問題児? 失礼な、俺は常識人だ   作:怜哉

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久遠飛鳥、魔改造計画

 

 

 

 

 

 

 ジン坊ちゃんの株が俺の中で高騰した後、俺は久遠と、それからついでに黒ウサギを連れて適当な広場へ向かった。

 

 ここ“アンダーウッド”内は広いもので、探せばちょっとしたドーム型の空間がいくつか点在している。その一つを修行場所に選んだ。だって近いからね。

 俺や黒ウサギにとっては少々狭いと感じる程度だが、久遠にとってなら十分な広さだろう。

 

「さて、それじゃあ修行を始めようと思うんだが...久遠。お前、運動はできるのか?」

「まあ、人並みには。貴方や十六夜君、春日部さんみたいな馬鹿げた力ではないけれど」

「ふぅん? ...ちょっと失礼」

 

 言って、俺は久遠に近付き、彼女の肩に手を置く。

 俺の行動の意味が分かっていない様子の久遠と黒ウサギを無視して、俺はゆっくりと目を閉じた。

 

「.....うん、まあそこそこだな。一般人としては悪くない」

「? 今のでなにか分かったのですか?」

 

 首を傾げながら聞いてくる黒ウサギ。

 その疑問は久遠も抱いているようで、俺の返答を待っている。

 

「ちょっとした魔術だよ。久遠の身体の構造を解析したんだ。骨格や筋肉の付き方、強度、柔らかさとかのな」

「やっ、柔らかさ!?」

 

 久遠が顔を真っ赤にしたかと思うと、突然俺の顎めがけて右アッパーを放ってきた。

 頭を軽く動かすだけで簡単に避けられたが...いきなり何しやがるんだコイツは?

 

「おい久遠。俺だってな、怒る時は怒るんだぞ?」

「それはこっちのセリフよ! この変態!!」

「あん? ...なあ黒ウサギ、久遠の奴は一体何を言ってんだ?」

「正しい事を言っているのですよ」

「は?」

 

 分からん。女の子とはそれなりに関わってきたはずだが、未だに女心ってやつは全く分からん。なんでこんなにキレてんだ?

 

 勝手に身体能力を調べたのがダメだったのだろうか。

 確かに、そこから体重とかも分かっちゃうしなぁ。

 

「ったく...悪かったよ、勝手に身体のこと解析しちゃって。でも久遠。お前、すっげぇ健康的な体重だから、何も気にすることはn.....っと。いきなり殴りかかってくんなよ、危ねぇなぁ」

「うるさい黙りなさいこの変態!! 体重!? 女性の体重まで調べたの貴方は!?」

「筋肉量とか脂肪の量とかから大体は推測できた」

「『記憶を無くすまで壁に頭突きしていなさい』!!!」

「だが断る、っと。俺に“威光”は効かねぇよ」

 

 カンピオーネの特性では“威光”を防ぐことは出来ないが、“神殺しの魔王”になったことで久遠より格上と認定されているのかもしれない。

 まあどちらにせよ、俺クラスの相手に対して、久遠は圧倒的に無力なのだ。なんならデコピンで終わる。

 

 今回の相手はレティシアや龍。

 今の久遠では、全くもって話にならない。

 

「なぁ久遠。“威光”以外の恩恵(ギフト)って持ってるのか?」

「.......一応」

 

 暫くこちらをキッ、と睨んでいた久遠だが、やがて大人しく返事をしてきた。そんなに身体の解析をしたのがダメだっただろうか。

 

「へぇ? 因みに、それは戦闘でも使えるのか?」

「ええ。...ここなら出しても問題なさそうね」

 

 そう言って、久遠は自身のギフトカードを取り出し、天井に向かって掲げる。

 すると、ワインレッドのカードから淡い閃光が放たれ、カードの中から紅い巨人が雄叫びと共に現れた。

 

「DEEEEEEEEEN!!!」

「うっせ」

 

 無駄にデカい咆哮をあげる巨人は、まるで甲冑を全身に纏ったかのようなフォルムをしている。

 巨人と言っても、先程見た奴らよりは一回り小さいし、正直言ってそこまで強力なギフトには思えないが...何かしらのスキルがあるのだろうか?

