新世紀エヴァンゲリオン リナレイさん、本編にIN 作:植村朗
(ついに、叶う)
球形に閉ざされた世界で、少女使徒は呟いた。
母たる存在……第一使徒アダムへと還ること。
己の意思を主導とした
それが彼女達、使徒の目的だ。
仮に
あるいは
そして第十二使徒が目的を果たせば……世界は虚無の闇に還るだろう。
サードインパクトとは、大いなる生贄の儀式。
全ての古き生命との生存競争を勝ち抜く手段なのだ。
(『防壁』になっていた綾波レイは排除した。
あとは、アダムと接触するだけ……? いいえ、これは)
しかし『彼女』を前にして、使徒は戸惑った。
目の前にいる、碇ユイの姿をとった白い女性……
綾波レイの姿を借りた己とよく似ていたが、
(違う。これは……
今までの使徒は、私も含めて誤認させられていた……?
そういうことなのね、
リリス。
伝承から秘されし者。
イヴ=エヴァよりも古き女。邪悪なる雌蛇。夜魔の女王。
その名を冠する第二の使徒は、第一使徒アダムを起源としない、独立した使徒だ。
強大なエネルギーを内包しているのは確かだが、それを解き放つための
(ならば、鍵穴を強引にこじ開けてしまえばいい。
なに? ……何かが来る。『私の世界』に
『外の世界』から放たれた光線が、『この世界』の外壁をしたたかに打った。
モノクロの閉鎖空間に七色の波紋が広がる。
A.T.フィールド同士が干渉しあっている証拠だ。
『返せ……綾波さんを……返せぇっ!!』
(A.T.フィールドを通して、心の声が伝わってくる……
これは……碇シンジ! そう、
けれど、邪魔はさせない)
少女使徒は、渦巻く白黒の目を細めた。
******
零号機の光線が撃ち込まれて間もなく、第3新東京市に広がった漆黒円に波紋が生まれる。
物理攻撃無効の『影』への干渉が初めて成功したのを見て、ミサトは口端を持ち上げて笑んだ。
『手ごたえ有り、か。
シンジくん、虚数空間のエネルギーシフトを送るわ。
そこを優先的に狙って!』
「了解!」
シンジの目の前には、波打つ水槽のように立体化されたグラフが映し出されていた。
発令所からのデータを元に『当たり』の反応がある場所を探して、零号機の手を向ける。
しかし現世と虚数空間の境界が波打ち始めた時、地面にあった影は、嘘のように消えた。
「っ、なんだ!?」
道路の舗装を焼く手応えに、シンジは慌てて光線の照射を止める。
上空を見上げるとゼブラの球体が、すぅっ、と音もなく横へ動き……、
たたずんでいた
「なによアレッ!? あの球体は、実体のない
『パターン青が移動したのを確認した!
アスカの悲鳴じみた疑問に、青葉が分析結果を伝える。
女巨人は、己の両肩を抱き、朝焼けの空を仰いだ。
白磁の肌は、黒がかった灰色に染まり……背には、闇色をした12枚の羽根が伸びる。
禍々しくも美しい姿は、堕天使か。黒き聖母か。
巨人の頭上には、赤系極彩色に縁どられた黒い渦が現出する。
『極薄で巨大な円形』という意味では、ディラックの海がそのまま上空に移った様。
だが、その周囲の空気を通して見える雲は、明らかに歪んで見えていた。
「
「……」
冬月が小さく呟き、ゲンドウはその隣で黙していた。
『巨人のパターン、赤から青へ! 使徒に乗っ取られた模様!』
『正体不明の渦から、持続的な空振を感知しました!
信じられない……光と熱が、上空の渦に奪われています!』
『虚数空間の時点で、あの使徒は現代科学に真っ向から喧嘩売ってるのよ。
いちいち驚いてたらキリがないわ。
シンジくん、作戦中止! 一度撤退して!』
「でも、まだ綾波さんが……うわっ!?」
日向とマヤの報告を受けて、ミサトは指示を飛ばし……反論しようとしたシンジの声が途切れる。
エヴァ零号機は、その重量もろとも防壁ビルの屋上から
(渦に吸い込まれる!? 撤退しようにも、制御が効かない。それに……寒い!
