すると、その宇宙船は欠けた結界に引き寄せられるかのように高度を落としてついには結界の内側へと入ってしまった。
宇宙船の乗員は振り下ろされて、宇宙船はどこかに不時着してしまう。
それは、人里が寝静まった真夜中の事だった
幻想郷の人里、人で賑わうここに明らかに異質な物があった。
それは幻覚宇宙人、メトロン星人が倒れている事だった。
「コイツ……!以前にここを襲った宇宙人に似てないか!?」
住人の1人が言った。
そう、このメトロン星人は以前人里で騒動を起こした宇宙人、メトロン星人jrの同族であった。
しかし所々に傷があり、起きる様子はない。
その様子に好機と見たのか1人の村人が声を上げた。
「この宇宙人、今のうちにトドメを刺しておかないか?」
その声に反応するかのように次々と声が上がっていく。
「そうだな!どうせ侵略者だし!」
「先に倒してしまおうぜ!」
盛り上がっていく所に、凛とした声が待ったをかける。
その声の主は霊夢だった。
「待って。この宇宙人は私が保護するわ」
そう宣言した霊夢に対して里人達からなぜそんな事を、宇宙人の肩を持つのか、と言った抗議の声が上がる。
しかし、霊夢は表情一つ変えずに「誰にでも平等に接するのが博麗の巫女の役目だから……それだけよ。侵略する意思を見せたら、私が責任を持って倒すわ」そう言われては、何も言い返せない里人は引き返すしかなかった。
博麗神社にて、メトロン星人の治療をして寝かせた霊夢は彼を横目に意識が回復するのを待っていた。
なにせ、事故なのか何者かに襲われたのかは今の状況ではわからないからだ。
彼が目を覚ましたのはそれから数時間してからの事だった。
腕をピクッと動かし体を起き上がらせて、怪訝そうに辺りを窺う。
すると、霊夢が部屋に入ってきたのだった。
「あら、目が覚めた様ね」
物怖じする様子もなく、メトロン星人に話しかける霊夢に彼はこう尋ねた。
「私の怪我を直してくれたのは……君か?」
「ええ、そうよ。私は霊夢、貴方の名前は?」
名前を尋ねられたメトロン星人は、自分を助けてくれた恩人に礼を言うと自己紹介をする。
「ありがとう、私はドーカと言う者であり……地球ではメトロン星と呼ばれている星から来た異星人だ」
軽く自己紹介をすれば霊夢は重要な事を質問する。
「この幻想郷を侵略する意図は?」
「そんなもの無いさ。助けてくれた人がいる場所を荒らす訳にはいかないからね」
そう言った彼の目に、嘘は感じられなかった。
「じゃあ最後に……何でボロボロになって倒れていたの?」
その問いには俯きながらも答えた。
「……アイツに、ゴドレイ星人に狙われて逃げ延びた先がここなのさ」
「……ゴドレイ星人?」
「……奴は悪意そのものだよ。欲望のままに略奪を繰り返し、本能のままに破壊を振りまく。……まさに星の破壊者さ」
「じゃあ。何で狙われたのか教えて」
その問いに、ドーカは一枚の怪獣が描かれたカードを取り出して見せる。
そこにはゼットンが映っていた。
「このカードだよ。コイツはとても強力な怪獣で、使い方を誤れば多大な犠牲が出るであろうから、ゴドレイ星人やゼラン星人、ヤプールの連中などの手に渡らない様に守ってたんだが……」
「突き止められて、狙われたと」
「……ご名答。命とこのカードは死守しては見たんだが、ここがバレるのも時間の問題だろうね……」
「結界と言う名の扉より来たる者……か。大丈夫、貴方は私が守って見せるから」
「ありがとう……」
ゴドレイ星人が来るまでの間、霊夢はドーカの傷が癒えるのを待つのだった。
しかし、襲撃の時は予想以上に早かった。
ゴドレイ星人はお供の怪獣であるムルチと共に、幻想郷の人里近くの森に降り立ち、人里の者達に語り掛けた。
「ここの原生生物達に告ぐ、今すぐにメトロン星人をこちらに引き渡せ。さもなくば、このムルチがこの場所を破壊し尽くすであろう!」
ゴドレイ星人による脅迫に対して、人里の人間達は大騒ぎだ。
あの宇宙人を差し出そうと神社に向かおうとする者、宇宙人が信用ならない者、みな一様に自分が助かりたかった。
「……ククク、身を守る攻撃手段の無い者は窮地には自分しか見えなくなる。私の指示通りに動く筈だ」
その表情の見えない顔で薄笑いを浮かべながら目的の代物が運ばれてくるのを待つ。
その様子を、霊夢達は神社から見ていた。
「アイツがゴドレイ星人ね。人間達を脅迫するなんて卑劣な……」
そんな事を言っている間に、ドーカは境内でゴドレイ星人を見て、ある決意をしていた。
「ドーカ、アンタまさか……」
「ああ、行くよ。あのゴドレイ星人の元へ」
「で、でも……!あんな奴の事を聞く必要なんて……」
引き留めようとする霊夢に、ドーカは言葉を遮った。
「私はやられに行くわけでは無い。アイツと決着を付ける為に行くんだ……霊夢、君には悪いがあの怪獣……ムルチを押さえていてくれないか」
