プリキュアR   作:k-suke

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最終話「Hのある日常へ」

オーエエドー市

 

 

 

クイーンミラージュ「聞こえる。世界を恨む声が… この憎しみの力があれば、世界を不幸に染め上げることも容易い」

 

 

ひときわ高いビルの屋上から破壊された街並みを見下ろして、充満した闇のエネルギーに満足そうな笑みを浮かべるミラージュに対して、ファントムは納得がいかないようであった。

 

 

ファントム(ミラージュ様… 本当にこれでいいのですか…)

 

 

そんな中、赤い火の玉がどこからともなく飛来し、少女の姿となって彼らの後ろに降り立った。

 

 

インフェルノ「あなたがクイーンミラージュね」

 

クイーンミラージュ「ん? 貴様は… そうか貴様がこの世界のプリキュアか…」

 

 

インフェルノ「まぁね、あなたのことは色々聞いてるわ。 あんまり偉そうなこと言えないけど、あなたも大概くだらないやつよね」

 

 

その言葉にファントムは怒りに目を見開いた。

 

ファントム「貴様!! ミラージュ様を愚弄するか!!」

 

 

インフェルノ「いやいや、客観的に考えてみなさいってば。要するに振られた腹いせに世界滅ぼそうってんでしょ。はた迷惑なやつ以外何者でもないじゃない」

 

 

クイーンミラージュ「黙れ!! 私の味わった絶望も知らずしてよくもほざく!! 幸せなど一瞬、愛など夢幻。ならば私の味わった不幸と絶望で世界を覆い尽くすまで」

 

 

どこか小馬鹿にしたような言葉に激昂したクイーンミラージュだったが、インフェルノは頭を掻きながら大きくため息をついた。

 

 

インフェルノ「目的さえ達成できれば自分のことはどうでもいいってか。どっかにいたなぁ、似たようなこと言ってたバァカが…」

 

ファントム「!! どこまでミラージュ様を…」

 

ファントムはさらに怒りに満ちた目でインフェルノをにらんだが、当のインフェルノは、今更というように受け流して話を続けた。

 

 

 

インフェルノ「まぁ、一応言わせてもらうとね。そんな自分のことも二の次にして、復讐みたいなことしてもね、その行き着いた先にはさ…」

 

 

そこで一呼吸置いたインフェルノは、ドミノマスク越しに真剣な目をしてクイーンミラージュを見据えて告げた。

 

 

インフェルノ「なーんにもないよ、すっからかん。達成感も一瞬、喜びも夢幻ってやつよ」

 

 

その言葉が終わるか終わらないかというところでファントムが怒りの形相で切りかかっていたが、インフェルノはとっさにそれを受け止めていた。

 

ファントム「知った風なことを!! それ以上喋るな!! 耳障りだ!!」

 

 

その叫びに対して、インフェルノも反論した。

 

インフェルノ「知ってるから言ってんのよ!! 見てきた本人が言ってんだから絶対間違いないっての!!」

 

 

その叫びとともにインフェルノの体は真っ赤に燃え上がり、ファントムを跳ね飛ばした。

 

 

クイーンミラージュ「貴様… だから私のやろうとしていることは間違いだというか!!」

 

 

インフェルノ「別に。他人様にそれが正しいからこうしろって偉そうに言えるような身の上じゃないんでね」

 

クイーンミラージュ「何ぃ!?」

 

 

インフェルノ「ただ、自分の幸せなんかどうでもいいって思わないで欲しいだけ。今ならまだ戻れるって言いたいだけよ。 あなたが本当に欲しいのは絶望なの? 本当に!?」

 

その念を押すような言葉にミラージュは一瞬固まってしまった。

 

 

クイーンミラージュ「だ、黙れ… わ、私は…」

 

必死にいつものセリフを絞り出そうとしたクイーンミラージュだが、今の言葉が突き刺さってしまっていた。

 

クイーンミラージュ(私は世界を絶望で覆い尽くす… なぜ… 何のために… 私は、私の望みは…)

 

 

混乱してしまい、頭を押さえてよろめき始めると、クイーンミラージュの耳に不気味な声が響いてきた。

 

 

『惑わされるなミラージュ。お前は世界を絶望で覆いつくせばいいのだ』

 

 

クイーンミラージュ「ち、違う… 私は、ただ…」

 

しかし、クイーンミラージュは必死にその声を振りほどこうと抗っていた。

 

 

 

 

『(チィッ!! とんだ誤算だ!! あんなプリキュアがいたとは…) ミラージュ、お前はブルーが憎いはず。あの時の怒りを憎しみを思い出せ!!』

 

 

 

ファントム「ミラージュ様!! しっかり!!」

 

 

頭を抱えて苦しみ続けるクイーンミラージュにとっさに駆け寄ったファントムだったが、混乱していたためか跳ねのけられた。

 

 

クイーンミラージュ「わ、私に触るな!! 私は、私は…」

 

 

クイーンミラージュの頭の中には、絶望へと誘おうとする不気味な声とインフェルノの言葉と自分の本心がぐるぐると渦巻いており、今にも気が狂いそうになっていた。

 

 

クイーンミラージュ「き、消えろ!! この声!! 私を惑わすなー!!!」

 

 

その怒声とともに、突如として不気味な黒い靄をまとった風がクイーンミラージュを中心に渦を巻き始めた。

 

インフェルノ「うっ!? こ、この感じは!?」

 

メル「た、大変メル!! 闇の力がどんどん集まっていくメル!!」

 

インフェルノの背筋に悪寒が走り、腰元のスマホケースに姿を変えていたメルも震えながら叫んだ。

 

 

ファントム「ミ、ミラージュ様!?」

 

