山を降りた翌日。
グレモリー眷属達は駒王学園オカルト研究部部室に集まっていた。そこには俺達やグレイフィアさん、そして当然ながらライザーとその眷属達も居る。
グレモリー眷属側には緊張が走り、ライザー眷属側には余裕の色が見て取れる。
...言っとくけど、今のグレモリー眷属を
以前、グレモリー眷属がライザーに勝つのは厳しいと言ったな。あれは嘘だ。
正確には俺が嘘をついた、という訳ではなく、ライザーが思ったよりも遥かに弱かったのだ。
ゲーム開始早々、グレモリー眷属がやらかした。
体育館にて待ち伏せていたライザー眷属複数人を子猫ちゃんが纏めて薙ぎ倒し、その後襲ってきた敵の女王の全力の一撃をイッセーが防ぎきり、その女王は姫島の新技、というか本来の力である雷光を喰らって一撃ダウン。その後出てきた敵も木場の
そしてライザー(1人) vs グレモリー眷属(全員、しかも無傷)という構図が出来上がった。ライザーを囲むグレモリー眷属という図は、もうイジメ現場のそれである。
そして始まったライザー討伐だが、イッセーが禁手化したことで即座に3回殺され、そこで心が折れたらしくライザーがリザインしたのだ。...ライザー弱っ。
結果、ライザー眷属は逃げる様に去っていき、そしてグレモリーとライザーの婚約話は破棄された。グレモリーがとても得意気にライザーを見下していたけれど、今グレモリー眷属で最弱なの貴女ですからね?なんで上級悪魔という奴らは慢心したがるのだろうか、疑問でならない。まあその慢心のお陰で俺はこれから得するんだけどな。
「お疲れさん。余裕だったな」
全くの無傷で帰ってきたグレモリー眷属を労う。いや、まさか全員ノーダメージで終わるとは俺も思ってなかったわ。
「ええ。口ほどにも無かったわね」
フフンッ、と得意気な笑みを浮かべて返答するグレモリー。いやお前何もしてないじゃん、と思いはしたのだが黙っておく。
「おっ、まだまだ余力有りって感じだな。もしかして不完全燃焼?」
「まあそうね。もう少し手応えが無いとこちらもつまらないわ」
だからなんでお前そんなに...。いや、グレモリーはこういう奴なんだと諦めよう。まあ同じ王としてどうかとは思うけど。
「それじゃ、俺達とゲームしね?きっと楽しめると思うぞ?」
「あら、それはいいわね。今の私達の力がどこまで貴方達に通用するか試してみたいわ」
トントン拍子で進んでいくゲーム開催の予定。
やだ、グレモリー、チョロ過ぎ!?
「それで、場所はどうするのかしら?今使った空間を使う?」
「いや、場所はこっちで用意してある。ちょい待ってて」
そう言ってスマホを取り出し電話をかける。相手は爺さんだ。
「あ、もしもし爺さん?前に頼んどいた準備終わってる?......ああ、ああ、はいはい。...オッケー。じゃ、今から頼むわ」
何をしているんだ、という目で見てくるグレモリー眷属。静謐ちゃん達には既にやることを伝えていたので特に不思議そうにはしていない。電話が終わって2,3秒すると、虚空に突如として黒い穴が空き、そこから爺さんが飛び出してきた。...タイ○マシーンの出口みたいだな。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!やあ、神様だよ!」
「うわっ!なんか出てきた!」
イッセーがそう声を上げる。他の皆もほぼ同じように思っているような顔をしていた。まあ、それが普通の反応だよな。
「普通に登場できないのかアンタは」
「だって普通に登場してもつまらないじゃん?」
「つまるつまらないの問題じゃなくてだな...。まあいいや。それより爺さん、ここにいる全員いけるか?」
「フッ、ワシを誰だと思っている?」
「駄神」
「まあ間違っちゃいないが...」
「認めちゃったよこのジジイ。で?いけるのか?いかないのか?」
「余裕」
「よし、じゃあやってくれ」
グレモリー眷属が呆気に取られている間に爺さんが魔法陣を展開する。そして、その場にいた全員がその世界から消えた。
* * * *
皆で暗闇の空間を漂い、そしてその空間から出ると、そこは見渡す限りの広大な荒野が広がっていた。
「なっ──」
