プリキュアR   作:k-suke

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第19話「Hへの苦言」

 

 

雪菜「なっ何? 今何か景色が歪んだような…」

 

 

ホームで電車を待っていた雪菜だったが、突然陽炎のように景色が歪んだことに首をかしげていた。

 

 

雪菜「あれ、何かしら? 何か違和感が…」

 

 

そしてすぐにその違和感の正体に気がついた。

 

 

雪菜「えっ? 駅名が変わってる? ぴかりが丘? ピッカリヶ丘だったはず…」

 

 

よく似ているとはいえ、町の名前を冠した駅名である。

 

変わっていればもっと大騒ぎになっていいはずであるのに、誰も騒ぎ出さないことに雪菜の疑惑は高まっていった。

 

 

雪菜「? どうして? 誰も騒ぎ出さない… まるであれで当たり前みたいに…」

 

 

そんな中、学生らしき二人が気になることを話しているのが雪菜の耳に入った。

 

 

「ようよう。知ってるか? キュア・テンダーの事」

 

「知ってる知ってる。世界中で幻影帝国倒して回ってるんだろ。プリキュアがこのまま連中を倒してくれれば…」

 

「ああ、世の中平和になるってもんだ」

 

 

 

雪菜「!! プリキュア!?」

 

その単語は雪菜にとって生涯忘れられないものであった。

 

 

雪菜「…でも、どういうこと? プリキュアが世界を平和にする? それに幻影帝国って?」

 

 

自分の理解を超える言葉が次々と現れることに、雪菜の思考はパニックに陥り始めていた。

 

 

しかしそれも長くは続かなかった。

 

 

突如として駅前の広場の方から爆発音が聞こえてきたからである。

 

雪菜「っ!! 今度は何!?」

 

 

いい加減に驚くのにも疲れた雪菜がホームから広場の方を覗くようにすると、身長数メートルはあろうかという、黒づくめの巨人といった怪物が大量に暴れまくっていた。

 

 

雪菜「な、なんなのあれ? まさか大神獣の手先!?」

 

 

驚く雪菜をよそに怪物は暴れまくり、人々もパニックになりながらも必死に逃げ惑っていた。

 

しかし、怪物は巨大であり、そんなものが突如大量に出現して暴れまくっている中、人々が完全に避難することは不可能であり、怪物に襲われて怪我をしている人や、崩れたビルの瓦礫の下敷きになる人も少なからずいた。

 

雪菜「あ… そんな…」

 

もうありえないと思っていた非日常的な光景が、再び目前で繰り広げられている。

 

そのことに雪菜は愕然としていたが、人々の悲痛な叫びを聞いて我に返った。

 

 

雪菜「い、いけない!! 私も逃げないと!!」

 

こんなところで呆然としていたら、中学生の時のように巻き込まれかねず、下手をすれば今度は腕だけで済まない。

 

 

そのことに気がつくと、雪菜もまた大勢の人とともに避難を始めた。

 

 

 

そんな中、小さな女の子が人混みに押されて転けてしまった。

 

「うえ〜ん!! 痛いよ〜!! おかあさ〜ん!!」

 

 

それを見た雪菜は仕方ないというようにその子を助けに行った。

 

 

雪菜「しっかりしなさい!! 泣いても何にも変わらないの!! 少し擦りむいただけじゃないの。逃げなさい、早く!!」

 

「でも、私のぬいぐるみ」

 

雪菜「そんなことより自分を大事にしなさい!! 逃げるのよ!!」

 

 

泣き叫んでいた女の子を叱咤激励して、とりあえず逃した雪菜だったが、そのせいで今度は自分が逃げ遅れてしまった。

 

 

気がついた時には、背後に巨大な怪物が迫ってきていた。

 

 

雪菜「!!!」

 

 

一瞬覚悟を決めた雪菜だったが、何かがその怪物に体当たりして大きく吹き飛ばした。

 

 

雪菜「えっ!?」

 

 

恐る恐る目を開けた雪菜の目には、ドレスのような衣装に身を包んだ四人の少女達の姿が飛びこんできた。

 

