第1話「地獄から来たR」
日本 某県 オーエエドー市
この町は県内でも有数の大都市であり、交通網や商業施設等はかなり発達しており、市民もそれ相応に多い。
そんな町に住む道行く人々は笑みを浮かべつつ、昨日と変わらない、退屈でそれでいて平穏な日々を送っていた。
そして今日もまたそんな一日が暮れようとしていた。
しかし悲しいかな、それでは物語にならないのである。
実は数ヶ月前から、この町ではある異変が頻発していたのであった。
そして今、突如地響きとともに巨大なクマのようなロボットがこの平和な町中に出現した。
そのロボットのコクピットの中では、三人の男女がおり会話を交わしていた。
「いいかい、お前たち。これは私たちの復讐の第一歩なんだからね。今日こそしくじるんじゃないよ」
そう促したのは、どこか小悪魔的な性格で色気にあふれたリーダー格の紅一点。
「ハイ、クジャク様。このアカンコウ、我々をないがしろにしたこの世界への復讐必ず成し遂げてみせます。そのために私が作ったこのメカ、ベースアニマルなんですから。なあ、ゴロリン」
そう返事をしたのは、大きな逆三角形型の顔の輪郭に人参のような赤っ鼻と大きな出っ歯が特徴の細身の男性。
「そうです。わてらが味わったあの屈辱、この世の中にも味わわせてやるでまんねん」
そう力強く頷いたのは、筋骨隆々の体格に剃刀負けした頬をした大男。
クジャク「よ〜し、お前たち!! や〜っておしまい!!」
アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」
その返事と共に、巨大クマ型メカは進撃を開始した。
車を踏みつぶし、電柱をへし折っては振り回し、巨大クマ型メカは我が物顔で暴れていた。
そんな惨状に、人々は悲鳴をあげて逃げ惑っていた。
「うわー!! 助けてくれー!!」
「警察、いや自衛隊来てくれー!!」
クジャク「いいぞいいぞ。いい調子じゃないかい。これでブラックエナジーもたまってきてるんじゃないかい」
巨大クマ型メカの暴れっぷりに、クジャクは満足そうに言った。
アカンコウ「ハイ、この調子なら大神獣様もお力を蓄えられると思いますよ」
ゴロリン「はいな、そのためのわいら三獣士でもありまんねん」
アカンコウとゴロリンも満足そうに笑みを浮かべて頷いた。
そんな時、空に光るものが現れた。
クジャク「ん? あれは?」
ゴロリン「鳥だ!!」
アカンコウ「飛行機だ!!」
二人はそれを指差して叫んだ。
クジャク「いや、違うあれは!! やっぱり!!」
その上空から降り立った赤い火の玉は近くのマンションの屋上に着地し、それとともに少女の姿に変わった。
その少女は、赤を基調にしたゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、赤いロングヘアをなびかせ、深紅のドミノマスクで素顔を隠していた。
そしてその少女は怒気を含んだ声で言い放った。
「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」
逃げ惑っていた市民たちはその少女を見ると口々に叫んだ。
「あ、あれは…!!」
「もう来たんだ!!」
「早く逃げろー!!」
「殺されるぞー!!」
人々はその少女の姿を見ると、巨大ロボットを見たときよりもはるかに慌てふためき、逃げ惑った。
クジャク「く〜毎度毎度邪魔をしに!! お前たち!! や〜っておしまい!!」
アカンコウ「そうですとも。今日こそあの仮面、ひっぺがしてやるんだから。ミサイル発射。ポチッとな」
アカンコウがそう言ってボタンを押すと、巨大クマ型メカは大きく口を開け、ミサイルを発射した。
しかし、キュア・インフェルノと名乗った少女は大ジャンプでそのミサイルをかわした。
すると当然、そのミサイルはマンションに着弾し大爆発を起こし、マンションは半壊した。
そんなものなど気にも止めず、キュア・インフェルノは巨大クマ型メカに殴りかかった。
インフェルノ「ハァアアア!!」
彼女の繰り出したパンチは強烈で、クマ型メカは大きく吹き飛ばされ近くの民家を押しつぶした。
アカンコウ「くう、まだまだ!!」
アカンコウはクマ型メカを操縦し、なんとか起き上がらせると、今度は爪で彼女を切り裂きにかかった。
しかし、彼女はその爪を見切り紙一重でひらりひらりと交わし、懐に飛び込むとクマ型メカの足を掴むとジャイアントスイングで投げ飛ばした。
クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「わっわっわーっ!!」」」
そして投げ飛ばされた先では止まっていたトラックがあり、クマ型メカは潰されたトラックとともに大爆発を起こした。
その結果、クマ型メカは爆発に巻き込まれた大ダメージを受けていた。