クイーンミラージュ「な、なんだこの黒い煙は!? う、うわーっ!!!」

 

 

異変に気がついたときにはすでに遅く、クイーンミラージュの周囲に渦巻いていた靄は一気に濃くなり全身を包み込んで姿を覆いつくしてしまった。

 

そしてその煙は意志を持ったかのように蠢き、みるみるうちに形を変えていった。

 

 

次の瞬間、黒い稲妻が走り何か巨大なものがビルを押しつぶして大地に地響き立てて降り立った。

 

 

インフェルノ「し、しまった… 今の怒りが引き金になって…」

 

ファントム「な、なんだあれは…!?」

 

 

 

 

龍のような顔、金色の鱗に覆われた体は美しくもどこか禍々しく、神話の動物でいうならば麒麟といった姿をしていた。

 

その額から生えた角は鈍く銀に光りあらゆるものを貫く破壊力をそれだけで雄弁に語っていた。

 

 

大神獣「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むもの、唯一にして絶対のものなり」

 

 

 

インフェルノ「くっ…大神獣…!!」

 

ファントム「貴様!! ミラージュ様をどうした!?」

 

 

ファントムの叫びに大神獣は鼻で笑うような声で返した。

 

 

大神獣「ふん。あの女などすでに我の一部として消滅しつつある。くだらん怨念を利用された矮小な存在だったが、復活の触媒程度にはなったわ」

 

 

その言葉にファントムは怒りで肩を震わせ、声にならない叫びとともに飛びかかったが、あっけなく弾き飛ばされた。

 

 

 

大神獣「愚かな…身の程を知るがいい」

 

倒れ伏したファントムを見下したようにそう告げると大神獣の体は黄金色に輝き始めた。

 

しかしそれの眩しい光からは神々しさや美しさを微塵も感じさせず、ただ禍々しさだけが溢れていた。

 

そうして、大神獣は巨大な金色の光弾をその鋭い角から発射した。

 

 

インフェルノ「危ない!!」

 

 

 

とっさに飛び込みファントムを救出したインフェルノだったが、光弾は後ろにあったマンションに着弾した。

 

 

すると、凄まじい轟音とともに砂煙を巻き上げマンションは跡形もなく倒壊した。

 

 

インフェルノ「くっ… さっすが…」

 

以前戦ったときと変わらぬ大神獣の破壊力に悔しそうに顔を歪めたインフェルノだったが、それ以上にファントムは聞きたいことがあった。

 

 

ファントム「なぜ俺を助ける?」

 

インフェルノ「え? もう、人が傷つくのは見たくないのよ。今更なんだって感じだけどね」

 

自嘲気味に返したインフェルノに、ファントムは何かを考え込んでしまった。

 

 

 

大神獣「ほう、うまく避けたか。 だが次はない!!」

 

 

しかしそんな暇もなく、大神獣は全身から金色の光弾をあたり一面に雨あられと乱射してきた。

 

インフェルノ・ファントム「「!!!!!!!」」

 

 

直後あたり一面が轟音とともに爆発に覆われ、しばらくの間砂煙で一寸先も見えなくなっていた。

 

 

それがようやく落ち着き視界が開けていくと、まるで月面のように巨大なクレーターが所狭しと出現しており、市街地だったはずの場所は瓦礫の山と化していた。

 

 

大神獣「ふっ。あっけないものだ」

 

 

その中心にはこの惨劇を引きおこした大神獣が事も無げにその黄金の体を光らせていた。

 

 

 

大神獣「むっ? 気配を感じる。奴らはどこに?」

 

しかし、何かの気配を感じ辺りを見回すと、地面に何かの影があるのが目に入り、上空を睨みつけるように見上げた。

 

そこには四人の少女に助けられたファントムと、インフェルノの姿があった。

 

 

ファントム「ハピネスチャージプリキュア…」

 

インフェルノ「あなたたち… 帰りなさいって言ったでしょ」

 

 

 

フォーチュン「放っておけません。それにこれが私の選んだ力の使い方です」

 

ハニー「手が届くところで誰かが苦しんでるのに、私だけ美味しくご飯を食べられないじゃないですか」

 

 

 

インフェルノ「でも、あなた達まで日常をなくすかもしれないのよ」

 

全くの迷いのない目で自分を主張する二人に、インフェルノはなおも食い下がったが、プリンセスとラブリーがさらに反論した。

 

 

プリンセス「大丈夫ですって。私だって幻影帝国を蘇らせたことを償わなくっちゃいけないんだし。それが終わるまでどうこうならないってば」

 

 

ラブリー「人が誰とも憎みあわないで暮らせるようにしたいって言いましたよね。私だってそうです。過去がどうあれ、今そう思ってるならそれでいいじゃないですか。一緒に頑張りましょう、ファントムもいい?」

 

 

 

 

ファントム「…いいだろう、一時休戦だ。俺もミラージュ様を取り返さないといかんからな」

 

ハニー「ええ!! 頑張りましょう!!」

 

 

 

 

その言葉に、インフェルノは諦めたようにため息をついた。

 

インフェルノ「やれやれ。古今東西プリキュアってのはどっか頭のネジが飛んじゃってるのかしらね。言っとくけど、覚悟決めなさいよ」

 

 

ラブリー「はい!!」

 

 

その力強い返事と共に地面に降り立った六人は、大神獣に対して凛とした声で名乗った。

 

 

 

 

ラブリー「世界に広がるビッグな愛!! キュア・ラブリー!!」

 

プリンセス「天空に舞う青き風!! キュア・プリンセス!!」

 

ハニー「大地に実る命の光!! キュア・ハニー!!」

 

フォーチュン「夜空に煌く希望の星!! キュア・フォーチュン!!」

 

 

