美里・雪菜「「キャアアアア!!」」
目の前の現実に無言のまま固まっていた私達は、猛烈な突風に大きく吹き飛ばされた。
美里「メル!!」
雪菜「ミプ!!」
私達の声に相手の腕の中にいた妖精たちはスマホに変身して、それぞれの所に飛んできた。
美里・雪菜「「プリキュアマスクチェンジ!!」」
その叫びとともに赤と青の光が発生し、私達はドレスを身にまとい、その光の色を基調にした仮面を装着していた。
そしてそのまま空中で姿勢を立て直し無事に着地した。
すると、先ほどの風を引き起こした張本人の姿が目に入った。
インフェルノ「あのメカ。よくもやってくれたわね!! プリキュア・ヒート・カッター!!」
右手を上げて手刀を振り下ろすと、私の右手から半月状の炎の刃が飛んでいき、カモメ型メカの羽を根元からバッサリと焼き切った。
コキュートス「よくも邪魔を!! 絶対に許さない!!」
コキュートスもまた右腕を鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させ、ロープを打ち出した。
コキュートス「クリスタル・ビュート!!」
そのロープに絡め取られたカモメ型メカは、絡みついた所から凍りつき始めていた。
コキュートス「ヤァアアア!!」
それを確認したコキュートスは左腕で右腕を掴んで振り回すようにして、カモメ型メカを大きく投げ飛ばした。
凍りかけた状態で地面に思い切り叩きつけられたカモメ型メカは全体がヒビだらけになっていたが、まだかろうじてではあるが動いていた。
しかし、羽を切られた上絡め取られたロープの問題もあり、逃げることはできないようだった。
その姿を見た私はチャンスとばかりに大きく両腕を振りかぶり燃え上がらせた。
インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」
その叫びとともに投げつけられた炎の塊が直撃すると、カモメ型メカは全身を炎に包まれ大爆発を起こした。
その爆発にまぎれて、三獣士はなんとか脱出していた。
アカンコウ「ふう〜。炎だけじゃなく低温にも強いようにメカの装甲や脱出装置を改造しといて正解でしたね」
ゴロリン「全くでまんねん」
クジャク「そうだね。それよりさ、あいつらの姿見たかい?」
アカンコウ「はい。一瞬でしたがモニターに映ってました。画像データは保存してありますから帰ったら補正してみましょう」
インフェルノ「はあはあ…」
コキュートス「ふう〜…」
私達は目の前の爆炎を見ながら、一息ついていた。
そしてゆっくりと仮面を身につけたお互いの顔を見合った。
インフェルノ「…」
コキュートス「…」
私達は見つめ合いながらも無言だった。
今さっきまで罵り合い、本気で殺そうとしていた相手。
それは、私達が誰よりも知っている人間だった。
インフェルノ(雪菜…)
コキュートス(美里…)
しばらく見つめあった後、私達は何も言わないままに踵を返し、別々の方向へと飛び立っていった。
ネローベ学園
理香「ねぇ、美里。雪菜とケンカでもしたの? ここんとこ話するどころか挨拶もしなけりゃ目も合わせないじゃない」
理香の言う通りだった。
あれから一週間、私と雪菜は挨拶をかわすこともせず、お互いに近寄ろうともしない。
美里「う、うん。ちょっとね…」
本当はケンカどころの騒ぎではないのだが、それを言うわけにはいかなかった。
理香「そっか…早く仲直りしなよ。私や久美も寂しいからさ」
美里「うん、ありがと」
そんな理香に、私は愛想笑いをするしかなかった。
美里(仲直りなんてもうできない…。雪菜とは絶交しちゃったもんな…)
実際に何を言った言われたというわけではないが、雪菜とは友達でなくなってしまったことだけは自分が一番よくわかっていた。
久美「雪菜。美里と一体何があったの? 相談に乗るよ」
雪菜「ありがとう…。でもこれは私達の問題だから…」
雪菜(本当は初めから薄々分かっていた。それを無意識のうちに考えないようにしていた…)
ミプからプリキュアになってくれるように頼まれた日、なぜ自分なのかという理由を訪ねた時に、もしかしたらという思いはあった。
自分が変身できるなら、あの時一緒に雑木林で迷い、同じように不思議な光を見た人間である美里もプリキュアになれるはずだからである。
雪菜(ずっと考えないようにしていた…。ううん違う、必死に思い込もうとしていた。美里があんなことする人じゃないって…)