クジャク「なにやってる!! 早く起き上がるんだよ!!」
クマ型メカのコックピットではクジャクがアカンコウを怒鳴りつけていた。
アカンコウ「ダメです!! バランサーが故障で上手く立てません!!」
アカンコウは必死に計器を操作していたが、故障の度合いはかなりのものであり、どうしても上手く動かなかった。
クマ型メカが立ち上がってこないのを見ると、インフェルノは隙ありとばかりに両手を大きく振りかぶった。
すると彼女の手が赤い炎で包まれた。
インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」
そう叫ぶと両手の炎の塊を、叩きつけるように投げつけた。
するとその炎の塊はクマ型メカに直撃し、凄まじい火柱を上げて大爆発し一面を火の海にした。
クジャク「くっそ〜覚えといで!!」
クジャクたちはボロボロになりながらも、かろうじて脱出には成功し、小さな脱出ポッドの中で捨て台詞を吐いていた。
そうして戦いに勝利し、一息ついていた彼女キュア・インフェルノに、突然石が投げつけられた。
石の飛んできた方を睨むように振り返ると、そこには怒りの形相をした市民たちがいた。
彼らからはいつもの言葉が投げかけられた。
市民「なにしてくれてんだテメエ!!」
市民「俺たちの町が無茶苦茶だ!!」
市民「どうしてくれるんだ俺のトラック!! 荷物もパァだし、俺はクビじゃねえか」
市民「私たちの家は爆発で燃えてしまいました。この寒い時期に子供と野たれ死ねというつもりですか!!」
市民「え〜ん!! 私のおうちが〜!!」
そう、彼女キュア・インフェルノは謎の巨大メカと戦う存在として世間に認知されてはいるが、その評判は恐ろしく悪かった。
事実今の戦いにおいても、クマ型メカに破壊された被害より彼女が戦ったことにより発生した二次被害の方がはるかに大きかった。
そしてキュア・インフェルノもまた、罵声を浴びせたり泣き叫んでいる市民に対して、いつもの通りのセリフを言い放った。
インフェルノ「ふん、だからなんなの。あなたたちがどうなろうとも私には関係のない話だわ。クビになる? 野たれ死ぬ? だから何? 私の目的にしてみれば些細なことよ」
そう冷たく言い放つ彼女に、市民たちはさらに激高した。
市民「ふざけるなー!!」
市民「厄病神め!!」
市民「あなたは鬼よ!! 悪魔よ!!」
しかしそんな罵声にも彼女は顔色ひとつ変えず言い放った。
インフェルノ「なにを今更。私にとってあなたたちの命なんて知ったこっちゃない。あいつらさえ倒せればそれでいいわ」
吐き捨てるようにそう言うと、キュア・インフェルノは赤い火の玉になって、市民たちの罵声に見送られながら飛び立った。
以上が、ここしばらくこの町で起こっていることのテンプレ展開である。
オーエエドー市郊外
ここ、オーエエドー市はかなり開けているが、自然もかなり豊かな町である。
郊外には鬱蒼と茂る雑木林がある。
そして、その中には不気味な雰囲気漂う洋館がひっそりと佇んでいた。
この洋館こそが先の三獣士と名乗った三人の拠点兼隠れ家である。
クジャク「いたた。もうちょっと優しくおしよ」
アカンコウ「どっかのメガネかけたドジな小学生みたいな声で、気軽に言ってくれますけどね。あたしらだって怪我してんですよ、もう」
ゴロリン「そうでまんねん。お〜火傷がヒリヒリする!!」
クジャク「体だけが取り柄のやつが何言ってんだい。どっかの音痴のガキ大将みたいな声で情けないこというんじゃないよ」
アカンコウ「そうだよ、お前さんは頭が資本のあたしと違って体が資本なんだから、それぐらい大丈夫でしょ」
ゴロリン「何ゆうてまんねん。アカやんこそ力だけが頼りのどっかの三体合体するロボットの三号機のパイロットみたいな声のくせに」
アカンコウ「なによ、あたしはね、どっかの研究所の所長みたいな声だって言われてんだからね」
三人はここになんとか逃げ帰った後、実に訳のわからないことを言いながら怪我の手当てをしていた。
そんな時、急にあたりが暗くなったかと思うと不気味な声が響いた。
「三獣士よ」
それを聞いた三人は慌てて跪いた。
クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ははーっ!!」」」
すると、三人の前に不気味なモヤのようなものが現れた。
「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むものなり」
クジャク「ははーっ、大神獣様。申し訳ありません、またもや敗れてしまいました」
クジャクは実にかしこまった声で申し訳なさそうにそう言った。
大神獣「構わぬ。少量とはいえ、ブラックエナジーも採集できた。この調子で続けて行くがよい」
クジャク「ははーっ。ありがたきお言葉」