ラブリー・プリンセス「「ハピネス注入!!」

 

ハニー・フォーチュン「「幸せチャージ!!」」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「ハピネスチャージプリキュア!!」」」」

 

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

ファントム「化け物め!! ミラージュ様は返してもらう!!」

 

 

大神獣「愚かなことを… 身の程を知れ!!」

 

大神獣は全身から金色の光弾をラブリー達に向かって乱射してきた。

 

 

 

フォーチュン「!!! みんな散って!!」

 

そのフォーチュンの叫びとともに全員とっさに避けたため、直撃こそなんとか避けられた。

 

とはいえ、次々と起こる大爆発に巻き込まれ皆ダメージを負ってしまった。

 

 

プリンセス「く、くっそ〜!! プリンセス弾丸マシンガン!!」

 

なんとか立ち上がったプリンセスは腕をぐるぐる回し、得意技を放った。

 

 

 

しかし、大神獣の金色の鱗にはそんなものは蚊に刺されたほどにも感じなかったようで、ダメージにならなかったどころか全弾跳ね返された。

 

 

プリンセス「うえ〜!!??」

 

 

 

 

ラブリー「くっ!! ラブリーライジングソード!!」

 

ならばとばかりに取り出したピンク色の剣を手に、ラブリーは雄叫びをあげて切りかかっていった。

 

 

 

 

ラブリー「おっ、折れた〜!?」

 

切りかかったライジングソードは鈍い音ともにへし折れてしまい、ラブリーは素っ頓狂な声をあげた。

 

 

大神獣「ふん」

 

そしてそんなラブリーをまとわりつく虫でも払うかのように、大神獣は鋭い爪でなぎ払った。

 

 

ラブリー「がはっ!!」

 

 

 

ハニー「しっかりしてラブリー!!」

 

フォーチュン「なんて奴よ… こんなに頑丈なんて…」

 

ラブリー「それだけじゃないよ。すごい力もある。今ので体が真っ二つになるかと思った…」

 

 

 

大神獣「わかったか? 我は唯一にして絶対の存在。同じように妖精の力を借りていようとも、貴様らとは格が違うのだ」

 

 

そう告げた次の瞬間、大神獣は鋭い牙の並んだ口をカッと開いた。

 

そうして開いた口の奥には、凄まじい熱量を感じさせる炎が輝いていたのが全員の目に入った。

 

 

ファントム「まずい!!」

 

インフェルノ「みんな逃げ…」

 

 

言われるまでもなく全員が本能的に危機を察知したが、行動に移るよりも早く大神獣の口から一帯を消し飛ばすことが容易に想像される凄まじい火炎が発射された。

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「!!!!!」」」」

 

 

 

とっさに全員目をつぶり身構えたが、いつまでたっても衝撃が襲ってこなかった。

 

不審に思って恐る恐る顔を上げると、大神獣の首には鉤爪のついたロープのようなものが絡み付いており、それにより発射寸前に首を引っ張られたらしく、火炎は空の彼方へと放たれていた。

 

 

インフェルノ「あ、あれは…」

 

メル「まさか…」

 

 

まさかの思いとともにそのロープの先に目をやったインフェルノは、その先にいた人物に目を見開いた。

 

 

インフェルノ「キュア… コキュートス…」

 

 

大神獣「おのれ!! 雑魚どもが!!」

 

イラついたような言葉とともに放たれた光弾を大ジャンプしてかわしたコキュートスは、そのままインフェルノ達の前に着地した。

 

 

コキュートス「何してるの!? しっかりしなさい!!」

 

インフェルノ「今しっかりするところよ!!」

 

 

その叱咤激励にインフェルノをはじめとしてハピネスチャージプリキュアの面々も必死に立ち上がった。

 

 

 

大神獣「貴様ら… なぜ抗う? そんな力に振り回されておのれに酔っているだけの分際で!!」

 

 

フォーチュン「…そうかもしれない。私も憎しみに囚われて周りが見えなくなった時があった」

 

プリンセス「せっかくできた友達を失うのが怖くて、本当のことが言えなくてごまかし続けてたよ」

 

 

そんな二人の言葉に大神獣は満足そうに口元を歪めた。

 

 

大神獣「そうだ、人など脆きもの。くだらないことで感情に囚われ、自分の都合のみでその場を取り繕う生き物。それがこの世界の本質だ」

 

ハニー「でも、だからこそ、毎日美味しいご飯が食べられるっていうような小さなことでも幸せを感じることだってできる」

 

 

大神獣「何…?」

 

 

ラブリー「ちょっとしたことですれ違うこともあるし、それが理由で大きな間違いを犯すことだってある。それでもやり直すことだってきっとできる。その人を大切に思う愛があれば!!」

 

 

毅然とした態度で反論するラブリー達に、インフェルノとコキュートスはバツの悪そうな顔をしていた。

 

 

インフェルノ「やれやれ、耳が痛いなぁ」

 

コキュートス「いい加減な人たちかと思ってたけど、それなりには真面目みたいね。誰かさんそっくり」

 

 

 

 

大神獣「ほざくな!! この力を得たことで絆を失ったもののことも知らずして!! 力など所詮は破壊のためにしか使えぬものだ!!」

 

 

 

その怒声とともに放たれた火炎弾をなんとかかわわすと、コキュートスが呼びかけた。

 

コキュートス「こいつに外から攻撃しても効果はないわ!! なんとかして内側からダメージを与えないと…」

 

 

それを聞いて、ファントムもまた頼むように呼びかけた。

 

ファントム「そうか!! キュア・ラブリー、その赤いプリキュアとともに、あいつの中に囚われたミラージュ様を助け出せ!! ミラージュ様が奴の核になっているならば、それで奴を弱体化させられるはずだ!! 今はそれ以外突破口が見当たらん!!」

