問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

103 / 107
やるとこまでやってやんよ(ヤケクソ)
あと『大海を統べる者』やキングゥなどについての説明はそのうち後書きとかで軽くします。

平成最後の投稿。
私も1世代前の人間になるんですねぇ...


FAIRY TAIL
妖精って綺麗なイメージあるけど、伝承ではゴリクソ怖く書かれてるよね


 

 

 

 

 

 Prrrrrrr...Prrrrrrr...Prrrrrrr...ガチャッ

 

『おう、クソジジイ。テメェまたやりやがったな?』

「ワシは“クソジジイ”なんて名前ではありません」

『じゃあそろそろ名前教えろ』

「フッ...名などとうの昔に捨てておるわ...」

『マジいっぺん死んでこい』

「死ねとか言っちゃいけないって小学生の頃習わなかったかなー? あー、そっかー! ぼくはまだようちえんちぇいなんでちゅねー? .....話の途中で電話切りやがったぞあの小僧。おいオカン、子供の躾はちゃんとしとくもんだぞ?」

「いや、今のは貴方が悪い。全面的に」

 

 

 箱庭二一0五三八0外門郊外、“ファミリア”本邸。

 優雅にアフタフーンティーなどと洒落こんでいた老人、もとい老神は、突如かかってきた電話の相手への文句を垂れる。

 茶請けを持ってきたエミヤは、そんな老神を呆れたように見る。

 

「それで? 今回は私達のマスターに何をしたんだ?」

「んー? どっかテキトーな異世界に飛ばした。マカロンうまー」

「供は?」

「二人」

「.....ならまあ、少しは安心か」

「三人とも別々の場所に飛ばした」

「何一つとして安心ではなかったな」

 

 己の主人の安否を案じ、エミヤは空を見上げる。

 ここではないどこかの世界で、主はちゃんと食事を摂れているだろうか、お腹を冷やしてはいないだろうか、と...。オカンはやはりオカンだった。

 

 

 

 * * * *

 

 

[凌太side]

 

 

『死ねとか言っちゃいけないって小学生の頃習わなかったかなー? あー、そっかー! ぼくはまだようちえんちぇ』

 

 電話越しの声をそこまで聞き、怒りに任せて通話を切る。

 いやー、相っ変わらず腹立つわー。俺の煽り耐性が低過ぎるのか?

 ツー、ツー、と鳴る電話を一旦ギフトカードにしまい、周りを見渡す。紅葉している葉で覆われた森...だと思うんだが、如何せん暑い。日本の真夏くらいはある。溶けそう。

 というか俺はさっきまで“ファミリア”本拠の自室で寝てたはずなんだけど。あのクソジジイめ、どっか異世界飛ばすなら前もって言えよマジで。目を開けたらそこは異世界でした、とかほんと意味分からんからな。

 

「とりあえず飯」

 

 ギフトカードに常備している保存食を引っ張り出し、口の中に放り込む。保存食とは言っても、そのほとんどは俺かオカンによる手作り弁当だ。ギフトカードの中は物が劣化しないからな。食品だって収納した時と同じ鮮度で取り出せる。便利なんだよなぁ。

 エミヤ印の鯖の味噌煮弁当を完食した後、お茶を飲んでから散策へと出かける。

 とりあえず目指すのは、木々の間から見える巨大な木だ。下手すれば“アンダーウッド”と同じ程度の高さはありそうな大樹を目指し、落ち葉を踏む心地よい音を聴いていると、ふと人の声が耳に届いた。

 

「あなた...」

 

 小さいが、強い意志の篭っている声。怒気、と言い変えても良いかもしれないソレを聞き、俺は振り返る。

 

「誰だ」

「それはこちらのセリフですよ、部外者の方。我ら“妖精の尻尾(フェアリーテイル)”の聖地に、一体何の用事ですか? そもそも、この島にどうやって侵入したのですか?」

 

 気配を一切感じ取らせない相手。警戒心をMAXにして振り向いてみれば、そこにいたのは十歳前後の女の子。白に近い金髪は軽くウェーブがかっており、毛先が地面に着きそうなほど長い。

 側頭部に羽根みたいなのが着いてるけど...あれ耳か? 亜人的なアレなのだろうか。それともただの髪飾り?

