GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり   作:BroBro

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結局こんな形であの方を出してしまった…


卿の痕跡

 

 

夕刻。

 

プテラノドンの修復作業を何事も無く終え、プテラノドンが格納されている車庫を出た。元々馬車用の車庫なので、プテラノドンが入るには少し小さい。プテラノドンの翼を折り畳んで漸く収まるので、翼を修復するには少し時間がかかった。

 

まあプテラノドンも教授も無事に作業を終えたという事で、街の街道の道端に転々とある銅像の一つの足元に腰を下ろし、一息付いた。

 

途中住人が騒がしくなった気がしたが、気にしている暇は無かったためスルーしていた。周りに人はいなく、それなりに人通りが多かった街は人っ子一人いない。あの喧騒は気のせいではなかった様だ。

 

 

「何かあったのかな?」

 

 

疑問に思うも、別に自分には関係ない事だろうと意識を別の所に向ける。

 

日は沈みかけており、辺りの草原が赤く染まっていた。この銅像の下からは周りがよく見渡せる。美しい眺めだ。

 

昔なら、こんなに落ち着いて景色を見る事なんて無かっただろう。恐らく、これからまたこんな景色を見る事も無いかもしれない。今の内に見れるものは見ておいて損はないだろう。

 

体勢を変えてまた別の方向を見る。するとその方向も夕日で赤く染まった草原が広がっていた。周りをよく見ようと、ゆっくり首を動かす。

 

 

「ん?」

 

 

すると、視界の端に何かが光った。光るものなんてここら辺に無いはずだが、旅人か商人かが金でも落としたのかと思い、近づいて見てみる事にした。

 

 

「ほう、これは…」

 

 

そこにあったのは杖であった。取っ手の部分に金色のカンガルーの様な生物の装飾が施されており、高級感を漂わせている。泥や土に塗れているが、洗えば美しいものになるだろう。

 

いいものを手に入れたと言わんばかりに瞳を輝かせる。持ってみれば丁度カンガルーの背中が手にフィットして持ちやすい。

 

それと、気になる部分がもう一つ。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

カンガルーの足元に動きそうな隙間が開いている事を発見した。何かの仕掛けで動くのかもしれないと色々と探ってみた所、カンガルーの尻尾を下に引っ張るとカンガルーの足の部分が持ち上がり、斜めになった。斜めになった事で、足と土台に間が開く。その中に、銃口と思われる小さい筒がしまわれていた。

 

普通に生活していれば、こんな手の込んだ物は作らない。間違いなく、教授と似た人種が生み出したマジックステッキだ。

 

銃口があるなら引き金がある筈だと探してみる。そしてカンガルーの尻尾をもう一度下げてみると、プシュッと紫色っぽいガスを噴射した。催眠ガスの類だろう。杖の胴の太さから見て、まだいくつかのギミックが隠されている様だ。

 

 

「これは天才のわしにとってピッタリの業物だ!まあすぐにポッキリいきそうだが、壊れない様に使ってやるか」

 

 

両手に力こぶを作ってガッツポーズをし、ルンルン気分で倉庫の方に戻っていく教授。右手に杖を持ったその姿は、とても様になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻ろうと廊下を歩いていると、マミーナとすれ違った。まだ監視してたのかとも思ったが、どうやら今回は本当にただすれ違っただけの様だ。

 

双方軽く会釈をして挨拶を交わす。そして何事も無くすれ違うと思ったらマミーナが呼び止めてきた。今まで聞いたことのない物凄い剣幕でだ。

 

何かまずい事でもしたかなと自問するが、別に今のところ何も盗ってないし、何がマミーナの気を触ったか分かるわけもない。

 

それもそうだ。別にマミーナは教授に落ち度があって怒鳴った訳ではない。唯一教授にあった落ち度とすれば、拾い物をおおっぴらに出して歩いていた事だろうか。

 

 

「…それ、何処で見つけたんですか?」

 

 

何とも恐ろしい声音で聞いてくる。女性が、しかもメイドがこんな低い声で話していいのだろうか?目も怖い。返答次第では食っちまうぞと目が語っている。

 

膨れ上がった恐怖心を抱きながらも、教授は質問に答えた。

 

 

「そこの銅像の下で拾ったんだよ」

 

 

精一杯の見栄を張っていつもの口調で答えた。噛まずに言えた事は自分で誇ってもいいだろう。実際、このマミーナの風格に当てられたメイドは泡を吹いて倒れる者がいる程なのだから。

 

教授の返答を聞いたマミーナは暫く顎に手を当てて考える素振りを見せると、なにかに納得した様に小さく頷いた。

 

もしかしたらこの杖について何か知っているのかもしれない。開発者か、それとも元所持者か。知っているなら何でも答えてほしいと言う気持ちで、教授はマミーナに質問を返した。

 

 

「マミーナさん、コレの事を知ってるのか?」

 

「…えぇ、知ってます。それを持ってたのは私ですから」

 

「…は?」

 

 

予想にもしてなかった言葉にさすがの教授も変な声が出た。教授の中で、これは教授と同じ世界か別の世界、少なくともこの世界の住人の技術ではないと思っていたからだ。

 

