今日は二宮隊の皆さんと焼肉屋に来ている。どうやら二宮さんは焼肉がお気に入りらしい。二宮隊の打ち上げはいつも焼肉だと犬飼さんが言っていた。フレンチとか1人でbarに行きマスターと無言の時間を楽しんでそうなイメージがあったから本当に意外だった。そして焼肉屋に来る時でもスーツなんですね。匂いつきますよ?白色前掛けしてるから平気なのかな?
そんな前掛け二宮さんはどうやら奉行系らしく、ぱっぱと注文してぱっぱと焼いていく。どんどんと肉を並べる二宮さんは不揃いなのが嫌いなのか綺麗に並べて焼いていく。並べ終わった肉を見て思ったのは肉で出来たミステリーサークル。綺麗に並べ過ぎじゃない?なんか食べづらいんだけど。
「焼けたぞ」
いっただきまーす!
お肉美味しいです。とっても美味しいです。とっても美味しいんですけど、
「ネギを溢すな」
二宮さんがちょっとうるさいです。
犬飼さんや辻さんはもう慣れているのか許されているのか注意されない。でも俺はめっちゃ注意される。最初は初参戦だから仕方ないかって思ってたんだけど
「タレをテーブルに溢すな」「焼けてない肉に触んな」「なんだそのサンチュの巻き方は」「焦げる前にさっさと食え」「前掛けを外すな」「もっと食え」「遅い」
まじでうるせえなこの人、黙って食えよ。てかなんだよ遅いって。焼肉屋で使う言葉か?店員さんに文句でもあるのか?そんな姑みたいになった二宮さんに困る俺。犬飼さんは笑って見てる。辻さんは肉を食べうんうん頷いてる。あ、焼肉好きなんですね。確かに美味しいもんなここのお肉、そりゃ頷きもするよな。奉行様うるさいけど。
二宮さんが連れて来てくれた焼肉屋は高級というか、隠れた名店って感じがするお店だったので変に緊張せずリラックスして食べる事が出来た。もしすげー高級なとこ連れて行かれてたら緊張してネギをぶちまけ二宮さんに瞬殺されてたろうからこのお店で良かった良かった。若干、いやかなり奉行様がうるさかったけどお店の風囲気はいいしお肉も美味しいで大満足。どうもありがとうございます二宮さん。大変美味しゅうございました。主催者である奉行様にへへーとこうべを垂れていると、ある程度満腹になり飲み物を飲んでいた犬飼さんが「あ、そういえば」と何か思い出したように呟く。
「そろそろ黒江ちゃんの誕生日だ」
詳しく!激しく詳しく!ああ、ごめんなさい!違うんです!喧嘩売ってる訳じゃないんです!ちょっと興奮してテーブル叩いたらタレが飛んじゃったんです!二宮さんを狙った訳じゃないんです!てかそんな腕あったらアステロイドの操作もっと上手くなってますよ!あ、納得してくれました?それはそれでなんかあれな感じですがっとそんな事より犬飼さん!今の話し詳しく!
「来週黒江ちゃんの誕生日だよ」
この御方は本当に素晴らしいと思いました。今度お菓子貢ぎに行きますね?何か好きな物とかあります?
マスター犬飼の導きを得て数日。黒江さんの誕生日の日を迎えた俺は加古隊の部屋の前に居る。なんでこうなったかって?いの一番に加古さんに誕生日の話しをしたからに決まってるでしょ。
「加古さん!来週黒江さんの誕生日って本当ですか!?」
「本当よ」
「まじか!どうしよ!なにしよ!とりあえず俺を捧げればいいですかね?」
「生物は良くないから他のにした方がいいと思うわよ?」
「贄ですよ?」
「田中君生物でしょ?」
こんな感じ。一応サプライズとかしてみたかったので今日俺が来たのは黒江さんに勉強を見て貰う事になっている。え?年下に教えて貰うのかって?復習ですよ復習。まあ黒江さん現在の俺より頭いいから普通に勉強教えて貰う事になりそうだけどね。
加古隊の部屋のドアをノックすると中から加古さんのどうぞーっと言う声が聞こえインする。部屋の中に入ると既に勉強モードに入った黒江さんがテーブルに参考書を広げ、真剣な眼差しでペンをカリコリとても可愛いです。さて、ここで一つクエッション。今日は加古さんも黒江さんも任務が無い日だ。つまり今日は仕事じゃない。学校でもない=
「私服の黒江さん……だと…!」
可愛らしい花のプリントが入ったTシャツの上に黄色のパーカーを羽織い七分丈のパンツを装備した黒江さんが俺の前に。
「結婚して下さい」
「勉強して下さい」
そうでした。その為に来た事になってるんでしたね。いや、でも
「今日の黒江さん、どうしたんですか?なんか天使大天使黒江神って感じで色々弾けそうなんですが」
「ちゃんと日本語を話して下さい」
「私服の黒江さん可愛い。いや、本当に可愛い。え、なんでこんなに可愛いの?」
「……早く座って下さい」
あれ?いつもと違って冷たい感じじゃない。どうしたんだろ?あれか、私服にオンしたからか?うん、そうだ、そうに違いない。戦闘服の黒江さんも素晴らしいが私服の黒江さんはもっと素晴らしいです。あぁ……
「写メ撮っていいですか?」
「早く座れ」
「はい」
いつもの黒江さんでした。
持っていたシャーペンで前の席を指す黒江さんに従い着席。持ってきたカバンからノートやらなんやらを出す。
「いらっしゃい田中君」
かちゃかちゃと勉強の準備をしていたら私服の加古さん登場。その手には飲み物が乗ったお盆が。嘘だと言って。
「お、おじゃましてます加古さん、あの、その飲み物は……?」
「ん?普通のオレンジジュースよ?オレンジジュース嫌い?」
「大好きです。もうオレンジジュース以外の飲み物が死滅すればいいと思う位大好きです」
「そう、良かった。本当は折角来てくれた田中君の為に特製ドリンクを作ろうとしたんだけど」
困ったような拗ねたような。そんな顔をする加古さん。なんかあったのかな?
