プリキュアR   作:k-suke

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第10話「もう一人のR」

 

 

 

あの日から二週間がたち、雪菜が退院する日が来た。

 

 

あの後すぐに雪菜のご両親は次のスケジュールで海外に行ってしまった。

 

最後まで雪菜のことを心配しており、そばについてあげられなかったのが残念だと悔しそうにおっしゃっていた。

 

 

久美や理香は毎日のようにお見舞いに行っているらしいが、私はとてもではないが雪菜の顔を見ることができなかった。

 

久美や理香曰く、それなりに元気だということだそうだが、無理をしているのがバレバレだそうであり、そんな雪菜を見るのが辛かったから。

 

いや、ただの言い訳だろう。

 

私自身、どんな顔をしていけばいいのかわからなかったのだ。

 

 

私の、いや雪菜にとっても何よりも大切な物を奪ってしまった。

 

それも、私の勝手な理由で、私自身が。

 

 

復讐と称し、なりふり構わず戦い、多くの人たちを傷つけてきたことに神経がすり減っていたが、さすがにこれは効いた。

 

 

 

美里「雪菜…ごめん…ごめんなさい…」

 

 

私はあれ以来ずっと泣いて過ごしていた。

 

 

雪菜を傷つけて、大切な夢を奪ってしまった罪悪感。

 

そして何より、こんなことになっても、あいつらに対する憎しみを消すことができず、罪を自白することもできない自分の弱さと情けなさに対して。

 

 

 

しかし、いくらなんでも退院の日ぐらいは行かなければならない。

 

せめて、簡単な話と謝罪ぐらいはしなければならない。

 

それが自己満足に過ぎないとわかっていても…

 

 

 

 

 

オーエエドー市 市民病院

 

 

 

私は何回となく顔を洗い泣きはらした目をしゃっきりとさせると、石のように重い足を引きずるようにしながら、病院にたどり着いた。

 

しかし、それでもなかなか敷地内に入る決心がつかず、歩道で立ち尽くしていた。

 

 

美里「ええい、しっかりしろ!! 渚 美里!! 気合だ気合だ!!」

 

私は自分の頬を両手で叩くと意を決して病院に入った。

 

 

すると、ちょうど雪菜がおばあさんと出てくるところであり、ばったりという音が聞こえてくるほどに唐突に出会った。

 

 

雪菜「み、美里!?」

 

美里「ゆ、雪菜!?」

 

 

しばらく振りに顔を合わせた私達だが、なんといっていいか戸惑ってしまった。

 

 

美里「た、退院おめでとう」

 

当たり障りのないことを言ったつもりで、直後に激しく後悔した。

 

 

全然おめでたくなんかないというのに…。

 

 

雪菜「ありがとう美里。やっと来てくれたね。会えないとやっぱり寂しかったよ」

 

右腕を吊ったままニッコリと笑ってそういう雪菜は、とても眩しくそして痛々しかった。

 

夢を失ってしまった雪菜が一番辛いというのに…

 

 

 

美里「雪菜。本当にごめん。何もしてあげられなくて。私のせいなのに…。あなたを助けられなかった…ごめんなさい」

 

 

私は腰が直角になるほどに必死に頭を下げた。

 

 

こんなことがどうなるとは思っていない。

 

でも、そうするしか私にはなかった。

 

 

雪菜「ちょっ、ちょっと頭あげてよ。美里がどうこうしたってわけじゃないんだから。こっちが恥ずかしいって」

 

 

そんな私を見て、雪菜が恥ずかしそうにそう言った。

 

 

そんなことを言う雪菜に対して私は顔を上げることができなかった。

 

 

 

 

 

叶家

 

 

私は片腕が不自由な雪菜の荷物を持って家まで付き添った。

 

雪菜「美里、本当にありがとう。あなただって毎日大変なのに…」

 

 

美里「いいっていいって。私にはこれぐらいしかできないし…」

 

私は自分の卑怯さっぷりに歯噛みをしながらそう言うしかなかった。

 

 

美里「雪菜。いつも手伝ってもらってたし、できることがあったらなんでも言ってね」

 

私はすこしでも雪菜の力になりたくてそう言った。

 

雪菜「大丈夫よ。元気元気!! とりあえずの目標だってあるし、リハビリも頑張れるよ。ありがとうね、美里」

 

