「ええと、皆さん準備はいいですかー?これから訓練機を1班1体取りに来て下さい。数は『打鉄』が3機、『リヴァイブ』が2機です。好きな方を各班で決めて下さいね。あ、早い者勝ちですよー」
山田先生が普段よりしっかりしている。
先程の模擬戦でオルコットと鈴を軽くあしらったからだろうか?いやー、何気に実力あるんですね。
そして現在、各専用機持ちをリーダーにしたグループ実習が行われている。俺の専用機は本来既に届いている予定だったのだが、まだ俺の手元には無い。いや、一応届きはしたのだが、現在エミヤに貸し出しているのだ。理由としては、ISを1度しっかり解析してみたいから、だとのこと。まあ別に専用機があろうがなかろうが、今はどちらでも良いので快く貸した。
そして今、調子に乗ったエミヤによって俺の専用機は跡形もなく解体されているのだが、この時の俺はまだその事実を知らない。
そして俺が割り当てられた班はボーデヴィッヒ班。最初は『話しかけるなオーラ』全開で、人とのコミュニケーションを拒んでいる様子だったボーデヴィッヒだったが、良くも悪くもそういった空気を読まなかった俺によって、その沈黙は破られている。
ちなみにネロと静謐ちゃんは鈴班、モードレッドはオルコット班だ。
「なあなあ、その眼帯何処で売ってたんだ?やっぱり大佐を意識してのファッション?口調とか態度とかもそれっぽいし、何よりその銀髪が良いな。いやー、俺も銀髪に憧れてた時期があったんだよ。銀髪の手入れって大変だって聞くけど、実際どうなの?」
「えぇい、五月蝿いぞ貴様!私は此処に遊びに来ている訳では無いのだぞ!」
今まで寡黙キャラを貫いていたボーデヴィッヒと、転入初日の出来事で「孤高の存在」とかまことしやかに囁かれている俺が話しているのを、物珍しそうに見るボーデヴィッヒ班の面々。俺だって興味の沸いた人間に対してはある程度対話を持ちかけたりもするのだ。
何を隠そう、俺にもこういう厨二の時期があった。だって、当時から既に他人とは違ったスペックを持ってたからね。中1の時の100m走で7秒台とか、明らかにおかしい。
で、そういった境遇からも、「俺って他人とは違うんじゃね?」という思想が芽吹いてしまったのだ。いや、本当に他人とは違ったんだが。
という訳で、俺はボーデヴィッヒに少なくない親近感を抱いている。
「おいボーデヴィッヒ班!進行が遅れているぞ、急げ!」
「はい、教官」
「織斑先生だ、馬鹿者」
「はい。...さて、では次の者は前へ」
千冬に注意され、滞っていたIS実技授業を再開するボーデヴィッヒ。まあ原因は主に俺な訳だが。
「にゃははー。さかさかがあんなに喋ってるの初めて見たよー。いやー、新鮮だったねぇ」
「俺は話す時は話すぞ?あとさかさかやめい」
「えー。じゃあマスマスは?」
「...それ、俺がマスターって呼ばれてるから?」
「うん、そうだよー」
「...さかさかでいいです」
布仏とそんな会話をしていると、今まで俺に話し掛けて来なかった女子達も少しずつ話し掛けてきた。中には俺の事を「さかさか」と呼ぶ者も出てきたが、まあ呼び方なんてどうでもいいかと開き直り、その呼び名を受け入れる事にした。
そんなこんなでクラスメイトとの距離が少し縮まったところで今日の授業は終了。各班、自分達が使ったISを片付けて着替えへと向かっていく。俺も一夏やデュノアと共に更衣室へと向かおうとするが、デュノアは1人先に帰っていった。先程も、更衣室で何やら顔を赤くしていたし、コレは万が一があるかもしれない。まあ別にどうでもいい事ではあるんだけどね。
* * * *
「...一夏、これはどういう事だ」
「ん?」