 

「凌太君が北側でペスト達を倒したあと、とある精霊達に案内されて見つけたのがこの“ディーン”よ」

「こいつに何ができる? ただ中途半端にデカくてパワーがあるだけ、ってんなら、悪いが今回は役に立たないと思うぞ?」

「中々に挑発的な台詞をありがとう。でも、ディーンの能力はそれなりに優秀よ?」

 

 何やら得意気な顔でこちらを見てくる久遠と、それに呼応するかのように「DeN」とこれまた得意気な声...声? まあそんな感じの音を出す鉄人形。

 

「このディーンの素材は、神珍鉄と呼ばれるものなのでございますよ」

 

 得意気な二人を差し置いてそう言う黒ウサギ。

 神珍鉄? どっかで聞いたことがあるような...ないような?

 

「ご存知ありませんか? かの西遊記にも登場する孫悟空...斉天大聖が持っていたとされる伸縮自在の武具、如意棒にも使われていたものです」

「ああ、なるほど。あの猿爺(さるじじい)が持ってたアレな?」

「そうそう、そのお猿のお爺さんが.....って違いますよ!? 斉天大聖様は男性ではありませんし、外見は老いてもいらっしゃいません!」

「全くの真逆じゃねぇか。俺が会った孫悟空は、背の低い老猿の妖怪だったけどなぁ」

 

 箱庭にいる孫悟空は女なのか。

 まあ、あの織田信長や沖田総司なんかが実は女だったんだし、なんなら三蔵も女だったしな。全然ありえなくはない。

 

「まあ孫悟空の話はこの際どうでもいいとして。その神珍鉄? ってやつで造られたその鉄人形は、デカくなったり小さくなったり出来るって訳か」

「YES! でも、それだけでは無いのですよ。飛鳥さんの“威光”の力で、本来は変わらないはずの重量まで変えられるのです!」

 

 ふふん! と得意気にウサ耳をウサウサさせる黒ウサギ。...ウサウサさせるってなんだ?

 自分で言っててよく分からないが、とりあえず黒ウサギはとても誇らしげだ。

 

 紅き巨人、ディーン。

 如意棒と同じ...いや、その上位互換の性質を持つ鉄人形。

 その恩恵がどこまで強力なものなのか、少し興味が湧いてきた。

 

「よっし。それじゃあちょっと()ってみるか」

「え?」

「さあ久遠、さっさと準備しろー。気ぃ抜いてると一瞬で終わるぞ?」

「えっ、えっ...?」

「えぇっとぉ...。凌太サン? なんで準備運動を始めておられるので...?」

「ん? なんでってお前、準備運動は大事なんだぞ? 筋肉はキチンと伸ばしましょう、それが怪我をせずに長い時間戦える秘訣です。ってレオニダス先生が言ってた」

「ここでスパルタ王の登場でございますか!? 凌太さん、ちょっと人脈が広すぎるのでは!?」

「まあ確かになー。ギルガメッシュやアレクサンドルス3世やオジマンディアスやアーサー王辺りとは同じ部活に所属してるし、龍王とか名乗ってた玉龍にも会ったし、スカサハ師匠には修行をつけて貰ったし、クー・フーリンは兄貴だし、色んな神話の神と戦ったし、そのうち三柱は殺したし」

「最後とんでもないこと言いましたね!?」

「私達も、神様の一柱や二柱殺せるようにならないといけないわね、黒ウサギ」

「滅多なことを言わないで下さいこのお馬鹿様!!」

「...ごめんなさい、十六夜君なら今のままでも多分倒せるわ」

「そういう問題じゃないんですよぉ.....」

 

 黒ウサギは月の兎の末裔。仮にも帝釈天という神の眷属だ。

 だからかもしれない。目の前での「神殺したんだぜ」宣言や、同志の「神殺そうぜ」宣言に対して、人並み以上に胃を傷めているのは。

 

「話がそれたな。とりあえず、さっさと始めるぞ久遠。時間が無いんだから」

「始めるって...私と凌太君が戦うの? ここで?」

「ああ。安心しろよ、手加減はちゃんとする」

「っ、いいじゃない、面白いわ。でも、手加減なんていらない。全力でかかってきなさい!」

 