「だけど?どうしたんですか?」
珍しい表情をする加古さんにそう言い訪ねると、んー?と少し間を置き加古さんが俺の耳元に口を寄せ答える。
「二宮君に止められちゃったの。今日は余計な事するなって」
二宮さああああああああん!!ありがとうございます!本当にありがとうございます!俺スーツ買います!着ます!ホストになります!
「今日は田中君に全部やらせろって。だから余計な事、特に料理関係は口出すなって。「お前が手作りの物を出したらあいつも手作りの物を出さなければ劣って見えるから止めろって」珍しく話し掛けてきたと思ったらそんな事言うのよ。私も双葉の為に何かしたかったのに酷いと思わない?」
思いません。
「全くです。二宮さん酷いですね」
でもごめんなさい。加古さんにそんな事言えないからちょっと裏切ります。でも感謝の念はバベルの塔より高く捧げさせて下さい。本当にありがとうございました。一生ついていきます。
ぷりぷりと怒り愚痴った加古さんはちょっと席を外すわねと言い外へ。残されたのは俺と私服天使黒江さんのみ。これは楽しい時間になりそうだと黒江さんを見る。むすっとした顔をし、じとっとした目で俺にガンをつけていた。え、なんで?
「……嬉しそうですね」
そりゃあ嬉しいですよ。加古さんのトリガーをかわせた上に私服天使と二人っきりなんですから。じとっとみつめる黒江さんに俺は満面の笑みで「はい!とっても嬉しいです!」と元気良く返事する。
「……加古さんに顔を近付けられたのがそんなに嬉しかったんですか」
「黒江さんと二人っきりなのが嬉しいんです!」
「っ!」
質問にハキハキ答えると、黒江さんが一瞬息を飲みノートに顔が触れるんじゃないかと思う程顔を近付け再びカリコリし始める。
「?あの、黒江さん?」
「勉強します」
「え?あ、はい。それは勿論しますが、ちょっとノートに顔を近付け過ぎじゃ」
「勉強します」
「あ、はい…いや、顔近付け過ぎだと」
「勉強します」
「それはします。でもノートと顔」
「返事」
ワン。
有無を言わさぬ気迫に犬と化した俺は大人しくカリコリ合戦を繰り広げる事に。
「サインコサイン黒江さん。すいへーりーべーぼく黒江。いい家立てよう俺達で」
「うるさい」
「はい」
怒られた。そして思った。俺と黒江さんが結婚したらどっちの籍になるんだと。黒江亮平。うん良い。田中双葉………ちょっと、ほんのちょっと語呂悪い?いや、本当にちょっとだよ?ミトコンドリアレベルの些細さなんだけど…………うん、ぼく黒江。
そんな風に俺と黒江さんの未来予想図に新たなページが生まれたところで、黒江さんがペンを置き軽く伸びをする。目を瞑りんーっと気持ち良さそうな声で伸びをした黒江さんだったが途中でハッとなり慌てて姿勢を正す。緩急の激しい黒江さんが再びノートに顔を近付ける。でもたまに俺をチラチラ見てる。なんだろ?フラグたった?異性がチラチラ見てくるのはフラグがたってる証拠だと考える俺はそのフラグを回収する為に動く。
「結婚します?」
「休憩しましょうか」
フラグたってなかった。いや、回収の仕方が悪かったのか……?ふむ
「籍は黒江さんの方でいいですよ?」
「飲み物取ってきます」
フラグたって無かったわ。残念。トコトコと台所へむ向かう黒江さんと入れ替わるように加古さんが戻って来た。
「おかえりなさい」
「ただいま。あら?双葉は?」
「飲み物取りに行きました」
「そう。なら丁度良かったわ」
そう言いパタパタと玄関に戻り何かの袋を持って帰ってくる。これは?