雪菜「プリ…キュア…?」

 

 

 

 

 

ラブリー「大丈夫ですか?」

 

ハニー「早く逃げてください!!」

 

 

雪菜「えっ? あっ? はい」

 

 

自分を気遣うような言葉に戸惑いながらも雪菜は避難した。

 

雪菜(あの子達、本当にプリキュアなの? 人を気遣って避難まで促すなんて…)

 

 

自分の知っているプリキュア像からかけ離れた態度をとる少女達に、雪菜は戸惑っていた。

 

 

 

 

プリンセス「ちょっとなんなのよ!! こんなにサイアークがいるなんて!! いつものチョイアークと同じぐらいいるじゃない」

 

フォーチュン「文句を言っても始まらないわ。行くわよ!!」

 

 

四人のプリキュアはサイアークの大群を一睨みすると一斉に立ち向かっていった。

 

 

 

 

その光景に、アリのような触角のついたシルクハットを被り緑色のフロックコートを着てステッキを持った紳士風の男が、近くのビルの屋上で横になりながら面倒臭そうにあくびをした。

 

ナマケルダ「やれやれ。面倒なのが来ましたぞ」

 

 

 

 

 

 

プリンセス「プリンセス弾丸マシンガン!!」

 

 

プリンセスが小さなボールのようなものを連続で投げると、それは次々に命中してサイアークにダメージを与えていった。

 

 

しかし敵の数は多く、与えたダメージもそれほど大きくはなかったようで、サイアークはひるむことなくプリンセスに突撃していった。

 

プリンセス「うわ〜!! やばいやばいやばい!!」

 

焦り始めたプリンセスだが、目の前のサイアークは黄色いリボンに絡め取られて前進が止まった。

 

 

ハニー「大丈夫!?」

 

プリンセス「サンキューハニー!!」

 

 

 

フォーチュン「ラブリー、行くわよ!!」

 

ラブリー「オッケーフォーチュン!!」

 

 

フォーチュンの呼びかけに頷いたラブリーは、一緒にサイアークに突撃していき、強烈なダブルパンチを浴びせた。

 

 

 

 

雪菜「あの子達… 四人でチームとして戦ってるの…?」

 

お互いに支え合い連携攻撃を仕掛け、ピンチに陥ればお互いに助けに入る。

 

 

想像したこともなかった光景に、物陰に隠れた雪菜は目を丸くしていた。

 

 

「雪菜、雪菜」

 

 

そんな雪菜の足元から小さい声が聞こえてきた。

 

 

聞き覚えのある声に驚いて目をやると、愛嬌のあるぬいぐるみのような生き物がいた。

 

 

雪菜「ミプ!? あなたどうしてこんなところに!?」

 

 

ミプ「おかしな闇の力の気配を感じたからミプ。まさかと思って調べに来たミプ」

 

雪菜「闇の力? やっぱりあいつら大神獣と何か関係が?」

 

 

そんなことを話していると、プリキュアの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

巨大な怪物の群れと戦っていた四人のプリキュアだが、数の暴力の前に苦戦を強いられているらしく、全員肩で息をし始めていた。

 

 

 

 

ミプ「雪菜… その… お願いしにくいけど… 他の人を探してる時間がなくて… だから…」

 

 

とても言いにくそうにうつむきながら途切れ途切れに呟くミプと苦戦をしている四人のプリキュアを交互に見て、雪菜も舌打ちをしそうな顔をした。

 

 

雪菜「し、仕方ないわね。とりあえずあれを放っておけそうもないし…」

 

 

その言葉にミプは申し訳なさそうにスマホのような姿になった。

 

 

そんなミプを雪菜は左手で掴み、右手でたどたどしく鍵の形のアプリをタッチした。

 

 

雪菜「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

次の瞬間、一気に周辺温度が何十度も下がったかと思うような寒々しく冷たい光が雪菜を包んだ。

 

 

 

 

 

ラブリー「チェリーフラメンコ!! プリキュア・パッションダイナマイト!!」

 

プリンセス「シャーベットバレエ!! プリキュア・アラベスクシャワー!!」

 