 軽い挑発をしてみれば、久遠は簡単にヒートアップする。

 俺も割と人のことは言えないかもしれないが、それにしてもチョロすぎるなこのお嬢様。

 

 俺は五十mほど後ろに跳んで、久遠やディーンと距離をとる。

 黒ウサギが何やらオロオロしているが、熱くなった久遠には彼女は視界に入っていないらしく、気合十分に俺を向かい受ける体勢に入っていた。...あっ、そっちからくるわけじゃないのね。

 

 まあ、それが堅実な戦い方だろう。

 久遠にとって、俺は未知数の力を持った相手。

 そんな相手に無策で飛び込んで行くほど、久遠はアホではなかったということだ。

 

「──けど、まだまだ甘いな」

「っ!?」

 

 ビクッ、と久遠の肩が跳ね、そして尻もちをついて倒れた。

 俺が一瞬で距離を詰めたから驚いたのだろう。

 そりゃそうだ。久遠からしたら、五十mも離れた場所にいた奴が、瞬きした次の瞬間には目の前にいたのだから、驚かない方が可笑しい。

 

 だがそれは、一般人に限った話。

 この箱庭で、しかも打倒魔王を掲げて生きていくのならば、この程度で驚かないで欲しい。

 例え相手の動きが見えなかったとしても、驚いて尻もちをつく、なんてことをしてはいけない。一瞬で勝負が決まってしまうからな。

 

「ほら、しっかりしろ」

 

 言って、久遠に手を差し伸べる。

 暫く放心していた久遠だったが、おずおずと俺の手を取って立ち上がった。

 

「さて、じゃあ第二ラウンド開始だ。次はちゃんとディーンを狙うから」

「え、ええ」

 

 未だ気の抜けていた久遠にそう声をかけてから、再度後ろに跳ぶ。

 久遠が余りにも無防備だったから思わず久遠本人を狙ってしまったが、本来はディーンの力を確かめるために仕掛けた戦いだ。

 神珍鉄の鉄人形。相当の神秘を秘めているであろうディーンの実力を見せてもらおうじゃないか。

 

「いくぞ」

「っ、迎え撃ちなさい、ディーン!!」

「DEEEeeeeEEEN!!!!」

 

 今の久遠は俺の動きを見ることすらできていないので、攻撃する前に一言宣言してやる。

 “アンダーウッド”の大空洞響き渡るディーンの雄叫びをゴング代わりに、俺は地面を踏み抜いた。

 

 巨大とはいえ、今のディーンは全長三m程度。

 その頭部までの直線距離は、およそ六十mといったところか。

 その程度の移動距離、一秒あれば十分だ。

 

「右だ。ガードしろ」

 

 懇切丁寧に、そう言ってからディーンの頭部の右側に蹴りを入れた。

 俺の蹴りがヒットする直前、ディーンの右腕が間に入ったが、そのガードの上からディーンを蹴り飛ばす。

 

「ディーン!!」

 

 久遠が叫ぶが、もう遅い。

 ディーンは勢い良く吹き飛んでいき、すぐに壁へと衝突した。

 “アンダーウッド”全体が揺れる程の衝撃だったが、見ればディーンはどこも壊れていない。なるほど、硬さはそれなりにあるようだ。

 

「ほら、まだ()れんだろ? 立てよ」

 

 極めて挑発的に、右手の人差し指をクイクイっ、とさせながら言い放つ。

 そんな安い挑発に乗せられたのかは知らないが、久遠の激昂にも似た叫びが大空洞に響いた。

 

「『立ちなさい、ディーン』!!」

「DEEEeeeeEEEN!!!!」

 

 雄叫びと共に、ディーンの体躯も大きくなっていく。

 それに合わせ重量も増加しているようで、ディーンの足は地面へめり込んでいた。アレでは満足に移動も出来ないだろうに。無駄な増量だ。

 そう思っていた俺だったが、すぐに考えを改めるハメになる。

 

「DEEEeeEEEEN!!!」

「お?」

 

 ディーンは右腕を後ろに引き、そして思い切り良く前へ──つまり、俺の方へと打ち出した。

 するとどうだろう。超重量の拳が、俺に向かって飛んで来たのである。

 

