神様を前にして彼が願ったのは、とある作品にでてくる大魔術。
それに気付いたとき、すべてはもう手遅れだった。




短編です。
二次創作を読んでいて、ふと思いついたことを文にしてしまいました。
軽い気持ちでお読みください。


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わりと暗いです。
ちなみに、fateのキャラは登場しません。
でも若干のネタバレはありますので、ご注意ください。



神様転生で無限の剣製を選びました

 理由は単純だった。

 『かっこよかった』、ただそれだけの理由。

 だってそうじゃないか。

 陰陽の双剣。宝具の投影。無限の剣がそびえる世界。

 かなうはずのない夢をひたすらに追い求め、凡才でありながらも、英霊にまで上り詰めたその姿。

 ああ、その通り。

 俺は、画面の向こうに見た、エミヤシロウの姿にあこがれたんだ。

 

 だから。

 本当に、何も考えず。

 思うがままに、答えたんだ。

 

「特典、何がいい?」

 

「Fateの、アーチャーの、無限の剣製で」

 

 これがそもそもの間違いだった。

 

 

 

『神様転生で無限の剣製を選びました』

 

 

 

 固有結界とはなにか。

 魂に刻まれた『世界図』の展開。自己の心象世界を現実に侵食させ、現実を異界へと塗り替える能力。魔法に最も近い魔術。

 つまりは、心象風景の具現。

 心に描かれた風景で、現実を塗りつぶす。

 それが、固有結界だ。

 

 故に固有結界は、人によって異なるものでなければならない。

 

 人間は皆、それぞれが異なる心象風景を持っている。

 それは、雪の降り続ける真夏の雪原だったり、王と戦士たちが駆ける太陽輝く荒野であったり。そして、無限の剣が立ち並ぶ世界だったり。

 完全に同一な存在――どこかの人形師が作り出したような――でもないかぎり、人の数だけ心象風景があり、それは決して重複することはないものだろう。

 心というキャンバスに描かれる景色は、人によって異なるのである。

 衛宮切嗣から夢を受け継いだ衛宮士郎でさえもそうだった。衛宮士郎の心象風景は、衛宮切嗣のものとは異なっていたのだ。

 それが普通。自分は自分。他人は他人。それは、当たり前のことだ。

 

 なのに、生まれながらにして、他人の固有結界――すなわち、他人の心象風景を持っている。

 それははたして、どれほど異常なことであろうか。

 そして仮にそんな人間が実在しているとしたら、その者はなにを思い、どこを目指すのだろう。

 

 

 

 

 

 

「リーダー。時間です」

 

 その声で、俺は現実へと意識を戻した。

 視界に映るのは、一人の若い男だ。若い、といっても、自分とさほど変わらない。だいたい、15から17くらいの、日本であればまだ学生と呼ばれているくらいの年齢の男。いや、その年齢からすれば、男というより少年と形容する方が正しいのか。

 

「私はどれくらい寝ていた?」

 

「2時間程度です」

 

 拠点を攻撃した後すぐに眠りについたから、あれからさほど時間は立っていないようだ。

 4時間は眠れるものと予想していたため、不意の目覚めにわずかな不快感を感じた。

 

「それで、私を起こした理由はなんだ」

 

 目頭をおさえながら質問をする。

 はたから見たら相手を睨みつけているように見えるかもしれないが、目つきが悪いのは俺の身体的特徴であるため、どうしようもない。

 グループの中でも若い部類に入る目の前の少年がおびえているのを感じ、俺はわずかなさみしさを感じる。

 けれど、すぐに彼は姿勢を正し、その口を開けた。

 

「敵襲です」

 

「……そうか」

 

 朝までは動きがないと思っていたが、予想外に行動が速い。

 俺を起こしたということは、事態はわりと切羽詰っているのだろう。

 

「場所は?」

 

「東の遺跡あたりに、戦力が集まってきていると報告が」

 

 まだ侵攻はしてきていないようだ。だが、時間の問題だろう。

 

「力を、お貸し下さい」

 

 少年は、強い意思を宿した目で俺を見つめる。

 恐怖、悲しみ――それらの感情を押し殺し、その瞳に映るのは、たったひとつの熱い決意。

 訂正しよう。

 彼は、少年ではなく、なにかのために闘う一人前の男だ。

 