ハニー「ポップコーンチア!! リボンハートエクスプロージョン!!」

 

フォーチュン「パインアラビアン!! プリキュアオリエンタルドリーム!!」

 

 

ハピネスチャージプリキュアはフォームチェンジを駆使してサイアークの大群と戦っていたが、一向に減る気配のないサイアークにさすがに疲弊していた。

 

 

フォーチュン「くっ!! 倒しても倒しても…」

 

ラブリー「がんばろう。確実に数は減ってきてるんだから…」

 

 

そう言って皆を鼓舞したラブリーだったが、彼女もかなり疲労がたまっていた。

 

こうして戦っている間にも、ハニーに体力を回復してもらってはいるのだが、正直焼け石に水といった感じが強かった。

 

 

プリンセス「キャアアア!!」

 

そうこうしている間に、プリンセスがサイアークに殴り飛ばされていた。

 

 

プリンセスのダメージはかなりのものであるらしく、なかなか起き上がることができず、しかもそんな彼女にとどめをささんとサイアークの群れが向かっていった。

 

 

ラブリー「プリンセス!!」

 

慌てて助けに入ろうとしたラブリーだったが、サイアークに阻まれてしまい身動きが取れなくなってしまった。

 

 

 

プリンセス「!!!」

 

 

プリンセスは目の前に迫り来るサイアークが拳を振り上げたのを見て思わず目をつぶってしまった。

 

 

そんな時だった。

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

何処からか笛の音が聞こえてきた。

 

ナマケルダ「ん? なんですかな? この気分の悪くなる音は」

 

 

 

 

 

 

するとサイアークの動きは麻痺したように止まってしまった。

 

 

プリンセス「…えっ?」

 

フォーチュン「何この音?」

 

ハニー「笛の音?」

 

 

 

 

ラブリー「あっ、プリンセス!!」

 

サイアークの動きが止まったため、ラブリーは難なくプリンセスの救助に入ることができた。

 

 

ラブリー「しっかりして」

 

プリンセス「あ、ありがとう。でもこの音なんなの?」

 

 

フォーチュン「見て!! 駅舎の上よ。誰かいるわ!!」

 

フォーチュンの指差した駅舎の上では誰かが横笛を吹いていた。

 

 

ハニー「で、でも… あ、あれって…」

 

 

 

その誰かは一人の少女であったが、どう見ても普通ではなかった。

 

 

白を基調にして水色で縁取りした寒々しさを感じるドレスに身を包み、氷と言われても信じられるような色の髪。

 

極め付けは恐怖を感じるような冷たい目を、同じく冷たさしか感じないドミノマスクの奥に光らせていた。

 

 

その少女は吹いていた横笛をブーツにしまうと、氷のように冷たい声で静かに名乗った。

 

「絶望の果てより来たりしもの キュア・コキュートス」

 

 

 

 

 

 

ラブリー「プ、プリキュア!?」

 

フォーチュン「コキュートスって… 地獄のことじゃない!! えらく物騒な名前を…」

 

 

 

突然出現した新しいプリキュアに戸惑っていたハピネスチャージプリキュアだったが、そんなことはお構いなしにコキュートスは右腕を大きな氷の刃に変えた。

 

 

コキュートス「…アイス・エッジ。 はああああ!!」

 

そしてその右腕を構えてビルの屋上からジャンプしてサイアークの中に飛び込むと、片っ端から切りつけていった。

 

 

するとサイアークは簡単に真っ二つになっていった。

 

ラブリー「す、すごい!! 私のより切れ味がいいかも」

 

ハニー「切っただけじゃないわ。切り口が凍りついてる!!」

 

 

 

コキュートス「思ったより数が多い。だったら…」

 

予想外に数の多いサイアークに囲まれてしまったコキュートスは、右手を大きな刃から大きな瓢箪のような形に変化させた。

 

 

そしてその先端には、棘の付いた氷の球いわゆるモーニングスターというものが付いていた。

 

 

コキュートス「受けなさい。クリスタル・スター」

 

その叫びとともに右腕を振りかぶり、その氷球につながったロープを振り回すようにして周辺のサイアークに球をぶつけ回った。

 

