「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公――」
そう唱えるのは藤丸さん。
特異点から帰って来てから既に1日が経った。ローマでも聖晶石が多数見つかった為、俺達はフェイトを使って英霊召喚をしている最中だ。詠唱すれば礼装ではなく英霊が来てくれるというオカルトチックな話を聞いたので、現在藤丸さんが実践している。ソースはマギ☆マリ。
「――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
詠唱が終わり、光輪が発生する。今回は聖晶石を一気に30個使っているので、合計10回の召喚が行われる。
黒鍵’s「( *・ω・)ノやぁ」
「何故!」
藤丸さんの悲痛な叫びが木霊する。5連続での黒鍵はさすがに同情するよ...。
すると、6回目にして光輪が3本になる。これは英霊が来るという確定演出だ。
「牛若丸、まかりこしました。武士として誠心誠意、尽くさせていただきます」
「よう。サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上した。ま、気楽にやろうやマスター」
「我こそはタマモナインの一角、野生の狐、タマモキャット。ご主人、よろしくな!」
3連続で英霊が来た。これはなかなかいいんじゃないだろうか?
残りの2回は魔力計と魔導書が出てきた。魔力計の針が俺を向いてロマンとダ・ヴィンチちゃんが騒いでいたが、もう気にしないことにした。
「うっし、次は俺だな」
俺もちゃっかり聖晶石を拾っていたので、今回は自分の石で召喚する。拾った石の個数は9。3回分全部使うつもりだ。
まずは1回目。詠唱は長いので俺はしない。
光輪が発生する。しかし、今回はいつもと少し違かった。なんと、光輪の色が青から虹色に変化したのだ。そして、その虹色の光輪が人型になっていく。
「うむ!サーヴァント・セイバー、ネロ・クラウディウス。装いも新たに再登場だ!嫁セイバー、或いはネロ・ブライドと呼ぶがよい!」
そこには、つい昨日別れたハズの第5代皇帝がいた。何故か白い花嫁衣裳を着込んで。
「ネロ!?凌太くん、ネロだよ、ネロ!」
「――――――うん」
興奮気味にはしゃぐ藤丸さんとは対照的に、俺の反応は薄いものだった。あくまで表に出した反応は、だが。
正直、最初にネロを見た時は驚いた。何故花嫁衣裳なのか、再登場ってなにさ、嫁とは、など様々な疑問が浮かんだが、結局最後は脳が考える事を拒否したのだ。だって絶対答えとか出ないし。強いて答えを出すならば、彼女がローマだからだろうか(意味不明)。
気を取り直して召喚を再開する。
続く2回目、今度は光輪は1本だった。
「...なぁにこれぇ?」
出てきたのは麻婆豆腐。...いや何故?
「ふむふむ...。ふぐっ!か、辛い!!」
何の躊躇も無く、ネロがマーボーを手に取り食べ始める。...なぁにこれぇ。
「よく分からないものを食べちゃいけません。腹が減ってるなら飯を用意するから。エミヤが」
「いやしかし、これはなかなかに美味だぞ?凄く辛いが、それがまた良い!」
「...一口取っといてくれ」
「あ、私もー!」
マーボーの味が気になったので、ネロに頼んで一口分残しておいて貰うことに。藤丸さんも気になったらしくネロに頼んでいた。
マーボーは気になるがとりあえず召喚を進める事にした。残りの聖晶石をフェイトに放り込むと、またしても光輪は1本。少し気落ちして礼装を待っていると、突如強大な気配が現れた。
「Graaaaaaaa!!!!」
そんな咆哮を上げたのは巨大な猪、いやINOSISIだ。...もう1度言うぞ?なぁにこれぇ...。
「ちょっ!これ魔猪!?」
「魔猪?」
ロマンの言う魔猪が何なのかは知らないが、このままではフェイト本体が破壊される可能性もある。
というわけで、大人しくさせることにした。
「おすわり」
殺気にも似た威圧感を放ち、そう口にする。
どれだけ大きかろうが所詮相手は一介の獣。自分より圧倒的な強さを見せつければ上下関係の様なものが発生するだろう。
証拠に、先程まで雄叫びを上げていた魔猪は俺にビビったのだろうか、今は大人しくなっている。だが、おすわりはしていないので、もう1度言ってみる。
「お・す・わ・り」
ビシッ、と綺麗におすわりをしてみせる魔猪、いやINOSISI。心無しか冷や汗ダラダラな気がしないでもない。
「よーしよし、いい子だ」
「さすが
ロマンがまたもや騒いでいるが無視。ほとんど事実だから言い返せないし。
俺に大人しく従ったINOSISIをギフトカードに納めて、今回の召喚は終わった。このINOSISIは礼装ということでギフト扱いになっている。持ち運びも楽なので助かった。
あ、麻婆豆腐は美味しかったです。辛かったけど。
ただ、「フフッ、愉悦」という幻聴が聞こえたのは何だったのだろうか?
