『ただ今よりBブロック二回戦・第一試合。
大洗はまぐり高校タンク道部 対 大津水産工業高校の試合を開始いたします』
戦いの始まりを告げるウグイス嬢のアナウンスが鳴り響き、たちまちつくばガンプラセンターのホールに歓声が沸き上がった。
第十三回ガンプラバトル選手権・茨城予選。
全国制覇の悲願に燃える茨城県民の祈りを受け、両のゲートから選手たちが会場に姿を見せる。
「よぉっし! やるぞみんな、パンツァー・フォーだッ!!」
「いくぞ兄弟! 俺らんたちが心の漁火、この人波に見せつけてやるっぺ!」
北側のゲートから、思い思いの衣装を纏ったタンク乙女がやってくる。
南側のゲートから、捻じり鉢巻きにドカジャン、ゴム長靴で揃えた海の男が、大漁旗を担いでやってくる。
わっ、と再び両陣営から声援が上がる。
かたや茨城県下最大のジオン水泳部ながら、実力的には中堅程度の大津水産。
かたや一回戦をよく分からないノリと勢いで勝ち上がって来たはまぐり高校。
ガチを望む歓声では無い。
例えば、ガラパゴスゾウガメ対カバであるとか、あるいはエイリアン対ニンジャであるとか、そう言った『誰もが想像したけど誰もやろうとはしなかった』夢のカードに対する怖いもの混じりの声援が、会場中で化学反応を起こしスパークしていた。
テーブルを挟んだ両チームが一礼し、それぞれのベースに機体を据える。
ごくり、と、さすがにこの時ばかりは歓声が収まる。
緊張の一瞬である、次の瞬間に戦いの勝敗が決まると言っても過言ではない。
フィールド選択……。
極端な機体色ばかり寄り集めた両チームは、地形の影響をダイレクトに受ける。
CPUのランダム采配が、仮に海を選んだならば、その瞬間に大津水産の勝利が確定する。
その逆、遮蔽物の無い草原や砂漠ならば、はま高の完勝。
ジャブロー基地内のような狭所なら五分か、やや大津水産に有利。
「……来る、浜潮の香り!」「……ッ!」
CPUの抽選を待つテーブルを挟み、両チームの視線が火花を散らす。
運否天賦、ではない。
プラフスキーの神は、人の子の心の光を良く見ている。
機体に対する情熱、積み重ねられた時間、執念、苦悩も涙も、喜びも。
この戦いは、言わば前哨戦。
どちらのチームが、よりガンプラを愛しているか?
どちらのチームが、よりプラフスキーの神に愛されているか――?
『―― Feild select 【 Battle of Loum(ルウム戦役) 】』
「げえっ!?」「んぎゃ!?」
「あわわわわ」「まあ、どうしましょう?」
「タ、タイムタイム! タイムです!」
「さすがゴッグだなんともならないぜ!」
気紛れなプラフスキーの神に代わり、笑いの神が会場に舞い降りた! !
瞬く間に星屑に満ちる戦場を前に、両陣営が慌てて機体を持ち替える。
「コ、コバヤシ・ヒロミ! リック・ガンタンクで出撃します!」
「マユヅキ・ミカ、右に同じ!」
「はい、リックガンタンクさんで出撃しますね」
「リックアッガイ、出撃すっぞ!」
「リ、リックゾック、行きます」
「さすがリックゴッグだ、宇宙でもなんともないぜ!」
ややあって、双方から出撃の合図が上がった。
たちまち火花を散らしてカタパルトが走り、おかしげな機体が六機、広大な宇宙の海へと飛び出して行った。
・
・
・
暗黒に満ちた、無限の海原が広がっていた。
静寂なる空の彼方は、数多の残骸が墓標となって漂う鋼鉄の墓場であった。
ルウム戦役。
一年戦争の序章となった一大開戦である。
この戦闘において投入されたジオン最新鋭の兵器、MS『ザク』はその性能を如何なく発揮。
宙域の各所で戦史を塗り替えるほどの華々しい戦果を収め、公国勝利の立役者となった。
栄光とロマンに満ちた戦場の跡には、時代に乗り遅れた船乗りたちの魂が今も漂う。
その無数に流れるデブリの波を掻き分けるように、三台の戦闘車両が、自慢の履帯も回さず静かに進んで行く。
「ふ~い~、まさか本当に宇宙でタンク道するハメになろうとは。
三バカたちの保険が効いたなー」
慣れないスラスター操作におっかなびっくりしながら、独り言のようにミカが呟いた。
たちまち、同型の僚機から通信が入る。
「はい、備えあれば憂い無し、ですね」
「けど、本当にガンタンクで大丈夫なのかなあ?