マミーナはヴォーリアバニーと言う種族だ。種族間で常に戦争を繰り返す野蛮で残忍な種族で知られている。戦闘方法は古典的で、主にマチェーテ型のナイフなどでの近接戦で戦う。そのせいか、ヴォーリアバニーの技術力は高くなかったはずだ。それに、ヴォーリアバニーの本拠地は約3年前に帝国軍に攻め滅ぼされている。因みにこのイタリカに人以外の他種族が多いのは、イタリカの元当主の趣味である。

 

まあそんな事はどうでもいいとして、問題は技術力の無かったヴォーリアバニーがどうやってこの杖を作り上げたのかだ。イタリカで手に入れたにしても、今のイタリカの技術では催眠ガスも作れないはず。

 

色々考えても答えは出てこない。と言うのも事で、ちょっと怖いが聞いてみる事にした。

 

 

「これを作ったのは?」

 

「私じゃないですよ。それは昔頂いた預かり物です」

 

「預かり物?誰からの?」

 

「それは…」

 

 

何故頬を染めるのか。何故目を伏せるのか。

 

色々と残念な教授は理由は皆目見当もつかないが、その人物に対して何かしらの好印象を抱いている事は分かった。

 

何でもいいから早く話してほしいと言う本音を隠し、マミーナが落ち着くまでジト目で待つ。

 

数十秒もの間もじもじとして、気持ちを落ち着かせる様に一息ついて口を開いた。

 

 

「…ゼロ卿と言う方です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリカの夜は、街の大きさに反比例して暗く、明かりもまばらになっていた。特に襲撃が多い西、東、南門に近い民家や店には薄明かりも無く、まるで廃墟の様な風景が広がっていた。中でも、南門付近の破損具合は凄まじく、屋根に矢が刺さっていたり、砦の一部が崩れていたりと激戦の跡が良く分かる。

 

その南門砦の上で、迷彩服に身を包んだ自衛隊、テュカとレレイ、黒ゴスロリ服のロウリィ・マーキュリー、そして青色の作業着服の様な服装を着込んだ犬の獣人2人、トッドとスマイリーがいた。

 

 

「兄貴ぃ…知らない内に戦争に巻き込まれちゃったけど、どうしよう?」

 

「どうするもこうするもなぁ。教授もいない今じゃあ、俺たちにはコレしか無いからなぁ…」

 

 

しゃがみこんでいる2人。トッドが腰のホルスターからリボルバーを取り出した。中折式回転式拳銃である合計四丁の2人のリボルバーは、予備弾も無く、一丁に6発しかない。2人合わせて24発と言う数字は、自衛用にしたって相手が悪く心許ない。

 

こんな時にモリアーティ教授がいたら、上手い逃げ方とか何かを利用した対処法とか考えるのかもしれないのだが。教授のいない今、自衛隊達について行くしか無い。自衛隊は戦う準備を進めているし、戦うしか無いように思えてきた。

 

 

『嫌だなぁ…』

 

 

2人同時に呟き、大きく息を吐く。そして、テュカの隣にいるレレイを見てトッドが聞いた。

 

 

「なぁ、本当に教授はこの街に来てるのか?」

 

「教授はイタリカに向かうと言っていた」

 

「あ〜、教授が行くって言ったら是が非でも行きますからね〜」

 

 

スマイリーが苦笑いで応え、トッドが困り顔でまた溜め息を吐いた。やると言ったら必ずやると言う事を分かっているからこその溜め息である。あのコダ村から動かなければすぐにでも再開出来たと言うのに。

 

しかし、ここにいるのは間違いないだろう。桃色の翼竜と言うのは、彼等がよく知るプテラノドンと同じ色だ。聞いた話によれば、翼竜の色は景色に溶け込む様な色が多い。そのため、桃色の翼竜は今まで発見されたことが無かった。

 

それだけでも十分な理由になるのだが、もう一つ確信を得たのは、イタリアの住民が言っていた「轟音」と「雄叫び」だった。胸を断続的に叩く様に身体に響く音を纏い、さらに気味の悪い声を上げる。まず間違いなくプロペラが空気を叩く音と、教授自作の拡声器兼変声機の声だろう。

 

タバサの証言と合わせて、まず間違いなく教授はこの街にいる。

 

会いたいような会いたくない様な、そんな気持ちが2人の中で渦巻いていた。

 

 

「ホントに教授のトコに行くのかぁ…」

 

「俺も、自衛隊の所にいた方が安寧だと思うよ…」

 

 

2人は現状にそれなりに満足している。少しの間だが、自衛隊と共に保護された仲間達と飛竜の鱗を回収し、少なからず楽しかった。久しぶりに生活に充実感を獲た気がする。

 

だが心のどこかで、かつての生活を求めている気がした。散々扱き使われたし、本気で嫌になった事も多々あったし、報われる事も決して多かったとは言えなかった。

 

正直、自衛隊の元にいた方がいいのかもしれない。けど、しかし。

 

 

「教授が心配なんだよなぁ」

 

 

またもや同時に呟き、項垂れた。願うならば、このまま戦いが起きずに教授の元へと辿り着きたい。

 

しかし、現実は非情であった。

 

 

「ねぇ兄貴、なんか遠くが騒がしいね」

 

「そうだな」

 

「…始まったのかな?」

 

「…そうだろうな」

 

 

遠くから聞こえる怒号と、暗闇を燃やす炎の色が、トッドとスマイリーの気力を失わせて行った。

 

どうやらどこの世界に行っても、不運は付きまとうようだ。

 

 

 

 

 




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