誰かがそんな声を漏らすが、それもまあしょうがない。俺も最初箱庭に送られた時はこんな反応だったしなー(遠い目)。
「何処だ、ここ!?」
「ここは箱庭の6層、元“天に輝ける騎士団”の領地さ。魔王にやられて弱体化した所を別の魔王に奪われていたんだが、この前そこの爺さんが取り戻してきてくれてな」
イッセーの叫びに答えたのは、いつの間にか来ていたヴォルグさんだ。ヴォルグは懐しそうに地平線を眺めている。
というか爺さんも金銭面以外で役に立ってたんだな。
「ま、とりあえずゲーム始めようぜ。審判は誰がする?」
「それならこの兎にやらせよう」
そう言って爺さんがポイッと縄でぐるぐる巻きにされた黒ウサギを放り投げてきた。
......。
「...黒ウサギ何やってんの?」
「それは黒ウサギが聞きたいのですよッ!!!」
ジタバタと暴れる黒ウサギだが、縄が解ける気配はない。しょうがないので解いてやると、黒ウサギは物凄い速度で爺さんに詰め寄っていった。
「いきなり目の前に現れたと思ったら問答無用で拘束してこんな所に連れてくるとか、一体全体どういったご了見でございますかッ!?」
「好奇心のなせる技。反省はしていない」
「なんたるデジャブ発言!!」
ウガーッ!と髪を緋色に変化させながら唸る黒ウサギ。
「すまん黒ウサギ。謝礼金と報酬は出すから...」
「くっ...。ま、まあ凌太さんに免じて今回は水に流すのですよ。次からはちゃんと説明してからにしてくださいねッ!」
「だが断る!」
「何故!」
あー、話が進まねえ。もうこの2人無視して進めるか。まだ言い合ってるし。
「と、言う訳でゲームを始めようか」
「どういう訳で!?」
「まあまあ。とりあえず流れに身を任せろ。──考えるな、感じるんだ」
「意味が分からん!」
イッセーの悲痛な叫びをスルーしつつ、手早く
『ギフトゲーム名“紅の悪魔と神殺し”
・プレイヤー一覧 : 坂元凌太、静謐のハサン、エミヤ、ネロ・クラウディウス、グレモリー眷属
・ホストマスター側 勝利条件 : 〝王〟の打倒
・プレイヤー側 勝利条件 : 〝王〟の打倒
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
“ファミリア”印』
まあこんな感じかな。作成した
「この王というのは私の事?それでもう1つの王が凌太?」
「いんや、そうとは限らない。まずゲーム前に各陣営で王を決める。そして選んだ王を相手に伝えずにゲームスタート。相手の陣形を見て王を予測する。早く王に検討を付けた方が有利になる、と。そんな感じだ」
「へぇ。面白いそうね。分かったわ、このルールでいきましょう」
「あ、それとただ戦うだけじゃ面白くないし、負けたら罰ゲームな」
「ええ、いいわよ」
ルールを確認したグレモリーは笑顔で了承してくる。だが罰ゲームの内容を確認しないのは甘いとしか言いようが無いな。まあ言わないけど。
「あ、そのゲームワシも参加するぞ」
黒ウサギとの言い合いを終えたらしい爺さんがヌッと現れ、
「おいおい爺さん。アンタが参加したらイジメになるだろ?」
「ハッハッハ!安心しろ小僧。ワシが参加するのはこっち陣営だから」
そう言ってグレモリー眷属側に立つ爺さん。...待て、待て待て待て待て。
「...それはズルイ」
混乱する頭で何とか声を絞り出し、そう言う。しかし爺さんは何処吹く風といった感じだ。
「ワシを倒すんだろ?前に言ってたよなぁ?え?まさかあれば虚言だったと?もしかして凌太君はビビりだったのかなぁ?ん?ん?」
これでもかという程に煽ってくる爺さん。その顔イラつく...ッ!
「ああいいよやってやろうじゃねえかこの野郎ォ!!!」
もはやヤケクソである。煽りだとは分かっているのだが、ここでこの爺さんを殴っておかないと後が面倒くさい。絶対面倒くさい。
「という訳で、よろしくな悪魔の子供達よ」
「別にこちら側につくのは構わないのだけれど、貴方戦力になるの?」
「言ってくれるなグレモリーのお嬢さん。これでもワシは凌太より強いぞ?」
「「「なっ!」」」
グレモリー側ではちょっとした騒ぎが起こっていた。くっそ、あのジジイ絶対負かす!