こないだの砲弾学園戦だって、結局最後はぐだぐだで終わっちゃったのに……」
「ガ、ガンタンクには宙域戦闘の実績があるんだから、最低限の戦闘能力は保障されてます!」
珍しいミカのぼやきを打ち消すように、頭を振るい、ヒロミが声を張り上げる。
「むしろ不気味なのは、サブ機体まで水陸両用機で固めて来た相手の方……」
言いながら、まじまじとスコープを覗き込む。
果たしてカメラの先には、あちらこちらに蛇行しながら近づいてくる三つの機影が現れた。
「行くぞイソノ、ヤマモトヤマ、ゼーゴックの快挙に続けえ!」
先頭を行くアラマキ選手のアッガイが、後方の僚機に対し発破をかける。
ちんまりとした両手に掲げた『大漁』のビームフラッグが、暗黒空間にキラキラと煌めく。
「宇宙の海は俺らの魂の故郷!
抜群の機密性に流線形のボディ、フレキシブル・ベロウズ・リムを活かしたアンバック!
水陸両用MSってのは、宇宙で戦うために生まれて来たんだよォ!」
「いや、さすがにその理屈はおかしい」
「バカ野郎イソノッ、お前、オカザキ漫画版読んでねえのかよ!?」
後背を酔っ払いのようにフラフラと追って来る相方・イソノ機のゾックに対し、大津水産主将、アラマキの駆るアッガイが短い両手をバタつかせて抗議する。
その遥か後方を、小山のようなずんぐりむっくりとしたMSが悠然と追って来る。
「さすがゴッグだ、殿に回ってもなんともないぜ」
「ヤマモトヤマ! お前はもっと前に出ろや」
「さすがゴッグだ、周りが合わせてくれればなんともないぜ」
最前線に打って出たゴッグの速度に合わせ、海男自慢のMSたちがノロノロと迫りくる。
射程距離の外で漫才を続ける敵軍に対し、焦れるようにミカが叫ぶ。
「うっあ~、イヤんなるなあもぉーっ
あたし、こういう時間苦手ー」
「もうすぐ射程内ですが、どうしましょうか?
前面にデブリが多すぎて、うまく狙えるかどうか……」
「今回、こちらには前衛役の機体がいませんから、とにかく、やるだけやってみましょう」
「はい、了解しました」
ヒロミの回答に微笑して、トモエが右のスフィアを動かす。
両肩のキャノン砲がゆっくりと正面を向き、先端にくくりつけられた黄色のハンカチーフがふわりと揺れる。
「120mmキャノン、砲撃を開始いたします」
「あ……、そうだトモエさん、宇宙空間では踏ん張りが効かないかr」
――ドワォ!!
「ひゃあっ!?」
「あ~れ~」
「ト、トモちゃんッ!?」
強烈な炸薬の衝撃に砲塔が跳ね上がり、反動のままにトモエのタンクが後方に沈んだ。
驚いたミカが慌てて振り向くと、視線の先ではトモエ機がクルクルと回転していた。
「まあ、何が起こっているんでしょうか?」
「トモエさん、逆噴射! 逆噴射をかけて!!
左手でスラスターを操作して下さい」
「ええっと、これでしょうか?」
「あわわ! 違う! それじゃあ逆! 加速しちゃう!」
慌ててミカが制止するも、時すでに遅し。
小型の流星のように加速したトモエ機が、見詰める二人の視界から消えていく。
ようやく制御が追いついた頃には、すでに機体はレーダーでしか追えない光点と化していた。
「ど、どうしよヒロちゃん!? 救出に行こっか?」
「ううん、今からだと背後から攻撃されちゃうよ。
幸い方向的にリングアウトは無さそうだから、私たちはここで粘りましょう」
「そ、そっか、うん、分かった」
こくりと一つ頷いて、ミカが再び敵正面に向き直る。
エースであるトモエを外しての不慣れな砲撃戦。
一つだけ幸運であったのは、敵もまた慣れない戦闘に算を乱していた事であろう。
「だ、大丈夫かヤマモトヤマ!」
トモエの砲撃をマトモに受け、近場の岩礁に思い切り叩き付けられてしまった僚機に対し、リーダーのアラマキが必死で檄を飛ばす。
「……さ、さすがゴッグだ! なんともないぜ!」
「おま……!