 

 

インフェルノ「えっ? 赤いのって私が!? なんで?」

 

 

突然振られた話に戸惑ったインフェルノだが、ファントムは真剣な表情で頭を下げた。

 

ファントム「ミラージュ様の心に響く言葉を口にしたのは、お前とラブリーだけだ。こんなことを言えた義理ではないが頼む。ミラージュ様を助けてくれ!!」

 

 

ラブリー「…わかった。インフェルノ、お願いします!!」

 

 

インフェルノ「オッケー!! じゃまあ行きますか、誰かさんの未来のためにね」

 

フォーチュン「私たちがサポートします。思いっきりやってください!!」

 

そのフォーチュンの言葉に、ハニーもプリンセスも力強く頷いた。

 

 

大神獣「黙って聞いていれば勝手なことを!!」

 

目の前のプリキュアたちの態度にイラついたように、大神獣がカッと口を大きく開いた。

 

 

 

ハニー「させない!! ハニーリボンスパイラル!!」

 

それを見たハニーは、とっさにトリプルダンスハニーバトンをリボンモードにして、黄色いリボンで大神獣を絡め取って動きを封じた。

 

 

 

コキュートス「こっちも!! クリスタル・ビュート!!」

 

 

続けてコキュートスは、右腕を鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させると、鉤爪を大神獣に向けて打ち出した。

 

その鉤爪には右手のひょうたん型の中に収納でもされていたのか、ロープがつながっており、首を絡め取ってしまった。

 

 

そして、ロープに絡まれた大神獣は口を開いた状態で凍りつき始めた。

 

 

 

 

コキュートス「今よ美里!!」

 

気合の入ったインフェルノを励ますように、コキュートスが発破をかけた。

 

 

 

インフェルノ「おっしゃ!! ラブリー!!  自分で行くって決めた未来、意地でも貫くよ!!」

 

ラブリー「はい!!」

 

 

そしてそのまま二人は大神獣の口の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

ハニー「あの、やっぱりあなたたちは友達なんですね」

 

今の言動を見て、ホッとしたようにつぶやいたハニーだったが、コキュートスは冷たい目つきで睨みつけて一括した。

 

 

コキュートス「違うわ」

 

 

プリンセス「えっ?」

 

コキュートス「私たちの関係をそんな軽い言葉で片付けないで!!」

 

 

 

 

 

 

一方、大神獣の口の中へと飛び込んだラブリーとインフェルノだが…

 

 

 

 

 

これでもう大丈夫。みんな幸せに暮らすことができます。

 

 

(やった、ありがとう)

 

(おかげで助かったよ)

 

 

 

 

私に任せてください。こんな時のための力です。

 

 

(やっぱりすごいな。あいつって)

 

(でもなんか怖いな。俺たちが束になってもできないことを一人でやってのけるんだぜ)

 

 

 

 

私はみんなの役に立ちたくてこうしているだけです。

 

 

(いや、もういいよ。なんか俺たちが惨めになってくる)

 

(あんたに頼りすぎるのもちょっとな)

 

 

 

なぜですか、私は別に何も!!

 

 

(もう話しかけてくんな!! 俺たちまで化け物と思われるだろ!!)

 

(みんなお前が怖いんだよ。なんでも出来ちまうから)

 

 

 

やめて!! 私にそんなつもりはない!! みんなと幸せに!!

 

 

(じゃあ消えろ!! 俺たちが幸せになるために!!)

 

 

 

なんで? なんでなのよ!?

 

 

 

(殺せー!! あいつは化け物だ!!)

 

(何をしてくるかわからんぞ!!)

 

(これだけの数でかかれば、いくらあいつでも)

 

 

待って、私が何をしたの? 私はみんなの為に、みんなの為を思って

 

 

 

 

(お前は危険すぎる。みんな怖いんだよ、お前が)

 

 

 

やめて!! 私は何もしない。誰も傷つけないから!!

 

 

 

 

(信用できるか!!)

 

(そうでなくてもお前の機嫌を取りながら暮らすなんてごめんだ!!)

 

 

 

そんな!? 私は、私はそんなことを望まない!!

 

 

(黙れ!! 死ね!!)

 

 

 

…そんな、許さない絶対に!!

 

 

 

光もない真の暗闇の中、凄まじい恨みに満ちた情景だけが延々とラブリーやインフェルノの前に浮かび上がってきた。

 

 

 

ラブリー「うぷっ!! なにこれ? 吐き気がしてくる…」

 

インフェルノ「これがあいつの味わった絶望と恨みの源… 今なお世界を憎み続ける感情…」

 

 

その恨みと憎悪の念は、一度それに身を委ねた経験のあるインフェルノでさえも相当気分の悪くなるものであり、ラブリーに至っては吐き気を催すほどのものであった。

 

インフェルノ「ほらしっかり。あのミラージュってのを探さないと。なんとかブルーって人と仲直りさせてあげたいんでしょ」

 

ラブリー「は、はい。よく平気ですね」

 

 

インフェルノ「…まぁ、こういう感情には慣れてるからね」

 

 

苦笑いをしながら頬をかくと、インフェルノはラブリーとともに恨みに満ち溢れた闇の中を進んでいった。

 

 

 

 

インフェルノ「一ついいかな?」

 

ラブリー「はい」

 

インフェルノ「このミラージュって人を助けて、ブルーってのと仲直りさせたら、あなたは振られることになる。あなたはそれでいいの?」

 

 

ラブリー「えっ? あ、ああ、そうなっちゃうんだ…」

 

今更のように自分の状況に気がついたラブリーに、インフェルノはがっくりと肩を落とした。

 

 

インフェルノ「って、気がついてなかったの?」

 