それをぶつけられたサイアークは次々と凍りつき、しかも体がえぐり取られたようになっていた。

 

 

プリンセス「ワォ!! ワイルド〜」

 

フォーチュン「ぼんやりしてられないわ。私達も行くわよ!!」

 

 

 

コキュートスの戦いぶりに感心していたが、我を取り戻したフォーチュンの言葉に、皆改めてサイアークと戦い始めた。

 

 

戦力が一人増えたこともあって、サイアークの数は目に見えて減り始め、ついに五体を残すのみになった。

 

 

 

 

ラブリー「いっくよみんな!! プリキュア・ピンキーラブシュート!!」

 

ラブリーの呼びかけに皆もそれぞれ必殺技を放った。

 

 

プリンセス「プリキュア・ブルーハッピーシュート!!」

 

ハニー「プリキュア・スパークリングバトンアタック!!」

 

フォーチュン「プリキュア・スターライトアセンション!!」

 

 

 

ラブリー「愛よ!!」

 

プリンセス「勇気よ!!」

 

ハニー「命よ!!」

 

フォーチュン「星よ!!」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「天に還れ!!」」」」

 

 

 

コキュートス「受けなさい!! プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」

 

コキュートスもまた、大型ガトリングガンに変化させた右腕から、猛烈な勢いで氷の弾丸を連射して、サイアークを蜂の巣にした。

 

 

ナマケルダ「チッ!! あんなプリキュアのことは聞いてないですぞ」

 

そう言い残してナマケルダは気付かれないように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

戦いが終わって一息ついた後、コキュートスはハピネスチャージプリキュアに向き合って尋ねた。

 

 

コキュートス「あなたたち、本当にプリキュアなの?」

 

プリンセス「って、それこっちのセリフなんですけど!!」

 

 

フォーチュン「とりあえず、私達の敵じゃない… でいいのかしら?」

 

コキュートス「…まぁ、今のところはね。戦う理由もないし」

 

 

 

その会話を最後にしばらく沈黙が流れ、変な緊張感に耐えられなかったらしく、ラブリーが妙に明るく提案をした。

 

ラブリー「え〜っと、じゃあさ。とりあえず、一緒に来てくれませんか? ちょっとお話をしたいし」

 

 

コキュートス「…いいわ。私も色々と聞きたいことがあるし」

 

 

 

 

 

 

ブルースカイ王国大使館

 

 

 

光の翼を広げたハピネスチャージプリキュアと、青白い光の玉に変化したコキュートスはここまで直線コースで飛んできた。

 

 

突然光の玉になって空を飛んだコキュートスに、ラブリー達はかなり困惑していたが、大使館の中に入っても一向に変身を解除しようとしないことにはさらに困惑していた。

 

 

ひめ「…あのう。そろそろ変身を解除してくれませんか? うっ!!」

 

恐る恐るというように話しかけてきたひめだったが、ドミノマスク越しでもわかる厳しい目つきに怯えたような声を出した。

 

 

そんなひめを見て、コキュートスは周りをしばらく見渡すとようやく変身を解除した。

 

 

雪菜「ふぅ〜久しぶりに戦ったからさすがに堪えるわね」

 

ミプ「雪菜、大丈夫ミプ?」

 

雪菜「なんとかね」

 

 

一息つきながら右手の動きを確認するように、開いたり握りしめたりをしていた雪菜を見て、めぐみが話しかけた。

 

めぐみ「あなたさっきサイアークに襲われてた!!」

 

 

雪菜「ええ、おかげで助かったわ。ありがとう」

 

 

めぐみ「え〜っと、改めまして自己紹介しまーす。私は愛乃めぐみです」

 

ゆうこ「あっ、大森ゆうこと言います。実家はおおもりご飯って言うお弁当屋さんです」

 

いおな「氷川いおなです。空手道場が実家です」

 

ひめ「う〜んと、ヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイって言います。白雪ひめって呼んでくれて結構です」

 

 

雪菜「叶 雪菜と言います。ピッカリヶ丘音楽大学附属高校の一年生です。 どうぞよろしく」

 