「ケーキよ。手作りダメって言われちゃったからお店に取りに行ってたの」
「すみません、お手数おかけします」
「別に気にしないでいいわよ。それじゃあこれは田中君に渡しておくわ。出すタイミングは任せたわよ」
「お任せ下さい。不肖田中、慎んでその大役受けさせて頂きます」
「頼もしいわね。私はまた出掛けてるからうんと楽しんでね?」
「え?行っちゃうんですか?一緒にお祝いは」
「今日はあなたに任せるわ。双葉を喜ばせてあげてね」
そう言い去っていく加古さん。これはあれか?気を使ってくれた感じか?ううむ、ボーダーに入ってから色んな人に会ったけど、その全ての人にお世話になりっぱなしな気がする。嬉しいしありがたいんだけどちょっと申し訳なく思えるな。今度お世話になった人達に心を込めてお礼しよう。うん。
「だが今はその気遣いを遠慮なく頂かせて貰います。加古さんには喜ばせてと言われたが、黒江さんの愛に生きる珍獣田中。言われずとも盛大に喜ばせてみせましょう!ふはは!天使の生まれし日である今日。黒江さんの喜び驚く顔をこの目に焼き付け脳内メモリーを埋め尽くしてみせ……………………お帰りなさい」
「ただいま」
「聞いてました?」
「はい」
「そうですか」
「はい」
「これ、なんだか分かります?」
「ケーキですよね?」
「はい」
「田中さんはたまに、と言うか結構な頻度で我を忘れるので気を付けた方がいいですよ」
「仰る通りで」
「まあ知ってましたけど」
「え?」
「今日田中さんが来ると聞いて真っ先に思い付いたのが、その、私の誕生日でした、から」
「最初からバレバレでした?」
「バレバレでした」
「お誕生日おめでとうございます」
「はい。ありがとうございます」
ハッビーバースデー。
ちょっと失敗しちゃったけど何事も無かったかのようにケーキを切り分けパクパク。もしかしてトリガーケーキかと思ったけど普通のケーキで一安心。二宮さん本当にありがとう。
「それじゃあ俺が勉強会しましょうって言った時にはもう?」
「はい、気付いてました」
おおう、サプラーイズ。まじですか、サプライズしようとふんばったんですけど無駄でしたか。そうですか。ん?
「あれ?気付いてたならなんで今日の勉強会受けてくれたんですか?」
誕生日会やるって言ったら結構です。とか言われると思ったからカモフラージュしたんだけど。まあ隠しきれ無かったけど。丸見えだったけど。
「たまには田中さんに乗ってあげようと思っただけです。別に深い意味はありません」
成る程成る程。流石大天使。慈愛の心に溢れてらっしゃる。
「成る程。流石黒江さんですね。あ、じゃあその私服は今日の為に」
「ケーキ美味しいですね」
「え?あ、はい。美味しいですね。あの、その私服」
「この苺美味しいですね」
「え?あ、はい美味しいですね。……あの、その私ふ」
「美味しいです」
美味しいです。
美味しいケーキを食べ終わった所で誕生日の醍醐味。プレゼント進呈の儀へ。持ってきたカバンから花柄の小さな紙袋を取り出し御身の前へ。
「お誕生日おめでうございます!これ、良かったら貰って下さい」
貰って貰えなかったら多分田中は死にます。黒江さんが居る限り復活するけど。花柄の紙袋を黒江さんに向け発車。黒江さんはちょっと緊張した面持ちでおずおずと手を伸ばし小さく「ありがとう、ございます」と言った。やった!受け取ってくれた!嬉しい!もしかしたら受け取ってくれないかもと思ってたから本当に嬉しい!ありがとう二宮さん!俺生きてるよ!
二重の意味で二宮さんに感謝を捧げる俺をチラチラ見る黒江さん。ん?どうしたんですか?