 

雪菜は明るく笑ってそう言った。

 

 

私は、そんな雪菜を見るのが辛く

 

美里「そっか、じゃあ頑張って。私応援してるから」

 

そうお茶を濁して帰ることにした。

 

 

 

 

 

雪菜祖母「美里ちゃん。ありがとうね、いつもいつも。雪菜はいいお友達を持ったね」

 

手を振って帰っていく美里を見ながら、雪菜の祖母はそう言った。

 

雪菜「本当にいい人。あいつとは大違いだわ」

 

 

そう呟いた雪菜の目には暗い光が灯っていた…

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

クジャク「アカンコウ、ベースアニマルの開発状況はどんな具合だい?」

 

 

 

洋館の地下室でアカンコウが今までよりもひと回りほど大きいベースアニマルを製作していた。

 

 

 

アカンコウ「はい、これまでのプリキュアとの戦闘データから完璧とも言えるほどに対プリキュアに特化したベースアニマルが完成しつつあります。ご覧ください!!」

 

と自信満々にアカンコウが完成間近のベースアニマルの解説を始めた。

 

 

クジャク「う〜ん、いいねいいね。見るからに強そうじゃないかい」

 

ゴロリン「やっぱりこういうのは見た目も大事でおますな」

 

 

そこにあったのは巨大な龍の姿を模したベースアニマルであり、その見た目の力強さと格好よさにクジャクたちは上機嫌だった。

 

 

褒められたアカンコウもさらに得意になって説明を続けた。

 

 

アカンコウ「そうです。ここ二週間の我々三獣士のバイト代を全てつぎ込んで開発した最高傑作、トレジャードラゴンです。全身を耐熱ラバーで三重に覆っているため、摂氏三千度の炎にもびくともせず、ミサイルの直撃をも弾力ではじき返してしまえる構造です。さらには速乾性耐火型の液体硬化弾を発射して相手の動きを封じてしまうことが可能。もちろん武装も充実しており、牙と爪はダイヤモンド並みの硬度を誇りあらゆるものを引き裂きます。今度こそプリキュアも最期ですよ!!」

 

 

その説明にクジャクは満足そうな笑みを浮かべた。

 

クジャク「よ〜し、これでプリキュアを倒してさえしまえば、大神獣様への義理もたつ。そうすれば私たちもこんな生活から解放されるんだ!!」

 

ゴロリン「そうでまんねん。わてらの未来は明るいでまんねん」

 

 

アカンコウ「心配はいらん。こいつなら勝利は確実、我々の夜明けの時は近いのだ」

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「アーッハッハッハ!!!」」」

 

 

 

かくして、三獣士たちの希望と喜びに満ちた高笑いは、洋館の中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

放課後、私は家への道を一人うつむきながら歩いていた。

 

風邪をひいて長期欠席する前は、放課後になるとがむしゃらに大神獣を探して飛び回っていたが、今はとてもではないがそんな気分になれなかった。

 

 

復讐のためと割り切りそんなことをし続けた結果が、一番大切なものを失うという皮肉すぎるものとなってしまった。

 

 

これまで、私が傷つけてきた人たちの怒りと悲しみは一応理解していたつもりだった。

 

私自身理不尽に大切なものを奪われた身の上だったからだ。

 

しかし、こういうことになると改めて私の重ねてきた罪の重さと虚しさがよくわかった。

 

 

美里「私…どうしたらいいんだろう…」

 

そんなことを考えながらも一番情けないと思うことが、あいつらに対する憎しみを消せない自分だった。

 

 

美里(雪菜をあんな目にあわせておきながら、まだ復讐のことを忘れられない…。あいつらも憎いけど、こんな自分が何より嫌!!)

