GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり   作:BroBro

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正直、名探偵ホームズを知っているのか、名探偵ホームズを知っているのかどちらにすればいいか悩みました


名探偵ホームズを知る者達

 

 

けたたましいローター音が夜の街を支配した。舗装されていない砂利道。プロペラの回転によって発生した風がプテラノドンの後方へ吹き荒れ、砂埃の渦を生み出す。プテラノドンの手すりと小屋とを繋ぐロープを解き、ゆっくりと前進し始めた。

 

破損によって滑走距離が長くなってしまったプテラノドン。ランディングギアの摩耗を少しでも軽減させる為に新たに作った外付け車輪が、プテラノドンの胴体下部でゆっくりと回り出し、少しづつ回転速度を上げていく。

 

少しづつプテラノドンの機首が上がり、車輪が地を這わなくなる。それと同時に、ぐっと機首を大きく上に上げた。闇夜に明るい色の翼竜が舞う。

 

 

「全く時間をわきまえない連中だ!」

 

 

夜中に襲撃してきた盗賊団にモリアーティ教授は毒づいた。せっかく色々と作業が終わって、ようやく眠れると思ってたのに。

 

 

「とにかく、早く済ませて帰る!」

 

 

硬い決意を胸に、教授は拡声器のスイッチをオンにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に朱に染められた東門の砦。既に砦は盗賊団に占領され、東門を開け放っていた。

 

門を越え、様々な装備を身につけた男達がイタリカの街へと侵入する。砦の内側には門を囲む様に木製の柵が設置されており、ここが最終防衛ラインとなる。心許ない柵を挟み、両陣営が睨み合った。

 

既にイタリカ側には何人もの死者が出ている。それは盗賊団側も同様である。しかし盗賊側の勢いは衰える様子を見せず、反してイタリカ側の兵達の士気は低下していた。イタリカの兵士たちは、殆どが農夫や商人などの一般人である。特殊な訓練も受けていなければ、全員逞しいという訳でもない。今までは砦によって何とか補っていた力量差が、互いに対面する事によって明白になっていた。

 

 

「対空警戒を怠るな、奴がいつ来るかわからん!砦の対空兵器を使え!」

 

 

砦を占領している一団が叫ぶ。何名かがバリスタに巨大な矢をつがえ、プテラノドンの迎撃準備を整えていた。

 

砦の内側では既に一触即発の雰囲気だ。イタリカは動くと負ける。盗賊団はイタリカの兵を動かす事が優先と見て、彼らを挑発していた。

 

砦での戦闘で出たイタリカ側の死者の首を切り、柵の向こうへと投げる。所々で悲鳴があがり、盗賊団がイタリカ住民へ罵声を浴びせる。

 

 

「この野郎!」

 

 

幾つもの死体が乱雑に扱われる中、遂に一人の青年が柵から飛び出した。そしてその青年を先頭に、イタリカの住民達がダムが決壊したかのような勢いで柵を超え出す。待て!とピニャが叫ぶが、怒号に塗れた戦場でそんな声が届く訳が無く、次から次へと人がなだれ込んでいく。

 

もう既にどうすることも出来ない。何もかも手遅れだ。元正規兵である盗賊団にただの住民の集まりが勝てる訳がなく、死体はイタリカの住民の分が次々に増えていった。

 

ピニャには敗北の足音が徐々に大きくなっているのが理解したくないほど分かった。必死に策を巡らす。しかし出てくるのは兵の士気を上げると言う基本的な戦略。それが出来ていればどれだけ楽かと自問自答する。今朝迎え入れた緑の人を呼ぶにしても、南門から東門までは相当な距離がある。とてもではないが間に合わない。

 

遂には頭が真っ白になり、ただ眼下で起きている惨状を見る事しか出来なくなってしまった。敗北は目に見えている。コレを覆す事は、今のピニャ達には不可能だった。

 

そう、ピニャ達には。

 

 

『ぎえぇぇぇぇええ!!』

 

 

 

突如、闇の中から不気味な声が響いた。柵の中で戦っている者達には聴こえなかったが、砦の盗賊団、そして柵の外にいたイタリカの兵達の耳には届いていた。

 

徐々に大きくなってくるその叫び声。それはバタバタと言う大きな音と共に夜の空を駆け抜け、東門の上空に姿を現した。

 

 

『ぐえぇぇぇええ!』

 

「て、敵だあぁぁぁ!」

 

 

盗賊の一人が叫ぶ。東門の上空で旋回を繰り返し始めたプテラノドンの二本の脚部にあたる部分には、大きな袋がぶら下げられていた。

 

 