* * * *
「それではこれより、ギフトゲーム“紅の悪魔と神殺し”を開催します。審判はこの黒ウサギがお務めさせていただきますので、ルール違反は一切出来ないのだと心に置き止めてくださいね。それでは、開始してください!」
黒ウサギの宣言と共に、イッセーが禁手化のカウントを始めた。木場も大量の剣を地面から生やし、姫島は魔力を高め始めている。
「エミヤはイッセーの対応を頼む。あと出来れば木場も。他はネロと静謐ちゃんで相手してくれ。俺は爺さんに専念したいから」
「うむ、任せよ!まずは余が出るぞ!」
「いや全員でいけばよくね?」
「余・が・出・る・ぞ!」
「アッハイ」
異常なやる気を見せるネロの熱意に負け、とりあえずネロに先陣を切らせる。と、それに応えるように子猫ちゃんも1歩前に出てきた。お、おい、まさか正面から受けるつもりじゃ...?
「イッセー先輩、お願いします」
「おう。頑張れよ、子猫ちゃん」
そう言ってイッセーは高めていたオーラを子猫ちゃんに譲渡する。カウントは既に終わっており、いつでも赤龍帝の鎧を顕現させられる状態っぽい。これはなかなか面倒くさそうだな。
「防御力は
「ふむ、子猫か...。そなたは可憐故、余り傷付けたくはないが敵として出てくるならば仕方ない。我が剣技、しかと見せつけようではないか!」
そう言い、ネロは
「折角の機会だ。しばし私情を語ろう。──告白するぞ。余はマスター、いや、奏者が大好きだッ!」
「な、なんだってー(うん、知ってた)」
言いつつ、ネロは子猫ちゃんへと突っ込んでいく。そして斬りつけざまにとんでもない爆弾を投下してきた。そして言葉通り子猫ちゃんが爆発した...。
というかオイ、静謐ちゃんとか姫島からの目線が痛いんだが。ヘーイ嫁王ゥ、その気持ちは嬉しいんだけどサー、時間と場所は弁えなヨー。いや知ってたけどさ。
「フッ、これでマスターも私と同様の気苦労を抱える事になったな。何、先人として相談には乗るさ。マスターのサーヴァントとして、いや、人の心を持つ友人として当然の事。女性に翻弄される気持ち、私には分かるぞ。だって女難の相持ってるしネ!」
「お前、本当に今までどんな経験してきたの?主に女性関係で」
そんな事をエミヤと話し、静謐ちゃんを宥めていると、不意に爺さんが動いた。動いた、というか若干力を込めやがったんだあのジジイ。大技後で隙だらけのネロを狙う気か?させん。
え?子猫ちゃん?炭だらけだけど辛うじて立ってるよ。
「ッ!後は頼んだぞお前らッ!」
それだけ言い残して、全速力で爺さんに突撃する。それは常人に視認できるレベルの速度では無く、実際グレモリー達には俺が瞬間移動でもしたかの様に見えただろう。しかし──
「ほっ!」
間の抜けた声を発し、爺さんは俺の拳を完全に避ける。まあこれは予想の範囲内。というかこれが当たるとは最初から思っていない。本命はこっちだ。
「爆ぜろ」
「む!」
振るった拳とは反対の掌から強烈な閃光を発する。爺さんの視界を一瞬奪い、それを回復させる前に回し蹴りで吹き飛ばす。
「おっ?」
初めて攻撃が当たったのはいいのだが、全く効いている気配が無いのは悔しいな。吹き飛びながら意外そうな声を出してやがる。まあいいや。
「我は雷、故に神なり!」
バチバチィ!と紫電を迸らせながら再度爺さんの方へと突進していく。既に最初の場所からは1000m以上離れており、そちらの戦闘はよく見えないし、見てる余裕もない。ただ爆発音のようなものは聞こえるので大分暴れているのだろう。
「フハハ!攻撃が当たったのは初めてだな小僧!少しは成長したと見える」
「ハッ!余裕こいていられるのも今のうちだぞクソジジイ!」
魔力を練り、雷槍を作っては投げ作っては投げの作業を繰り返す。12本投げて全て避けられたのは多少腹が立つが、気にしてはいられない。即座に次の行動に移る。
掌を空へと向け、そこに膨大な魔力の奔流を巻き起こす。
「迸るは閃光、神をも屠る我が紫電。来たれ神滅の雷 神苑の雷霆。天を駆けよ、地を穿て。我が敵を死の灰へ──奔れ “
閃光が空を覆い尽くし、魔力の奔流が1箇所に収束していく。それは今までの雷咆などとは比べ物にならない魔力と威力を誇る一撃。その標準を爺さんへと合わせ、いつでも発射可能にする。
「なっ!?」
爺さんに明らかな驚愕の表情が浮かんだ。それはそうだ。これには対神効果も搭載してある。爺さんはそれを感じ取ったのだろう。
これはヤバイと判断したのだろうか、爺さんが回避する為に駆け出そうとする。が、それを許す俺ではない。
「──“
先程避けられて地面に刺さっていた雷槍の間を繋いで巨大な魔法陣を形成し、設置型の魔術を発動させる。
「うわキモッ!蛇キモッ!」
足元の魔法陣から出てくる無数の蛇を見て爺さんがそう叫ぶ。その全ての蛇が爺さんに巻き付き拘束する。どうせ爺さんならものの数秒で術式ごと吹き飛ばすのだろうが、今はその数秒さえあればいい。ここで決めるッ!