 

 

私は突然、何かから逃げ出すように全力で走り出した。

 

このまま考え続けていると、気が狂いそうだったからだ。

 

いや、とっくにおかしくなっているのかもしれない。

 

あの夜、日常を目の前で一瞬にして失った時に…。

 

 

そうやって目をつぶりなから、がむしゃらに走っている最中に、頭の中に声がした。

 

 

『そんな風に逃げてどこに行くつもり?』

 

『あなたはもうどこにも逃げられない。 血塗られた世界に生きるしかない』

 

『誰とも寄り添うことのできない孤独な世界。夢を持つことも叶わない闇の世界で』

 

 

美里「違う!! 違う違う違う!! 私が本当に望んだことはこんなことじゃない!!」

 

 

『違わない。あなたはいつも言っていた、復讐ができればそれでいいと。誰が傷ついても些細なことだと。それがあなたの望みでしょう』

 

 

美里「うるさい!!」

 

私はそう叫んで、声が聞こえてきた方を睨みつけるように顔を上げた。

 

そしてその瞬間絶句し、一瞬心臓が比喩でなしに止まった。

 

 

そこにいたのは、赤を基調にしたゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、赤いロングヘアに深紅のドミノマスクをつけた少女。

 

まぎれもない私自身の姿。

 

 

美里「キュア・インフェルノ…」

 

そう呟いた瞬間、目の前には誰もいなくなっていた。

 

 

美里「幻…じゃ、ないのかもな…」

 

 

 

額の嫌な汗をぬぐったのと、カバンが震えだしたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

オーエエドー市内 市街地

 

 

 

市民はパニックになっていた。

 

 

先ほどから上空に巨大な龍が我が物顔で悠々と旋回していたのだ。

 

 

市民たちはこれまでの経験則からあれがなんなのか、そしてこの後何が起きるかを察していた。

 

 

 

 

「何してるの!! あの子が来たら大変なんだから!! ほら早く逃げるのよ!!」

 

母親は子供を抱きかかえて必死に逃げていた。

 

 

「早くしないと殺されちまうぞ!! 全くよそでやってくれよ!!」

 

ある男性は悪態をつきながら必死に避難していた。

 

 

その他逃げ惑う人は多数に及び、様々な感情が入り乱れていたが、ただ一つキュア・インフェルノへの嫌悪感は敵のメカより大きいことだけは一致していた。

 

 

 

 

一方上空を旋回している龍型メカのコックピットでは

 

 

 

クジャク「早く来いプリキュア。 早くしないとスーパーのタイムセールが終わっちまう。そうなったら今夜のおかずが貧相になっちまう」

 

 

アカンコウ「そうですよ。こっちだって家庭教師の時間があるんだからくるなせ早く来いってんだ。いっつもすぐ来るくせに」

 

ゴロリン「そうでおま、わてかてこのまま真面目に働いたら正社員も夢やないんでまんねん。遅刻したくないでおま」

 

 

とまあ、ベクトルこそ違えどこちらはこちらで現実的な会話をしていた。

 

 

三獣士がそんな会話をしていると、空に何かが光った。

 

 

 

クジャク「ん? 来た! 来た来た来た!! やるよいつもの」

 

ゴロリン「はい鳥だ!!」

 

アカンコウ「よし飛行機だ!!」

 

二人はそれを指差して叫んだ。

 

クジャク「待ちに待ってた奴だ。 さあ来いプリキュアー!!」

 

 

 

 

 

 

私は自己嫌悪と罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、心の中で消えることのない憎しみの炎に突き動かされるように、カバンの中で震えている喋るぬいぐるみもどきを引きずり出した。

 

 

美里「早くしなさい!! このノロマ!!」

 

 

メル「美里…こんなことになってしまったんだからもう…」

 

 

私の怒声に、ぬいぐるみもどきは悲しそうな目でそう告げた。

 

 

 

普通の目で見れば、その目つきや口ぶりに心を痛めただろう。

 

普通の少女ならば、涙ながらにこれを抱きしめたかもしれない

 

 

しかし、今の私は「普通」ではなかった。

 

 

自分を無理やり追い込もうとしているのか、辛い現実から逃避しようとしているのか、それとも憎しみという狂気にとらわれてしまっているのか。

 

実際のところ、そんなことを考えるほどまともな頭がないというのが正しいのかもしれないが、私はぬいぐるみもどきの首らしきものを締め上げた。

 

 

美里「ぐちゃぐちゃうるさい。変身するから早くしろっての!!」

 

 

この場に鏡があれば、今の私の顔を悪魔の顔よりも醜く映していただろう。

 

 

私は早く変身したかった。

 

変身すればこんな醜い顔も、仮面で隠すことができる。

 

 

世間では恐怖の象徴とも言われるような仮面だが、私にはいろんな意味で大切なものだった。

 