雪菜は自分の右腕を左手でぎゅっと握りしめた。
雪菜(わかってる、美里にそんなつもりがなかったことは…。それにあの後もずっと私を気遣ってくれた…。でも…)
暗い顔でうつむきながら、雪菜は美里に対する思いを巡らせた。
雪菜(幼馴染…ゲーム友達…親友…支えてあげたい人…夢を奪った人…そんな私を支えてくれた人…殺したいと思った人…。一体どれが本当の美里なんだろう…)
ネローベ学園 屋上
美里「ふう…」
放課後、私は屋上から町並みを見下ろしながら、一人ため息をついていた。
ここから見える町並みはここ数ヶ月で随分変わった。
かなりの数の建物が倒壊し、あちこちが更地になっている。
この学校の生徒だって、疎開と称してポツポツ転校しており空席が増えていっている。
しかも、その原因の大半は私である。
復讐と称してなりふり構わず怒りのままに戦った結果、私はあれほど大切にしていた平穏な日常の全てを無くしてしまった。
美里(私が傷つけた人は雪菜だけじゃない…。もっと多くの人を傷つけて平和な日常を奪い悲しませた…。雪菜一人にも償いができないのに、一体どうすれば…)
久美「わっ!」
暗い顔で町を見ていた私に背中から久美が脅かしてきた。
美里「ひゃっ!! 何よいきなり!!」
久美「ごめんごめん。でもらしくないよ、ため息ついちゃうなんてさ。そんなに雪菜と仲直りしにくいの?」
美里「えっ? う、うん」
私は曖昧な返事をするしかなかったが次の質問に一瞬心臓が止まった。
久美「ねぇ、もしかして悩んでるのって、美里がプリキュアやってて雪菜を傷つけたから?」
美里「な、なによ一体!? なんのこと言ってるのよ!」
あまりにも予想外すぎる久美の言葉に、私は動揺しまくった。
久美「ああ。別に誰にも言ってないし言うつもりもないからから心配しないでいいわよ。それより、美里の悩みってのは、やっぱりそれみたいね」
私は金魚のように口をパクパクさせながら、必死に声をひねり出した。
美里「な、な、なんで、そ、そ、そのことを! いやそれより、あれ、その」
久美「なんで知ってるかって? 私もさ、プリキュアやらないかって妖精に誘われたんだ」
久美は、私の横に来て屋上の安全柵にもたれるようにして話し出した。
久美「美里が風邪ひいた時あったじゃない。あの時に変だなって思ったのよ。ペットも飼ってないのに猫缶の空き缶捨ててたでしょ」
美里「あ…」
久美「そのすぐ後だったかな。妖精だって言う変な生き物が、プリキュアになってくれないかって頼みに来たのよ。子供の頃に妖精の光を見たことのある私ならプリキュアになれるって」
美里「そ、それで…」
私は息を飲んで久美の話を聞いていた。
久美「はじめはさ、私も特別な人間なんだって喜んだわ。でも、やるのは殺し合いでしょ。いざって時になって怖くなってやめちゃった。あんなことできるなんてどっかおかしい子だと思っちゃったよ」
美里「…」
久美「でもね、特別じゃないってわかったのが却って嬉しかった。友達と笑ってられる平凡な日常、それが大切なことなんだって。美里もわかってるんじゃない? 本当はなにが一番大切なのか」
そう言うと、久美は私を一人残し屋上から去っていった。
美里「私の、一番大切な物…」
雪菜「ふう…」
雪菜は放課後の教室で一人悩んでいた。
昨夜、祖母に言われたことを思い返していたのだ。
回想 昨夜 叶家
戦いを終えて家に帰った後、雪菜は部屋で一人机に向かって悩んでいた。
雪菜(私の夢を奪った人、多くの人を傷つけていた人。それが美里…。私はどうすれば…)
そうしているとふと右腕がズキリと傷んだ。
その痛みがキュア・インフェルノの仮面を思い出させ、憎しみを思い起こさせたが、すぐに美里の顔が浮かんだ。
雪菜(キュア・インフェルノが憎い…殺してやりたい…でも美里を憎みきれない…)
事情を察した今、美里の戦っている理由もおぼろげながら想像がついていた。
だからこそ尚更、一方的に美里を憎みきれなかった。
雪菜「あーもう」
雪菜は左手で頭をかきむしると立ち上がりピアノの前に座った。
そこではたと気がついた。
雪菜「あっ…そうだった…習慣になってるから…」
何か悩んだりしていることがあると、雪菜はよく好き勝手にピアノをかき鳴らしていた。
そうしている間だけは余計なことを考えずに済んだからだ。
しかし、今ではそれもできずそれを奪った物への憎しみが再燃し、そして…。
雪菜の思考は完全な堂々巡りに陥っていた。