篠ノ之箒の冷たい声が響き、一夏はそれに気付かない様子で素っ頓狂な声を上げる。
現在の時刻は午後1時前、昼休みの時間帯だ。そして俺達は学園の屋上で昼飯をつついていた。
普通、高校の屋上といえは色々な理由で立ち入り禁止なのだが、ここIS学園は違う。屋上は美しく整備され、花壇には色とりどりの花々が咲き誇っている。円状のテーブルも用意されており、晴れた日には割と賑わう憩いの場だ。
今日はデュノア目当てで食堂に集まっているのか、この屋上は貸し切り状態となっている。まあ彼女らお目当のデュノアはここにいる訳ですが。
「天気がいいから屋上で食べようって話だっただろ?」
「そうではなくてだな...」
一夏の返答に落胆する箒。その横に並ぶのはオルコットと鈴、そしてデュノアだ。俺の周りには静謐ちゃんやネロ、モードレッドもいる。エミヤ?アイツは食堂で飯作ってます。最近は「今日のエミヤ定食」などというメニューが食堂に追加されたらしい。何やってんのあの人。
その後も何やら話し込んでいる2人を放っておいて、俺はエミヤ手作り弁当...ではなく、俺の手作り弁当を広げる。俺も少しくらい料理が出来るので、出来るだけ自分で弁当を作る様にしたのだ。昨今は男も料理する時代だしな。
「おっ、マスターの弁当美味そうだな。一口貰っていいか?」
「流石あのアルトリアの系譜、良く食うなぁ。お前さっきパン食ってただろ?早弁とか言って」
「別に父上は関係ないだろ。それに俺は腹が減ってるから飯を食う訳じゃないしな。魔力なら十分過ぎる程貰ってるし。これはアレだ。ただ単に美味い物が食いたいだけだ」
「奏者よ、余も欲しいのだが」
「...まあ、予想していた事ではある。ホレ、お前らの分の弁当」
そういってギフトカードから3つの弁当箱を取り出して渡していく。静謐ちゃんは特に何も言っていなかったが、こちらをジッと見ていたので恐らく欲しかったのだろう。違かったら俺が恥をかくけど。
弁当を受け取った3人は嬉しそうな顔をし、それぞれ食べ始める。うむ、美味そうに食ってくれるのは嬉しいぞ。
3人の表情を確認してから、俺は自分の分の弁当に手をつける。ふむ、エミヤには劣るがまあまあ美味いのではないだろうか。と、自分の料理に自己評価を付けていると、ネロが服の裾を引っ張ってきた。
「奏者、奏者!余もあれがやりたい!」
「あれ?」
ネロが興奮気味に指差す方向。そこには、一夏が箒にアーンをしている光景が広がっていた。いつもは毅然とした態度の箒も、やはり惚れた男からのアーンは堪えるのだろうか、しどろもどろとなっている。てか一夏君や、キミは本当に自覚無いの?オルコットと鈴がめっちゃ睨んでるんだけど、彼女らの真意に気付いてる?まあ、織斑一夏IS学園ハーレム計画は順調に進んでいるようで何よりだ。本人に自覚無しのハーレムだが。
「...ふむ。じゃあホレ、アーン」
「アーン...。むふぅ!良いなこれは!もう一回だ奏者よ!」
「へーへー。はい、アーン」
「アーン...。ん〜〜!!」
弁当の定番メニュー、唐揚げと卵焼きを1つずつネロに食わせる。幸せそうなネロを見て、対抗心でも燃やしたのかオルコットと鈴も一夏にアーンをねだり始めた。
「...マスター」
「ああ、はいはい。静謐ちゃんもね。はい、アーン......あ、コラ、箸を舐るな!」
「ん...」
俺の指まで舐めてきそうな勢いの静謐ちゃんを静止して、もう1つオカズを提供する。ネロもそうだが、よくもまあこんな事で幸せそうな顔をするよなぁ。そこまで好かれているのかと思うと嬉しい反面、何故俺?という感想も出てくる。他にも良い男は沢山いるだろうに。本当に何でなんだろうな?
