農民(NOUMIN)が三国乱世を行く(ただし恋姫)   作:ぱっくまん

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みんな農民大好きか。私も大好きです。
御礼とかは活動報告に書きます。


農民ウォークアラウンド

 

 

 

 

 

 

 

「一応、アンタは食客って立場になるわ」

 

 謁見の場から移り変わって、場所は賈駆の執務室。

 

 資料室だと言われても信じられるほどの竹簡と本の山に、なんとか隙間を開けそこに置いたような机を挟んでの言葉だ。

 

「拙者、流石に兵を率いた経験とかないで御座るよ?」

「誰がアンタに兵まで預けるって言ったのよ馬鹿」

 

 手厳しい。

 この御仁、董卓殿にちょっかいかけた事をいたく気に入っておらず、対応がたまに刺々しい。

 だがまぁ、この年頃の可憐な娘なら何をしても可愛いものだ。

 女狐? 歳を考えろ。

 

「とりあえず当面は誰かの側に付けるから、状況に応じて戦ってくれていいわ」

「随分雑で御座るな……」

「しょうがないじゃない。ボクはまだアンタの実力を見たわけじゃないんだから。言っとくけど、明日あたり誰かと模擬試合してきちんと見せてもらうから。それの結果を、兵と一緒に突撃させるか、曲がりなりにも将として扱うかの分水嶺にさせてもらうわ」

 

 ただ飯喰らいを置いとく余裕はない。そんな副音声が聞こえてきそうな声音であった。

 

 苦笑しながら了承の意を示すと、話は終わりだと退室を促される。

 用は終わったとばかりに手元に視線を落とす様を見ると、先程溢した忙しいという愚痴は正しく真実なようだ。なまじ優秀が過ぎる故、仕事を抱え込んでいるのだろう。もしくは、任せられる、信用できる人材に限りがあるのか。

 

 ……考えても詮なきことだ。刀を振るうしか能のない私では、手伝うこともできはしない。他の部分ではしっかり働いてやるつもりだが。

 

「ああ、そうだ賈駆殿。拙者の刀は今何処にあるか教えてはくれぬだろうか」

「かたな? ……ああ、アンタの持ってた武器ね。武器庫に運ばせた筈だから、誰かに案内させるわ」

 

 それにしても、と賈駆が続ける。

 

「あの武器、見たことがないんだけど、何処で手に入れた物なの? 業物かどうかっていうのは、ボクにはわからないけど」

「なに、アレはそうあれかしと与えられた物であってな。想像に任せるとしよう。一つだけ言わせてもらうなら、それなりの業物だ」

 

 限界の近いあの状況で(セイバーと)の戦いでは歪ませてしまったが、平時ならそんな事はさせぬという自信がある。

 もっとも、自分の好まない状況であろうが、それも含めての戦いだ。

 その時出せる最大の力がその時の実力である。たら、ればなどと意味もない。

 そう考えれば、さぞや有名であろう聖剣と打ち合っても歪んだだけ、という点で見ればやはり、自慢してもいいくらいの業物だろう。

 

「ふぅん……素直に答える気はないのね」

「そう睨まれてもな。良い男というのは、謎が多いものと相場が決まって御座ろう?」

「死ねば?」

 

 はっはっは。

 

 手厳しい。

 

 

 

 

 

 

 しっしっ、と手で追い払われ、執務室を出た小次郎は、さて、と頭を悩ませた。

 備中青江(物干し竿)が武器庫にある、とは聞いたが、場所がわからない。案内をさせるなどと言っていたが、あの今にも仕事量的にも物理的にも埋もれそうな多忙さでどうするというのだろうか。

 まぁ、幸いにして特にやることもない。

 ぶらぶらと見て回るのも一興か、と歩き出してすぐ、見知った顔と遭遇した。

 

「ん? おお! こじろーやんけ! どないしたんこんなところで」

 

 快活そうな顔で笑い、小走りで寄ってくる彼女の手には、酒瓶が握られていた。見れば、顔も少し赤みがかかっている。

 

「おや、張遼殿。まだ日も沈みきらぬうちから酒盛りとは、随分とよい身分な事であるな」

「なんや硬い事言わんといてぇなぁ。自分もそういう性質(タチ)かいな?」

「は、いやいや。拙者も酒は好きで御座るよ。月に花にを愛でながら飲む酒はまた格別でな」

「おおう! わかるやっちゃなぁ! どうや? 今晩、親睦を深める為にもウチと飲まんか?」

「ほう」

「ん? なんや? ウチ相手やと不満か?」

 