「全力で撃つぞ、死ぬなよ爺さん!」
腕を振り下ろし、それに同調するように空に滞在していた
もはや言葉では表現し切れないような音が轟々と鳴り響き、人知を超えたソレは爺さんに直撃する。
1,2分程すると雷が収まっていき、徐々に視界が開けてくる。
「...化け物めッ...!」
──土埃が収まって見えてきた景色は、ぽっかりと空いた底の見えない縦穴と、その中心で宙に浮かぶ人影...。爺さんは無事だった。だがそこに声は無い。悲鳴も苦悶の声も高笑いも、いつもの軽薄な笑い声さえも聞こえない。それが言いようも無く怖い。まるで嵐の前の静けさのような...
「──
ポツリと呟いた爺さんの声が不自然な程に木霊する。というか、アレって、まさかッ...!
俺の嫌な予感は的中したようで、想像通り、爺さんを中心に白い光が広がっていった。それは俺をも包み込み、そこは爺さんの世界へと再構築されていく──
「見事。実に見事だ小僧。いや、坂元凌太よ。ワシにここまで本気を出させたのは、お前でたったの4人目だ。誇っていいぞ」
光が収まると、そこには白亜の城が佇んでいた。一点の曇りもない、真っ白で高潔な城。
神域。その言葉がぴったり当てはまるような空間が、其処には在った。
「ではその誇りを胸に──
ズドォン!と、今まで空間にあった俺の体が地面へと引き付けられる。それは正に神の言葉、神の命令だ。抵抗する術など人間は持っていない、否、持てるはずが無い。それは神に与えられた高位の権能、その一端である。人が逆らって良いわけが無い。そう、
「クッソがァアアアア!!!!」
必死に目の前の神に逆らい、立ち上がる。頭が割れそうに痛いし、体の内側は自分で分かる程にグチャグチャだ。
これ、放っておいたら俺でも死ぬな。
そう確信しながらも、俺の双眼は爺さんを見据える。目を逸らせば、ここで屈せばどんなに楽だろうか。そうすれば、きっと爺さんは俺に攻撃を加えない。笑って俺を労ってくれるだろう。人の身で良くやった、と。ここまでやるとは思っていなかった、と。
...巫山戯るな。そんな慰めは要らない、そんな侮辱は耐え難い。俺にだってプライドの1つや2つの持ち合わせはある。それに何より、
「俺は、誰にも、負けたく、ないッ!」
血反吐を吐きながら立ち上がる。命令に逆らっただけでこの始末だ。爺さんと戦えば、俺の体はあと1分と持たないだろう。まあ、その時は明日の分の元気でも絞り出すか。
「ほう、立つのか。いやはや、今日はお前に驚かされっぱなしだな」
本気で驚いた様な顔を浮かべた爺さんは、だが、と言葉を紡ぐ。
「今日の所はワシの勝ちだ」
その言葉と同時に、幾千幾万の光の矢が俺を襲う。避ける事も防ぐ事も、ましてや反撃する事も叶わず、数本の矢が俺の五体を貫いた時。
『“ファミリア”、グレモリーチームの〝王〟を撃破!これにて、ギフトゲーム“紅の悪魔と神殺し”は終了!“ファミリア”の勝利です!』
黒ウサギのアナウンスが聞こえ、それとほぼ同時に夥しい量の矢が静止した。
「お、こっちよりあっちの決着が早かったか。まあ、英霊が相手じゃ、あの悪魔っ子達もそう長くは持たないよなー」
薄い笑みを浮かべて、世界を元の空間に戻す。その笑みは果たしてグレモリー達への労いの意味が込められているのか、或いは──
そこまで考えて、俺は重い瞼を閉じた。