 ならば。

 

「ついてこい」

 

「はい!」

 

 俺は、近くにかけておいた赤いコートに身を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 目の前には、数多くの兵士がひしめいていた。

 軍用ヘリや戦車といった大型兵器も少なくない数存在しており、俺たちを殲滅するつもりなのだろう。

 さすがに、民兵組織である俺たちと正規軍の間には、装備の面での明確な差が存在している。

 

「……リーダ、指示を」

 

 そう言う男の声は、やや震えていた。

 無理もない。兵の数も、兵器の数も、圧倒的に相手側が上回っている。

 普通ならば、正面から戦っても勝てる相手ではないだろう。

 そう、普通ならば。

 

 だが、ここには俺がいる。

 

「私が先行しヘリを落とす。

 その混乱の隙を突いて、一斉攻撃で歩兵を狙え。

 対戦車砲を持っているものは戦車を。私も援護に回る。

 分かったな」

 

「はい!」

 

 自分を奮い立てようと、力強くうなずく男。

 だが、恐怖はあるのだろう。腕がまだ震えている。

 

「……怖いのか」

 

「……はい。怖いです」

 

 そう言ってわずかに俯く。

 だが、数秒後には、拳を握りしめて顔を上げた。

 視線を俺の顔に向ける。

 

「怖いですけど、リーダーを信じているから、大丈夫です」

 

 そうして、ぎこちないが、確かに彼は俺に笑いかけてきた。

 そこから読み取れる感情は、確かな信頼。

 彼は、俺のことを信じている。

 その事実に、俺は――――。

 

「いくぞ」

 

「はい!」

 

 一歩前にでる。

 そして、自身の内面に没頭し、引き金に手をかけた。

 

「投影開始 〈トレースオン〉」

 

 造るのは、一組の弓と矢。

 その身に幻想を宿した、神話の再現。

 それを構え、狙いをつける。

 浮かぶ軍用ヘリを、矢が突き抜けていく像を幻視する。

 そして、大きく弓を引き搾り――。

 

「――――I am the bone of my sword.〈我が骨子は捻じれ狂う〉」

 

 ――閃光が、宙を駆けた。

 大気を切り裂き、衝撃をまき散らしながら飛翔する一矢。

 それは、寸分の狂いもなく、ヘリの狙った場所を貫通し、そのまま空へ消えて行った。

 

 場が、騒然となる。

 

 引き裂かれたようにボロボロの状態で、墜落していくヘリ。

 慌てたように、何かを叫び声を上げる兵。

 響く銃声。

 爆発音。

 喧噪。

 

 ああ、俺は戦場にいる。

 

 なぜ、こんなところにいるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 俺は、転生者だった。

 前世でどのように死んだのかは覚えていない。だが気づけば、俺は超越的な力を持った何かの前にいて、転生についての話を持ちかけられた。

 奴は言った。

 

『転生するなら、特典やるぞ』

 

 具体的な物でも、フィクションのキャラクターの持つ能力でも、なんでも一つだけ特典としてもらえる。その時、俺は何をトチ狂ったのか知らないが、生前はまっていたあるゲームに出てくるキャラクターの能力をお願いした。

 

 TYPE-MOONのゲームである『FATE/stay night』に出てくる、アーチャーのサーヴァントの持つ力。一部の層から熱烈な人気のある、痺れるようなトンデモ宝具。

 固有結界『無限の剣製』。unlimited blade worksを、俺は選んだ。

 どうしてそんな能力を選んだのか。そう問われると、答えに困ってしまう。正直、深く考えてなどいなかったのだ。今思えば、転生先がどのような世界なのかさえも聞いていなかった。

 ただ、かっこよかったから。そんな理由で、俺はこの力を選んだんだ。

 

 そうして、そんな力を持って始まった、第二の人生。

 とはいっても、幼いころの自分は、そこらにいる子供と何も変わらない、普通の子供だった。

 なぜなら、転生に関する記憶は封じられていたからだ。

 生まれた直後から前世の記憶を持っている。そこから始まる羞恥プレイに耐えきれる自信もなかったし、そんな記憶を持っている赤ん坊の挙動は、どこかおかしなものとなってしまっただろう。そうすると、精神系の病院につれていかれかねない。だから俺は、記憶に目覚めるのは中学に入ってから、とあらかじめお願いしておいた。いずれ始まる地獄のことなど、何も気づかないままで。