ま、まさかそれを言いたいがためにワザと回避しなかったんじゃないだろうな?」
「さすがゴッグだ、回避はしたけどなんともないぜ」
チームメイト、ヤマモトヤマの力強い応答に、ひとまず一同は落ち着きを取り戻し、ジオン特有の鋭い単眼をあらためて敵陣へと向け直した。
「お、おいアラマキ、何だか知らんが、向こうさん一台減ってるぞ」
「フフ、好機! どうやら相手も宙域戦闘は不慣れとみた」
「いや、さすがにこれ程あからさまなのは……」
「さすがゴッグだ、罠だとしてもなんともないぜ!」
男らしい雄叫びを上げ、ヤマモトヤマのゴッグ機が勢い良くノロノロと動き始めた。
たちまち牛歩戦術で突撃を試みる兄弟船に対し、タンク道チームが反攻を開始する。
「くのっ こんのっ あったれーっ!」
「ミカ、あんまりムキにならないで。
狙いを絞る事よりも、撃った後の姿勢制御に注意して!
相手の間合いに入らないよう、砲撃しながら少しずつ後退します」
「オッケー、……ん?
それってもしかして、うまいこと撃ち続ければ、反動でどこまでも逃げられるって事?」
「え? あ、うん。
言われてみれば、確かにそうかもしれないけど……」
ボン! ボン! ボン!
「わーい! あははー! たーのしー!」
「あわっ!? ミ、ミカ!?」
言うが早いか、不意にミカ機が活発に砲弾を撃ち始めた。
狙いもそこそこ、矢継ぎ早に砲撃を繰り出し、その反動で右に左に飛び退る。
はじめは狼狽の声を上げたヒロミもまた、ミカに倣い、おっかなびっくり砲撃を再開する。
「お、おいアラマキ……。
さっきから俺ら、全然相手に近付いてないような気がするんだが」
「弱気になるなイソノ!
漁師にとっちゃあ、いつだって陸は遠くに見えるもんじゃ」
「さすがゴッグだ、デブリが邪魔だがなんともないぜ」
悠然と宇宙の深海を行く大津水産、胡散臭い砲撃術で後方に逃げるはまぐり高校。
まったく新しい宇宙鬼ごっこの開始から、三分が経過した。
「う~、やっぱデブリが邪魔でうまく当んないなあ」
「ミカ、そろそろ場外が近いよ。
いい加減、何か別の作戦を考えないと……」
「む、そうか、どないしよ?」
――PRRR PRRR
不意にその時、手元のコンソールより通信が届いた。
怪訝に眉をしかめ、ミカがチャンネルを切り替える。
『――ミカ、おいミカ、聞こえてるか?』
「はーい、どったのギンちゃん、あたし今は戦闘中なんだけど?」
『分かっとるがなっ!
じゃなくてよミカ、後方にあるムサイ艦を使え』
「使え、って、いったい何を……、うわわっ!?」
後方の戦艦に寄せた瞬間、不意にミカの全身が強烈なGを受けた。
驚く間もなく機体が死んだハズの廃艦へと引き寄せられ、その外壁に乱暴に着地する。
「な、なにコレ? キャタピラが戦艦に張り付いちゃったよ!?
一体どうなってんの?」
『ニャガニャガ、マグネットパワーですよミカさん。
こんな事もあろうかと、チタン合金製の履帯には事前にとっぷりと帯磁させておいたのです。
その艦壁の上ならば、さながら地上戦のように自由自在に走行できますよ』
「グロロー!
