげない足取りで二人の手を引くレイが、しばらく進んだあと、ハッ、と息を飲む。
「なによバカナミ」
「あたし…気づいちゃった」
「どうしたの、綾波さん。ま、まさか、道を間違えたとか…?」
「右手に美少年、左手に美少女…
今のあたしって両手に花じゃね!?」
「知らんわこのバカッ!」
ベチィッ!音量こそ小さいが、やたら通る打撃音が暗闇に響いた。
「
「
「二人とも、静かに!何か聞こえる!」
「なによシンジ!?」
涙目のレイと、噛みつくアスカの喧嘩を遮り、シンジは頭上を指さした。
「車の音だ…それにこの声…日向さん!?」
鉄骨の隙間から、かなりのスピードで走る車のヘッドライトが漏れていた。
スピーカー越しの作戦オペレーターの声が、うっすらと聞こえる。
事実上、スーパーコンピュータ・MAGIが市政を運営している第3新東京市において、
ほぼ形骸化してはいるものの、市議選挙は行われていた。
日向マコトは非常事態ゆえにNERV権限を行使し、偶然通りかかった選挙カーを接収したのだろう。
『…徒……近……!使徒…接近中…!ただちに…』
「「使徒接近!?」」
日向の声は途切れ途切れだったが、かろうじて聞き取れた言葉に、アスカとシンジが声を揃えた。
「メガネくんが、あんなに焦ってるって事は…こりゃー急がないとヤバいな。
よし、近道しよう!二人ともー、ちょっと手ぇ離すよー」
「近道?あるの、そんなの?」
驚いたように問うシンジに、レイは壁の一つを指さす。
正確には、壁にしつらえられたタラップと、ブリキ製の四角い穴だ。
「バカナミ、まさか…」
「イエス・マム!
ここを通れば時間を遥かに短縮できるものと愚考いたします、マム!」
楽し気に、そしてわざとらしい程に、先程の設定を蒸し返すレイ…。
苦虫を噛み潰すが如きアスカの表情は、暗闇に紛れた。