「あの、開けても、いいですか?」
「勿論。それは黒江さんの為に用意した物なんですから」
「あ、ありごとうございます。で、では失礼して……あ」
ぺりぺりと慎重に紙袋を開ける黒江さんがぽつりと声を漏らす。
「髪、飾り」
俺が用意したプレゼントは白と黒で彩られた四つ葉のクローバーの髪飾りだ。黒江さんは紙袋から取り出したそれを両手で持ち僅かに見開いた目でそれをじっとみつめる。
「女の子にプレゼントなんてした事無かったから凄く迷ったんですけど、それ見た瞬間にびびっと来て買ったんです。あの、どうでしょうか?よ、喜んで頂け、ました?」
語尾が小さくなるのはしょうがない事だろう。だって喜んで貰えなかったらまじでへこむ。いや、まじで。
おずおずと訪ねる俺に暫しの間無言で髪飾りを見つめてた黒江さんだったが、ふいにこちらを向く。
「どうして、これを?」
「えっと、言ってもいいんですが、その……引かないで聞いて貰えます?」
びびりながら言う俺にこくりと頷く黒江さん。それを見て覚悟を決めた俺はぽつりぽつりと理由を話し始める。
「えっと、黒江さんの下の名前って双葉さんじゃないですか。だからそれになぞった物を贈りたいなと思いまして」
「でも、これ四つ葉ですよ」
「えー、なんと言いますか、黒い双葉が黒江さんで、白い双葉が俺で…………ごめんなさい」
とりあえず頭を下げる。自分で説明してて思った。もしかして俺ヤバい奴なんじゃないかと。だって今の説明だと俺と黒江さんが合体して白黒戦隊黒中バーになってしまうではないか。悪は絶対許さない!天使黒江さん参上!愛は絶対絶やさない!変態田中参上!になってしまう。
「なんで、謝るんですか」
だから白黒戦隊で合体して変態なバーになってしまうから…………本当に可愛いよな、黒江さんって。やばいな、こんな顔見たらちょっと自信無くすわ。
満面、その言葉がこれほど似合う笑顔はそうそう見れないと思う。にっこりでもニコニコでも無い、ただ純粋にあるその笑顔を見た俺はそれに負けない位に笑う。
「黒江さん」
「はい?」
「改めて言わせて貰います。お誕生日、おめでとうございます」
「はい、ありがとうございます。本当にありがとうございます。本当に……あの、一つ我が儘言っていいですか?」
「一つと言わず何個でも」
「一つでいいです。えっと、今頂いた髪飾り、付けてくれませんか?」
「俺が付けていいんですか?」
「はい。お願いできます?」
「勿論。喜んでやらせていただきます」
にっこりと笑いお願いしますと言う黒江さんの横に立ち髪飾りを付けようとしたら、黒江さんから待ったがかかる。え?ここでお預け?
すわ、これが心変わりかと戦々恐々としたがどうやら縛ったままでは付け辛いだろうと配慮してくれたようで結んでた髪紐を取り改めてお願いしますと言われた。髪をほどいた黒江さんの髪は肩にかかる程度の長さで少し大人っぽく見える。…………今日だけで何回惚れ直せばいいんだろ…………黒江さん。生まれてくれて、助けてくれて、なによりも好きにならせて貰って本当にありがとうございます。さて、あまり待たせても悪いしそろそろ付けますか。
手際が悪く四苦八苦する俺に一言も文句を言わずじっとしていた黒江さんは、やっとの事で付けられた髪飾りを一撫ですると俺に振り返り笑みを浮かべる。
「田中さん」
「なんでしょう?」
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
「これからもよろしくお願いします」
こちらこそ。そしてハッピーバースデー黒江さん。
パシャ。
「うふふ、双葉ったらあんな幸せそうな顔しちゃって」
「覗き見に盗撮とは、いい趣味とは言えんな」
「あら?二宮君じゃない。こんなところでどうしたの?」
「お前が余計な事をしてないか見に来ただけだ。その様子なら問題は無かったようだな。じゃあな」
「ちょっと待って。双葉の誕生日に折角会ったんだからお祝いしましょう。ケーキもあるし」
「なんで俺がそんな事を…………おい、それはなんだ」
「ケーキよ?見て分からない?」
「ああ、見た目だけならケーキだと分かる。俺が言いたいのは何故湯気が出てるんだと聞いているんだ」
「できたてだからよ。美味しそうでしょこのイチゴのホールケーキ。やっぱり手作りの物を食べて貰いたくて作っちゃったの。でもあんな二人を見たら二人きっりにしてあげないと可哀想でしょ?だから余っちゃて困ってたの。そもそも二宮君があんな変な事を言わなければ……?どうしたの?」
「あの野郎、今度会ったらただじゃおかねぇからな……」
「何ボソボソ言ってるの。ほら行くわよ。折角だから堤君も誘いましょう。行くわよ二宮君」
「まじでふざけんなよ……」
知らなくてごめんなさい。間に合わなくてごめんなさい。そして二宮さんごめんなさい。
ハッピーバースデー黒江さん
因みに木虎さんは防衛任務が入って血涙ながしてました。