熱を直接持っていかれてるみたいだ。LCLの防壁能力を越えてるのか!?)
シンジは奥歯をカチカチ鳴らしながら、渦を睨んでいた。
ブラックホールのように無差別ではなく、エヴァだけを狙ったような吸引。
背中のアンビリカルケーブルが唯一の命綱となり、ピンと張る。
「シンジッ!?」
アスカは
エヴァ弐号機は地に降り立ち、道路を抉りながら救助に向かう。
「アスカ、ダメだ! 君まで巻き添えになる!」
「バカッ! ヤケクソになって『俺に構うな』なんて、B級映画だけで充分よ!」
乱暴に言葉を投げてから、アスカはただ、全力で走った。
弐号機の速度とパワー……そしてあの渦の吸引力も加味して、ジャンプの角度を頭の中で計算……背部スラスターを全開。
たった一度のチャンスを逃すことなく、零号機と空中で肩を組むように接触した。
「日向さん、ケーブルリバース! 二機ぶん、最高速でね!」
『了解! 舌を噛むなよ!』
大質量の人型兵器を動かす電源ケーブルともなれば重量は相当なもので、それを巻き取るのに必要な力は充分な武器に成り得るし、体勢を立て直して渦に向き合うことが出来る。
しかし渦の引力圏から離脱するには至らず、拮抗状態。
いや、ケーブルの強度を考えれば、引きちぎられるまでの僅かな猶予が得られただけ、と言ったところだろうか。
「ごめんアスカ……僕のせいで……」
「内罰的思考なんて捨てなさい。
考えるのはアイツを……バカナミを奪い返すことだけよ!」
「!!」
アスカの言葉は、ストレートにシンジの心に叩きつけられる。
同時にそれは、アスカが自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。
自分が傷つくのが怖い。
他人が傷つくのを見るのが怖い。
だが、大事なものを失うことは、もっと怖い。
恐怖にかられて何度も忘れかけ、勇気を振り絞って何度も思い出す。
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。
不器用で、無様で、利己的で……それでも、真剣な想い。
「綾波さんを、助けたい」
「そうよ。あの寝坊助を、アタシ達が叩き起こしてやらなきゃ」
その想いが、A.T.フィールドの形を変えた。
普段の戦いで展開する虹色の光壁ではない。先程撃ったあの光線でもない。
白く白く……エヴァ両機を中心に、光が広がっていく。
『二人の精神波長が……A.T.フィールドが共鳴しているの!?』
リツコは驚きと共に、光が上空へと到達する光景を見ていた。
非現実的な闇の渦は、白く染め上げられていき……
べりべりべりべり。
大判のポスターを体当たりでブチ破るような、妙に現実的な音と共に貫通された。
「チェスト・サードインパクトぉぉぉ!!」
「「「「「「!!??」」」」」」
レイの大声は全回線を通じて発せられ、発令所の面々もパイロット達も一様に言葉を失い……
閉鎖空間より飛び出したエヴァンゲリオン初号機は、落下エネルギーにスラスター推力を乗せて、第十二使徒と融合した
******
「やぁ、
白一色の世界で、同じ姿の少女二人は再び相対していた。
レイは、リリスと融合した少女使徒へと精神接触したのだ。
(綾波レイ……私は、負けたのね。精神に干渉してきたのは、意趣返しかしら)
「ちょっとは、それもある。
けど、どっちかってーと、あたしがキミと話したかったから、ってのが本音かな。
なんでサードインパクトを起こしたかったのか、とかさ」
十秒ほど、沈黙。
(私は消えたいの。欲しいものは絶望。虚無こそが、私の安息だから)
「違うね。そりゃ
使徒の記憶は連続してる。だから、どっかでゴッチャになってるでしょ」
(!!)
