某オフィス
「ふぅ」
すっかり日も沈んだ頃、小さな会社で女性社長がデスクに座ってため息をついていた。
この会社はつい最近できたばかりの小さな会社であり、従業員も彼女の他は雑用のアルバイトが一人だけ。そのため目の回る忙しさだが、新会社の船出としては割と順調な方であった。
(どうせ私は生まれた時から何にもなかった人間だ。だったらもう一度ゼロからやり直してやるさ)
その女性社長は、そう小さく呟きデスクの書類を片付けていると、ふと半年ほど前のことを思い出した。
(やれやれ、あいつらの方は元気でやってるのかねぇ)
あの日、元三獣士たちはプリキュア達の戦いの決着を見届けると、いろいろ考えた末に洋館を出て行くことにした。
三人でしばらく歩いているとちょうど十字路に差し掛かった。
クジャク「ちょうどいいね。ここで別れよう」
アカンコウ「はい。長い間お世話になりました」
ゴロリン「こちらこそ、いろいろありがとうでおました」
三人は互いに心から感謝を込めて頭を下げた。
クジャク「お前達さぁ、これからどうするつもりだい?」
何気なくクジャクはそう尋ねたが
アカンコウ「いえ、クジャク様。それは聞きっこなしってやつですよ」
ゴロリン「で、まんねん」
アカンコウとゴロリンは顔を伏せたままそう返事をした。
クジャク「ああ、そうだったね」
クジャクも納得したようにそう言った。
クジャク「でもさ、一つだけ約束しよう。もう、誰かを何かを恨んで生きるのはおしまいにしよう。残った金を山分けしたらそこそこにはなったし、これを元手に真面目に生きること。頑張ろうね」
クジャクはにっこりと笑って言った。
アカンコウ・ゴロリン「「はい! 頑張ります!!」」
二人も笑顔で力強く答えた。
クジャク「じゃあね」
アカンコウ「さようなら」
ゴロリン「風邪ひかんでな」
三人は最後の挨拶をかわすと、それぞれ別々の方向へと歩いて行った。
とあるガード下
列車の音が響く中、ここに最近小さなラーメンの屋台が出ていた。
割と評判はよく、知る人ぞ知る名店といった感じで常連客もつき始めていた。
客「よっ、大将。いつもの頼むよ。しかしなんでまたラーメン屋なんて始めたんだい? なんか昔どっかの研究室にいたって言ってたじゃないかい」
「深い理由はありませんよ。バイトしてたこともあったし、もともと何かを作るのが好きでね」
(もう、人の才能を妬んだり足を引っ張ったりする世界に戻るのはごめんだ。こうやって人に喜んでもらえるものを作るのがこんなに楽しいとはねぇ)
目の前で自分の作ったラーメンを美味そうにすする客を見ながら、大将はしみじみと考えていた。
(はぁあ。ああやって別れたけれど、今頃は…)
とある高速道路
ある運送会社のトラックが荷物を乗せて走っていた。
このドライバーは半年ほど前に入った新入社員ではあるが、かなり体力があり社内では重宝されていた。
そのドライバーは運転中にふと考え事をしていた。
(まさか、人生を狂わせたトラックの運転手をやることになるとは思わなかったでまんねん。しゃあけど、妙なこだわりを捨てると人生は楽しいもんでんなぁ。アカやんもクジャク様も、どないしとるんやろうなぁ)
ちなみに、この半年ほど前に設立したばかりの小さな会社と、ラーメンの屋台の出ているガード下と、ある運送会社は、500メートル圏内にあったりするのはここだけの話である。
オーエエドー市 叶家
この叶家では、久しぶりに明るい雰囲気が漂っていた。
雪菜が志望していた音大の付属高校に見事合格することができ、ささやかながらお祝いをしていたのだ。
雪菜祖母「合格おめでとう雪菜。でも本当にこれでよかったのかい?」
