海照らす鈍色の月   作:gromwell

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●結成!特別防衛艦隊(6)

 盛大な爆発音を感知して、水中に潜むカ級は戦果を確信していた。

 

 その確信を後押しするように、爆発地点の真下へと何かが水中へ沈んでいく音を感知。

 

 そして、その何かは複数回の爆発を起こしている事をソナーによって確認する。

 

 海面は静かで、物音は聞こえない。

 

 慎重に状況を確認し、ゆっくりとカ級は浮上を開始する。

 

 轟沈は確実。

 

 カ級の顔がニヤリと歪んだ。

 

 勝ち誇るように、暗い海の底へ沈んでいった者をあざ笑うかのように。

 

 ゆっくりと静かに、とぷんと微かな音と共にカ級が水上に顔を出す。

 

 ついに青い空の下にその姿を現したカ級は、しかし一転して暗い海の底へと堕ちていった。

 

 ごろんと転がったカ級の頭が自身の身体を置き去りにして──

 

「死んだふりっていうのは、あなた達潜水艦の専売特許じゃないのよ」

 

 そんな冷たい声がカ級が最後に聞いた音だった。

 

 

 

 対潜警戒しつつ後続していた叢雲たちと合流した環と扶桑・山城は、帰投の航路にあった。

 

 応急処置のおかげで、山城の速力は十ノットまで回復している。

 

「あのー、叢雲ちゃん?もうちょっと優しく曳航できない?」

 

 叢雲が肩に担いだ槍の穂先に引っ掛けられた環が文句を言った。

 

 着用するタンクトップにうまい具合に引っかけられた槍の穂先で環はぶらんぶらん揺れていた。

 

 そんな風にしてぶら下げられたその姿は、母猫に連行される子猫みたい。

 

 輪形陣の先頭は叢雲と環。中央に扶桑と山城を配し、左右を天龍と龍田が固めている。最後尾では球磨が目を光らせている。

 

 そんななので、めくり上がったタンクトップのせいでおなか丸出しの環が、槍に吊られてぷらんぷらん揺れる姿は、叢雲以外の全員に晒されていたのであった。

 

「あのー……、さっきから潮風で私のスカート捲れて、その、見えちゃってるんだけど?」

 

 涙目の環が視線を巡らせると叢雲の後方に位置する艦娘たちがすっと視線を逸らした。

 

 先ほどから波しぶきでびしょ濡れの環の下着が、スカートが風に煽られる度に、否応なく見えてしまっていたのである。

 

 魚雷の爆発でボロボロになってしまったパンツがちらちらどころか結構ダイナミックに丸見えになってしまっていた。

 

 ちなみに白に水色の縞々である。

 

「ふえぇ、恥ずかしいよぉ……」

 

 そんな悲痛な言葉にも叢雲は何の反応も示さなかった。

 

 そう、合流してからずっと叢雲は環を無視し続けていた。

 

「そろそろ機嫌直すクマー」

 

「そうだくまー」

 

「艦隊司令は黙ってるクマ。あと球磨の語尾を真似てんじゃねー」

 

「……あい」

 

 さっきから球磨が叢雲を宥めているが、環本人の妨害のせいで難航していた。

 

「姉様、お手伝いします」

 

「いいのよ、山城。これは私の仕事だから」

 

 そんな叢雲と球磨の狭間では扶桑が、山城の手伝いをやんわり断りつつ、カ級の死骸を曳航していた。

 

「こんなの何の役にたつんだ?」

 

「さあ。でも、環ちゃんの考える事だからどうせ禄でもない事なんじゃないかなぁ?」

 

 扶桑の引っ張る首のないカ級の死骸を一瞥して、天龍と龍田は首を傾げた。

 

 ともあれ、普段は潜航中のところを爆雷で沈めてしまうので、カ級の死骸は珍しい。

 

 環の騙し討ちがなければ、まず海の底に沈んでしまった筈の代物なのである。

 

「それにしたって、装着型の装甲に時限式の爆雷仕掛けて沈めるとか、よく考えついたよなぁ」

 

 呆れた様子で天龍は言った。

 

「あれじゃあ、ソナーの反応だけみれば、まるで魚雷の直撃を受けて海中へ沈んで、さらに誘爆を起こして轟沈って感じになるクマ」

 

 仕方ないクマと、球磨が叢雲を慰めた。

 

 環の偽装に騙されたのはカ級だけではなかった。

 

 離れた場所で、この時の爆発音をソナーでキャッチした叢雲も騙されたのである。

 

 てっきり救援が間に合わなかったと思い込んだ叢雲が、全速で駆けつけてみれば、そこには抱き合いながら茫然とする扶桑型戦艦姉妹の姿。そしてカ級の首を斬り落としてガッツポーズする環。

 

 では沈んだのはいったい誰かと問い詰めてみれば、実は偽装でしたというオチ。

 

 最悪の事態が頭をよぎっていただけに、扶桑達の無事な姿を見て安堵した叢雲の涙腺が緩むのも無理はなかった。

 

 そして、そんな叢雲がよくよく見てみれば、環の左足がごっそりと無くなっていたのである。

 

 着水の衝撃で左足が骨折。さらに魚雷の爆発でその左足が丸ごと吹き飛び、右足にも重傷を負っていたのである。

 

 なので、環は好きで扶桑と山城の胸部装甲に埋もれていたわけではなく、単純に動けなかったのだった。

 

 それでもカ級の浮上位置を見極めると傷付いた右足で何とか海面を蹴って跳躍。

 

 背中に担いだ太刀を一閃させ、カ級の首を落として見せたのであった。

 

 そんなMVPな活躍の環を待っていたのは、叢雲のこの冷たい仕打ちである。

 

「まー、気持ちはわかるけどよ」

 

 そんな風に天龍はぼやいた。

 

 艦隊の要である司令官が無茶をやらかしたのだ。今回は轟沈はしなかった。だが、それはたまたま運が良かっただけだ。

 

「司令官がいの一番に沈んでどーすんだって話だよな」

 

「そこのところをちゃんとわかってもらわないとね~」

 

 でもまあ……と二人は思う。

 

(生えてくるんだからいいか、別に)

 

 そう、魚雷の爆発でもげたはずの環の左足がにょっきりと元通りに生えてきたのだ。

 

 ゆっくりとであるが、他の怪我も治りつつあった。

 

 その辺り、深海棲艦の再生能力によるものだろうか。

 

 だからといって、叢雲のお仕置きは勘弁してもらえなかったが。

 

 口では何だかんだ言いつつ、環を司令官と認めているからこその厳しさといえる。

 

「もー、叢雲ちゃんの鬼ー!おーろーしーてー!!」

 

 それが本人に伝わっているかどうかは別の話である。

 

 駄々っ子のように、環が足をバタバタと動かす。

 

 その度にボロボロのパンツが少しずつ破れていく。

 

「あの、司令官?あんまり暴れると、その下着が……」

 

 控えめに扶桑が注意を呼びかける。

 

「「「「あ……」」」」

 

 天龍と龍田、山城と球磨の声が重なった。

 

 扶桑が注意を促した直後に無情にも環のパンツはただのぼろ切れとなって潮風に吹かれるままに飛び去ってしまう。

 

「ふ、ふえぇぇ」

 

 青い海原に環の泣き声が響き渡る。

 

 特別防衛艦隊の初出撃はこうして幕を閉じた。

 

 のちに内地近海対潜戦。別名、環司令官ノーパン戦と呼称される戦いである。

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