 そう挑発気に笑う張遼。

 その誘いを聞き、数刻前には罪人であったような男を、直ぐに酒に誘うその行為に、微かに驚かされた。

 きっと、彼女なりの歩み寄りなのだろう。

 さばさばとした切り替えのよい性格は好むところだし、もちろん不服などない。むしろ、大歓迎だ。

 

「不満も何も、可憐な花に誘われては断れまいよ。今晩、楽しみにしておこう」

 

 そう笑いかけると、少しぽかんとした顔をした後に、慌てふためき、その後蚊の鳴くような声で、

 

「ほ、ほうか。じ、じゃあまた後でな?」

 

 と言ったと思うと小走りで視界から消えていった。

 

 ふむ。

 見た目の華麗さとは裏腹に、純粋な娘なのだろうか。

 そう思考し、直ぐに小さく「あ、」と声をあげた。

 

「武器庫の場所を聞き損ねてしまったな」

 

 まぁ、代わりに夜の楽しみが出来た事を喜ぶとしよう。

 

 

 

 

 そうして幾ばくか歩いていると、またもや知っている顔に遭遇した。

 

 顔、とは言ったが、判別したのは服装と特徴のある赤い髪であった。

 饅頭を食みながら、両手に料理のはみ出す紙袋をこれでもかというほど抱えているため、顔が中々わからなかったのだ。

 もっとも、塔の如く積み重なった紙袋の数々を危なげなく持ちながら、しっかりとした足取りで歩いている時点で只者ではないのは感づいていた。

 

 この少女、自分の平衡感覚と力を有効活用しすぎであろう。

 

「これは呂布殿。買い出しで御座るか?」

 

 と、声をかけたところで、いやいや、と直ぐに心の中で首を振った。

 国を守る武将の一角が食材の買い出しなどあり得ないだろう。そういうのは炊事係や雑用などの存在がやるはずだ。

 そう思い、しかし口に出してしまったものは仕方ない。相手の返事を待つとしよう。

 と、待っていると、

 

「………………………」

 

 もぐもぐもぐもぐ。

 

「………………………」

 

 もぐもぐもぐもぐ。

 

「………………………」

 

 もぐもぐ……ごくん。

 

「……そう」

「いや長すぎであろう!?」

 

 というか肯定されたで御座る!?

 

 思わず少し声を荒げて言うと、当の呂布は首をこてん、と傾げ、

 

「食べ物は、しっかり噛まないと、駄目」

「ああ、うむ。そうで御座るな」

「口の中に物が入ったまま喋るのも、下品」

「うむ、うむ。言うとおりで御座る……ん?」

 

 あれ、自分はそういう話をしていんだったっけか。

 いや、ただ挨拶をしただけだったな。うむ。

 

 どうにも、此方の調子が崩される少女である。

 これが先程の威圧感を放っていた少々と同じ存在かと思うと、少々信じがたい。

 だが、これがかの名高き三国無双の呂布奉先なのだというのだから驚きだ。

 

 『ろぼっと』のようにただひたすら手を替え品を替え、敵を蹂躙する者を想像したのは何故なのだろう。いや。気のせいだろう。『ごっどふぉーす』などという単語も聞こえてない。気のせいだ。

 

「家族の、ごはん」

「そうか。大家族のようで御座るな」

 

 なるほど、家族の分であるならば自分で買いに行くのも頷ける。

 だが、この量を食べる家族というには、どれくらい多い人数なのだろう。もしかしたら彼女自身もそうだと予測できるが、大層な健啖家がいるのだろうか。

 

 抱える量を見てそう思っていると、言葉少なな少女は一度頷き、片手で料理の塔を支え、もう片方の手で饅頭を差し出してきた。

 

「ん……」

「おお、かたじけない。よいのか?」

 

 こくり、と了承の意を示す少女に、再度礼を言ってから口に運ぶ。

 お近づきの印、ということだろうか。有難く頂くことにする。

 一口食べ、中々の絶品であると舌鼓を打つ。

 しかし、まぁ、なんだ。この時代での初めての食物であるが、拙者が生きていた時代より格段に味がいいのは何故だろう。

 何か神秘でも働いているのだろうか。

 女狐がいれば、そこらの事もわかったのだろうが、いたらいたで喧しそうだし、やはり居ないほうがよいな。

 まぁ世の中こういうこともあるだろう、と思考を切り捨てる。

 

「馳走であった。重ねて礼を言おう」

「……ん」

 

 本当に感情の読みづらい娘である。

 戦いであっても、役に立つだろう。

 

 と、このやり取りもいいのだが、目的の事を尋ねるとしよう。

 

