本土から南南東の海域で扶桑と山城は深海棲艦に捕捉されていた。
満足に護衛出来る戦力が皆無なために、内地近海鎮守府へ向かう航路を比較的安全といわれる西寄りにとったのだが、運悪く潜水艦に出くわしてしまったのだ。
彼女たちの不運は続く。
山城の機関が不調となり出力が上がらないのだ。
潜水艦程度であれば低速の戦艦とはいえ、充分に振り切れるはずであったが、四ノットがやっとという山城を護衛しながらでは、逃げ切れそうもなかった。
暫くの追跡の後に、頃合いと判断したのか、潜水艦型の深海棲艦・カ級が扶桑と山城に対して攻撃を開始した。
既に数度の雷撃を凌いだものの、予定の航路からは随分と外れてしまった。
内地近海鎮守府へ救援を要請したものの、援軍が到着するまでは何としても耐えねばならない。
少しでも合流までの時間を短縮するために内地近海鎮守府のある方向を目指すが、回避運動を行いながらでは思うように進む事が出来ずにいた。
「姉様、姉様だけでも離脱を!このままでは二人とも……!!」
先ほどから山城が悲痛な叫び声をあげているが、扶桑は聞き入れようとはしなかった。
「駄目よ山城。絶対に救援が来るまで耐えるの!」
対潜装備を持たない上に、速度も失った状況では一方的に攻撃を受けるだけである。
それでも、扶桑は山城の腕を抱き締め、さらに袖をしっかりと握って離そうとはしなかった。
互いの艤装が擦れ合い、悲鳴のような騒音をあげる。
舵をきるその度に、姉妹の足下を掠めるように魚雷の白い航跡が走り去っていく。
そうして、徐々に二隻の戦艦は追い詰められていった。
懸命に回避運動を行うも疲労のためか動きが鈍くなっていく。
そして遂に一本の魚雷が扶桑の転舵のタイミングに合わせて放たれた。
どうあがいても避けられないと悟った山城が扶桑を突き飛ばそうとする。
しかし、それを扶桑は許さない。山城の背に腕を回して、身体を引きつける。ちょうど山城の盾になるような格好だ。
(せめて、山城だけでも……!)
もはや回避不可能な魚雷から視線を外した扶桑が空を見上げた。
かつての時とは違い、そこには視界いっぱいのどこまでも青い空が広がっていた。
この空をこの目に焼き付けて、そうして沈むのならば、それはそう悪い事では無いのかもしれない。
まだ何も成していないとしても。それでもこの青い空の下で沈むのならば──
そう思った矢先に扶桑は何か珍妙な飛行物体を発見してしまった。
その飛行物体は、紛れもなく味方機である九七式艦上攻撃機なのだ。なのだが、本来航空魚雷が吊り下げられている筈なのに、その機体は何故か女の子をぶら下げていた。
重さのためか吊り下げた者の空気抵抗で機体が安定しないのか、フラフラとした頼りない飛び方をする九七式艦上攻撃機は魚雷を投下するには些か高い高度で、なんと女の子を投下した。
当然、投下された女の子は海面へ落下していき、やがて水面に激突した。
幾度か水面を反跳爆撃の爆弾ように跳ね飛んだ女の子が、事もあろうに扶桑と山城目掛けて突っ込んでくる。
扶桑達に向かって突き進む魚雷を追いかけるようにして突っ込んでくるポニーテールの女の子は、扶桑達の目前で魚雷にぶち当たった。
爆発した魚雷によって盛大な水柱が立つ。やがて水柱がその姿を消すと青空の下、天気雨のように海水の雨が降り注ぐ。
突然、文字どおり降ってきた幸運で助かった扶桑と山城は、無事を喜ぶ暇もなく頭のなかを真っ白にしていた。
何故ならば、寄り添い抱き合う扶桑と山城のたわわな胸部装甲、その密着して並んだ四つの膨らみに挟まれるようにして、先ほどの魚雷にぶち当たった女の子が顔を突っ込んでいたのだから。
「……不幸だわ」
何度目かの爆発音で我に返った山城が、すっかりハイライトの消えた瞳で呟いた。扶桑姉様にもしたことのない、おっぱいパフパフを見知らぬ女の子にさせられてしまったのである。しかも扶桑姉様もいっしょに。
そんな衝撃体験は山城に不幸という言葉を吐き出させるのに充分なものであった。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
魚雷に激突したうえに、さらに爆発にも巻き込まれておいて大丈夫も何もあったものではないが、それ以外の言葉が思いつかない扶桑であった。
扶桑の声が聞こえたのか、もぞもぞと二人の胸部装甲に顔を埋めていた女の子が動いた。なんだかむず痒いようなくすぐったいような感触に扶桑と山城は思わず身じろぎしてしまう。
「問題ないわ。それより貴女たち、怪我はなかった?それとも、この場合は損傷と言った方が良いのかしら?」
ようやく扶桑と山城のおっぱいの間から顔を出した蒼い髪のポニーテールの女の子は、鼻血こそ垂らしているものの、割と冷静に平然に、そんな事を訊いてきた。
なんだろう、それは私の台詞ですよとツッコミたいこの気持ちは。
まさか魚雷に体当たりした挙げ句に、その爆発で吹き飛んだ人間に怪我の心配をされるとは、何とも複雑な気分である。
そんな扶桑と山城の気持ちなど、黒のタンクトップとミニのプリーツスカートに、篭手状の装甲を身に纏った駆逐艦より頭ひとつ分身長の高い女の子は、まったく気付かない。
その女の子、環は背負っていた彼女の身長程もある太刀へと手を伸ばして言った。
「さあ、反撃の時間よ」
相変わらず鼻血を垂らしたまんまで、何故かドヤ顔で、そう言ったのだった。