「うわぁ.、随分攻め込まれちゃって…」

 

 

下の様子を観察していた教授が呆然とした様子で呟いた。あの赤いのが全部血液なのだと思うと吐き気を催してくるが、そんな事でダウンする教授ではない。

 

 

「まずは砦の連中から片付ける!」

 

 

ぐいっと操縦桿を倒す。首を大きく下に向けたプテラノドンは、嘴を一つのバリスタへと向けた。

 

狙いを定めたプテラノドンは、なんの躊躇も無く急降下する。

 

 

「おい来たぞ!撃て!」

 

「分かってる!…くそっ、射角が足りない!」

 

「こんなので真上なんか狙えるかよ!」

 

 

バリスタの死角は真下と真上である。教授はバリスタの真上から急降下を仕掛けていたため、狙っているバリスタに狙われる心配はない。しかし別のバリスタはそうはいかず、プテラノドンへ向けて射撃を開始した。

 

当たれば一撃で落ちるサイズのバリスタ弾だが、闇の中で高速に動く目標に当たるわけがない。プテラノドンが目標としているバリスタからは既に人の姿が無くなっていた。バリスタに付いていた盗賊達が大慌てで砦を走る姿が視界の端に映る。

 

ぐんぐんとバリスタとの距離を縮めていく。そして、教授がコックピットにあるレバーを引いた。

 

すると、ぶら下がっていた袋が傾き、幾つかの巨大な岩がバリスタに降り注いだ。バリスタは矢を射出する衝撃に耐えるため頑丈に作られているが、数百メートルから落とされる約30kg程の岩の数々に耐えられる訳ではない。吸い込まれる様にバリスタに落下して行った岩は、一つも外すこと無くバリスタに直撃し、バリスタは音を立てて崩れ去った。

 

その間に教授は機首を上にあげる。軽くなったプテラノドンはグンッと一瞬だけ上に引っ張られるような動作を見せると、猛スピードで上昇して行った。

 

軽さに反した馬力を生かし、一瞬でバリスタの射程圏外まで到達する。そして次の目標を決めると、教授は再度急降下を仕掛けた。

 

東門のバリスタは全部で4つ。それら全てを破壊する事など、教授と愛機プテラノドンにとっては造作もない事だ。

 

 

「無理矢理でも早く終わらせてやる!」

 

 

知能的な攻略方法を諦め、開き直って覚醒した教授。それとは逆に、砦は混乱に陥っていた。

 

 

 

 

またもや巨大な音を立てて2つ目のバリスタが破壊される。その音は砦内部で戦闘をしていた者達にも届き、砦内に一瞬の静寂が訪れた。

 

 

『フッハッハッハッハッ!』

 

 

低い笑い声が木霊する。今度はそれ全員がその声を聴いていた。

 

 

「翼竜!桃色の翼竜が来てくれたぞ!」

 

 

誰かが叫び、それに呼応する様にイタリカ兵が歓声を上げた。イタリカ兵の士気は一気に高まり、戦場はこれまでにない程の熱気に包まれた。

 

 

「もう負けることは無い!我々には空が味方している!」

 

 

今まで無敗、更に余裕な声で飛び続ける教授のプテラノドンは、イタリカ住民にはまさに救世主と呼ぶべき存在である。勝利を確信し始めたイタリカ兵達は、ナタや農具を握り直し、本日最高の怒号を発し、再度盗賊団に激突した。

 

着々と破壊されていくバリスタ砲。その破壊音すらも聞こえなくなるほど、砦内の声量は大きかった。

 

全ての対空兵器を破壊し終えたプテラノドンは盗賊団へと目標を変更する。当たったらタダではすまない重さの岩の数々が砦の上にいる残存兵に降り注ぐ。砦の上の戦力の注目は全てプテラノドンに注がれ、柵内の戦いに意識を向ける余裕もない。

 

既にプテラノドンに岩は残されていないが、少し小さ目の石が幾つも残されている。これは人を絶命させるほどの破壊力は無いが、気絶させるだけの威力は持ち合わせている。一人の負傷兵は二人の兵を足止めすると言う。気絶した仲間を少しでも安全な場所に移動させるため、何人かの盗賊が気絶した仲間を引きずって移動する。こうして少しずつ戦力が削がれて行った。

 

プテラノドンと教授のノーキル戦闘で数は減って来たが、それでも盗賊達の戦意は高いままだ。プテラノドンを撃ち落とそうと弓を取る者達と、イタリアの軍勢と戦う者達に分かれている。戦場はさらに混沌に包まれた。

 

