海照らす鈍色の月   作:gromwell

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クマークマクマー


●結成!特別防衛艦隊(4)

「まったくもう!なんて非常識なの、あんたは!?」

 

 もしゃもしゃと朝食のししゃもを咀嚼して飲み込んだ叢雲が、目の前の女性に吼えていた。

 

 宿舎一階の食堂で昨晩の演習の話題になった瞬間であった。

 

「非常識も何も、出来てしまった事は仕方ないじゃない。むしろ褒めてもらいたいくらいだわ」

 

 叢雲の怒鳴り声を涼しい顔で受け流して、環は味噌汁を啜った。

 

「あら、出汁は煮干しなのね」

 

「ええ、今日の当番は提督だったから。あいつ、煮干しならそのまま具になるからって──って、そうじゃなくて!」

 

 ビシッと環を指差す叢雲。その手には箸が握られたままである。

 

「水の上を跳んだりはねたりとか狡いわよ!!」

 

 艦娘は水上を進む事は出来るが跳躍なんか出来ないのである。爆風に吹っ飛ばされる事はあっても。

 

「え……!?」

 

「その『意外だわ、出来ないの!?』って顔、止めなさいよ!」

 

「そう?なら──」

 

「ドヤ顔したら酸素魚雷ぶち込むわよ……!!」

 

「部下が辛辣だわ……」

 

「あんたが悪辣だからでしょう」

 

 二人の言葉の応酬は周囲の艦娘達の注目を集めていたが、環も叢雲も気付いちゃいなかった。

 

 ともあれ、彼女達の舌戦も長くは続かなかった。

 

「あんまり騒がしくしたらダメよ~?」

 

 ニッコリと微笑んだ紫色の髪の艦娘がやんわりと環と叢雲に注意した。

 

「ごめんなさいね。少しはしゃぎ過ぎてしまったわ。……部下が」

 

「あんたねぇ……!って、ていっ!!」

 

 環の余計な一言に文句を言おうとした叢雲が、彼女の朝食の皿に伸びる手を叩いた。

 

 ジロリと叢雲が睨んだ先には、眼帯で片目を隠した紫色の髪の艦娘が居た。どことなく雰囲気が似ていることから、先ほど注意してきた艦娘とは姉妹艦なのだろう。

 

「私の皿から盗み食いしようなんて百年はやいわよ、天龍」

 

「チッ、流石は初期艦に抜擢されるだけあるぜ」

 

 叢雲に叩かれた右手をヒラヒラと振る天龍。さして懲りた様には見えない。

 

「天龍ちゃん、お行儀悪いわよ」

 

「別にいいだろ、龍田。にしても、司令官は隙だらけだな」

 

 龍田の注意に、そう言い返した天龍の左手には、ししゃもが二匹。

 

 同時に、手付かずだった環の皿のししゃもが消えていた。

 

「あら、いつの間に」

 

「おいおい、本当に気付いてなかったのか?」

 

 とぼけたような環のリアクションに

、天龍は呆れ顔だった。

 

「やっと司令官が到着したって聞いてどんな奴かと思ったら、とんだ間抜けかよ」

 

「私こそ天龍がこんな悪戯するお茶目な艦娘だとは思いもしなくて驚いているわ」

 

 環は大袈裟に驚いた表情をしてみせた。そして、天龍の左手を指差して言った。

 

「凄いわ。ししゃもで熊を釣ったわね、天龍」

 

「は?」

 

 キョトンとする天龍の左手には、いつの間にやら球磨が食いついている。文字どおり、ガブリと。

 

「熊じゃないクマ。あと天龍は隙だらけクマ。そんなんじゃ北米の森じゃ暮らしていけねークマ」

 

「いや、別に北米の森でなんて暮らしてく予定は無いぜ。それより俺の手を食うな」

    

「だったらししゃもを離すクマ」

 

「チッ、ほらよ」

 

「ん、どうもだクマー」

 

 ししゃもを食べ終えた球磨の口が天龍の左手を解放する。球磨の唾液でベットベトだ。

 

「流石ね、熊を餌付けするなんて」

 

「フフ、怖いか……?」

 

「そこでその台詞が吐けるおめーの神経が怖いクマ。ってか球磨は熊じゃねークマ」

 

「もう~、天龍ちゃんたら」

 

 何故だか和気あいあいとした雰囲気で話し込む連中に、叢雲はため息を吐いた。

 

「はぁ、騒がしいったらないわね」

 

 すっかり先ほどまでの自分を棚に上げてしまっている叢雲だった。

 

 さて、このままグダグダと話をしていても仕方ないと判断した環は、自分のテーブルに集まった艦娘達を見渡した。

 

「これで特別防衛艦隊のメンバーは揃ったのかしら?」

 

「えっとぉ、軽巡三隻に駆逐艦一隻……。あとは戦艦二隻が合流すれば揃うはずだけど……」

 

 指折り数えながら龍田が言った。

 

「確か本土から出張って来てるんだったか?」

 

「ふーん、だったら今頃は海上をこっちに向かってる頃クマ」

 