 

リボン「リボンと申します、こちらこそよろしく。先ほどはひめを助けてもらったみたいでありがとうですわ」

 

 

丁寧にお礼を返したリボンを見て、雪菜は驚いていた。

 

雪菜「あらあら、他にまだ妖精がいたなんてね。よかったわねミプ」

 

 

ミプ「う、うん。でもなんか違う気がするミプ」

 

ぐらさん「俺もだ。どっか変な感じだぜ」

 

 

いおな「変な感じ?」

 

雪菜「それって、千年以上も経ってるからじゃないの? それだけ会ってなければ違和感もあるでしょうに」

 

 

ひめ「せ、千年!?」

 

リボン「いくらなんでもそんなに生きてられませんわ!!」

 

 

あまりに桁外れの時間単位にひめ達がぶっ飛んでいると、部屋の扉が開いて一人の男性が入ってきた。

 

 

ブルー「そういうことか。おそらく今この世界は別の世界とつながっているんだ」

 

めぐみ「あっ、ブルー」

 

いおな「どういうことですか? 別の世界って…」

 

 

 

ブルー「この世界は一つのように思えるけど、本当はひとつじゃない。いくつもの次元が薄い膜のように重なってできているんだ。この世界とよく似た世界もあれば、全然違う世界もある」

 

ぐらさん「なるほど。パラレルワールドってやつか」

 

 

ブルー「そうだ。そんな世界の一つでこことよく似た違う世界。その世界とこの世界がつながっているんだろう」

 

 

ひめ「ふんふん。なるほどなるほど」

 

したり顔でウンウンと頷いていたひめだったが、

 

 

リボン「ひめ、本当に分かってるんですの?」

 

リボンのツッコミに冷や汗とともに動きが止まった。

 

 

 

 

 

雪菜「え〜っと、失礼ですけどあなたは?」

 

 

めぐみ「ああ紹介するね。この人はブルーって言って…」

 

ぐらさん「この世界の神様なんだぜ」

 

 

自慢げに話したぐらさんだったが、雪菜はそれを一笑に付した。

 

雪菜「神様? 冗談きついわよ。 そんなことあるわけないじゃない」

 

 

ひめ「ちょっと、なんてこと言うのよ」

 

リボン「この人は凄いお方なんですのよ」

 

ゆうこ「私たちをプリキュアにしてくれたんですよ」

 

雪菜の言葉に憤慨したひめ達だったが

 

 

雪菜「だったらどうしてあの怪物、幻影帝国だっけ? それをなんとかしないのよ。 だいたい自分でやらずに中学生の普通の女の子に戦わせるってのがおかしいじゃない。そうでなくても警察やら自衛隊やらがあるでしょうに」

 

 

その痛いところをつく返しに何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

めぐみ「そ、それは… ブルーは幻影帝国とは…」

 

雪菜「何? まさかマッチポンプやらかしてるんじゃ…」

 

 

めぐみ「違う違う違う!! そうじゃなくてその…」

 

 

ブルー「いや、僕から話そう。実は幻影帝国のクイーンミラージュは…」

 

ブルーはこの世界の事情を事細から説明した。

 

 

幻影帝国の首領クイーンミラージュ。

 

かつて自分の恋人だった彼女の思いを踏みにじるような形になってしまったこと。

 

その恨みから世界を不幸に陥れようとしていることを。

 

 

そして、その話が終わった後、ひめもまた話を始めた。

 

幻影帝国が封印されていたアクシアの箱を開いてしまったことを。

 

 

 

 

黙って聞いていた雪菜だったが、話が終わるとおもむろに席を立ち上がった。

 

雪菜「帰ります。お邪魔しました」

 

 

ぐらさん「お、おいおい。なんだよいきなり…」

 

めぐみ「まだ会ったばっかりじゃないですか。何か用事でも?」

 

 

雪菜「ええ、病院に行かないといけないので。それじゃ」

 

ゆうこ「待ってください。それにしたって…」

 

いおな「ええ、突然すぎますよ」

 

 

 

戸惑いながらも自分を引きとめようとするめぐみ達に対して、雪菜は大きくため息をついた。

 