しかし突如、黒ゴスの少女が戦場の只中に舞い降り、嵐のように盗賊をなぎ倒し、戦場に一時の静寂が生まれた。

 

黒ゴスの少女、ローリィ・マーキュリーが小柄な体に似合わない獲物の肩に担ぐ。それと同時に、砦の門が爆破された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三偵察隊の伊丹二尉より連絡。門上空を飛行する機体はイタリカ側の戦力の模様」

 

 

自衛隊の援軍である攻撃ヘリがイタリカに到着した。部隊を指揮している健軍一佐に情報が入り、健軍は窓からイタリカの空の拝む。攻撃ヘリよりも上空で、桃色の飛行物が旋回を繰り返しているのが確認できた。

 

 

「機体?あのピンクのドラゴンか?」

 

「プロペラが付いています。恐らくレシプロ機の一種かと」

 

「特地にレシプロ機だと?」

 

 

特地は基本、古代ローマと似たか寄ったかの文明が栄えており、技術力では車も開発されて無いほどの世界だ。プロペラを付けた物体は、この特地では自衛隊しか所持していない。

 

特地産のレシプロ機と言うのは有り得ない。だとしたら、アレはなんだ?

 

等と考えるが、コチラにとって無害だと言うのならば今は気にする事ではない。後で考えれば良いだけの話だ。

 

 

「全機攻撃開始!」

 

 

健軍の一声と共に、AH-1Sが対戦車ミサイルを放った。吸い込まれる様に城門へと向かっていき、城門を破壊する。これで砦の外にいた盗賊達は砦内に入ることはできないし、内部の盗賊も逃げる事は出来ない。

 

開戦の爆音が響くと、数多いる戦闘ヘリが盗賊団へと攻撃を開始した。上空からの射撃に盗賊団はなす術なく、一方的な攻撃を受けるのみだった。

 

既に一方的な殺戮と化した戦いを、健軍はコーヒーを飲みながら見る。砦の対空兵器は破壊されていて、ヘリを落とす可能性のある兵器は見当たらない。そう思い、ふと上空を見た。

 

 

「にしても、不格好な機体だな」

 

 

未だ旋回を続けるプテラノドンの両翼から点の様な光が漏れている。何発かの被弾を受けたのだろう。

 

 

「アレでよく飛べるものだ」

 

 

そう言えばあんな見た目の物をテレビで昔見たような気がする。と一瞬思ったが、気のせいかと適当に思考を区切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリによる攻撃が始まる少し前、南門から東門までの道のりを猛スピードで駆けるものがあった。

 

 

「ここにゃ道路交通法なんては無いんだ!飛ばせ倉田!」

 

「言われなくても分かってますよ!」

 

 

誰もいなくなったイタリカの街中を高機動車が爆走する。雄叫びにも似た音を発しながら、街を縫うように移動するその中で、伊丹と倉田が興奮した声で叫んでいた。

 

 

「間違いない、アレはプテラノドンだ!やっぱりあの獣人達はトッドとスマイリーだった!」

 

「てことはですよ、あれに乗ってるのは…」

 

『モリアーティ教授!』

 

 

二人同時に一際大きく叫ぶ。心なしか高機動車の速度が上がった気がした。

 

彼らはプテラノドンの正体もモリアーティ教授と言う獣人も、何もかも知っている。

 

上下左右に揺れる高機動車。後部座席に乗るレレイやらテュカやらは自分が倒れない様に必死に手すりに捕まっているが、助手席と運転席にいる二人の熱は収まることを知らず、寧ろ現在進行形で興奮度が上がっている。

 

伊丹もそうだが、倉田は伊丹よりも興奮していた。なんせ倉田は重度のケモナーだが、そうさせたのは幼い頃によく見ていた『名探偵ホームズ』と言うアニメと『モンタナ・ジョーンズ』の影響が大きい。

 

問題は、モリアーティ教授が『名探偵ホームズ』の登場キャラクターである事と、そのモリアーティ教授がどういう訳か現実に存在している事だ。

 

 

「まくれ倉田ぁ!」

 

 

伊丹に応える様に既にググッとアクセルを踏み込んだ。更にけたたましい音を上げて高機動車が急速にスピードを上げる。入り組んでいる道も多いイタリカだが、倉田は凄まじい運転テクニックで細道だろうが何だろうが乗り越えて行った。

 

それなりに距離のある道をあっという間に東門まで走行し、高機動車から飛び出した戦闘狂の栗林よりも速く駆け出した二人は、プテラノドンの背に白いマントがはためいている様を見て、大いに感動した。




少し時間が出来たので、少しずつコメント返信を再開しようと思ってます。あ、ご意見等などお待ちしております

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