農民(NOUMIN)が三国乱世を行く(ただし恋姫) 作:ぱっくまん
アサ次郎はUBWの後的な感じです。後は全部適当です。そんな雑な奴でもいいよって人はどうぞ
「まったく面妖よなぁ」
ある日、ある場所。
乾いた大地に一人の男が佇んでいた。
端正な顔立ちの男である。
紺色の陣羽織を身に纏い、長い群青色の髪を後ろで纏めているその姿は、流浪人の雰囲気を漂わせているが、しかし同時にどこか雅な空気をも感じさせる佇まいであった。
その背に背負う刀は、比べれば通常のそれより長いことがわかる。それがまた、この男の独特な雰囲気に一役買っているのだろう。
おおよそこのような場所には似合わない男だ。見る者が見れば、和を体現してるような印象を抱くであろうその者は、首を捻り独りごちる。
「いやはや……私もそれなりにこういう場数を踏んできたつもりではあるが、流石に今回ばかりは理解が及ばぬな」
そうして男は上方へ視線を向ける。そこには昇りきった太陽が、その陽光を惜しげもなく振りまき荒野を照らしている。
「ふうむ、最期に見たのは確か、石段から見た、げに美しき月だった筈なのだが……」
だが、月は沈み太陽が顔をみせ、あたりを見れば当然とばかりに石段などなく、見渡す限りの荒野のみ。
なんだこれはと困惑するのも無理はない状況だ。
男は少しばかり回想する。
自分の参加した戦い。自分が、"佐々木小次郎"として剣を振るったあの戦を。
すなわち、聖杯戦争を。
「キャスターである女狐めに門番をさせられ、その後セイバーとの死合いに敗れたのは憶えているのだが――」
それから。
自身は消えた筈。
英霊に及ばぬただの亡霊なれど、聖杯の思し召しか、最期に好敵手と死合うことができた。それで自分は満足した、筈だった。
だが、現に自分はここに居る。
負けて、消えた。それで終わりな筈であった。
かと思えば今、大地に両の足で立ち、斬られた筈の傷は跡形もない。
しかも、どういうわけか無いはずの心臓が打つ鼓動が聞こえる。
頭の片隅にあった知識を掘り起こすと一つの事柄が思い浮かぶ。
これは、
「受肉、というやつか」
あり得る要因を引っ張りだし、そう当たりをつける。しかし、何故自分が受肉しているのかという心当たりはない。
原因がわからないことに加え己の体に起きたありえぬ現象。思い当たる節といえば――
「十中八九、聖杯の仕業であろうなぁ」
まぁ。
思い返せばあの時聖杯もおかしくなっていた事だ。
元々がイレギュラーであった自分。現界の為に少々無理をしたことだし、座に帰される時に何が起こってもおかしくはない、と考える。
その後息もつかぬほどの間隔で召喚された、という可能性もある。もしくは座にて見ているただの夢かのどちらかだが。
「まぁ、それは聖杯戦争も同じであったか。あれも夢であったなら、これもまた夢として楽しむのも一興、か」
うむ、と一つ頷き、早々にこの状況に対しての思考をやめる。
こういうのを考察するのは女狐やらの魔術師のがする事だ。刀を振るしか能のない自分では、いつまでたっても答えには辿り着かぬだろう。
そも、新たな聖杯戦争にしては、依り代もなければ魔法陣もない。ましてやマスターらしき人間も近くにいない。この可能性は除外していいだろう。
そうと決まれば次、自分はこの夢かうつつかもわからぬ世界でどう行動するか、という思考に移るが、
「そもそも、どこなのだろうなぁ此処は」
日差しを遮る建造物はおろか、木々もなく草も枯れ草のみ。風情が感じられないと嘆きを覚えるばかりである。
「見えるものが柳洞寺であれば、もう少しわかりやすかったのだがーーとにかく歩いてみるとしよう」