ラブリー「いや、人助けしようってことで頭がいっぱいで…」

 

頭をぽりぽりと掻きながら答えたラブリーに、インフェルノはため息をついた。

 

インフェルノ「…あなたも一緒か。自分のことを二の次にして感情だけで行動して… やっぱりあなたは帰った方がよかったかもね」

 

 

ラブリー「いや、私は大丈夫ですよ」

 

 

インフェルノ「何の根拠があるのよ。一歩間違えれば、次はあなたがミラージュと同じことになるかもしれない。あなたの戦う理由に自分の幸せってのは入ってないの?」

 

 

ラブリー「私の幸せ…ですか? それはみんなが幸せに…」

 

インフェルノ「いやいやいや。そんな学級会の目標みたいじゃなくてさ、もっと自分の欲を出してもいいんじゃない。ブルーって人と恋人になりたいとか、そのためにミラージュを倒すとか、そんなのの方が私にはまだ理解できるんだけど」

 

 

ラブリー「そんなこと考えてません!!」

 

そのインフェルノの言い様にはさすがのラブリーも少しカチンときて叫んだ。

 

 

インフェルノ「じゃあ、あなたの幸せはどこにあるの? このままで後悔しない?」

 

その問いかけにしばらく目を閉じて考えたラブリーだが、はっきりと言い放った。

 

ラブリー「後悔しません。この先に私の幸せはきっとあるから」

 

インフェルノ「…信じるわよ、その言葉。 進んだ先に自分の幸せがなくなるようなことしないでね、絶対に。 同じ失敗、してほしくないんだ」

 

 

 

 

そんな会話をしながら進んでいくと、渦を巻いていた黒い靄のようなものが流れ込んでいっている中心のようなものが見えてきた。

 

 

インフェルノ「これは… 憎しみのエネルギーが何かに流れ込んでいっている?」

 

ラブリー「まさか…」

 

 

慌てて駆け寄ると、そこにいたものは憎しみの海に飲み込まれ、今にも消えようとしているクイーンミラージュだった。

 

 

ラブリー「ミラージュ!!」

 

その光景に慌てて駆け寄ろうとしたラブリーだったが、渦巻く憎しみの念がバリアのようになり、手を差し出すこともできなかった。

 

ラブリー「くっ!!」

 

インフェルノ「すごい憎しみ… そんなことに意味はないのに…」

 

 

クイーンミラージュ(ブルー、なぜ私を捨てた? なぜだ? なぜだ?)

 

 

ラブリー「うわーっ!!」

 

インフェルノ「こ、これは!?」

 

 

その憎しみの渦は一層増大し、クイーンミラージュの姿はその中に今にも搔き消えんとし、さらにはラブリーとインフェルノさえも飲み込もうとしてきた。

 

 

インフェルノ「くっ!! 負けるもんかぁ!!」

 

ラブリー「こんなものにとらわれちゃダメだよ!!」

 

 

 

その渦を必死に泳ぎ、何度も阻まれようとも二人は必死にクイーンミラージュに向けて手を伸ばした。

 

 

ラブリー「ミラージュ!! ブルーはあなたのことを忘れてなんかいない。今でもあなたに謝りたいって言ってるんだよ。もう一度信じてあげて!! その気持ちを忘れない限り、その胸に愛がある限り大丈夫。だから…」

 

 

インフェルノ「あのファントムってのは、どんなになってもあなたのことを考えていた。絆を断ち切るのは自分なのよ。自分を信じてくれてる人から目を背けない限り、何度でも戻ることができる!! 憎しみだって必ず乗り越えられるはず。だから…」

 

 

 

ラブリー・インフェルノ「「諦めないで!!」」

 

 

 

その言葉に、憎しみの中に今にも消えようとしていたミラージュの意識が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

大神獣と必死に戦い続けていたプリンセス達だったが、その強靭な金色の鱗にはまるで攻撃が通じない上に、常軌を逸した火力の前には防御どころか死に物狂いで回避するだけでやっとといった有様であった。

 

ハニー「すごい憎しみ… 私の歌に耳も貸してもらえないなんて…」

 

フォーチュン「くっ!! これじゃいつまで持ちこたえられるか…」

 

プリンセス「ラブリー… まだなの?」

 

 

コキュートス「美里…」

 

 

 

大神獣「何を期待しようと無駄だ。憎しみこそこの世界で何よりも強く、唯一永遠に続くもの。一度囚われたものは永遠に解き放たれることはない」

 

 

フォーチュン「っ!! そんなこと…」

 

その言葉に咄嗟にフォーチュンは反論できなかったが、続いての言葉に度肝を抜かれた。

 

 

コキュートス「そうね。否定しないわ」

 

 

ハニー「えっ?」

 

プリンセス「ちょっ、何言って…」

 

 

ぎょっとした周りを無視してコキュートスは続けた。

 

 

コキュートス「仮に倒すべき相手、憎しみをぶつける相手を倒しても、また次を求め続ける。一度殺したいほど憎んだ相手を心から許すことは永遠にできない。私もそうだしね」

 

 

大神獣「わかっているようだな。ならばわかるであろう、我に勝てないこともな」

 

コキュートスの言葉に満足そうな笑みを浮かべた大神獣だったが、続けての言葉に目つきが変わった。

 

 

コキュートス「でも、その感情を別の感情で覆うこともできるし、別の形で昇華させることもできる。少なくとも、どこにも進もうとしないあなたにその点だけは勝ってるつもりよ」

 

 

コキュートスの言葉に大神獣は目を血走らせ、怒りで小刻みに震え始めた。

 

大神獣「黙れ… 我の憎しみも知らぬ小娘が!!!」

 

 