 

雪菜「じゃあ、はっきり言わせてもらいます。あなた達みたいな無責任な人と一緒にいたくありません」

 

 

めぐみ「む、無責任って… ブルーはちゃんともう一度ミラージュと話し合おうと…」

 

いおな「そうです!! ひめもきちんとプリキュアになって償いを…」

 

 

 

 

雪菜「…それで終わりなんですか?」

 

ゆうこ「えっ?」

 

 

雪菜「贖罪のためにとりあえず戦って、敵の首領と和解して、それでめでたしめでたしだと? さっきの駅前でもそうだったけど、あんな風に被害にあってる人が今この瞬間世界中にいるんですよね。その人達のことはどうなるんですか?」

 

 

めぐみ「そっ、それは…」

 

雪菜「実際に被害を受けた人の感情はそんな簡単には収まりがつかないんですよ!! そんなことも考えたことがないんですか!?」

 

 

凄まじい剣幕で語られる正論にめぐみ達は何も言えなくなり、それとともに雪菜はヒートアップしていき、机を何度もバンバンと叩きながら怒鳴った。

 

 

雪菜「特にあなた!! この大使館といい、その長い名前といい、このブルースカイ王国の関係者でしょ!! 今の事態をあなたが引き起こしたなら立派な国際問題じゃない!! まさかそれを友達同士の仲良しごっこでごまかして終わりにするつもりじゃないでしょうね!? 責任というものをどう考えてるの!!」

 

 

 

ひめ「!!!!」

 

 

その雪菜の言葉にひめは自分を抱きしめるようにしてガタガタと震えだした。

 

ゆうこ「ひめちゃん。しっかりして」

 

リボン「ひめ、気を確かに持つですわ!!」

 

 

 

雪菜「っ!! イタタ…  その様子じゃ考えたこともなかったみたいね。そっちの男の人も他人事みたいな顔してるけど、神様が聞いてあきれますね。 悪いけど、あなた達みたいな人と仲良くしたくありません」

 

 

右腕を押さえて痛みに顔をしかめながら、雪菜は呆れたように立ち去ろうとしたが、慌ててめぐみが前に出て押しとどめようとした。

 

 

めぐみ「ま、待ってください。確かにあなたの言う通りかもしれない。でも、愛情を持って話し合えば、きっとひめのことも許してもらえると思うし、ミラージュとも理解できると思うんです。私がプリキュアになったのも、世界を愛で包みたいからなんです。だから…」

 

 

雪菜「口ではなんとでも言えるわ。じゃあもしできなかったら?」

 

 

めぐみ「!!!」

 

 

雪菜「それに、あなたはそのミラージュとかいう人のことをどれだけ知ってるの? 十年以上一緒にいたよく知っている幼馴染同士でさえ分かり合えないことがあるのに、知りもしない人と簡単に分かり合えるはずだなんてよく言えるわね」

 

 

めぐみ「あう…あう…」

 

雪菜「あなたの言ってることはずいぶん立派な理想だけど、所詮は机上の空論。話し合いで解決しないことなんてすぐ隣にいくらでもある。理想を並べ立てるだけで叶うほど世の中は甘くはないの。それを覚えておきなさい」

 

 

そう言い捨てると、雪菜は覇気をなくしてしまっためぐみを押しのけて行こうとしたが、めぐみはとっさに雪菜の右腕を掴んだ。

 

 

めぐみ「まっ、待ってください… それでも私は…」

 

雪菜「!!! 離して!!!」

 

 

すると雪菜は凄まじい形相でめぐみを突き飛ばした。

 

いおな「ちょっ、ちょっといくらなんでもそんな乱暴な… えっ?」

 

雪菜「い、痛… 痛い、痛…」

 

 

あまりのことに抗議しようとしたいおなだったが、顔をしかめ右腕を掴んでうずくまってしまった雪菜を見て疑問が湧いた。

 

 

 

いおな「まさか、怪我してるんですか? 見せてください」

 

空手道場が自宅であることもあり、いおなにとって簡単な応急処置や手当ぐらいはお手の物である。

 

