「いったいこれはどういう事でしょうか!」
普段は儚げな印象を与える彼女が、両の手のひらをテーブルに叩き付ける。
その鬼気迫る怒気に幾人かが彼女へと顔を向ける事も出来ず身を震わせたが、その問いに答える者は誰も居なかった。
特別防衛艦隊旗艦へと着任した扶桑への作戦説明が行われている大本営の大会議室は異様な静けさに包まれていた。
其処に居並ぶ参謀達も司令官達も皆、一様に頭を垂れて、膝の上できつく握り締めた己の拳を見つめるだけである。
「……君が目を通した書類に記されておるとおりだよ、扶桑君」
上座の席に腰を下ろす老人が努めて冷静に告げた。
その老人へと扶桑は更に言葉をぶつける。
「作戦要項にある防衛線を維持せよとは、まさか艦隊六隻のみで深海棲艦の侵攻を防げというのですか?」
扶桑が分厚い作戦資料をテーブルへ叩き付けた。
「しかも、肝心の作戦の仔細は現場の艦隊司令に一任とされているのは何故です!?」
これではまるで、現場への丸投げではないか。あまりに無責任である。
「海上戦力は艦隊六隻と艦隊司令の実験艦のみである。が、泊地奪還が成功すればそこを拠点とし、支援部隊を送り込む予定である」
じろりと扶桑を一瞥して、老人は説明を続ける。
「艦隊司令に一任するのは戦況の変化に合わせ、柔軟に対応するための処置である。まさか君は逐一、大本営からの命令がなければ戦えないとでもいうのかね?」
「現場の判断を最優先、という事でよろしいのですね」
「防衛線を維持し続けるという作戦目的に沿っていれば問題ない。さて、質問は以上かね」
「………」
有無を言わせぬ元帥の物言いに対して、扶桑はただ睨むことしか出来なくなる。
「ふむ、では速やかに艦隊と合流し作戦を遂行しなさい」
いまだ睨み続ける扶桑に対して老人は冷たく退室を命じた。
扶桑が立ち去って暫く後、老人の傍らに座した参謀長が口を開いた。
「元帥閣下、あのような言葉でよろしかったので?」
「あのような物言いしか出来ぬよ。どう言い繕おうとも、彼女達に沈めと言っておるのに等しいのだから」
静かに告げる元帥に参謀長は眉をひそめた。
「しかし、あれでは……」
「憎まれておるであろうな。だがな、それでよいのだ。我等が彼女達に恨まれ憎まれようとも、この国と国民が守られれば、それでよい」
元帥は深く深く、息を吐いた。
「ましてや、ゆくゆくは腹を切らねばならぬ身ぞ。憎んでくれた方が余計な気遣いをせずに済む」
「申し訳ありません。我々が不甲斐ないばかりに……」
元帥に対し、参謀長は深く頭を下げた。
長い永い年月を掛けて研究し、積み上げてきた戦略も戦術も、深海棲艦の前では悉く破られてきたのである。
これまで、対処法すら見いだせぬまま、多数の艦艇と将兵を喪失してきた。
そして、いままた艦娘達を無策のままに死地へと送り出そうとしている。
「本来ならば背に庇うべき婦女子を前線に立たせねばならぬとは、男児としては何とも情けないものよ」
元帥の自嘲の言葉に、そこに居並ぶ誰もが歯を食いしばった。なかには悔し涙を流す者も居る。
「だが、嘆いてばかりおっても仕方あるまいて。なあ、皆。我々は我々なりの戦いで、艦娘達を援護しようではないか」
元帥の言葉は静かに響いて、消えた。
なんか綺麗な大本営って珍しくない?気のせいかしらん