プリンセス「ちょっちょっちょっ!! 正論だけど今はやめて欲しかったんだけど!! 火に油じゃん!!」

 

 

 

その言葉通り、大神獣は鋭い牙の並んだ口を開き、火炎を発射し全てを焼き尽くさんとしてきた。

 

 

ファントム「まずい… かわし切れるか…」

 

 

 

 

しかし次の瞬間、大神獣の全身を覆う金色の鱗の隙間から、光が次々と溢れ出した。

 

 

 

 

大神獣「なんだと…いうのだ…? これは? ぐ、グワァーっ!!!」

 

 

突然のことに戸惑い始めた大神獣だが、光は尽きることなく溢れ続け、ついにはその鱗を突き破って光の塊が飛び出した。

 

 

ラブリー「ぷっは〜!!」

 

インフェルノ「脱出できたみたいね、あの憎しみの中から」

 

 

プリンセス「ラブリー!!」

 

コキュートス「美里!! さすがね」

 

憎しみの中から脱出できたラブリーとインフェルノは大きく深呼吸をし、そんな二人を皆はホッとした表情で迎えた。

 

 

 

インフェルノ「まあね。でも私達だけじゃないわよ」

 

 

そしてその言葉とともにもう一つ光の塊が飛び出した。

 

その光の塊は、地面に降り立つと一人の少女の姿となり、凛とした声で名乗りを上げた。

 

 

 

 

「未来を照らす大いなる光!! キュア・ミラージュ!!」

 

 

 

プリンセス「ま、まさか…あれって…」

 

フォーチュン「クイーンミラージュ…」

 

ハニー「嘘…」

 

 

 

ファントム「ミ、ミラージュ様…」

 

皆が驚愕の表情を浮かべる中、ファントムは目頭を熱くしていた。

 

ミラージュ「ファンファン… 心配をかけたわね…」

 

 

そんなファントムにクイーンミラージュいや、キュア・ミラージュはにこりと微笑んだ。

 

 

 

大神獣「ば、バカな… そんな矮小なものが憎しみを解き放っただと…」

 

 

核となっていたミラージュを失い、内部から光に満ちた攻撃を受けた大神獣は、相当のダメージを負っており、体を維持することすら困難になり始めていた。

 

そんな体で今の現実が認められないように、大神獣は絞り出すように叫んだ。

 

 

 

コキュートス「認められなくても、これが現実よ。 それが受け入れられないというならば、あなたは永遠に変わることはできない」

 

 

インフェルノ「なるほどね。変わってないというならば私達に勝てるわけもないか。あの時よりはちょっとぐらい伸びたつもりだしね」

 

 

ラブリー「どんな人でも変わっていけるんだよ。そうしたいという心があれば!!」

 

 

 

ミラージュ「彼女達の言う通りです。何も変えられないと諦めてはいけない。変えられない世界があるのではない。過去に囚われて進めなくなった自分がいるだけなのだと私は知りました」

 

 

 

大神獣「黙れ!! プリキュアどもが!!!」

 

瀕死の状態だった大神獣だが、怒りの感情に突き動かされるように火炎を口から発射したが、威力は激減しており全員余裕を持ってそれをかわした。

 

 

そしてラブリー達は頷きあうとプリカードを取り出してフォームチェンジを行った。

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー「「「プリキュア!! くるりんミラーチェンジ!!」」」

 

フォーチュン「プリキュア!! きらりんスターシンフォニー!!」

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「ハピネスチャージプリキュア イノセントフォーム!!」」」」

 

 

リボン「集まれ、ハピネスな気持ち!」

 

ぐらさん「高まれ、イノセントな想い!」

 

ラブリー「輝け!!」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「シャイニングメイクドレッサー!」」」」

 

イノセントフォームにチェンジするや否や、間髪入れずパワーアップアイテム、シャイニングメイクドレッサーを召喚した。

 

そしてラブリー達はマイクに形を変えた化粧筆を手に、笑みを浮かべながら歌い始めた。

 

 

ラブリー「形無き愛、求め」

 

ハニー「確かな、その優しさ」

 

フォーチュン「色褪せない、希望」

 

プリンセス「奏でよう、未来へ」

 

 

 

 

そんなラブリー達に対して大神獣は隙ありとばかりに、最後の力を振り絞って突進していった。

 

 

 

コキュートス「くっ!! クリスタル・ビュート!!」

 

コキュートスは、右腕を鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させると、鉤爪を大神獣に向けて打ち出して絡め取り、なんとか動きを止めた。

 

 

コキュートス「何考えてるのよ。いきなり無防備に歌い出すなんて」

 

 

ミラージュ「あれで力を蓄えてるんです。フォローしてあげてください…」

 

どこか申し訳なさそうなミラージュにインフェルノも仕方ないというようにため息をついた。

 

インフェルノ「不便なものね。まぁいいわ!!」

 

 

インフェルノは凍り付き始めていた大神獣に向かって強烈な飛び蹴りを食らわせて大きく蹴り飛ばした。

 

大神獣「ぐ…ぬ…」

 

なんとか起き上がろうとした大神獣だが、続けざまにコキュートスが左手で支えるようにして大きく右手を振り回したことで、投げ飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

 

それを狙ってコキュートスは右手をガトリングガンに変化させた。

 

コキュートス「大神獣、受けなさい!! プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」」

 

 

コキュートスのその叫びとともに、猛烈な勢いで氷の弾丸が発射され大神獣に全弾直撃した。

 

その勢いもまたいつにも増して凄まじく、すでに瀕死状態だったとはいえ大神獣を蜂の巣にしてしまった。

 

 

 

そうして時間を稼いでいる間に、ラブリー達の歌はクライマックスを迎えていた。

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「心を重ねて、響きあうメロディー」」」」

 