「...いや、伸びてるのか」

 

 正面から見たら、まるでロケットパンチの様に見えているのだが、実際は右腕が伸びたのだろう。

 呑気にそんなことを考えながら、迫ってくるディーンの拳に向かって右手を差し出す。

 

 ズンッ! と伝わる、拳の重み。

 それ自体は大した威力なのだが...残念。俺はそれより上の暴力を知っているし、身をもって経験している。

 

 数m程後方へ押されたが、足の指の力だけで止まることもできた。

 全力の魔力解放で筋力を底上げすれば、今程度の攻撃であれば片手で防げる。俺の力も割と全盛期に近付いてきているかもしれない。毎日地道にトレーニングしてきた甲斐があるというものだ。

 

 攻撃を受け止めた俺は、次は左手も使ってディーンの拳を掴む。

 

「どっせぇえい!!」

 

 そして奇妙な掛け声と共に、背負い投げの要領でディーンを投げ飛ばす。

 思ったよりだいぶ重いが、どうにもならない程ではない。

 

「DEeeN...!?」

 

 地面に背中から打ち付けられ、短い苦悶の声のようなモノを吐いたディーン。

 本当はさっき十六夜がしたみたいに、壁に突き刺してやろうかと思って投げたのだが、さすがにそこまでは無理だった。重い。

 

「だっはぁ!! ...あー、重かった」

 

 手をパンパンと(はた)きながら、俺は軽く一息つく。

 このディーンより巨大な巨人を軽々と投げ飛ばしていた十六夜は、一体どんな体の構造をしているのだろうか。本当に人間なんだろうな? 実は神霊です、とか言われた方が色々納得できるんだけど。

 

「...まさかディーンを投げるなんて、本当に馬鹿げた力ね、貴方」

「十六夜の方が馬鹿げてるだろ」

「まあ、それは言えているけれど」

 

 さて、十六夜の異常性はともかくとして。

 

「さあ、第三ラウンドの始まりだ。まさか、この程度がお前の全力だなんて言わないよな? 久遠」

「言ってくれるじゃない。やるわよ、ディーン。あの男に一泡吹かせないと気が済まないわ」

「大空洞の損害が酷いので程々でお願いしたいのですが.....あっ、これ聞いてないパターンでごさいますね?」

 

 あとで絶対に怒られるのデスよ.....と頭を抱える黒ウサギを意識して無視しながら、俺と久遠&ディーンの第三ラウンドは始まった。始まってしまったのだ。

 

 

 

 ──三十分後、大空洞は暫く使用不可能な状況にまで追い込まれました。

 

 

 

 * * * *

 

 

 

「結論を言おう。ディーンはそれなりに強い。けど、久遠が隙だらけすぎてやばい」

 

 大空洞を一つダメにして分かったことがそれだ。

 

 サラにしっかり怒られた後、俺と久遠は一度外へ出ていた。

 先の龍の件もあり、今この街で開店している店や屋台はない。八割が廃墟となった街中で、なんとか残っていた鉄製の椅子を偶然二脚見つけたので、今はそれに腰掛けている。

 

 廃墟に出てくるくらいなら部屋に戻れって?

 黒ウサギに頭を冷やしてこいって言われて“アンダーウッド”から追い出されたんだよ。

 

「そう...そんなに私、隙だらけだった?」

「そりゃあもう。あの三十分で軽く千回は殺せた」

 

 馬鹿正直にディーンの相手をしなければ、もっと殺せたかもしれない。

 それくらいに、久遠自身の身のこなしがなっていないのだ。

 これでよく、箱庭にいて今まで無事に生きてこれたな、と素直に驚くレベルである。まあどうせ、十六夜が過保護になって助けてたんだろうけど。

 

 だが今回、嫌という程自分の無力さを思い知ったはずだ。

 久遠の表情を伺ってみれば、とても暗い顔をしていた。相当落ち込んでいるようだ。

 