 種族の判別に少々戸惑ってしまったが、それより気になることがある。

 

「“妖精の尻尾(フェアリーテイル)”ってのは、なんかの組織名だよな? すまない、他人らの聖地だとは知らなかったんだ。つーかそもそも、俺は気付いたらここにいた。だからどうやって入ったのかも...まぁ手段が分からないでもないんだが、俺自身がやったことじゃないし出来ることでもない。だから許してくれ」

 

 無闇に争いを起こす必要はない。大人しく謝罪をし、相手の反応を窺う。

 ...それにしても、随分と現実離れした雰囲気の子だな。まるで人形みたいだ。容姿も整ってるし。将来はさぞ美人になることだろう。まああんまり興味ないけど。美男美女とかそろそろ見飽きてきたくらいだしな。贅沢なことを言ってるかもしれないけど、大事なのは外見より内面だぞってじっちゃも言ってた。

 

「...嘘は言っていないみたいですね。どうやってここに来たか分からないとのことですが、帰り方は?」

「手段がないわけじゃないんだけど、今は無理っぽい」

 

 タイムマシン擬きもないし。爺さんには頼りたくないし。

 

「そうですか...。であれば、仕方ないですね」

 

 許してもらえただろうか。だったらさっさとここから出ていこう。あの大樹は気になるが、これ以上聖地とやらに居座られてはこの少女も困るだろうしな。

 

「じゃあ、俺はこれで。ずっと真っ直ぐ進めば聖地から出れるよな?」

「不可能ではありませんが、厳しいかと思いますよ? だって我らの聖地はこの島全土ですし。四方を海に囲まれているうえ、最寄りの大陸までは相当な距離があります」

「...孤島ときたかー」

 

 それは予想外だった。わざわざ孤島なんかに飛ばすなんて、爺さんは何を考えているのか。何も考えてないんだろうなぁ、きっと。

 けど、海なら問題はない。海の上くらい歩けるし。

 そんなふうに考え、改めて少女に向けて別れを告げる前。少女が俺より少しだけ早いタイミングで口を開いた。

 

「なので、脱出の手伝いはこちらでやらせていただきますね」

「え? いや、別に必要ないけど」

「え? .....もう迎えの人呼んじゃいましたけど」

「いつの間に」

 

 どこかに連絡する素振りも見せなかったところをみるに、念話とかそういう系統の連絡手段を持っているのだろう。便利だなぁ。俺も念話、したいなぁ。こう、顔色は変えずに敵前で仲間と作戦会議するとかさ、なんかカッコイイじゃん。いや格好の良い悪いだけじゃなくて、普通に便利だし。

 俺が叶わぬ夢を描いていると、少女は顔を俺から見て右側に向ける。

 

「来たみたいですよ」

 

 少女に倣って右...少女視点での左側へと意識を向けてみた。

 なるほど確かに、四人ほどがこちらに向かってきている。にしても、なんだこの気配? どっかで感じたことあるような.....?

 妙なデジャブに首を傾げていると、いつの間にか少女の姿が見えなくなっていた。それとは逆に、“迎えの人”とかいう奴らの声が聞こえてくる。

 

「おいナツ! 本当にこっちで合ってるんだろうな!?」

「間違いねぇ! 初代の声がしたのはこっちだ! あと誰かは分かんねえけど、人間の匂いもする!」

「サラマンダーの言う通り、確かにこの先から人間の匂いがしやがる。悪魔の心臓(グリモアハート)の残党か?」

「家族を脅かす敵は倒す! それが漢ォ!!」

 

