うちの店には週に三日来る常連がいる。もちろん毎日通ってくれるじいちゃんばあちゃんもいるけどな。
けどそいつはあきらかに異質だった。火曜水曜木曜だけ来る若い男だけど、必ず午後の二時に来てコーヒーを一杯だけ飲んで帰る。
普通の会社員ならその時間は仕事してるだろ?
「ユキちゃん、最近男性客が増えたように思うのだがチラシでも出したか?」
幼なじみの伊達川から問いかけられて俺はコップを磨く手を止めた。
「知らねーヨ」
大学を卒業してもやることが見つからずフラフラしてた俺はここで店長をしてる。もちろん店の開店資金は親が出してくれた。
だからこの店が潰れても困ることなんてない。伊達川はそんな俺を心配してるみたいだけど、ちょっとウゼェ。
けど最近はちょっと気になることがある。
もしこの店がなくなったら、あの男はどこでコーヒーを飲むんだろうな、とか。あいつを見られなくなるのはイヤだな、とか……。
そして今日も時刻が二時をまわって、扉を開く鐘の音が聞こえた。
男はいつものようにカウンター席に座る。眼光鋭い男で、前は電話でバラすとかなんとか話してた。
たぶんこいつはヤクザだ。
「ブレンド」
男の注文を受けてコーヒーをいれた。コーヒーを出した瞬間、男がチラッとこっちを見る。
眼光が鋭くて目元のほくろがちょっと色っぽくて、なんかとんがってる。こいつのことが怖いわけじゃねぇけど、目が合うと心臓が暴れてちょっとキツい。
男はその日も電話で誰かと話してた。「腹を切ってしまうか」なんて平然と言ってる。
またどっかで殺人事件が起きるのか。そう考えると怖くて関わるのがイヤになる。
けど……。
火曜水曜木曜と三日だけ来店する客はヤクザだ。なら他の客がビビってこなくなる前に何とかしないといけないかも。
でもぶっちゃけると、木曜日から翌週の火曜日になるまでの間がつまらなくて仕方ない。今でもこんなにつまんねーのに、あの客が来なくなったらこの店潰すかも……。
とある金曜日、男性四人組が店にきた。
会話の内容から四人が警察で、ある男の近辺を洗ってるらしいことがわかった。もちろん今までの俺ならそんなの気にもしないけど、今は違う。
週が開けた火曜日の午後二時
店の奥にあるテーブルで男性四人組がコーヒーを飲みながら話し合ってる。
そしてまたあの男が来た。男はいつものようにブレンドを注文して、俺はコーヒーをいれる。
けど今日は言わねぇと……。店内にいる警察官がこの男に気づく前に逃がしてやらねぇと。
緊張に震える手でコーヒーをいれて客に出す。コーヒーカップが置かれると男の目が俺を見た。
「あの…たぶん……来ないほうが良い、と思う」
男にだけ聞こえるように小声で言う。
この男とのはじめての会話がこんな内容なんてしんどくてたまらない。
「……なんで?」
気を使って小声で話しかけてやった俺に男は平然と返してきた。こいつ人の気も知らねぇで……。
「警察が…いるから。あんた捕まるヨ…たぶん」
ここまで言っちゃったら、八つ当たりで一発ぐらい殴られるかも。
そんなことを考えて視線を落とした俺の耳に笑い声が飛び込んだ。店の中に響くくらい大きな声で笑うから、隅のテーブルにいた警察官が驚いてる。
ひとしきり笑った男は腹に手を当てながら目元をぬぐった。
「あー、おもしれぇ」
「面白くねぇヨ!」
笑われたこっちは何も面白くねぇよ。そう思うまま男に言ってやる。もう嫌われても構わない。警察官はこっち見てるし早くこの男を逃がしてやらねぇと。
「今なら厨房から裏口に抜けられる。早く逃げろヨ」
「いやいや、なに勘違いしてんのかわかんねぇけどさ。逮捕されるようなことしてねぇから」
まだ半分笑いを残しながら男がコーヒーを飲む。やがて全部飲み干すとお金を出して立ち上がった。
「店長さん美人なだけかと思ったけど、意外と冗談も言うんだな」
男はそう言うと店を出ていく。
俺がその男の本当の職業を知ったのはそれから2カ月後のことだった。
あんなヤツが医者なんて納得いかねぇヨ