顎に手をやり、ううむと唸るがわからない事はわからない。野たれ死ぬのはごめんだし、人を探して聞いた方がよいだろう。
思考に区切りをつけ、町村がなくともせめて山があればいいのだが、と歩き始めた。
◇
歩き始めてしばらく、暑さと日差しに汗を流し、不快感に顔を顰める。
――魔力供給が要らないのは楽ではあるが、こういったところは不便よな。
ふう、と息を吐き、額の汗を拭う。
疲れこそ微々たるものだが、いかんせん単調な行動というものは気力をも奪う。
「やれやれ、そろそろ村かなにかの影くらい見えてもいいものだが……おや?」
天がその声を聞き入れたのか、何やら遠くの方に人影が見える。
遠目ながらも何やら数人で揉めているように見える。
普段であるならばそんな渦中に入らぬよう避けるのだが、まぁ、背に腹は変えられないだろう。一応様子見のために気配を消して近づく事にした。
「───だから、何度も言わせんじゃねえよ! 身包みおいていけば命だけは取らねえっつてんだろ!」
───ああ、これはまたありきたりな場面よな。
近づいたことで聞こえてきた声はそんな感想を抱かせた。
「そ、そんな。この荷を届けられなかったら儂等はおしまいです。どうか、どうか──」
「知らねえよんなことは! 優しくしてりゃつけ上がりやがって!」
見れば、百姓らしき身なりをした者が、これまた盗賊と一目でわかるような連中に囲まれていた。
遠目で見たより幾分か数は多く、その囲んでいる顔は下種の類であると判別できる。
気になるのは、全員が黄色い布を身体のどこかしらに身につけている事だろうか。
しかし、罵声を浴びせておいて優しくしている、と言えるのはいっそ尊敬するべきだろうか。
優しさってなんだろう。拙者わかんなくなってきちゃった。
助けに入っても良いのだが、この身は英霊ならぬ亡霊の身。名の知れた、其れこそかの騎士王なら脇目も振らずに助けに向かっただろう。
しかし現状通りすがっただけの自分に別段、あの農民と思わしき者に善行を行う義理は無く、別にあそこに入って厄介事を抱える必要もないだろう。道を聞くなら、
だが、
「見て見ぬふり、というのもなんとも好みではない故な」
助ける義理はない。だが、助けぬ道理もない。
まぁ。なんだ。理由をつけるなら、生前百姓であった自分としては見逃す訳もないよなぁ、といったところか。
近寄って声を出した事で、恐喝を行っていた山賊が驚きを顔に貼り付け此方に振り返る。
「な、なんだてめえは!? いつからそこにいやがった!?」
「いやなに、つい先程よ。それよりほら、そこな者も困っておる。嫌がらせもそこまでにしておいた方が身のためだぞ」
「ああ!? なにをわけわかんねえことを……! てめえこそどうなるかわかってんのか!?」
「相手の力量も見極められぬなら喧嘩を売らぬことだな。──弱く見えるぞ」
「ああ?」
挑発を交えて言うと、散々吠え立てていた男が静かになり顔つきを変える。
言い負けて、そのままという性格ではないのは見ればすぐわかる。だからこの沈黙は、
此方を殺す、と決めたソレだ。
なるほど、この程度の人間がこの顔つきをできるということは、どうやらこの世界は武が身近らしい。少しばかり、心が躍った。
男は静かに、そしてさりげなく手を挙げる。それを見た周囲の者は次々と武器を構えていく。
男も自身の武器を抜くと、下卑た笑いを浮かべた。
「命知らずが……首取って、すぐに獣の餌にしてやるよ」
「ふむ。気の短い男よ。そんなに急いていては落し物をしても気づかぬようだろう」
「ああ? 何言って──」
それが男の最後の言葉であった。
ゴトリ、と土に硬い物が落ちた音が聞こえ、それに続くように男の身体が崩れ落ちる。死体には首がついていない。