 やたら気合いの入った声と共に、俺の視界に四人の人物が映った。

 パンイチのイケメンと、白いマフラーを巻いた少年、眉やら話やら耳やら腕やらに鉄杭がある男、白髪ゴリマッチョ。なんとも個性豊かな四人だ。にしてもマフラー巻いてる奴と鉄男、あの二人の気配、やっぱどっかで...。

 

「見つけたぞ! 火竜のォ、鉄拳!!!」

 

 先頭を走っていたマフラー野郎が、拳に炎を纏いながら殴りかかってくる。魔力を感じるし、魔術だろうか。

 襲われてしまっては反撃するほかない。それにさっきの言葉...火竜とか言ってたな。それで思い出した。マフラー野郎と鉄男の気配はアレだ、イッセーやヴァーリに似てるんだ。目の前の二人も、その身に龍を宿しているのかもしれない。なら油断は出来ないな。

 

 炎の拳をギリギリまで引き付け、半身になって避ける。拳が宙を切り、相手の体が少し前のめりになったところを狙って、喉元に蹴りを一発。

 

「グバッ!!」

「うおっ!?」

 

 蹴りは綺麗に入り、後ろにいたゴリマッチョを巻き込んで吹き飛んでいく。残りの二人はさすがに警戒したのか、足を止めてこちらの様子を窺う体勢に入った。

 

「ナツが一撃で...!?」

「クソッ」

 

 さて、攻撃されたから反撃したが、このままでは俺はただの悪党になってしまうのではなかろうか。さっきの女の子が言うにはここは聖地、まぁ一種の私有地なわけだし、不当に入ってきたのは俺の方だ。侵略者とみなされても仕方のない立ち振る舞いである。

 ここは穏便に。もう手遅れだが、できるだけ穏便に。残り二人と話し合い、俺はここから出たいだけだと説明するしか──

 

「アイスメイク、槍騎兵(ランス)!」

「鉄竜剣!!」

 

 こっちがコミュニケーションを図ろうとしたらこれだ(半ギレ)

 氷の槍と鉄の剣が迫ってくる。なんでそんなに血気盛んなんだろう。俺も人のこと言えないけどさぁ、さすがに自分の土地に勝手に入ってきたくらいで殺しにかかったりはしないわ。多分。

 それにしても、この二人も魔術師か。威力も人間にしては中々いい線いってるとは思うが...所詮は魔術なんだよなぁ。

 氷の槍は俺に触れた瞬間霧散し、鉄の剣も受け止めたらただの腕に戻った。というか腕を鉄剣にする魔術て。ヘンテコな魔術使うやつだなぁ(全身を雷化させる人)

 

「何ッ!?」

 

 パンイチ男が驚愕に目を見開く。鉄男も同じようなリアクションをし、動きが止まった。チャンスはここだ。

 

「あー...アンタら、お仲間に連絡貰って来たんだろ? ほら、金髪ウェーブの小さい女の子の」

「.....初代のことか? ッ! テメェ、まさか初代に手ェ出しやがったのか!?」

「なんもしてねぇよ。幼女にゃ興味ない」

 

 失礼な奴め、人をロリコンみたいに.....あっ、いや、攻撃したとかいう意味の『手を出した』? ...わ、わかってたし。

 

「とにかく。その、初代? 女の子とさっきここ会って、迎えを呼んだから島から出て行けって言われてな。俺も気付いたらここにいた身だし、連れ出してくれるってんならありがたい話だと思って」

「気付いたらここにいた、だぁ?」

 

 怪訝そうに俺の言葉を繰り返すパンイチ男。

 傍から見て怪しいのは確実にあっちだろ。つーかなんとなく流してるけど、突然攻撃してくるパンイチ男ってなんだよ。やっすい怪談か。

 俺も怪訝な視線をパンイチ男に向けていると、鉄男が口を開く。

 