「マスターおかわり!」
「そういうところがアルトリアの系譜なんだよなぁ...」
* * * *
夜。壮絶な話し合いの結果、寮での俺の部屋割りは一人部屋という事になっていたのだが、今日からはデュノアが相部屋となるらしい。...俺の予想が正しければ、日本の倫理的に考えて非常にマズイ状況になるのだが、まあ此処は治外法権らしいし大丈夫だろ。という訳で、俺はデュノアの相部屋を普通に了承した。
「今日からよろしくね、凌太」
「おう」
晩飯は昼の面子で食っていたのだが、その際に女子包囲網&質問攻めにあっていたデュノアが、やっと開放されたのか食後2時間後にしてようやく部屋にやって来た。
「俺はもう風呂入ったから、好きな時に入っていいぞ。まあ男が入った後のお湯が嫌なら入れ直す必要もあるけどな」
「大丈夫だよ。それに僕、普段はシャワー派だし」
「ふぅん。あ、それと洗濯だけど、自分の下着を男の下着と一緒に洗われるのが嫌なら自分で洗えよ。そこまで面倒は見きれん」
「分かったー。...え?あ、いや!男同士なんだし、別に下着を一緒洗っても問題は無いよね!?」
見るからに動揺し始めたデュノア。何となくカマを掛けてみたんだが、案外チョロイなこの子。
「まあ男同士なら問題無いかもしれんが、ほら、お前女子だし」
「うぇえ!?な、なんで凌太がそれを知ってるの!?」
「昼間抱えた時、男と比べて体が柔らかかったし、俺や一夏が着替えている時にも顔真っ赤にして目を逸らしてただろ?まあホモという線もあったけど、最終判断はさっきの質問の答えと俺の勘」
何でもない風にお茶を啜りながらそう言い放つ。
「...えっと、うん。バレたんじゃしょうがないね。僕は男じゃないよ。ちょっと色々と理由があって、実家から男装しろって言われて...」
沈んだ様子で語り出したデュノア。何、見破られたのがそんなにショック?時間の問題だったと思うんだけど?特に千冬とかにはもうバレてるだろうしな。
「まあ、お前んとこの実家がそういう命令を下した理由は分からんでもない。デュノア社っていったら量産機ISのシェア世界第3位の会社だろ?そんでもって、最近は経営危機って話も聞く。そこで、お前という世にも珍しい『男のIS操縦者』を広告塔にしようってハラか?」
「...うん、その通りだよ。そしてもう1つ。同じ男子なら、日本で登場した特異ケース達と接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータを盗れるだろう...ってね」
「つまりアレか。一夏の白式データや、俺の個人データなんかを盗んで来い、と」
舐められたな、完全に。デュノア社ねぇ...。いっその事潰すか?もちろん物理で。
「そんなところだよ。でも凌太にはバレちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は、まあ潰れるか他企業の傘下に入るか。まあどの道今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいい事かな。それにしても、転校初日で見破られるなんて思ってもみなかったよ」
諦めた様な笑顔でそう告げるデュノアだが、別に諦める必要は無いんじゃね?
「大丈夫だろ、多分」
「え?」
「ほら、此処って治外法権らしいし。外からの介入は出来ないそうだぞ?実際、俺が此処にいられるのもそのお陰だしな」
このIS学園は独立国家みたいな学園なのだと、この世界に来た時に千冬から教えられた。そうでなきゃ、戸籍すら無い俺達は学校なんてものに入学出来る訳が無い。
「帰りたいなら話は別だが、残りたいなら残ればいい。それを否定出来る奴は此処にはいねぇよ」
「...うん、そうだね。ありがとう凌太。とりあえずは、この学園に残る事にするよ」
「別に構わねえよ。こんなの気まぐれだ、気まぐれ」
という訳で、デュノアはこのまま学園に残る事になった。いや、別に帰ってもらっても俺は構わないのだが、本人が残りたいと思っているのなら残った方が絶対に良い。でもゴメン。気が向いたら、そのうちデュノア社潰してるかも。もちろん物理で。
そして一応、一夏や静謐ちゃん達にはデュノアの素性を知らせておいた。特に一夏は知っておかないと、知らず知らずのうちにセクハラしまくりそうだしな。見ていて面白そうではあるのだが、デュノアがさすがにセクハラ行為は嫌だと言ってきたので渋々一夏にも報告した。
* * * *
デュノアの女子発覚から数日後。未だ俺達以外に、実はデュノアは女なのだとバレていない事に若干驚いている頃。俺はとある噂を耳にした。