駆け寄って雪菜の腕を見たいおなだったが、その傷を見て驚いた。

 

 

 

いおな「古傷… でも相当ひどい傷… これが痛むんですか? 一体なにがあったんですか?」

 

雪菜「関係ないでしょ!! もう私はあなたたちと関わる気はないし」

 

 

そんないおなを突き飛ばすと、雪菜は出口の扉に手をかけた。

 

 

めぐみ「待ってください!! 最後に一つだけ!! じゃああなたはプリキュアになってなにがしたかったんです!? 何か理由があってプリキュアになったんですよね!!」

 

 

ミプ「!! そ、それは!?」

 

 

めぐみの問いかけにミプは真っ青になってしまい、雪菜の動きが止まるとともに空気が異様に重くなった。

 

 

雪菜「…それを聞きます? いいわ、教えてあげる。私がプリキュアになった理由はただ一つ」

 

一呼吸おくと、冷たい目と声で雪菜は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪菜「プリキュアをぶっ殺してやるためよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉にめぐみは絶句してしまい、そんなめぐみ達を残して雪菜は乱暴に扉を閉めて大使館から立ち去っていった。

 

 

 

ミプ「ゆ、雪菜。さっきのは…」

 

慌てて雪菜の後を追いかけたミプは、必死になって問いかけた。

 

雪菜「嘘はついてないじゃない。それがどうしたの?」

 

ミプ「で、でもあれじゃ…」

 

 

雪菜「心配しなくても、彼女達に攻撃する気はないわ。腹が立つ相手なのは確かだけど、あの時とは違うし私の中であのことはきちんと区切りもついてる。でも…」

 

雪菜は我慢できないというように奥歯を噛み締めた。

 

 

雪菜「やっぱり許せない。自分の罪とも真正面から向き合わず、へらへらと適当に仲間内でごまかしてるようなあの人達が。それが許されるなら、美里が可哀想すぎるじゃない…」

 

 

どんなに仲のいい人間同士でも、許せない時があること。

 

たとえ友人同士でも、本音でぶつかり合わなければいけない時があること。

 

責任というものが、友達という簡単な言葉で誤魔化すことができないこと。

 

 

それらを雪菜は誰よりも知っていた。

 

 

 

 

ゆうこ「はぁ〜…」

 

ゆうこは大きなため息をつきながら自宅への道を歩いていた。

 

 

雪菜が帰ってしまった後、大使館にはしばらく重い空気が漂った。

 

なんとかハニーキャンディを口に放り込んだことで、ひめは正気に戻り、多少なりとも空気は戻ったのだが、全員なんといっていいかわからなかった。

 

 

ゆうこ「理想論か… そう言われてしまえばそれまでだけど…」

 

 

みんなで楽しく美味しくごはん

 

 

シンプルではあるが、ある意味で最も難しいゆうこの理想とも言える。

 

 

ゆうこ「あの人、雪菜さんか… やけに言葉に実感がこもってたけど、何かを経験してるのかなぁ」

 

 

 

ゆうこは雪菜の言葉にこもった重みを思い返していた。

 

あの言葉の重さと説得力は、経験に裏打ちされたものであろうとブルーも推測していた。

 

ブルー「彼女はプリキュアとして大きな経験をしたのだろう。とても簡単に言い表すことのできない深く、重い経験をね」

 

 

 

ゆうこ「はぁ〜 あれ?」

 

そんなこんなで自宅 おおもりご飯にたどり着くと、見慣れぬ自転車が止まっていることに気がついた。

 

 

首をかしげながら店に入ると、聞いたことのない元気な女性の声が響いてきた。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 

ゆうこ「えっ? はぁ?」

 

あい「あっ、おかえりゆうこ」

 

戸惑っているゆうこを、姉である大森あいが出迎えたことで、その女性は自分の間違いに気づいたようだった。

 

 

「あっ妹さんなんですか?」

 

 

ゆうこ「えっと、この人は?」

 

あい「ああ、今日からアルバイトで入ってもらったの。名前は…」

 

 

「渚 美里です。よろしくお願いします」

 

 

第20話に続く

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