 

そんな私の顔に恐怖したのか、拙い抵抗は無意味と悟ったか、ぬいぐるみもどきはスマホもどきに姿を変えた。

 

 

それを握りつぶさんばかりに力を込めて掴むと、アプリのようなものをタッチした。

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包み、仮面を装着していた。

 

 

変身完了したこの瞬間、私はどこか安堵した。

 

 

少なくとも変身している間だけは、余計なことを考えなくて済む。

 

復讐者として、憎しみだけに身も心も委ねられる。

 

 

我ながら情けない自己逃避だと感じていても…

 

 

 

 

 

私は市街地の上空を悠然と舞っている龍型メカをみて、無性に腹が立った。

 

 

私がこれほどに苦しんでいるのに、どこか落ち着き払った態度をしているそれに。

 

 

私は、怒りのままに八つ当たりのように急降下してキックを食らわせた。

 

 

 

 

 

インフェルノ「え? 効いてない!? うわー!!」

 

龍型メカの装甲の弾力にキックの衝撃は吸収され、私は体ごと跳ね返されビルの壁に体をめり込ませた。

 

 

そしてそんな私に対して、龍型メカはミサイルのようなものを発射してきた。

 

 

 

インフェルノ「ぶわっ!? 何よこれ!?」

 

ミサイルの爆発に耐えようと歯を食いしばった私だが、そのミサイルは私にぶつかると破裂して液体を全身に浴びせてきた。

 

 

私は何か引っかかるものを感じながらも、とりあえずダメージがないのを確認し、ビルから体を剥がし地面に降り立った。

 

 

そして上空の龍型メカを睨みつけると、両手を大きく振りかぶった。

 

 

インフェルノ「キックが効かないなら焼き尽くしてやるわ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

その叫びともに、私は両手の炎の塊を投げつけ、龍型メカを火だるまにした。

 

 

 

 

いつもなら間違いなく敵を焼き尽くす私の必殺技を受けても龍型メカはビクともせず、雄叫びのようなものを一つあげると、その炎を消し飛ばしてしまった。

 

 

 

インフェルノ「そんな!?」

 

私は目の前の現実に驚いていると、続いて自分の異変に気がついた。

 

 

インフェルノ「な、なに? 体が動かなくなってきた。まさかさっきの液体!」

 

 

私は全身に浴びせられた液体を焼きはらおうと、超高熱放射を行ったが、一向に体の自由は戻らなかった。

 

 

インフェルノ「くっまずい。どんどん硬くなってきてる。動けない!!」

 

 

 

 

一方、龍型メカのコックピットの中では三獣士たちが上機嫌でキュア・インフェルノの慌てる様を見ていた。

 

アカンコウ「いいぞいいぞ。プリキュアめ、かなり焦りだしてるな」

 

クジャク「そうそう毎回毎回やられるもんじゃないんだよ。アカンコウ、一気に止めだよ!!」

 

アカンコウ「ハイな!!」

 

その返事と共にアカンコウは龍型メカを操作した。

 

 

 

 

 

インフェルノ「ギャアアアア!!」

 

私はあられもない悲鳴をあげて、地面の上で悶え苦しんでいた。

 

 

体の自由が効かなくなってきていたところに、龍型メカが爪を振り下ろしてきたのである。

 

 

変身していたおかげで出血もなく済んだが、もし生身で受けていたらズタズタにされ、一瞬で血だらけの肉塊になっていただろう。

 

お母さんや亮太のように…。

 

 

しかし、それでもやはりダメージは深刻で痛みのあまり私は立ち上がることもできなかった。

 

インフェルノ「く、くそ…」

 

いつものように怒りのままに立ち上がろうとしたが、ダメージが深刻な上、体が固まり始めていたため、いつものようにはいかなかった

 

目の前の敵に対して、何もできない苛立ち。

 

復讐を遂げられなくなる怒りと焦り。

 

 

その想いだけは変わらないが、いかんせん体がまるで動かなかった。

 

 

 

 

アカンコウ「チィッしぶといな。今ので仕留めきれないとは」

 

 

この龍型メカ、トレジャードラゴンはアカンコウの設計である。

 

 

その武装の威力は彼自身が一番よく知っており、その爪による攻撃は鉄塔すら軽く引き裂くことができる威力なのだが、それをまともに食らいながらも死ななかったインフェルノに、若干驚いていた。