その言葉に頷いて、霊夢はゴドレイ星人の元へ飛ぶドーカを見送った。
メトロン星人を引き渡すように神社へ行った人里の人間が、神社への階段を登った頃にはドーカはゴドレイ星人の前に立っていた。
「ほう、メトロン星人よ……ずいぶん素直に私の元へ来たんだな?さあ、目的のカードを渡してもらおうか……」
鎌状の腕を差し出すゴドレイに、ドーカはその腕を払った。
その仕草に、ゴドレイ星人は逆上する。
「貴様、この俺に逆らうだと!?元から生かしておくつもりなどなかったが、貴様は俺達がいたぶって殺してやろう。ムルチ、来い!」
そう命令するが、ムルチはゴドレイの元へ来ない。
彼がそこに目を向けると、霊夢と魔理沙がムルチの足止めをしているのだった。
「チッ、仕方ない……俺だけでも貴様を倒すのには十分だ。俺の技で倒れる事、光栄に思え……!」
ゴドレイの胸から出された光線を軽くかわし、返しの銃弾を浴びせるドーカ。
少し怯むも、腕に巻かれたリボルバーにどこか納得したように声を上げる。
「ふふ、メトロン星人よ。武装し私を倒して……勇士の証明でもする気か?」
出来る筈ないだろう、とも思える口調だが、ドーカはそれに乗らずに相手を見据える。
「シカトか……それでもよい、貴様は俺に勝てないのだからな!」
また即座に光線を放つゴドレイ星人。
ドーカはそれをかわして銃弾を放つも、走って来たゴドレイ星人のパンチによって薙ぎ払われてしまう。
「うあぁっ!」
転けたドーカをゴドレイ星人は見逃さず、動けないドーカに光線を撃ち出す。
当然回避できるはずもなく、立て続けに三発も食らってしまう。
誰もがメトロン星人に勝ち目はないのか、そう思った瞬間であった。
ドーカはよろめきながらも立ち上がり、ゴドレイ星人の方を見据える。
「ほう、貴様にまだ立ち上がれるだけの力が残っていたとはな。良かろう……我が最強の光線で跡形もなく消し去ってやる」
そう言って、胸にエネルギーをチャージしていく。
大きな隙であり、見逃さずに弾を撃てどもビクともしない。
刻一刻と溜まっていく光線に、何か使えるものは無いかと探したメトロン星人ドーカ。
目を付けたものはムルチだった。
立てた作戦を実行すべく霊夢と魔理沙の名前を叫ぶ。
彼は霊夢と魔理沙と自分の3人でムルチを倒す事、とだけ明かした。
ドーカがムルチの背後から羽交い締めをして、霊夢と魔理沙が必殺のマスタースパークと夢想封印を放った。
抵抗もできず回避もできない、そんな状況でモロに二つの必殺技を喰らえば流石の大怪獣もピンチに陥ったのだ。
ドーカは時期もいい頃だろうと見計らい、ゴドレイ星人の方へと蹴飛ばしていく。
そして駄目押しに背後から弾幕を浴びせてムルチのトドメを刺した。
一方、たった今光線をチャージし終わった途端に至近距離にムルチがやってきたゴドレイ星人からすれば溜まったものではなかった。
蹴飛ばされてきたムルチが自分に密着してメトロン星人の盾になったばかりか、ムルチ死亡時の爆風も襲いかかって大ダメージを負ってしまったのだから。
呻き声を上げながら膝をつくゴドレイ星人に、ドーカはラウンドランチャーから弾幕を絶え間なく浴びせる必殺技「シューティングバラージ」を使用した。
自慢の鎌風の腕も爆発し、本体も蜂の巣になるゴドレイ星人。
もはや光線どころか立ち上がることすら不可能であった。
弾が止んだ後、ゴドレイ星人はドーカにこう言い残した。
「ククク……俺を倒したと思って喜んでいるのなら、それは大きな間違いだ。貴様を狙う者は俺だけじゃない、この宇宙にごまんといるのだ。そう、まさに無限の侵略者がな。フハ、フハハハハハ……!」
高笑いをしながら、侵略者は倒れ伏して爆発四散したのだった。
翌朝、ドーカは神社で手当を受けていた。
「うっ……痛い、傷口にしみる」
縁側で傷口に薬がしみるのを痛がる彼に、昨夜の人里を救った英雄の面影はなかった。
「ほらほら、もっと痛くなるんだからじっとしてなさい」
霊夢に治療されているドーカの元へ、人里の男性が1人やってきたのだった。
それは、以前クール星人の件で博麗神社に駆け込んできた達也だった。
「あの、貴方を侵略者だと疑ってすみませんでした……こ、これはお礼とお詫びの品です。では……ありがとうございました!」
そう言って、紙袋を霊夢に手渡して去って行った達也。
中には大量のみかんが入っていた。
「あんたこれ、食べれる?」
「口がないように見えるが、食べられるさ」
今日の博麗神社のオヤツは決まったようだった
次回予告!
あの卑劣な宇宙人、ゼラン星人が霊夢に挑戦状を叩きつけた!
頑強なる怪獣モンスアーガーとゼラン星人の挟撃に霊夢は勝てるのか。
次回幻想怪獣記「悪魔は三たび」お楽しみに