指摘を受け、少女使徒の眼……白黒の回転が早まった。
超越的存在である使徒が動揺しているのを見て、レイはニヤリと笑う。
「グルグルちゃん言ってたよね? 『この周回』では全てが狂っている、って。
ロンギヌスの槍をハッキングして解った……いや、思い出したっていうべきかな。
『この世界』は、何度も繰り返されてる。
今回は、たまたま零号機起動実験の暴走事故で
『有り得たかもしれない綾波レイの可能性』が目覚めてしまった。そうでしょ?」
例の事故以前のレイは、NERVでも学校でも
元々綾波レイという人間に、一般常識や、ましてサブカルチャー等の知識は皆無だった。
頭を打って、性格が変わるだけならまだしも、
にも関わらず、普通の女子達の会話や、相田ケンスケのオタク話についていける時点で、全てがおかしかったのだ。
この街に来て間もないシンジに惹かれていたのも、各周回で積み重ねてきた『不器用な自分』の想いが、無意識のうちに発露していたためだ。
(そう、私は……貴女の欠片を追っているにすぎなかったのね。
これで、私の
さぁ、私を消して。
滅びを免れ、未来を与えられる生命体は、いずれか片方しか選ばれないのだから)
「んもー、グルグルちゃんってば隙あらば電波ポエムを語りだすー!
あたしゃ使徒スレイヤー=サンじゃないし、キミを消滅させたいほど憎いとか、そういう感情は別にないんだよね」
(なぜ? 貴女と私は敵同士だった。全てを滅ぼそうとしたのに)
「そう、それだよそれそれ。
サードインパクトを起こして、全部虚無の中に沈んじゃったらさ。
確かにそれ以上争いは起きないけど、さみしーじゃん? そういうの」
だから、こっちにおいで、と。レイは少女使徒の手を取った。
(暖かいわ。貴女の
「虚無の中は、ずっと寒かったでしょ? いいよ、
第十二使徒は、レイの心に寄り添い……白一色の精神世界は、一つになっていく……。
******
ダークグレーの堕天使めいた女巨人は、紅く明るい光を発して槍に吸い込まれるように消えていき……
影に飲まれる前そのままの街並に、エヴァ初号機だけが立っていた。
『第十二使徒、および巨人のパターン青消失を確認。パイロットは、全員無事です!』
「綾波レイ、戻って参りました! 第3新東京市よ! あたしは帰ってきた!」
日向の宣言と、それに続くレイの言葉……一歩間違えば、
「まったく、こっちは散々苦労したってのに、呑気なもんね」
「ハハ、安心して、力が抜けちゃったよ……」
……渦の引力が急に消えたせいで、ケーブルに引っ張られていた零号機と弐号機は、地面にへたり込んだまま引きずられていた、というオマケつきではあったが。
それでも、モニターパネル越しに顔を合わせれば、笑みがこぼれる。
「……碇くんとアスカっちの声、聞こえたよ。
二人ともありがとう……ただいま」
「「おかえり」」
再会を祝すように、第3新東京市には、セカンドインパクトから降る事がなかった雪が舞っていた。
本来ならTV版第十四使徒ゼルエル・新劇第十使徒戦相当までを「は」の章とするべきかもしれませんが、レリエル戦が思いの他やべー事になったため、ここで章を区切らせて頂きます。
原作ではバルディエルさん以降トラウマ級の使徒が続きますが、こちらではリナレイさんがアップデートされてたり、世界自体が色々改変されてるのでどうなるか解りません。
人類補完計画はシナリオめちゃくちゃでSEELEのおじいちゃん達は涙目だし、ゲンちゃんや冬月のじっちゃんは色々言い訳に奔走する羽目になるかもしれないけど、まぁちかたないね。
エタらなければ次回から「きぅ」の章予定。
更新予定は未定。