「その初代はどこにいんだよ」

「知らない。アンタらの声が聞こえてきたくらいで消えちまってた」

「ギヒッ、信用出来ねぇなぁ? とりあえずテメェは大人しくやられとけ!」

 

 酷い話だ。

 せっかくこっちが素直に謝ったり穏便に済ませようとしてるってのに...。やっぱ(ガラ)じゃないのかなぁ、こういうの。

 剣やら棍やらブレスやら、鉄男が放ってくる魔術をテキトーにあしらい(無効化し)ながら、ため息をこぼしてみる。まぁ穏便にことが済まないのなら俺らしい手段を使うまで、か。

 

 攻撃をいなすだけだったが、次は反撃に出よう。

 振り下ろされる鉄棍(腕)を受け止め、握り潰すつもりで掴んでから地面に叩き付ける。

 苦悶の声を上げる鉄男に電撃を直で流してみたらそのまま気絶してしまい、残るはパンイチ男だけとなった。

 

「なぁ、実力差はもう分かったろ? 俺と戦ってもお前に勝ち目はないんだからさ、大人しく俺を島から出す手伝いをするか、こいつら連れて帰るかしてくれ」

「クッ...調子に乗りやがって...!」

 

 乗ってないんだよなぁ。この前負けたばっかで乗れないんだよなぁ。

 パンイチ男.....おい待ていつの間にか全裸男にシフトチェンジしてるんだけど。なんだこいつ怖っ。いつ脱いだんだよ、気付けなかったんだけど。え? もしかして俺タルんでる? 無意識に慢心して注意散漫してる? そんな馬鹿な。

 ま、まぁそれは置いといて。気は引き締め直すとして、だ。

 全裸男の奴、なんか「どうやったら勝てる? 魔術の無効化には何かタネがあるはず...どうすれば奴に攻撃が通る?」とか考えてそうな顔してるんだけど。タネとかねぇよ、自前の対魔力だよ(タネ)

 

「はぁ...もうめんどくせぇな」

 

 そう言ってから、俺は魔力を練る。

 相手も相手で、自分らの聖地に踏み入られた怒りからなのか、冷静さが欠けているように思う。そういう時は一度時間を空けるべきだ。俺だって人間だし、まだまだ未熟だし、感情的になることは多い。人間だもの、お互い様だね。ってことで、ここは広い心でこいつらを許してやろうじゃないか。

 そんじゃ、とりあえずぶっ飛ばすか(クールダウンだ)

 

「歯ァ食いしばれよ、変態」

「あ?」

 

 練った魔力を右手に集約し、雷に変える。バチバチと走る紫電を見た変態全裸男は、腰を少しだけ落とした。

 スタンガンより高電圧に調整し、変態男の懐へと入り込む。俺の動きが見えていなかったであろう変態男は驚いたような顔をして飛び退こうとしたが、間に合わないし間に合わせる気もない。

 

「ガッ.....」

 

 変態男の左胸に、電気を纏った右手で掌底を打ち込む。

 意識は刈り取るが死にはしない、そんな威力に調整して打ち込んだが、どうやら思惑通りことは進んだようだ。軽く泡を吹いて前倒れに気絶した変態男を受け止め...るようなことはせず、そのまま地面に転がす。

 いやだって全裸の男なんか受け止めたくないし.....。

 

「火竜の咆哮ォオオオ!!!!!」

 

 今後の方針を考え直そうとしていると、横からそんな声と共に炎が飛んできた。

 何もしなくても無効化はできるが、さっきのマフラー少年に加えてゴリマッチョ野郎もまだ意識があるようだし、まとめて片付けよう。

 

雷砲(ブラスト)

 

 腰を回し、拳に乗せた雷を放射する。

 炎を飲み込み、マフラー少年とゴリマッチョも巻き込み、さらにその後ろの木々も巻き込んで、雷の砲撃(ビーム)は猛威を振るった。

 十秒もすると、ところどころ帯電している部分があるものの、雷は霧散する。残ったのは焦げ付いた土や木炭、そして二人の人間。ギリギリ死んではいないらしい。もし一般人程度の耐久しかなかったら今のでお陀仏なんだが、予想通りある程度は鍛えてるっぽいな。