 

 その異常が始まったのは、記憶が戻る2,3年前、要するに小学5年生くらいのころだった。当時はおかしいことに気付かなかったが、今思い返せば明らかに異常だったことがある。

 自分は、他人のために尽くしすぎであったのだ。

 他人のために行動する。ああ、それは聞こえのいいことだろう。だが、過ぎた援助、いきすぎた自己犠牲は、一歩間違えれば狂気へと直結する。

 ああ、その通り。自分は、このあたりから狂っていた。

 歩いているお婆さんの荷物を代わりにもってあげるあたりは、まだいい。迷子の子供と一緒に親を探すというのも、まだ普通だろう。

 だが、豪雨の日におぼれている子供を助けようと川へ飛び込んだり、上から落ちてきた鉄骨からクラスメートを庇ったり、取り残された赤ん坊を助けに火災の起きたビルへ突入したり。いったい、なんのドラマ、映画の登場人物かと、自分でも思う。

 だが、これは実際の自分の行動なのだ。それも、中学生でもない。

 小学生のころの、自身の行動。

 ああ、当時の文集を見ると、自分で書いたものでありながら怖気が走る。

 将来の夢の欄に書かれているのは、年齢に不相応な、たった5文字の夢。

 『正義の味方』。

 

 俺は、俺ではなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ある、ひとりの男がいた。

 男は災害に遭い、すべてを失った。友達も、家族も、みんな死んだ。

 結局、身体は残っていたものの、中身はすべて失われていた。

 

 男は間違いなく、その時一度死んだのだ。

 

 そして、空っぽの抜け殻だったそれに、新たな命が吹き込まれる。

 

 きっかけは、その笑顔。

 その地獄の中で、救われたような笑みをうかべながら、自分を救ってくれたある人物にあこがれた。

 その人が持っていた、『誰かを救いたい』という願いを、きれいだと思った。

 

 『自分は、他人を犠牲にして生き残った。だから、この命も、誰かのために使わないと――――』

 

 そうして、男は『正義の味方』を目指した。

 

 まるで、なにかに追われるかの如く。自分自身に目を向けることさえせずに。大切な人さえも切り捨てて。弱き者を救おうと。

 

 やがて、時は流れ、気付くと男は一人だった。

 その手にあるのは、周りを傷つけるための剣だけで。

 大切なものはすべて、遠い過去に置き忘れてきたままで。

 それでも、止まることはできず、走り続ける。

 

 多くの命を守るために、小なる命を犠牲にする。

 感情をまったく考慮せず、ただ断罪するその姿のどこが、『正義の味方』なのだろう。

 

 結局、最後に男に残ったのは、荒れ果てた荒野だけだった。

 

 

 

 

 

 

 高校を卒業はしたものの、進学はしなかった。

 耐えられなかったのだ。

 どこかで誰かが苦しんでいるという事実に耐えられなかった俺は、世界へと飛び出していった。

 そして不幸なことに、生まれながらにして自分には力があった。神様からの転生特典という、最初から完成されたひとつの力が。

 そんな俺が、紛争などの暴力の世界に介入していくのには、そう時間はかからなかった。

 大量虐殺を未然に防ぎ、人体実験されている人々を救いだし、新兵器の破壊を行う。

 そのために、爆破して、暗殺して、虐殺して。大を救う為に、小を殺して殺して殺して殺して殺して。老若男女容赦なく、殺し尽くした。

 それは、今もなお続いている。

 

 

 

 

 

 

「リーダー、……どうして――」

 

 自分を慕ってくれていたはずの若い兵隊が、自分の目の前でうずくまっている。

 その口元から流れるのは、血。

 この世すべてを呪うかのようなその目は、俺ただ一人に向けられていた。

 

「仲間だと、一緒に平和を取り戻そうって言ってくれて、信じてたのに!!」

 

 悲痛な叫びが胸を打つ。

 ああ、痛い。けれどその痛みを、鋼で覆うようにして隠す。

 表情は変わらず。

 きっと今の自分は、普段とほとんど変わらない顔をしているのだろう。

 