雪菜「いいの。ピアノを引くだけが音楽じゃないもの。作詞や作曲に編曲。指揮者だってあるもの。何になるかはこれから決めるけど私は全力で頑張る。未来の見えない闇の中で頑張ってる人がいるもの、私だって負けられないわ」
雪菜祖母「そうかい。お友達が頑張ってるなら、雪菜も頑張らないとね」
雪菜「違うよ」
雪菜のその返事に祖母は戸惑った。
雪菜祖母「えっ? 違うのかい?」
雪菜「うん違うよ。あの子は…友達なんて言葉じゃ言い表せない人だもの」
あの戦いの後、雪菜と美里は、メルやミプの妖精達と別れプリキュアの力を失った。
妖精の力を借りたものの末路を知っているだけに、そうした方が良いとメルやミプ達も語り、彼女達も特に未練はなかった。
ミプ「雪菜さよならミプ。色々迷惑かけてごめんミプ」
雪菜「いいのよ、ごめんね最後まで変なことにつき合わせちゃって」
美里「…その色々悪かったわね。踏みつけたり蹴飛ばしたり…」
メル「ううん、謝るのはメルの方メル。こんなことになってしまって本当にごめんなさいメル」
そうやって最後の挨拶をかわすと、妖精達は光の中へと消えていった。
雪菜「…行っちゃったね。ねぇ美里」
妖精達を見送った雪菜は美里に話しかけようと振り向くも、そこに美里の姿はなかった。
雪菜「美里!! どこ行ったのよ!! んもう勝手なんだから。まぁいいわ明日学校でとっちめてやる」
しかしそれ以降美里は学校にも来なくなり、久美や理香達と一緒に家を訪ねてみると、チリ一つなく綺麗に掃除された後に、幸せそうな家族写真だけがポツリと残されていた。
当然美里本人とは音信不通。
なんでも保護者となっている親戚の家に、もう迷惑はかけないからとの連絡が一言あっただけだと雪菜は聞いていた。
久美や理香は、突然いなくなった美里のことを心配するやら憤るやらでしばらく大変だったが、雪菜はかなり落ち着いたものだった。
どうせそんなことだろうとは、あの日にわかっていたからだ。
雪菜(きっと私達は、もう二度と会うことはない。言葉をかわすこともない。でもだからこそ、私はあなたを友達より大切な人だと胸を張って言える。あなたがどこかで自分の人生と向き合っているように、私も生きていく。ありがとう美里、さようなら)
某所
「なんだよ!! お前が悪いんだろ!!」
「何言ってんだそっちのせいじゃんか!!」
「何を!!」
「やるか!!」
小学生ぐらいの男の子が何が原因か言い争い、今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな空気だった。
「こらこら待った待った!!」
だがそこに自転車乗った中学生ぐらいの女の子が通りがかり、割って入った。
「なんだよ!?」
「関係ないでしょ!! 引っ込んでてよ!!」
「悪いけど、そうはいかないわ。ダメよ友達同士で喧嘩なんかしちゃ。人を憎んだりしてるとさ取り返しのつかないことになっちゃうよ。私もそうだったから」
美里(人が人を憎む気持ちがある限り、大神獣はまたいつか蘇るかもしれない。人はそんなものじゃないって証明してやる。私と同じ過ちを他の人たちに繰り返させない!!)
私は喧嘩の仲裁をした後、決意も新たに自転車をこぎ出した。
この先に待ち受けるものがなんなのかは知らない。
でも、一つだけ決めたことがある。
もう二度と人を恨むことはしない。
それが何も産まないこと、どれだけ虚しいことか私は誰よりも知っているから。
それを一人でも多くの人に伝えていく。
それがやっと見つけた私の明日だから。
一度この話はここで完結を迎えていますが、この先の話も執筆済みです。
どうするかは悩みましたが、やはりそちらもこのまま掲載するつもりです。
版権プリキュアとのクロスオーバーになる続編、そちらもお楽しみください。