 天龍と球磨があれこれ考えながら言う。

 

「じゃあ本日中には合流できそうね。私の武装の調整は間に合いそうもないか……」

 

 少し環の表情が曇る。整備兵が徹夜で作業してくれているが、実戦で使用するには、もう暫くかかりそうである。

 

「それはどうでもいいわ。それより、今後の作戦行動はどうするの?」

 

 鋭く叢雲が指摘する。

 

 今後の行動は艦隊司令である環に丸投げされている状況だ。

 

 補給はこの内地近海鎮守府が担当してくれるらしいが、当面の目的である泊地奪回の段取りは全て環がしなければならない。

 

「一気に突っ込んで敵艦隊を殲滅。なんて単純な話じゃないわよね」

 

「困ったわ」とぼやいて頬に手をあてる環。

 

「当たり前クマ。敵戦力が不明な現状でそんな無謀な事は出来ないクマ」

 

 球磨が半ば呆れたように言った。

 

「それに、奪回した泊地の防衛も考えなきゃ駄目よクマ~」

 

「龍田、球磨の真似すんじゃねークマ」

 

「取り敢えず、偵察がてら出撃しようぜ。情報収集も必要だろ球磨」

 

「天龍も真似すんなクマ」

 

「は?真似?」と天龍が聞き返す間もなく叢雲が口を開いた。

 

「そうね。それにこんな寄せ集めの艦隊だもの。陣形の組み方やその序列も色々と試してみたいわクマ」

 

「ちょっ、叢雲おめーもクマ!?」

 

「決まりね、幸い燃料と弾薬の消費量もそれ程でもないし、訓練のつもりで出撃してみましょうクマ」

 

「司令官もクマね……。わかったクマ。おめーら全員、海上に出るクマ。この球磨をからかった事を後悔させてやるクマ」

 

 皆してからかってきた事に少々腹を立てた球磨がそう言い放った。巻き込まれた天龍にしてみればとんだ災難である。

 

 そんな時、麻守が息を切らせて駆けて来た。

 

「どうしたんです?」

 

「至急電ですぞ」

 

 可愛らしく首を傾げてみせる環に向かって麻守は一枚の紙を押し付ける様に手渡した。そしてすぐさま何処かへ慌ただしく駆け去っていった。

 

「あらー、ラブレターかしら~?」

 

 そんな龍田の冗談に、環は反応しなかった。

 

「……全艦、出撃用意!」

 

 代わりに鋭く命令を発する環。

 

「何が起きたクマ?」

 

 冷静に球磨が問う。

 

「此方に向かっていた扶桑と山城から救援要請。対潜戦よ」

 

 環から紙を受け取って、そこに書かれた文章に目を通した天龍が苦い顔をする。

 

「戦艦には対潜装備はないってのに、護衛も付いてねえのかよ」

 

「仕方ないわよ~。今は練成中の練度の低い子ばかりで、実戦に出られる艦娘は少ないわ。戦える練度の艦娘は殆どあの泊地で……」

 

 龍田はそう言うと困った顔をする。

 

 出撃可能な艦娘の大半は先日の外地泊地の壊滅時に散り散りに撤退したため行方不明の状況だ。最悪、轟沈している可能性だってある。

 

 天龍と龍田は上層部の撤退命令を待たずに近くの数名の艦娘を率いて、この内地近海鎮守府へと退いたため、無事であった。

 

 だが、最後まで泊地防衛に尽力した艦娘たちのほとんどは、この鎮守府へはたどり着けなかったのだ。

 

「天龍、龍田。おめーらの判断は間違ってねークマ。お陰で練度の低い連中を鍛える事が出来てるクマ」

 

 球磨が指摘したとおり、天龍と共に生還した艦娘たちは内地において、新造された艦娘や未熟な艦娘たちの教官役として、彼女等を鍛え上げている最中だ。

 

「けどよ……」

 

 頭では理解出来ていても……、それでも思うところはあるのだろう。天龍が口惜しげに下を向く。

 

「とりあえず、扶桑たちの救援に出撃しましょう。このまま話し込んでいても仕方ないわ」

 

 椅子から立ち上がった環はスタスタと歩いて食堂を出て行く。

 

「ま、それもそうね。ってあんたが出たって何の役にも立たないでしょうが!」

 

 それを追う叢雲が、環の武装を思い出してツッコミをいれる。太刀でどうやって潜水艦とやり合うつもりなのだろうか、あの司令官は。

 

「それじゃあ偵察機を飛ばしてくれるよう、ここの提督に頼んでみるクマ」

 

 球磨が麻守の姿を探しに駆け出した。

 

「ったく、らしくなかったな。龍田、俺達も行くぜ」

 

「流石、天龍ちゃんね。立ち直り早いわ~」

 

「べ、別に落ち込んでた訳じゃないからな!」

 

 なんのかんのと言い合いつつも、出撃準備をすべく工廠へ向かう二人の足取りは力強いものであった。




そろそろ環の被ってた猫が脱げてきました。
次回はちょっとシリアスっぽくなるっぽい?
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