雪菜祖母「雪菜、入るよ」
そんな時、部屋のドアが開き祖母がお茶を持って入ってきた。
雪菜「ありがとう、おばあちゃん。それよりどうしたの?」
日本茶を飲んで少し気分が落ち着いたところで、雪菜は尋ねた。
雪菜祖母「雪菜、プリキュアをやることに悩んでるのかい?」
突然のことに雪菜は、口にしていたお茶を吹き出した。
雪菜「ゲホゲホ。な、なにをいきなり!?」
雪菜祖母「これでもあなたのおばあちゃんですからね。大抵のことはわかりますよ」
この祖母はのんびりしているようで、子供の頃からなんでもお見通しだった。
にっこりと笑っていう祖母に雪菜は改めて敵わないと思い、全てを話した。
雪菜祖母「…そう、美里ちゃんがね。それであなたはどっちが大事なのかしら?」
雪菜「えっ?」
雪菜祖母「そのままの意味よ。あなたがずっと努力していた夢とずっと一緒だった美里ちゃん、あなたにとってはどっちの方が大切だったのかしら?」
雪菜「それは…」
黙りこくってしまった雪菜に、祖母はにっこりと優しい笑みを浮かべて続けた。
雪菜祖母「すぐに答えなくてもいいわ。ただ、絶対に後悔しないようにしなさい」
回想終わり
雪菜「私の大切な物…それは…」
ネローベ学園 校門前
ここに、校門から中をうかがっている三人がいた。
クジャクたち三獣士である。
アカンコウ「画像データの補正と解析に時間がかかりましたが、プリキュアに変身していた二人は、間違いなくここの制服を着てました」
そう言って、アカンコウは懐から二枚の写真を取り出した。
それは、先の戦いでの画像データから解析・補正した美里と雪菜の顔写真だった。
アカンコウ「そんでもってプリキュアはこの二人で間違いないと思いますけど肝心の名前がわかりませんし、どうやって接触します?」
クジャク「幸いここの校門はここ一つだけみたいだからさ。ここで張り込んで出てきたところを捕まえるか」
ゴロリン「でも、効率が悪すぎるでまんねん。二三人に聞いてみた方がええんやおまへんか?」
クジャクの提案にゴロリンがそう進言した。
クジャク「う〜ん。じゃあ今出てきたあの子に聞いてみようか」
アカンコウ「よし、じゃあ私が」
そう言ってアカンコウは前に出たが
クジャク「ばかだねぇ。ただでさえこのご時世、中学生に話しかけるのはまずいのに、人外のものが話しかけたら一発で通報されるよ。私に任せな」
アカンコウ「コケ!!」
その言いようにアカンコウはこけた。
理香「はあ〜。美里と雪菜はケンカ中、久美もなんか用事があるみたいだし。一人はやっぱり寂しいな」
友人たちといつもつるんでいる理香だったが、珍しく一人であり寂しさの入り混じったため息をついて、一人下校しようとしていたら
クジャク「あのお嬢ちゃん」
理香「はい?」
校門のところで突然呼び止められた。
クジャク「ちょっとお聞きしたいんだけど、この子たち見たことないかしら?」
そう言って、理香は二枚の写真を見せられた。
理香「いえ、知りませんけど。この学校の人達ですか?」
クジャク「ああ、いえね。ちょっとお世話になったからお話がしたくて探してるんだけど」
理香「そうですか。でもこの辺じゃ見かけない人達ですよ」
クジャク「あらそうですか。では失礼」
そう言って引き上げたクジャクは、校門から離れたところでアカンコウにひそひそ声で詰め寄った。
クジャク「ちょっとどういうことだい? この学校の生徒じゃないのか?」
するとアカンコウ達もひそひそと返事をした。
アカンコウ「調べましたよ。この制服はこの辺じゃここだけです」
ゴロリン「この二人あんまり知名度が高くないんかもしれまへんな。そうすると探すのは苦労しそうでおます」
クジャク「それじゃ困るんだよ。早いとこ連中と接触して、なんとか事情を説明して大神獣と一緒に戦ってもらわないと」
そんなひそひそ話をしているところへ理香が歩いてきた。
クジャク「あっまずい。ちょっとそこに隠れろ」
見つかると怪しまれてまずいと、三獣士はこそこそと物陰に隠れてやり過ごそうとした。
久美「理香〜」
理香「あっ久美、もう用事はいいの?」
久美「うん、とりあえずは大丈夫だと思う」
理香「そっか。それよりさ、さっき変な人達に美里と雪菜のこと聞かれたのよ」
久美「変な人?」
二人の事情を知っている久美は怪訝そうな顔をした。
理香「そっ。原始人が進化し損ねたみたいな人と、カッパが化け損なったような人と、昔美人だったことにしがみついてるみたいなおばさんよ。怪しさ満点だったから、知らないって答えたけど」