 

 

クジャク「あいつのことだ。これぐらいは想定範囲。だが甘く見るな今のうちに今度こそ止めだ」

 

 

アカンコウ「はい。油断はしませんよ。最後まで徹底的にやってやる!!」

 

クジャクの指示にアカンコウは、今度はトレジャードラゴンの牙を振りかざしてインフェルノに向かわせた。

 

 

アカンコウ「このビルをも噛み砕く牙で、噛みちぎってくれる!! プリキュアお前の最期だ!!」

 

 

 

 

牙を剥いて襲いかかってくる龍型メカを目の当たりにして、私はどこか他人事のように今の状態を冷静に理解していた。

 

 

インフェルノ(これで終わりか…。因果応報ってやつかな…)

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 

 

何処からか笛の音が聞こえてきた。

 

 

するとなぜか龍型メカの動きが止まってしまった。

 

 

インフェルノ「何? この笛の音は? 一体どこで誰が?」

 

 

 

 

クジャク「なんだいなんだい? どうして止まっちゃうんだよ!?」

 

アカンコウ「わかりません。なんかこの笛の音で急に動きが変になっちゃって」

 

 

コックピットの中では突然変調をきたしたトレジャードラゴンに三獣士が戸惑っていた。

 

するとゴロリンが笛の音の発信源を見つけていた。

 

 

ゴロリン「あ、あのマンションの屋上に誰かがいるでまんねん。そいつがこの笛を!!」

 

 

 

 

ゴロリンの指さした先には、一人の少女がいた。

 

 

だが、それはただの少女ではなかった。

 

 

白を基調にして水色で縁取りした寒々しさを感じるドレスに身を包み、氷と言われても信じられるような色の髪。

 

極め付けは恐怖を感じるような冷たい目を、同じく冷たさしか感じないドミノマスクの奥に光らせていた。

 

 

その少女は笛を吹くのをやめると、氷のように冷たい声で静かに名乗った。

 

「私の名はキュア・コキュートス。絶望の果てより来たりしもの」

 

 

 

 

インフェルノ「あれは…プリキュア…」

 

私は突然の出来事に混乱していた。

 

確かに、あのぬいぐるみもどきの話からするに、他に変身できる人間がいてもおかしくはない。

 

 

インフェルノ「一体誰が…なんの目的で…」

 

 

 

混乱していたのはこちらも同じであった。

 

 

ゴロリン「プ、プリキュアがもう一人!?」

 

クジャク「ちょっ、それは反則だろう!!」

 

アカンコウ「えーい、ご都合主義にもほどがある!!」

 

 

そう怒鳴りつつも、アカンコウはトレジャードラゴンを必死に操作してした。

 

 

アカンコウ「よし! なんとか動くようになったぞ!!」

 

クジャク「なら、あいつもまとめて片付けちゃいな!!」

 

アカンコウ「言われなくとも!!」

 

 

 

 

 

コキュートス「なるほど、この笛の音は闇の力の機能を一時的に麻痺させるというのは本当ね。じゃあ他にも色々試させてもらおうかしら」

 

雄叫びとともに自分に向かってきた龍型メカを冷たい目で見ながら、コキュートスは吹いていた笛をしまいながら冷たくそう言った。

 

 

コキュートス「…アイス・エッジ」

 

全く抑揚のない声でそう呟くと、コキュートスの右腕は大きな氷の刃になった。

 

 

そしてその右腕を構えてマンションの屋上からジャンプし、龍型メカをすれ違いざまに切りつけた。

 

 

するとインフェルノのキックや炎にもビクともしなかった装甲は、あっさりと切り裂かれた。

 

それもただ切り裂かれただけでなく、その傷口が凍りついていた。

 

 

 

 

クジャク「な、なんで!? さっきはビクともしなかったのに」

 

アカンコウ「こいつの攻撃は低温らしいです。極度に冷やされた物質はもろくなっちゃいますからね」

 

クジャクの驚きにアカンコウは冷静な状況判断を行った。

 

 

クジャク「解説してる場合か? なんとかおし!!」

 

アカンコウ「わかってますって、ポチッとな」

 

 

そう言うと、アカンコウはインフェルノの動きを止めた液体硬化弾を発射した。

 