すごい、このガンタンクすごいぞギンちゃん、さすがガンダムのお兄さん」
「えっと、その……、シャ、シャババ……。
と、とにかくッ! 今はここに籠って兄弟船を撃退しましょう!」
ヤケッパチになったヒロミの号令に合わせ、完璧タンク道部が砲撃を再開する。
突如として完璧に精度を上げた弾丸の飛来に、思わず水泳部の追い足が止まる。
「ク、クソッ、あいつら、艦上射撃とは味な真似を……」
「アラマキ! 相手が足を止めてくれたんならゾックの出番だ!
メガ粒子で艦壁ごと蒸発させてやるぜ」
「おお、やってくれるかイソノ!
よし、ヤマモトヤマ、俺たちは前に出て砲弾を防ぐぞ!」
「さすがゴッグだ、盾にされてもなんともないぜ!」
アラマキの号令に合わせ、たちまち兄弟船が陣形を整える。
重厚なMSの盾に守られ、やがて嘴のような胸甲の両脇に、プラフスキーの煌きが溢れ始める。
「チャージ完了、メガ粒子ほ――」
――ドワオッ!!
突如、ゾックの左足が火を噴いた!
予想だにせぬ砲撃に大型ブースターが爆ぜ、為す術も無く上方に弾き飛ばされていく。
「イソノ!? どこへ行く!!」
「ぬぅおおおお~っ!? ゾ、ゾックに聞いてくれェ―――ッ!?」
ようやく我に返ったイソノが復帰を試みるも、焼け石に水。
元々両足に大型熱核ロケットエンジンを搭載すると言う豪快な魔改造で宇宙の海に飛び出したリックゾック。
片足を失えばバランスが死ぬ、こうなってしまってはAMBACどころではない。
海の男の断末魔が暗黒の彼方に潰え、やがて、機体は完全にロストした。
「だ、誰が撃ったの!? 今のはあたしじゃないよ?」
「見て! ミカ」
ヒロミの声にに促され、砲弾の出所を探し望遠を向ける。
果たして、フィールドの隅ギリギリ一杯、巨大な隔壁に背を預けピコピコと手を振るタンクの姿がそこにはあった。
「トモちゃんのガンタンクさん!?
ウソ! だって完全に射程距離の外じゃんか!?」
「え、ええっとね、重力の無い宇宙空間では、理論上、砲撃距離に限界が無くなるんだよ。
発射された砲弾は、原則として、失速する事無くどこまでも飛んでいきます」
「ウソ! スッゲー!
そっか~、ガンタンクって、宇宙で戦うためのタンクなんだー」
「や、いや、でも。
距離が離れれば着弾までのラグは増えるし、ただでさえこの宙域はデブリだらけで。
そもそも射程距離の外を狙えるスコープなんてあるワケないし。
トモエさん、ほ、本当どうやって当てたんだろう……?」
幸福の、黄色いハンカチ……。
不意に脳裏を過った新たなガンプラ・オカルトに、ぞくり、と両陣営の背筋が凍り付く。
大きな頭をブルンブルンと振るい、我に返ったアラマキのアッガイが動き始めた。
「うおおお! こ、こうなったらもうヤケクソだァ――ッ!!」
「さすがゴッグだ、置いてけぼりでも何ともないぜ」
シンボルのビーム大漁旗を打ち捨て、アッガイが高飛び込みのように頭から突撃する。
たちまち迫り来る巨大な頭部に、ミカもまた、慌てず騒がず照準を合わせる。
「マユヅキ・ミカ・ストラトス! 狙い打つぜ! 言ってやったぜ!」
得意気なキメ台詞と同時に、両肩のキャノン砲を叩き込む。
砲弾は狙い違わず、茶色の頭部を真っ直ぐに叩き潰すかのように見えた……、が!
――ガン!
「んいっ!?」
弾かれた。
思いもよらぬ事態を前に、砲撃したミカの方が素っ頓狂な声を上げる。
アッガイの丸っこい頭部は着弾の衝撃を均等に分散し、その勢いを斜め後方へと逸らしたのだ。
頭部を思い切り凹ませながら、尚も勢いを削ぐ事無く、129tの巨体がタンクへと迫る。
「見たかッ!
重厚な頭部の装甲、頭頂部に集中する火砲、そして真上までフォロー出来るモノアイ!