「『月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑一夏と交際出来る』?なんだそれ」
転校当初とは違い、クラスメイトとも少しずつ会話をするようになった俺はクラスの女子からそんな噂を聞いた。一夏と付き合えるのならば、俺やデュノアとも付き合えるのか、という質問だったのだが、答えはもちろんNOだ。そんな話があってたまるか。でもまあ面白そうだから一夏と付き合えるという部分は否定しなかったけど。アイツもそろそろ身を固めた方がいいと思う。ハーレム作ってもいいけど自覚は持てと、声を大にして言いたい。
時間は放課後。俺もその学年別トーナメントに向けて射撃訓練でもしてみるかと思い、第3アリーナへと向かっていた。その道中に例の噂を聞いたという訳だ。
ちなみに、俺の専用機はまだ手元にない。エミヤが解体してしまい、戻すのに時間がかかるとかで未だ未実装なのだ。ついでに俺の権能、雷に耐えられるように耐電機能を付けてくれるらしいので解体した事は許した。ISに乗りながら権能を使う事もあるだろうからな。耐電仕様は有難い。
で、アリーナに着いた訳だが、何やら先客が暴れていた。
「鈴!セシリア!」
一夏もいるらしく、何処からか彼の叫び声が聞こえる。
今アリーナで暴れている、もとい闘っているのは鈴&オルコット VS ボーデヴィッヒだ。2対1にも関わらず、ボーデヴィッヒが押している。
鈴の専用機が『甲龍』、オルコットのが『ブルー・ティアーズ』、そしてボーデヴィッヒのが『シュヴァルツェア・レーゲン』。確か、これらは全て第3世代だったはずだ。今現在の最新機と言える。それが3機もいっぺんに闘っているのだから見応えあるなぁ。
と、悠長に見物していると、ボーデヴィッヒが他2人を薙ぎ倒した。鈴とオルコットのシールドエネルギーは底を尽きかけ、
しかし、ボーデヴィッヒが攻撃の手を緩めることは無い。ただ淡々と鈴とオルコットに暴行を加えるのみである。普段ほぼ無表情な顔に確かな愉悦の表情を浮かべた時、一夏が動いた。
「うおおおッ!」
白式を展開し、同時に《雪片弐型》を構築して『零落白夜』を発動させた。一夏はアリーナの障壁をぶち破り、ボーデヴィッヒへと飛翔する。
「その手を離せ!!」
力の限り精一杯、という感じで刀を振り下ろしボーデヴィッヒに斬り掛かる。だが、その刀がボーデヴィッヒに当たることは無く、一夏の体は停止した。
あれは確かこの前エミヤが言っていた『慣性停止能力』、AICってやつか。相手の動きを任意で停められるとかチートだよなぁ。まあ、ああいった能力には必ず何処かに弱点があるもんなんだけどな。
「やはり敵では無いな。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、貴様も有象無象の1つでしかない。──消えろ」
そう言ってボーデヴィッヒが肩の大型キャノンの砲口を一夏に向ける。
が、流石に知り合いが何人もやられかけているのに黙っている程俺は大人しくない。素早く一夏とボーデヴィッヒの間に入り、ギフトカードから取り出した『神屠る光芒の槍』で大型キャノンを破壊、後に回し蹴りでボーデヴィッヒをISごと後方へ蹴り飛ばす。
「な!?貴様、坂元凌太ッ!」
ボーデヴィッヒの驚愕に満ちた声が第3アリーナ全体に響く。まあ驚くのも当然っちゃ当然だ。何せ生身でISの兵装を破壊しただけでは無く、そのまま蹴り飛ばしたのだ。この世界の常識ではそれは有り得ない事である。だが生憎と俺の常識はこの世界とは違うので、生身の人間がISを蹴り飛ばすのも全然ありだ。
「ボーデヴィッヒさんよ。別に模擬戦するのは構わないし、弱者をいたぶって愉悦に浸るのも結構だが、せめて人目は気にしろよな」
「全くだ馬鹿者共が」
俺の忠告に合わせてアリーナに出てきたのは我らが鬼教官、織斑千冬だ。というか、居たならさっさと出てきて下さい。俺が注目浴びてるじゃないですか。
「やれやれ、アリーナのバリアまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそう仰るなら」
素直に頷いたボーデヴィッヒは、ISの装着状態を解除する。アーマーは光の粒子へと変換されて弾き消えた。
「織斑にデュノア、お前達もそれでいいな?」
「は、はい!」
「僕もそれで構いません」
「良し。では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁じる。解散!」
パンッ!と千冬が強く手を叩く。それはまるで銃声のように鋭く響いた。