 

 

 

コキュートス「ふん、そんなもの。アイス・ガトリング」

 

龍型メカをバカにしたようにそう呟くと、今度は右手をガトリングガンのような形に変え、氷の礫とでもいうような弾丸を、見た目の通り連射して液体硬化弾を命中する前に全弾撃ち落とした。

 

 

 

 

クジャク「くぅなんてやつだい!!」

 

アカンコウ「いえこれでわかりましたよ。あいつインフェルノより動きは早いし、技も小回りが効く。でも威力が低い」

 

このわずかの攻防でコキュートスの能力を分析できたのはさすがというところである。

 

 

ゴロリン「えっじゃあどうするでおま?」

 

アカンコウ「決まっている!! 力任せに押し切るだけだ!!」

 

 

すると龍型メカ トレジャードラゴンは大きな雄叫びをあげて爪を振りかざした。

 

 

 

しかし、コキュートスは冷静にその動きを見極めると攻撃をひらりひらりとかわした。

 

そうしながらも彼女はさらに右腕を、鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させた。

 

コキュートス「…この程度なのね。肩慣らしにはなったわ。クリスタル・ビュート」

 

そう呟くと鉤爪を龍型メカに向けて打ち出した。

 

その鉤爪には右手のひょうたん型の中に収納でもされていたのか、ロープがつながっており、龍型メカを絡め取ってしまった。

 

 

そして、ロープに絡まれた龍型メカは絡め取られたところから凍りつき始めた。

 

 

 

クジャク「さ、寒い寒い寒い寒い!!」

 

ゴロリン「ど、ど、どないなってまんねん!!」

 

アカンコウ「ど、ど、どうやら全体が凍りつき始めているようでございますよ」

 

 

コックピットの中では三獣士たちが歯をガチガチいわせながら、全身を抱きしめるようにして、震えていた。

 

 

 

それを確認するやコキュートスは、左手で右手を支えるようにしてロープを振り回し、上空から引き摺り下ろすかのように地面に叩きつけた。

 

 

ほぼ全身が凍りついていた龍型メカは、かなり脆くなってしまっておりそのまま粉々に砕け散り大爆発を起こした。

 

 

 

インフェルノ「す、すごい…」

 

 

私は目の前の光景に素直に驚いていた。

 

自分の他のプリキュアがいたことよりも、その強さに。

 

 

インフェルノ(私と同じ…いやもしかするとそれ以上)

 

 

 

するとコキュートスは私の方に振り返るとにっこりと微笑みかけてきた。

 

 

コキュートス「…キュア・インフェルノ大丈夫そうね」

 

インフェルノ「えっ? ええ」

 

私は戸惑いながらも返事をしたが、何か違和感を感じた。

 

 

コキュートス「よかったわ、あいつらに倒される前に間に合って。だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コキュートス「あなたは私が殺すんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うや否や、コキュートスは右手を刃に変えて切りかかってきた。

 

 

インフェルノ「えっ!? くっ!!」

 

私は突然のことに混乱しつつも、なんとかその刃をかわした。

 

 

コキュートス「よく避けたわね。さすがと言っておくわ」

 

そう言いながらも、コキュートスは今にも舌打ちをしそうな口調だった。

 

 

 

インフェルノ「いきなり何を!?」

 

私は思わず尋ねていたが、なんとなく想像はついていた。

 

 

コキュートス「黙りなさい!! あなたに質問をする資格はないわ!! 私はあなたのせいで夢も未来も失った。許さない、あなただけは!!」

 

 

先ほどまでの静かな口調とは打って変わって、突然激高した口調になったコキュートスだったが、私にはやっぱりかという思いの方が強かった。

 

傷つけてしまった市民から罵声を浴びせられたり、石をぶつけられたりするのは日常茶飯事であり、彼女もそう言うことの延長線上なのだと理解した。

 

 

インフェルノ「だから何よ。あなたがどんな目に会おうともわたしには関係のないことよ」

 

だから私もついいつものように応対してしまったのがまずかった。

 

 

普段なら、石をぶつけられようが棒で殴られようが大したことはないのだが、今回は相手が相手であった。

 

 

私の言葉に肩を震わせながら、コキュートスはガトリングガンに変化した右腕を私に向けてきた。

 