「どうする?」

「...どうする、って?」

「このまま諦めて、今回は“アンダーウッド”の守護に徹するか。それとも、死ぬ直前まで頑張って、十六夜と一緒に春日部を助けに行くか」

「.....死ぬ直前まで頑張れば、私は春日部さんの所に行けるの?」

「まあ十中八九無理だろうな。せめてあと半年あればなんとかなったかもしれないけど」

「半年あっても絶対の確証は無いのね」

「まあな。.....いや待って」

 

 ちょっとした案を思い付いた俺は、疑問符を浮かべる久遠を放ってギフトカードを取り出した。

 なんだ、あるじゃないか。久遠を強くする道具が。

 

「久遠。お前の異能は、ディーンみたいなギフトの強化もできるんだよな? それは、対象が何でもできるのか?」

「え? ...そうね、多分できるんじゃないかしら」

「よし、ならこれに使ってみろ」

 

 そう言って俺が久遠に渡したのは、一つの縦笛。

 

「? 何、これ?」

「ちょっとした面白アイテムだよ。その笛から出る音色を聞いた奴の感情を自由に操る、って感じだった気がする」

「気がするって、貴方ね...」

 

 アルトリコーダーのような形をしたそれは、以前入手した戦利品。エスデスの部下の...三獣士とかいう奴らの一人が持っていた帝具だ。名前は忘れた。というか、そもそも聞いた覚えがない。

 この帝具の効果はナジェンダから聞いた覚えがあるが、どれも俺には意味の無いものだった。

 だから使い道が無かったし、すっかり存在も忘れてたけど、そういやギフトカードにしまってあったんだった。

 

「これを吹けばいいの?」

「ああ。んで、その武器の奥の手...まあ隠し技的なやつがあってな? その効果が、自身のステータス向上なんだよ」

「つまり、ドーピングってことかしら?」

「まあそうだな。つっても、春日部が恩恵(ギフト)使って肉体強化してんのと同じだよ。“箱庭”じゃ反則でもないし、ズルでもない。ま、騙されたと思って吹いてみろよ」

「.......それじゃあ...」

 

 恐る恐るといった様子で、久遠はゆっくりと唄口を軽く咥える。

 久遠が息を吹き込むと、少し低めの音が、廃墟と化した街に響き渡った。

 

「へぇ...」

 

 音楽など、そういった芸術的な事は俺には分からない。

 だが、これがとても綺麗な音色だというのは分かる。聴いていて心休まる、そんな音だ。

 ただ音を出しているだけではなく、しっかりとした旋律を奏でている。何かの曲だろうか? 音楽とかはあんまり聴かないからなぁ...。分からん。

 

「あら。良い音色ですねぇ」

「やっぱそう思うよな? 俺もリコーダーくらい吹いたことあるけど、あんな綺麗な音は出なかったぞ」

「.......ちょっとは驚いてもいいんじゃないですか? マスター?」

 

 突然俺に声をかけてきたのは、そろそろと背後から忍び寄ってきていたラッテンお姉さんだ。

 このお姉さん、俺を驚かせたかったのだろうか? 久遠は久遠で演奏するのに集中してて気付いてないし。そういうところだぞ久遠。

 

「俺に気取られたくなかったらハサン並の気配遮断スキル身に付けなきゃな」

「ハサンって静謐さんのことですか? ...静謐さんみたいな完璧なストーキングは無理ですかねぇ」

 

 気配遮断スキルなんて持ってないくせに俺の気配察知に引っかからない元一般人の寺娘もいるけど。

 

 まあ、そんな話はどうでもいい。

 

「で、何しに来たの」

「ちょっとしたお散歩です。暇だったので」

「ペストやヴェーザーは?」

「二人ともどこか行っちゃいました。ペストちゃんとイチャイチャしたかったのに...」

「.....程々にな」

 

 ヴェーザーは知らないが、ペストはきっとラッテンから逃げたんだろうなぁ。気持ちは分かるよペスト。

 心の中でペストに同情していると、演奏に満足したらしい久遠が縦笛の唄口から口を離し、そしてゆっくりとこちらを見て口を開く。

 

「完っ璧に騙されたわ!! ...って貴女いつからそこにいたの!?」

「マスターマスター。あれが私の望んでた反応です。いいリアクションありがとねー!」

 

 ...色々と忙しない奴らだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




中途半端な終わり方になってしまった...

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