大神獣「我の復活の時は近い。我の力があれば、世界を意のままに作り変えることもできる。お前たちはその栄誉を与えるぞ」
クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ははーっ、ありがたき幸せ」」」
大神獣「では傷が癒え次第、我の闇の力を宿したベースアニマルで再び出撃し破壊を行うのだ。そうすることでブラックエナジーは蓄積していく」
クジャク「ははーっ。是非ともご覧あれ」
その言葉にモヤのようなものは満足したように晴れていった。
一方その頃
オーエエドー市の住宅地にあるマンション。そこに一人の女子中学生が帰宅した。
「たっだいまー♪ ねえねえ、聞いてよお母さん。今日もわるーいヤツらをやっつけたんだよ」
実に晴れ晴れとした顔で嬉しそうに語る、茶髪のロングヘアの少女はこの物語の主人公
そしてご察しの通り、またの名をキュア・インフェルノという。
美里「この調子で戦ってけばさ、あーんな奴らすぐに皆殺しにできるよ。楽しみにしててね」
非常に物騒なことを嬉々として語る彼女だったが、そのことに対する返事は家のどこからもなかった。
美里「これでさ、亮太のやつも少しは姉を尊敬すると思うんだ。あの生意気な奴もさ」
「美里、もうやめるメル」
そんな美里に対して、諌めるような口調で話しかける者がいた。
美里の通学鞄の中から顔を出したそれは、一見するとぬいぐるみのように見えるが、れっきとした妖精であり、名をメルといった。
しかし美里はメルをギロリと睨みつけると、低い声で言った。
美里「なによ。なんか文句でもあんの」
その目つきにメルは怯えながらも続けた。
メル「こ、こんなことしてもなんにもならないメル。誰も望んでないことメル」
美里「私は望んでるわ。それに、父さんや母さん亮太もね」
美里はメルの忠告など聞く耳持たないというように続けた。
メル「でもでも!!」
美里「うっさい!! 私はお腹空いてんの!! 支度しなきゃいけないんだから黙ってて!!」
そして30分ほどして冷凍食品やインスタントといった簡単な食事を用意した美里は、食卓にて一人で食事を始めた。
美里「う〜ん、美味しい♪ 何やかんやでさっすが私だよ。料理がうまいね〜。なんか面白そうなテレビやってないかなぁ」
テレビをザッピングしていると、先の戦いのことがニュースで報道されていた。
ニュースキャスター「本日、夕方五時頃市内で巨大なクマ型のロボットとキュア・インフェルノと名乗る少女の戦闘がありました。その結果マンションが一棟半壊。住宅が計4軒全焼。自動車やトラック等が計7台大破。その他重軽傷者を合わせて50名近くに及び、市民からは激しい怒りと悲しみの声が…」
そこまで聞いた美里は無表情にチャンネルを変えた。
そこではバラエティ番組を放送しており、彼女はそれに夢中になりケラケラと笑っていた。
美里「アッハッハおっもしろい。このくっだらないダジャレ、お父さんといい勝負」
一人とはいえ実に楽しそうに食事をする美里に、メルは足元からおずおずと話しかけた。
メル「あ、あの、メルもお腹空いたメル」
美里「アハハ、なによ。おととい食べたばっかりでしょ」
美里は一瞥もせず笑いながらそう告げた。
メル「だから、昨日は何も食べてないから、その…」
すると美里はその言葉にイラついたように立ち上がると、近くの棚から猫缶を取り出してメルに思い切り投げつけた。
メル「ま、またこれメル…?」
ついポロっとつぶやいた瞬間、メルはしまったというような顔になった。
次の瞬間、メルは美里に思い切り踏みつけられた。
美里「調子に乗ってんじゃないわよ、穀潰しが!! いい!? あんたなんかあたしを変身させる力があるから、かろうじて飼ってやってるだけよ。それがなけりゃとっくにミンチにしてやってるわ。誰のせいでこんなことになったと思ってんの!! え!?」
メルを何度も踏みつけながら、美里はそう怒鳴った。
メル「ご、ごめんなさいメル。ごめんなさいメル」
美里「ふん、わかってりゃいいのよ」
必死に謝るメルを見て少しは気が晴れたか、美里は吐き捨てるようにそう言うとさっさと食事を終え部屋に戻っていった。
美里は部屋に戻りドアを閉め、先の戦いで石をぶつけられたところを押さえると、そのままへたり込んだ。
美里「…なさい、ごめんなさい」
すると突然美里は謝りながら涙を流し始めた。
美里「ごめんなさい家を壊して…。ごめんなさい私のせいでクビになって…。ごめんなさいいっぱい傷つけて…。ごめんなさい、ごめんなさい…」
美里の泣き声をメルは扉越しに聞いていた。
メル「美里…ごめんなさいメル…」
メルもまた大粒の涙を流していた。
悲しみに満ちたそんな家の中には小さな仏壇があり、そこに飾られていた遺影は紛れもなく、美里の両親と弟のものだった…
プリキュア