 

コキュートス「関係ない? 私がどんな思いをしたと…。それを…それを!!」

 

そう叫ぶや否や、氷の弾丸を連射してきた。

 

 

 

私のダメージはそこそこ回復していたが、浴びせられた液体のせいで体の自由が未だに効かなかった。

 

 

そのため、いつもならなんとかかわすことのできたであろう弾丸だが、歯を食いしばって正面から受けるしかなかった。

 

 

インフェルノ「ぐうぅぅうう」

 

この弾丸、一発一発は大した威力はなかったのが幸いだが、こうも連続して受ければダメージも蓄積していく。

 

 

私の動きが鈍ったことを確認すると、右腕をさらに変化させロープで私の体を絡め取ってきた。

 

 

 

コキュートス「ヤァアアア!!」

 

インフェルノ「うわーっ!!」

 

そのまま私を大きく投げ飛ばして、地面に叩きつけてきた。

 

かと思うと、それを何度も何度も繰り返して、私は幾度となく全身を地面に打ち付ける羽目になった。

 

 

インフェルノ「あ…ぐ…」

 

私が呻き声をあげながら地面に倒れ伏しているのを確認すると、コキュートスは再び右手を刃に変えてゆっくりと近づいてきた。

 

 

コキュートス「これで止めよ!! 地獄から来たならもう一度地獄に落ちなさい!!」

 

 

私の前までくるとコキュートスは大きく刃を振りかぶった。

 

 

それを狙って、私は全身から高熱を放射した。

 

インフェルノ「プリキュア・ヘル・バックファイア!!!」

 

 

 

コキュートス「あーっ!!」

 

目の前で突然私が燃え上がったため、コキュートスは悲鳴とともに大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

そしてその隙に私は火の玉になってこの場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

美里「はあはあ。な、なんとか助かったけど…」

 

私は、ほうぼうの体でなんとか家まで帰り着いていた。

 

 

そして水を一杯飲み一息つくと、どこか怯えた表情をしているぬいぐるみもどきを問い詰めた。

 

 

美里「あいつは誰よ。知ってること洗いざらい白状しなさい!!」

 

 

メル「あ、あの子はたぶんミプっていうメルの友達が変身させたプリキュアメル。きっと美里みたいに妖精の光を浴びたことのある子を…」

 

 

美里「じゃあ、そいつはどこの誰よ? それぐらい知らないとは言わせないわよ!!」

 

 

メル「し、知らないメル…」

 

 

そうふざけたことを言った瞬間、私はぬいぐるみもどきを思いっきり蹴り飛ばしていた。

 

 

美里「ふざけんな!! 知らないわけないでしょ!! 下手に隠し立てすると…」

 

 

私の形相に怯え、咳き込みながらもぬいぐるみもどきは必死に言い訳をした。

 

 

メル「ケホケホ。ほ、本当に知らないメル。ミプとは何十年も会ってないメル。きっと大神獣の封印が解けたから、プリキュアになれる人を探してるだろうとは思ってたけど…」

 

 

その言葉にこいつは何も知らないであろうことがわかり、私は舌打ちまじりに吐き捨てるように言った。

 

 

美里「ちっ、まぁいいわ。私の戦いの邪魔をするなら、あいつらもろとも戦ってやる!!」

 

 

 

 

一方

 

 

 

ミプ「なんであんなことしたミプ。プリキュアの力でプリキュアを倒そうとするなんて…。 この力は悪い奴らと戦うためのものミプ」

 

 

ミプもまた、キュア・コキュートスに変身していた少女を説得していた。

 

 

「悪い奴らとは戦ったじゃない。あのメカを操ってるやつ、大神獣だっけ。でもそれより何より悪いやつよ。 私の夢を奪ったあいつは!!」

 

 

ミプ「そ、そんなはずはないミプ。メルが選んだ人が誰かは知らないけど、悪い人のはずがないミプ!!」

 

 

「そんなの関係ないわ。あいつだけは絶対に私が殺す。この右腕を奪ったあいつ、キュア・インフェルノを」

 

 

右腕を左手で握りしめながら、暗い光の宿った目で呟く少女。

 

彼女の名は、叶 雪菜。

 

 

キュア・インフェルノこと渚 美里の親友である…

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第11話に続く

 

 

 

 

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