「あの言葉は、嘘だったのですか!?」

 

 もう長くないだろう。

 その最後の灯を燃やし尽くすような勢いで、彼は涙を流しながら俺に訴えてくる。

 そんな彼に、俺は――。

 

「嘘じゃ、ないさ」

 

 平坦な声で、そう告げる。

 

「正規軍のうち、好戦的であった旧首相グループはさきほどの攻撃でほぼ壊滅。これでこの地域は、長年の圧政から解放される」

 

 見渡せば、兵器の残骸とともに、多くの屍が横たわっている。

 先程までに抵抗軍とともに戦い破った、正規軍の兵たちのものだ。

 

「僕たちは、勝ちました……。なのに、なぜ!!」

 

 そして、正規軍の死体に混じって荒野を赤く染めるのは、抵抗軍の兵たちの死体だ。

 抵抗軍は、正規軍とちがい民衆によって形成されているため、その年齢層はばらばらであり、子供から老人、女性まで混じっている。

 そんな彼らは、年齢に関係なく、皆同じように地に伏せていた。

 その身体から、ハリネズミのように剣を生やして。

 

「確かに、抵抗軍は勝った。

 だが、このまま抵抗軍が国を支配しちゃいけない」

 

 戦いに勝利し喜ぶ抵抗軍の人々。

 そんな彼らを後ろから串刺しにしたのは、ほかでもないこの俺だ。

 

「抵抗軍が一枚岩でないことは、君も知っているだろう。

 このままだと、正規軍による支配は終わっても、抵抗軍による内乱で再び国は荒れる。

 下手をしたら、これまで以上の犠牲が出るだろう」

 

 故に俺は、正規軍のみならず、抵抗軍も始末した。

 とはいっても、両方ともに、全滅させたわけではない。停戦派を中心として、きちんとこれからの国造りのなかで機能していくであろう人々、集団は残している。

 俺が始末したのは、より国を乱すであろう存在だ。

 

「確かにあなたの言っていることは分かる……。

 だが、そんなことを……、思っても、そんなことを、一緒に戦ってきた仲間たちを、後ろから皆殺しにするなんて――。

 あなたは、僕らの仲間ではなかったのですか――――!」

 

 金切り声で、すがるようにして、兵は叫ぶ。

 胸が痛い。だが、それを隠し通す。

 今までの犠牲が。今まで自分が切り捨ててきたものたちが。彼らが俺に、止まることを許してくれない。甘えなど、許されない。

 

「仲間だと、思っていたさ」

 

 表情を変えることなく、俺は本心から、そうきっぱりと、言い切った。

 

 後ろから皆殺しにしておいて、自分は彼らを、仲間だと思っていた――、そんなふざけたことを口にした。

 

 地に伏す兵は、一瞬何を言われたのかわからないように、呆然として――。

 

「仲間、だった。僕らは、仲間だった……。けれど、そんなこととは関係なく。仲間、でも、仲間なのに、あなたは、僕たちを――」

 

 そうして、悟ったのだろう。

 俺が、どれほど、狂っているのかを。

 

 

 兵は最後に、「ヒトデナシ」と言って死んだ。

 

 ――――ああ、それは、まったくもって、その通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺としての人格はもはや、ほとんど消えているとさえ言ってもいい。

 エミヤの心象風景が、強すぎるのだ。

 少しずつ少しずつ、じわりじわりと俺の心が、剣の丘に塗りつぶされていくのを感じる。

 思考はできる。ただし、そこには感情は伴わない。

 まるで機械のように、認識し、作業をこなしていく。

 多くの人を救う。そんな作業を。

 

 

 他人の固有結界を得る。

 それは、自身の心を、他人の心で塗りつぶすことに他ならない。

 

 嗚呼、俺の本当の名前は、なんだっただろうか。

 

 

 そうして俺は、作業のように人を救う、エミヤという機械になっていく。




強い能力を選んでも、幸せになれるとはかぎらない的なお話。
不快に感じた方がいたならば、申し訳ないです。


こんなん書きましたけど、自分は無限の剣製持ちのオリ主とかは嫌いではないんですよ。本当ですよ。
アーチャーも大好きです。

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