 

 “迎えの人”を()してしまったからには、別の手段でこの島を出なければならないかもしれない。せっかくだからこの世界の色んなところを見て回りたいし、聖地云々を抜きにしても島を出るのは構わない。

 しかしまぁ、最近は一人で異世界を渡り歩くということが少なかったし、同行人、ないし現地に詳しいやつを見つけたいのも事実。降ってきた機会だし、妖精の尻尾(フェアリーテイル)とやらと交流を持ってみるのもいいかもしれないな。...もう敵認定されてるかもしれないけど。

 

 倒れている四人が走ってきた方向を少し探ってみれば、多数の気配が探知できた。多分あれが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だろう。

 話の通じる奴がいればいいんだけどなー、などと軽く考え、気絶している四人を引きずってそちらに向かうことにした。

 

 

 

[凌太side out]

 

 

 

 * * * *

 

 

 

 天狼島の砂浜付近に停泊している、とある船の甲板にて。

 ルーシィ・ハートフィリアは、茹だるような暑さに脳を溶かされるような感覚を味わいながら(熱中症一歩手前)、ぼんやりと島の方へと視線を向ける。

 

「ナツ達、遅いな〜」

 

 潮の匂いを含む湿った風を肌に受け、靡く金色の髪を抑えながら、少女は呟いた。

 ルーシィの言葉を広い、小さな老人が顎を(さす)りながら同じく島の中心部、ナツと呼ばれる人物達が走っていった方向を見る。

 

「まったく、『初代の声がした!』などと言って勝手に飛び出して行きおって。もう出航の準備は整っとるんじゃがなぁ。エルザ、悪いが少し様子を見てきてはくれんか」

「分かりました」

 

 老人に指示を出されたエルザという赤髪の女性は、すぐに頷き了承の意を示す。

 船から飛び降り、島の方へと足を向けたその時。背の高い植物がガサガサと音を立てて揺れた。何かの生き物が動いている、と警戒したエルザは、その手に剣を召喚し、柄を強く握る。

 

「んー? ナツ達帰ってきたー?」

 

 船の上にいたルーシィにも植物の動きが見えたのだろう。暑さにやられている少女はダラけきった声で、誰ということもなく問いかける。

 だが、それを肯定する者はいない。植物の揺れに気付いたのは、ちょうどそちらを向いていたエルザ、ルーシィ、そして老人の三人のみ。ほかにも多数の人間がこの船には乗っていたが、皆別のことをしていて気付いてはいなかった。

 

 エルザと老人が鋭い目付きで揺れる植物を見つめる。

 しばらくガサゴソと揺れた植物の間から出てきたのは、黒い髪の少年だった。

 この島に無断で入ってきたらしき部外者。それだけでも十分に警戒するにたる人物ではあったが、さらにエルザ達の警戒心を高める要素を、その少年は持っていた。

 

「...貴様、何者だ」

「ああ、アンタらが妖精の尻尾(フェアリーテイル)?」

 

 質問には答えず、逆に質問を投げてくる不審者──坂元凌太。

 彼の手によって引きずられてきたものは、エルザ達の仲間。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の構成メンバーである、四人の魔導士だった。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地に現れた、気絶し傷付いた仲間(かぞく)を引きずる謎の男。エルザの頭には“敵”の文字が()ぎる。

 老人やルーシィも目を見開き、ルーシィは腰に掛けていた黄金の鍵に手を伸ばす。

 

「あー...落ち着いて俺の話を聞け。俺は漂流者だ。お前らに対して害意はない」

「私達の仲間を傷付けておいて、よく言ったものだ」

「そりゃいきなり襲われたら反撃もしますわ。反省はしてないこともない」

 