つまりアッガイてMSはなあ、宇宙で戦うために生まれたんじゃいッ!」
「そ、そんな無茶苦茶な!?」
「喰らえィ! ザクマシンガン×4」
射程距離に獲物を捉えたジオンの漁師が、たちまちありったけの火力を解き放つ。
さしものミカも反応が遅れた。
降り注ぐ弾丸が、ガンタンクの肩を、胸を、叩き、遂には右の履帯を直撃した。
「し、しまった、キャタピラが!?」
「もらったァ! 大漁だっぺ!」
「オ、オープゥン!!」
至近距離に迫る大顔面を前に、本能的にミカが右のスフィアを押し込んだ。
たちまちボシュウ、と背面のバーニアが火を噴き、瞬間、ミカのタンクが腰元から分離した。
「えっ?」
鈍重な履帯を切り離し、ガンタンク・トップが再び宇宙に舞い上がる。
一瞬、すれ違いざまに両機の目が合い、それゆえにアラマキは反応が遅れた。
直後、加速した顔面は履帯を押し潰し、勢い余って老朽化した艦壁を突き抜けてしまった!
「し、しまったァ!? 頭がハマっちまった!」
「ヒロちゃん、チャンスチャーンス。
ほらほら、撃って撃って」
「えと、あの、その……、ゴ、ゴメンなさァいッ!!」
キュラキュラと、おっとり刀で駆け付けたヒロミ機が、眼前でわたわたもがくアッガイのドテっ腹へ向けて両手をかざした。
ほどなく発射されたミサイルが至近距離で爆裂し、炉心を巻き込んで盛大な爆炎を巻き上げた。
「よし! これでもう後はゴッグを残すのみだ!」
「ミカ機はそのまま上方に迂回してください。
三方向から敵を滅多打ちにします」
「さすがゴッグだ、三対一でもなんともないぜ」
そして、
それはもう、試合と呼べる光景では無かった。
三次元の立体機動を生かし、タンク乗りが三方から砲弾を釣瓶撃ちにする。
対し、ゴッグもまた腹部のメガ粒子砲で応射を試みるのだが、その度に機体を弾かれ、態勢を立て直すだけで精一杯であった。
この悲惨な猛攻に対しても、なんともなさが取り柄のゴッグはよく耐えた。
が、それだけである、なんともないだけであった。
「さすがゴッグだ、タコ殴りにされても何ともないぜ」
「コ、コイツ、なんでこんなになんともないの?」
「……おそらく敵機は、装甲をチタン合金でフルメタル化する事によって、
劇中のなんともなさを再現しているのだと思われます」
「あの、そんな改造をしたら、まともに動けないのではないでしょうか?」
「さすがゴッグだ、酷評されてもなんともないぜ」
そんな雑談をしている内に、試合は終わった。
まず最初にゴッグのエネルギーが尽き、次いで推進剤の尽きたミカ機がデブリと化した。
ヒロミ機とトモエ機は最後まで奮戦するもついに弾薬が尽き、後はただ虚しい時間が過ぎ去っていった。
『 Time Over 』
『――ただ今の勝負、残存数3対1をもって、大洗はまぐり高校の勝利です』
ウグイス嬢のアナウンスを受け、拷問のような時間にようやく終わりが訪れた。
三十分の死闘を戦い抜いた両校に対し、注がれる拍手は
「ふふ、良い勝負だっぺ、まさか陸ガメが宇宙を飛ぶとは、な」
「へっへ、そう言う海ガメだって、見事な泳ぎっぷりだったよ」
「さすがゴッグだ、負けちまったがなんともないぜ」
「はい、私も貴重な経験をさせていただきました」
「ふっ、次は正々堂々、海の上で決着をつけるとしよう!」
「お断りします♪」
若者らしい爽やかな挨拶を交わし、ようやく会場に涼やかな風が吹く。
駆け付ける三バカの顔を見て、気の緩んだミカが大きく息を吐き出した。
「ふっへーっ、いやあ、宇宙戦はもうこりごりだよ」
「ニャガニャガ、よくやったぞミカ。
今日はもうゆっくり休め……、と、言いたい所だが」
「大尉! ダウンするのは隣の試合が終わってからであります」
「隣の……?」
マイの言葉を受け、ミカが奥のバトルシステムへと視線を向ける。