* * * *
その後食堂に集合し、昼飯を食べながら今回召喚された英霊たちとの自己紹介等を済ませる。エミヤとクー・フーリンの間になにやら火花が散っていたが、安定のスルー。突っ込んだら長くなりそうだし。
そして、やはりというか、ネロに俺達の記憶は無かった。時代の修正がされて、俺達との戦いの記憶も消えてしまったのだろう。まあしょうがないよネ。
昼飯を終えた俺は、折角なのでクー・フーリンに手合わせを頼むことにした。ケルトの大英雄、光の御子と名高いクー・フーリンの主装備は槍。曲がりなりにも俺がよく使っている武器は槍なので、槍術を習う事にしたのだ。
「喰らえ!」
「甘いぜ坊主!」
交差する深紅と紫の槍。魔力放出を駆使して全速力でクー・フーリンに迫るが、こちらの攻撃は全ていなされる。今回も修練と言うことで権能は使わないでいるが、これは普通にキツイ。攻撃が全く当たらないし、速度でもクー・フーリンが若干上だ。最初こそ拮抗していたのだが、10分もすると徐々に俺が押されてきた。さすがは歴史に名を残す大英雄。俺のような若造とは地力が違う。
「天をも穿て、我が紫槍」
こんな厨二な事を言ったところで別段威力が上がるわけではないのだが、何かあるのでは?と相手に思わせる為に敢えてこんな恥ずかしい言葉を口に出す。というか、英霊って宝具使う時に凄く厨二なセリフ吐くよね。いやカッコいいんだけれども。憧れ的なものが無いと言えば嘘になる。
「ブチ抜け――
言葉と共に槍を投擲する。魔力も出来るだけ詰め込んでいるので威力だけなら雷槍よりも高い。だが、
「ハッ!俺に当てたきゃ因果逆転の槍でも持ってくるんだったな!」
俺の放った槍がクー・フーリンに当たることは無く、ゲイ・ボルグの一振りで薙ぎ払われてしまった。
槍を投擲したことで俺に若干の隙が生まれ、そこを上手くつかれゲイ・ボルグを突き付けられた事で俺の敗北が決定した。
「...参った、降参する」
両手を上げ、降参のポーズをとると、クー・フーリンも突き付けていた槍を下ろした。
「いやー。なかなかやるじゃねぇか坊主」
先程の、相手を射殺さんとするような獰猛な表情とは打って変わって、ニカッと眩しい程の笑顔を見せるクー・フーリン。ヤバイ、兄貴って呼びたい。
「まだまだだよ。権能無しじゃ、英霊レベルの強さを持つ奴らには敵わないし」
「いや、俺と同等に戦えてたし十分だろ。現代の人間がここまでやるとは思わなかったぜ」
本気で感心する兄貴だが、正直なところ本当にまだまだだと思う。兄貴はまだ本気じゃなかったし。
その後は少しの休憩を挟んでから、槍術についての手ほどきを受けた。伝説の大英雄に教えを乞ける俺は非常に恵まれていると思う。お陰でまた1つ上に近付けただろう。
「さてと。今日はこのくらいにしとくか」
「応ッ!ありがとうございました!」
「いいってことよ。さて、飯に行くか」
兄貴との修練を始めてから5時間。そろそろ腹も減ってきたので今日のところはこれで引き上げることにした。
エミヤが作っていてくれた夕食を食べてマイルームに戻る。マイルームは俺が修練している間にエミヤが掃除してくれたらしく、埃1つ見当たらない。エミヤさんマジオカン。
風呂に入ってから、当然のように俺の布団に入り込んでいた静謐ちゃんと共に眠りにつく。もう誰かが布団の中にいることに慣れてしまった自分がいるよ。
長い時間修練をしていた為に、瞼を閉じるとすぐに眠気が襲ってきて、俺はそれに抗うこと無く眠りについた。
* * * *
「...天井が違う」
目を覚ますと、そこはカルデアのマイルームでは無くなっていた。幸か不幸か、隣には小さな寝息をたてる静謐ちゃんもいる。
体を起こして近くにあった窓から外を見てみると、雲一つ無い見事な晴天が広がっていた。
...これは間違い無いな。
Prrrrr、とスマホが着信音を鳴らす。スマホを手に取り電話に出ると、その相手はロマンだった。
「もしもし、ロマン?」
『ああ、良かった!やっと繋がった!凌太くん、君は今何処にいるんだい!?突然君と君が契約しているサーヴァント達の反応がカルデア内から消えて、こっちは大混乱だよ!』
キーン!と耳鳴りがする程に大声で話すロマン。よっぽど心配してくれているのだろう。ありがたい事だ。
「あー、すまん。ちょっと予想外の出来事が発生して...」
『予想外?まさか何処かの特異点に強制転送されたとかじゃないよね!?』
「まあ、それに近い感じかな?」
『近い?本当に今何処にいるんだい?』
ロマンの問いかけに、俺自身、今置かれている状況をもう1度確認する為に外を見る。...うん、やっぱ間違いないわ。
「修羅神仏の遊技場...、箱庭」