 数度の言葉の横行で、エルザは、男には本当に敵意も害意もないのではないかと思う。男が本当にただの漂流者だったとして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)悪魔の心臓(グリモア・ハート)との抗争やアクノロギアへの敗北を経験したばかりで気が立っているであろうナツ達が早とちりし、一方的に攻撃を仕掛けても不思議ではない。

 しかしながら、S級魔導士昇格試験にも参加できるほどの実力者であるナツ達四人を一人で倒せる相手でもあることに違いはない。エルザ達にとって、決して油断はできない状況だ。

 

「あー...えっと、森の中で十歳くらいの女の子に会ったんだ。金髪の、なんか天使見たいな格好した子に」

「...初代のことか?」

「私のことですか?」

「そうそう、確か初代とか呼ばれてたそこの女の子に.....お前、ホント気配消すの上手いなぁ」

「「「しょ、初代!?」」」

 

 気付いたら例の少女は船の舷縁に腰を降ろし、足をパタパタとさせていた。その出現を全くと言っていいほど感知出来なかった凌太は少しだけ悔しそうな顔をするが、それを見ていたのはこの場で初代と呼ばれる少女だけだった。

 悪戯が成功した子供のように、少女はくすくすと笑う。

 

「ああ、そうだ。彼の言っていることは真実です。少し調べてみましたが、私が彼と遭遇した付近で不思議な波、のようなものを感じました。恐らく時空か何かを越えた者、神隠しに遭った者...彼の言葉どおり、“漂流者”という表現が一番しっくりきますね。三代目、彼を島の外へ出してあげてください」

「は、はぁ...まあ初代がそうおっしゃるなら...」

 

 展開に着いていけていないであろう老人は、とりあえず頷く。

 騒ぎ...というほど煩くはなかったが、何やら異変が起きていることに気付いたほかの妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーや救援組がぞろぞろとやってくるなか、「神隠しってのは言い得て妙だな。...あれ? 言い得て妙って使い方合ってる?」などと独り言を漏らしながら初代へと言葉を投げる。

 

「突然消えたと思ったらそんなことしてたのかよ」

「はい。少し気になったもので。時空を越えた者、というのは前例がないわけでもないようですし」

「そうなのか?」

「ええ。まぁ、私が直接会ったわけじゃないんですけどね。古い文献に書いてありました」

 

 それより、と少女は凌太に笑いかける。

 

「私、メイビスっていいます。貴方は?」

「坂元凌太」

「サカモトリョウタ...変わった名前ですね」

「確かに“元”は珍しいな。普通“本”だし」

「いえ、そこは知りませんけど。というかそれ抜きでも十分珍しいですよ」

 

 そりゃあ国境どころか世界なんてものを越えればなぁ、と思うと同時に、ここが地球ではない、少なくとも日本という島国やそれに似通った国は無いのだろうと凌太は憶測する。あったとしても知名度の無い少民族だろう。

 

「サカモトリョウタ...ではリョータ、と。私、貴方に興味が湧きました」

「ごめんなさい俺小さい子はちょっと...」

「恋愛脳やめてください。それに私見た目ほど幼くないっていうか寧ろおばあちゃんみたいな...コホン。そういうことではなくですね」

 

 凌太の存在が気になりつつも、初代(メイビス)と話していることで近寄れず遠巻きに見ながら出航の準備をしている周囲の面々をあえて無視する二人。

 気を取り直したメイビスは、「私、気になります!」という目をしてズイっと凌太の方へ前のめりになる。

 

「私の姿、リョータは見えているんですよね?」

「は? まあ、見えてるけど」

 

 何を突然? と首を傾げる凌太をよそに、メイビスはさらに興味津々な様子で凌太を眺める。

 

「本来なら、貴方は私の姿が見えないはずなんです。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を刻んだ者にしか見えない、そのはずなんですが」