瞬間、はっ、と猫目が大きく開いた。
ミカたちが不毛な泥仕合を続けている内に、隣のスペースでは二戦目が佳境を迎えていた。
白い機体であった。
高貴をそのまま形にしたような純白のMSが、不毛の砂漠に照り付ける陽光に紛れるように、ふわり、ふわりと舞っていた。
そこが戦場である事を忘れたかのように、鮮やかに天空のワルツを踏む。
地上より放たれるビームの燐光が、そのステップの間を測ったように摺り抜けていく。
簪のように頭部に指した淡いブーケが、いっそ涼やかにそよ風に揺れる。
当らない。
痺れを切らしたズサが、上空で戯れる胡蝶目がけ、全ミサイルの砲門を解き放つ。
「戦場は、お姉さまのダンスに見とれる場所ではありませんの」
不意に横合いから、強力なプラフスキーの光がズサを灼いた。
射出される直前のミサイルが次々に誘爆し、巨大な砂の柱を上空に巻き上げる。
敵影の消失を認め、遥か後方、青い機体の中で、マスノ・ヒタチが意地の悪い笑みを作る。
「やるわねマスノさん、私の獲物はドコかしら?」
ちろり、と真っ赤な舌を上唇に這わせ、カシマ・エイコが真紅の機体を走らせる。
たちまち飛んできたビームライフルの閃光が、機体の前に浮かぶ輪の中に吸い込まれ、バシュウ、と掻き消される。
プラネイト・ディフェンサー。
オーバースペックの魑魅魍魎が跋扈するACで開発された、最強の盾である。
メリクリスとヴァイエイト。
『最強とは何ぞや』と言うロボットアニメ永遠の命題に対し、頭のおかしい博士たちが下した回答の一つである。
最強の盾を操るメリクリウスが前線に立ち、最強の矛を有したヴァイエイトが後方から焼く。
シンプルにして、至高、ゆえにタチが悪い。
「……やるなあ
前試合のお口直しとばかりに盛り上がりを見せるを観客に対し、どこかぼんやりとミカが呟く。
「まあ、確かに、風神雷神のコンビネーションは全盛期から完成されてるもんさ。
機体性能がシンプルなだけに、誰が使ってもそこそこサマになっちまう」
「かおりん、詳しいでありますね?」
「言っただろ、西東京のネッ友の受け売りさ」
「うん、確かに両機のコンビネーションは、敵に回すと恐ろしいものがあるんだけれど……」
ためらいがちなヒロミの声が、徐々にか細くなっていく。
その先は聞くまでもない。
この戦場の主役は、あくまでも上空のビギナ・ギナであった。
あと半歩でも踏み込めば、たちまち必殺の一撃を叩き込める。
そんな危険極まりない水域を、さしたる風もなく純白の乙女が踊る。
舞姫に上空を抑えられ、対手はどうしても上方への警戒を切る事が出来ない。
かしましへの対応が、どうしても受け身に回ってしまう。
さながら牧羊犬に誘導される羊の群れにも等しい。
結局、この試合、リュウザキ・アゲハは一発たりとも発砲する事無く勝利を収めた。
その実力を隠したままでの完勝。
ギャラリーから、ため息交じりの喝采が上がる。
両脇で黄色い声を上げるかしましに対し、アゲハはどこまでも悠然としていた。
ふわり、と軽やかにターンを決めると、結い上げられた真紅の髪が鮮やかに揺れ、微かに金木犀の香りが広がった。
「ふん、相変わらず、気取ってやがんなあ」
「部長、それ、聞こえるように言ってやったらどうだ?」
「ば、バッカ言うなよかおりん!
おい、行くな二等兵! お願い、やめて、マジやめて!」
「…………」
傍らでいつものノリの漫才を始めた三バカに対し、珍しくミカは押し黙ったままであった。
そのらしからぬ姿を認め、トモエがきょとんと首を傾げる。
「ミカさん、どうかなさいましたか?」
「……ゴメン、ヒロちゃん、トモちゃん?」
「ミカ?」
「あたし、ちょっと行って来るッ!」
瞬間、ミカは顔を上げ、一直線に走り出していた。
その瞳は真っ直ぐに、リュウザキ・アゲハの背中を追っていた。