久美「ふ〜ん。まぁその方がいいよね。最近物騒だし」
その会話にクジャクは怒り心頭に達していた。
クジャク「あんのクソガキャ! 言うに事欠いて昔美人だったことにしがみついてるとはなによ! え!? 大人に対する口の聞き方というものを知らんのか最近のガキは!!」
アカンコウ「落ち着いてください、クジャク様。私達だって腹立つんですから」
ゴロリン「全くや!! 人をなんやと思てんねん!!」
今にも殴りかからんとするクジャクを、アカンコウとゴロリンも怒りを抑えながら必死に抑えていた。
アカンコウ「でも、これではっきりしましたよ。やっぱりあの二人はあの学校の生徒なんです」
クジャク「はあはあ。まあ確かにそうだね。じゃあ、近くで張り込んであいつらが出てくるのを待ってみようか」
二人に取り押さえられ、アカンコウの調査が正しかったことを理解し、少し興奮が冷めたクジャクは、二人にそう促した。
アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」
美里「私の大切な物…。そんな物はわかってる、だから…」
下校時刻になり、校内に下校を促す放送が流れる中、私は決意の表情で廊下を歩いていた。
すると、同じく決意の表情をして教室から出てきた雪菜と鉢合わせた。
雪菜(!! 美里…)
美里(雪菜…)
私達はそのまま廊下を並んで歩き、一緒に校舎を出た。
しかしその間、私達は一言も会話をせず、お互いの顔を見もしないままだった。
校舎を出た後も、ずっと無言のまま並んで歩き続け、交差点で挨拶もないままに別れた。
私達の間の緊張感に耐えられないのか、カバンの中のメルもまた一言も発しないまま始終震えっぱなしだったが、そんなことはどうでもいい余談である。
一方
ゴロリン「あっ出てきました! あいつらでまんねん」
怪しまれないよう少し離れたところから、校門を見張っていた三獣士はようやく出てきた美里と雪菜に歓喜した。
クジャク「よし。早くとっ捕まえて、事情を説明するんだよ!!」
アカンコウ「ハイな!!」
なんとかプリキュアに味方になってもらいたい。
自分たちの平穏のためにも、三獣士は必死だった。
バタバタと走りより、二人に声をかけようとした時だった。
突然黒いモヤのような物が三人を包み込んだ。
アカンコウ「げっ!!」
クジャク「これは…!!」
三人の嫌な予感は見事的中し、今一番聞きたくない声がモヤの中から響いてきた。
大神獣「三獣士よこんなところで何をしている?」
ゴロリン「い、いえ。プリキュアがどこの誰か探そうとしてたところで…」
クジャク・アカンコウ((ばっ、馬鹿っ!!))
ゴロリンのうかつな発言にクジャクたちは慌ててその口を塞いだ。
大神獣「何? プリキュアの正体? それで収穫は?」
アカンコウ「いえ、それがこの近くのやつらだろうとは思うんですけど、やつらもなかなか尻尾を出さなくて」
クジャク「そ、そうなんです。連中といえどもそこまで馬鹿ではないようで」
大神獣「ふん、そんなところだろう。ならば時間の無駄だ。至急ベースアニマルを出動させろ。われが完全復活するためのブラックエナジーはもうすぐで集まる。良いな、急ぐのだ」
クジャクたちの言い訳に、大神獣は見下したようにそう言い放ち、モヤは晴れていった。
それを確認すると、緊張の糸が切れたように三人は大きな安堵のため息をついた。
しかし、三人の心の中はまるで晴れなかった。
アカンコウ「まったく、いらんこと言うから寿命が縮んだじゃない。プリキュアの変身前を襲って殺せなんて言われたらどうするつもりだったのよ?」
クジャク「そうだよ。そんなことになったら私達一生あいつの奴隷だよ!!」
ゴロリン「すんまへん。つい口が滑って…」
クジャク「まぁなんとかごまかせたからいいけど、あいつら見失っちゃったね」
アカンコウ「仕方ありません。それより、大神獣ももうすぐ復活するみたいです」
クジャク「そうだね、問題はそれだ。よし、出撃してブラックエナジーを集めたら即座にあんな奴とはおさらばだ」
その言葉に、アカンコウとゴロリンは力強く頷いた。
アカンコウ「はい、この時のために完璧な設計を施した最強最後のベースアニマルをお目にかけますよ」
ゴロリン「目指すは明るい未来でまんねん」
クジャク「ふっ、頼もしいねぇ。よーし、これが最後の戦いだ。気合い入れていくよ!!」
プリキュア