 

身を寄せ合うように結集した後、それぞれが自分達のイメージカラーを表す光を身に纏った。

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「プリキュア!! イノセントプリフィケーション!!」」」」

 

その掛け声とともに、ラブリー達は光の矢となり大神獣に向かって突撃していった。

 

 

 

 

それを見届けるとインフェルノも大きく両手を振りかぶった。

 

インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

その叫びともに両手の炎の塊を、叩きつけるように投げつけ、大神獣を火だるまにした。

 

 

ミラージュ「これで終わりにします。プリキュア・シャイニングミラージュ!!」

 

 

その掛け声とともに、眩しくそして温かな光の玉が大神獣に向けて放たれた。

 

 

一連の一斉攻撃を受けて大神獣はついに体を維持することもできなくなり、全身が薄い靄となり光の中に消え始めた。

 

 

大神獣「この場は貴様らの勝ちとしておこう。だが!!」

 

最後に異常にギラついた目を光らせながら大神獣は叫んだ。

 

 

 

大神獣「忘れるな!! その力はやがて貴様らの心身を食い破る!! 次にプリキュアに滅ぼされるのは貴様らだー!!!」

 

 

その呪詛のような言葉とともに大神獣は光の中へと消えていき、それと同時に街が消し飛ぶかと思うような大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴかりが丘 ブルースカイ王国大使館

 

 

 

リボン「神様、助かりましたわ」

 

ぐらさん「あの大爆発に巻き込まれかけた時にはもうダメかと思ったぜ」

 

 

大神獣の最後の大爆発は街一つを消し飛ばすのではないかと思えるほど超巨大なものであり、全員それに巻き込まれることを覚悟したが、すんでのところでブルーの手で全員救助されていた。

 

 

オーエエドー市の方もブルーの浄化の力により、以前と変わらぬ町並みを取り戻していた。

 

 

ブルー「いや、間に合ってよかった。僕にできることなんてこれぐらいだしね…」

 

 

そんなことを呟いたブルーに、雪菜は冷たい目を向けていた。

 

 

雪菜「元凶の分際で何を偉そうに。それぐらいして当然でしょまったく…」

 

 

めぐみ「う… まあまあ。それよりブルー、ミラージュさんを…」

 

 

その言葉にブルーはミラージュの前に進み、頭を下げた。

 

 

ブルー「すまないミラージュ。僕のせいで君を苦しめてしま…」

 

そこまで謝罪した時、乾いた音が響いた。

 

 

ファンファン「ミ、ミラージュ…様…」

 

 

リボンやぐらさんと同じように妖精の姿に戻ったファントム ファンファンはミラージュのとった態度に驚いていた。

 

 

ミラージュ「ブルー、あなたは卑怯です。神として全てを見守ると言いながら、特定の個人に思い入れをする。挙句にただ見守るだけで自分自身は最後まで何もしようとしなかった。責任というものに正面から向かいあおうとしないあなたに神を名乗る資格はありません」

 

 

めぐみ「ミ、ミラージュ…」

 

 

毅然とした態度でブルーを非難するミラージュにめぐみも呆然としていた。

 

 

ミラージュ「私は決めました。どんな理由があれ、私は世界中の人々を不幸にしてしまいました。それを償うためにこれから世界中を回るつもりです」

 

 

 

いおな「そんな…」

 

ゆうこ「せっかく神様と話すことができたのに… そこまでしなくても…」

 

 

しかし、ミラージュはゆっくりと首を横に振った。

 

ミラージュ「いいえ、どんな理由があるにしても罪は罪です。永遠に許されない自己満足だとしても出来る限りの事を行いたいのです」

 

 

毅然とした態度でそう言い放ったミラージュを見て、考え込んでいたひめも口を開いた。

 

ひめ「…やっぱりそうだよね。せっかく平和になったんだもん。今度は自分のしたことには向き合わなくっちゃね」

 

リボン「ひめ?」

 

 

ひめ「私、ブルースカイ王国に戻ったら本当のこと全部言う。私がアクシアの箱を開けちゃったせいで、こんな世の中になっちゃったこと。お父様やお母様だけじゃなくて、世界中に向かって」

 

その言葉に大使館はざわついた。

 

 

リボン「な、なんてことを言うんですのひめ!!??」

 

めぐみ「そんなことしちゃったら、大変なことに!!」

 

 

ひめ「わかってる。でも、ずっとモヤモヤしてたんだ。このままじゃいけないって。自分のしたことにはちゃんと責任を取らなきゃいけないって。それがはっきりわかったの」

 

 

ぐらさん「怖くないのかよ。んなことしたら世界中から何言われるか」

 

ひめ「わかってる。でも、もう大丈夫。みんなは必ず友達でいてくれるってわかったから。もうなんにも怖くないんだ」

 

その言葉には日本に来たばかり頃にあった気弱さは微塵も感じられなかった。

 

めぐみ「ひめ… もちろんだよ!!」

 

いおな「わかったわ。私も出来る限りの事はするから、頑張りなさい」

 

 

皆の会話を聞いて、ブルーもどこか覚悟を決めたようだった。

 

ブルー「…どうやら、一番いい加減なのは僕だったようだね。 地球の神として情けない。 見守るだけが神ではない…か」

 

 

ゆうこ「私もうかうかしてられないわね。ただ美味しいご飯を食べられればいいって思うんじゃなくて、私がそれをもっと多くの人に与えられるようにしないと。 理想で終わらせちゃいけないよね」

 

 

めぐみ「うん。みんなで頑張ろう。幸せハピネース!!!」

 

 

「「「「おーっ!!!!」」」」

 

 

 

 

と、一同が盛り上がったところで、雪菜が口を挟んできた。

 