何せ先にした音は、切り落とした首が地面に落ちた音なのだから。
「ほうら落し物だ。まぁ、聞こえておらんだろうが」
そう言って物干し竿を振り、剣速が少しばかり鈍ったせいでついた血を落とす。
ふむ、やはり、この長い刀身で抜刀術は向かぬか。
そう思いながら、ゆがみなく緩やかな曲線を描く相棒を見て、口が綻ぶ。
──もしこれが聖杯の仕業なら、とりあえず感謝せねばな。
「け、剣が見えなかったぞ」
「よ、妖術師か」
「怯むな! 数でかかりゃどうしようもねえ!」
「は、生憎だが不可視の剣などと二番煎じをするつもりは無くてな」
短く笑い、向かって来た賊に物干し竿を振るう。その数に応じて落ちていく首の数が増えていき、十数人はいたであろう賊も残り僅かになった。
途中から我先にと逃げ出す賊もいたが、生かしておいても仕方ないと首を落としておく。真っ先に逃げ出した三人組を逃したが、まぁ、あの程度の奴らなら大した悪事も働けまい。
「た、頼む。見逃してくれ」
周りの者がすっかり少なくなったのに気づいたのか、一人が武器を捨てそう言ってきた。
するとそれに続くように他の賊も武器を捨てていく。
「悪事を働かん、と誓えるなら見逃してやろう。すぐに破ってもよいぞ。もっとも、拙者が恐ろしくなければ、だが」
「ち、誓う! 真っ当に生きるようにする! だ、だから!」
「なら、疾く去るがいい。あまり気の長い方でないのでな」
「はいぃぃぃい!」
そう言って此方に背を向けて走り去っていく。
あまり期待はしていなかったが、やはり武人には遠く及ばない者たちであった、と、ため息をつきながらそう思う。あのような塵芥の命を取り続け、刀の錆にでもなられるのも堪らないので、見逃してやることにした。
まぁ、そう簡単に良き相手と出会える筈も無し、か。
世知辛いものだ。
「あ、あの」
「ん?」
声をかけられ、振り向くと先程囲まれていた農民の男が此方に頭を下げていた。
「貴方様のお陰で命も、積荷も奪われずに済みました。本当にありがとうございます」
「いやぁなに、其方も災難であったな」
刀を背負い直し、頭を上げさせる。
「お礼を差し上げたいところなのですが……なにぶん持ち合わせが無く」
「おや? そこな積荷があるではないか」
そう意地悪気に言うと男は慌てて首を振り、
「こ、これは命の恩人といえど渡せません! 洛陽の董卓様への積荷なのです!」
「らくよう、とうたく」
はて、らくよう。察するに地名だが、もしや洛陽と書き、とうたくは董卓と書くのであろうか。
門番をしてた際、余りにも手持ち無沙汰な時は、聖杯の知識から歴史の英雄について思案し、耽っていた。
そして詳しい事は覚えてないが、確かその中には董卓という者もいた気がする。
なるほど、此処は
ああいや、私の生きていた時代より前、となると俗に言う三国時代という奴か。
「あ、あの?」
「ん、ああ、いやすまなかった。つい考え事を、な」
「は、はぁ」
「それよりお主、その洛陽は近いのか?」
「え? いや、まぁ、此処から三日ほどの距離です」
「おお。ならばそこまで同行させてもらってもよいか? それが礼でよい」
「そりゃあ、貴方みたいな腕の立つ方なら大歓迎ですが……いいんですか?」
「なに、流浪の身でな。この辺りも漸く着いたばかりで地理もわからんと困っていたところよ」
はぁ、それなら、と男は了承の意を示し、早速とばかりに荷車を引き始めた。
その後ろを歩きながら、ふと、「でことらで運んだら楽だろうな」という思考が浮かび、ふと消えた。なんだったのだろうか。
11/30 誤字報告ありがとうございます。修正させていただきました。