「なぜか俺には見えてる、と。つーことはあれか、メイビスは幽霊的な何かなのか」

「そうなります」

 

 初めから違和感のようなものはあった。普段冥界に還している霊とはまた少し違った存在らしいが、全く違うというわけでもないのだろう。

 

「これから貴方はどうするのですか?」

「ん? そうだな...ま、テキトーにブラブラしとくつもりだよ。被害者な俺には目的なんてもんはないし、気楽にやるさ。一応、妖精の尻尾(フェアリーテイル)との繋がりは持っとこうと思うけどな」

「そうですか、それは良かった」

「なにが」

「リョータ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ってみる気はありませんか?」

「俺にメリットがないので却下。それに俺は誰の下にも付く気はねーよ」

「別に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に骨を埋めろ、というわけじゃありませんよ? ただ、身寄りがないのであれば魔導士ギルドに仮所属するのも悪くないんじゃないですか? それに、ギルドに入るということは誰かの下に付くという意味ではありません。私達の仲間になる...もっと緩く言えば、他よりも親しい友人になる程度に捉えてもらって構わないです」

 

 ヤケに薦めてくるけどなんか腹黒い思惑でもあんのか? と訝しむ凌太だったが、他でもない彼の直感がそれを否定している。

 メイビスからすれば、興味の対象を手元に置いておきたいという気持ちと.....それから、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の戦力について考えた結果の提案だった。

 最強最悪の龍、アクノロギア。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を全滅寸前にまで追い込んだ、いつ襲ってくるのかも分からない強大な存在。それに対処するために、凌太というアクノロギアに匹敵しかねない戦力を欲しがったのだ。

 

「(リョータの魔力...()とはまた違った《何か》を感じる。ヒトでありながらその範疇に収まらない、その圧倒的な保有量もさることながら、ヒトのそれとは質が違う...気がします)」

 

 凌太から悪い感じはしない。では良い感じがするのか、と聞かれればそれも違うと言うしかないのだが、少なくとも引き入れてマイナスにはならないだろう。勘の域を出ない憶測ではあるが、不思議と間違っている気はしない。

 

「んー...まあ、いっか」

「ホントですか!」

 

 パァ、と効果音が付きそうなほど表情を明るくするメイビスの眼前に、凌太は人差し指を立てた右手を突き出す。

 

「ただし条件がある。俺は一時的に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属するだけで、抜ける時は抜ける。俺が気に食わない状況になったり、帰れるようになったりした時だな」

「道理です。無理に居続けることはありません。私達にそこまでの強制力はありませんし」

 

 本音を言うと妖精の尻尾(フェアリーテイル)の将来のためにも永住して欲しいが、言葉にした通り無理強いはできない。そんなものは彼女の求めた“ギルド”ではなくなってしまう。

 

「しかし、脱退する際にいくつか守ってもらいたい掟があります」

「掟?」

「はい。一つ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不利益になる情報は生涯他言してはならない。二つ、過去の依頼者に濫りに接触し個人的な利益を生んではならない。三つ、たとえ道は違えど強く力のかぎり生きなければならない。決して自らの命を小さいものとして見てはならない。愛した友のことを生涯忘れてはならない。この三つは厳守してください」

「ん。まぁ、その程度なら問題ない」

 

 そんなこんなで、凌太の妖精の尻尾(フェアリーテイル)への所属が決定した。現・妖精の尻尾(フェアリーテイル)の誰一人として承諾していない、というより話がよく聴き取れず、彼らの知らないところで勝手に決定してしまったのである。

 

 

 ───まあ、知ったところで反対する者もいないのが妖精の尻尾(フェアリーテイル)というギルドなのだが。

 

 

 

 

 




あばばばば(上手く話が書けずにモヤモヤして発せられた奇声)
カンピオーネの魔術無効化能力って、魔導士(魔術師)にとって天敵以外の何物でもないですよね。これはオリ主無双しますわ(フラグ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。