 

雪菜「もしもし。盛り上がったところで悪いんですけど、一つだけお願いがあるんですが…」

 

 

いおな「ん? なんですか?」

 

 

雪菜「いえね。いつのまにかいなくなった人のことで、ちょっと頼みたいことがあるんですけどね」

 

その言葉にゆうことめぐみはキョロキョロと部屋を見回した。

 

 

めぐみ「あれ? そういえば…」

 

ゆうこ「美里さん… あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴかりが丘 郊外

 

 

 

自転車に荷物を載せて、美里は今まさに出発しようとしていた。

 

美里「さてと。とりあえずこの先の角を右に。次に左かな」

 

 

メル「美里、本当にいいメル? このままで…」

 

そんな美里にメルはおずおずと話しかけた。

 

 

 

美里「いいのよ、これが私の選んだ道。私の償いだから」

 

 

悟りきったような表情とともに自転車にまたがった美里だったが、それを呼び止めるように声がかけられた。

 

「待ちなさいな」

 

その声に驚いて振り向いた先には、美里がもう二度と見れないと思った笑顔があった。

 

 

雪菜「また、何も言わずに行くつもり?」

 

美里「雪菜…」

 

 

メル「あ、あなたたちは…」

 

それだけでなくその先には、めぐみ達の姿もあった。

 

 

 

いおな「どうやら、想像以上に自分勝手な人だったみたいですね」

 

めぐみ「そうですよ。さっきの百円、返してもらってないんですから」

 

 

 

咎めるようなことを言いながらも、いおなもめぐみも満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

美里「でも、私は…償いを…」

 

 

ひめ「それは私だって同じだよ。私なんか大変だよ。これから世界中に向かって、全部はじめなきゃいけないんだから」

 

ミラージュ「私だってそうです。でも、あなたが教えてくれたことじゃないですか。絆を断ち切るのは自分自身、自分を信じてくれてる人から目を背けない限り、何度でも戻ることができると」

 

 

美里「うん、そうだよ。だから絆を断ち切った私は…」

 

なおも俯きながら自分を否定するようなことをつぶやく美里に、ゆうこはにっこりと笑った。

 

 

 

ゆうこ「そんなことないですよ。 こうして私達と仲良くなれたじゃないですか。それに、まだ切れてない絆だってありますよ」

 

 

美里「それは…」

 

 

めぐみ「どうしても戻れないなら、進んで行った先でもう一度会ったんだっていうのはどうですか? おかしくないでしょう?」

 

 

その言葉にぐうの音も出なくなった美里に、雪菜が話しかけた。

 

 

美里「あなたの負けよ、美里。あなたの進んでいく道を今更否定しないけど、せめて足場をもう少し固めてからにしなさいな。また行き倒れたらどうするのよ」

 

 

美里「何よ。最後の最後でカッコ悪いこと言わないでよ」

 

 

雪菜の言葉に頬を膨らませながらも、うっすらと涙を浮かべつつ、美里は満面の笑みの中へと引き返していった。

 

 

美里「日常…か。ちょっとだけならもう一度味わえるかな、こんな私でもさ」

 

雪菜「あなた次第よ。少しぐらいなら味わう時間も取れるでしょう。親戚の方には私も口を聞いてあげるから」

 

 

 

笑いあう二人を見て、めぐみはしみじみと思っていた。

 

 

めぐみ(ああして、笑いあえる日常って大切なんだなぁ。美里さんの言ったことよくわかるよ)

 

 

そんなめぐみの中では、先ほどのミラージュのブルーに対する言葉が繰り返していた。

 

 

そしてそれと同時に、何かが急速に冷めていくのを感じていた。

 

 

めぐみ(ブルーのこと、何か感じてたけど… あんまり落ち込まなかったのは、そういうことなのかなぁ)

 

 

小さな女の子が、近所のお兄さんに対して憧れる。

 

 

割とよく聞く話だが、自分のものもそんなものなのかと思い始めた時、めぐみの中に一つの顔が浮かんできた。

 

めぐみ(私の日常は、ブルーのいる世界じゃない。いつも当たり前みたいだったものは…)

 

 

ようやく何かを自覚し始めためぐみだったが、形になるにはまだまだ多少の時間を要したことだけは、ここに記載しておくことにする。

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)

 

 

 




怨念エピローグ




ブルースカイ王国 ブルースカイ城。



クイーンミラージュが闇から解き放たれたことで、各地にいた幻影帝国の幹部も浄化されていた。

結果、幻影帝国は事実上消滅しこの城を含むブルースカイ王国を始め、世界中が以前と同じ平穏な姿を取り戻していた。



だが…




クイーンミラージュの玉座にあったディープミラー。


それが粉々に叩き割られ、血だるまの首無し死体が横たわっていた。

そして、ぐちゃぐちゃと何かを咀嚼するような音が響いていた。


大神獣「ふん。あんな女を利用したからにはくだらん存在だとは思っていたが、やつよりも輪をかけてくだらん憎しみだ。自身の力のなさを棚に上げた逆恨みとはな」


地球の神ブルーと双璧をなすもう一人の神、レッド。

その死体をゴミのような目で見下しながらも、傷つき力の大半を失った大神獣は、死体の腹わたをひいては肉や骨を食い漁り続けた。



大神獣「まぁいい。こんな憎しみでも休眠のための腹の足しにはなったか…」


レッドの惨殺死体をあらかた食い散らかし、まあいいというように呟くと、大神獣の体はだんだんと透き通り始めた。


大神獣「我は再び眠りにつく。だが人間よ、プリキュアよ忘れるな。何百年いや何千年を経ようとも我の憎しみは消さぬ。いつか再び蘇り、今度こそ世界の全てを!!」

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