「呂布殿。聞くが武器庫の場所を知らぬだろうか」

「……?」

「いやなに、拙者の刀がそこにあると聞いてな。しかし来たばかりでここの造りに詳しくない。賈駆殿は多忙であるし、張遼殿には聞きそびれてしまった。無論、呂布殿の用事が済んでからでいいのだが案内など頼めぬだろうか、とな」

 

 そう言うと、少し考えた素振りを見せた後、

 

「ごはん、食べた後なら」

 

 と、了承の意を得れた。

 

 

 その後、家族と聞いて人間を想像していた小次郎は、呂布の家族に様々な洗礼(犬にもふもふしたり噛まれたり)を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 天国と地獄を同時に味わったようであった、とだけ明記しておく。

 

 家族と称する動物たちへと食料を与え、身軽になった呂布は、其れでも両手に紙袋を抱えており、暇さえあれば咀嚼で口を動かしている。まるでリスか何かのようだ。勿論RISUとかそういう話はしてない。

 

 無言であることが常の呂布に、沈黙もまた良しとする自分という互いの性質的に、歩いている間何を話すわけでもなかったが、だからこそすんなりと武器庫に辿り着いた。

 呂布がいたからか、特に滞りなく管理の兵から刀を渡され、定位置に背負い直す。

 

「……ちんきゅーと約束あるから、此処まで」

「ん、ああ、そういえば陳宮殿がおられなかったな」

 

 あの様子では、四六時中ついて回っていてもおかしくないだろうに。

 まぁ、利発そうな娘であったし、手伝いにでも駆り出されているのではと予想ができた。

 

「其れでは、助かった。礼はいずれさせてもらおう」

「ん」

 

 呂布は、こくり、と一度頷き、空いている方の手を小さく振って別れを示してから歩いて行った。

 

 さて、これからどうしようかと頭を悩ませる。

 城を見て回る、というのもいいのだが、あまり一人で彷徨いて、迷ったり立ち入ってはいけないような場所に行ってしまうのも面倒だ。

 しかしそうなると、暇を持て余してしまう。

 

「……賈駆殿は練兵場がある、と言っていたな。覗かせてもらうとしよう」

 

 片隅でも貸して貰って、刀を振らせてもらえればよい暇つぶしになるのだが、と考え、人を見つけて尋ねるために歩き始める。

 

 

 

 しばらくすると、一人の少女が此方に背を向け歩いているのを見つけた。

 紫煙を思わせる色合いの軽鎧に、横に大胆に開いた『すかぁと』のような服装を組み合わせたその少女は、戦斧と槍とを合わせたような武器を片手に、静かに廊下を歩いていた。

 あれ程重量のありそうな武器を持ちながらも、足取りは辛さを感じさせていない。

 感じるのは平時でありながらほのかに感じるの荒々しい武の気。

 

 ────この少女も、そこらの者とは一線を画しているな。

 

 やはり武将なのだろうか。もしかしたら新入りたる自分が気安く言葉を交わしてはいけない存在かもしれないが、まぁ、今更か、という考えから声を掛けた。

 

「すまぬが、そこな少女よ」

「ん?」

 

 振り向いたその顔は、やはりというかなんというか、美女に形容される部類だろう。やや吊り上がった目は意志の強さを感じさせた。

 

「少し尋ねたくてな。練兵場となるものがあるというが、どこにあるのか教えてはくれぬだろうか」

「……ああ、それなら私も今から向かうところだ。ついてくるといい」

「おお、かたじけない」

 

 そう言うと、また背を向けて少女は歩き始める。

 歩いている途中、此方をちらり、と一瞥し、

 

「見ない格好だが、何処の部隊だ?」

「いや、拙者新入りとでもいう立場でな。どこの部隊にもまだ属しておらぬ」

「そうか」

 

 それだけ聞くと、また黙り歩みを続ける。

 

 この感じる気は警戒、だろうか。

 思えば、此れだけ大きな都を守る為の軍である。

 先程の場にいた者が全ての将だったというのも考えにくいものだろう。

 兵はまだしも、武将の一角に話が言ってないとか、まさかそんな。

 だが、一応、確認してみた方が良いだろう。

 

「あー、少女よ。まだ聞いておらぬのかもだが───」

「着いたぞ。ついてこい」

 

 説明を続けようとしたが、遮られてしまった。

 それどころか、練兵場に着いたのにまだ何処かに案内してくれようとしている。

 ふむ、と頭を悩ませるが、見ると人気のないような場所に向かっているのを見て、まぁ、誤解でもされているなら解いてから鍛錬するか、という楽観的な思考で後をついていく。

 

 

 人目のない、周りを木々に囲まれた一角に着くと、少女は立ち止まった。

 それに合わせ立ち止まり、辺りを見渡しながら、

 

「逢い引きの誘いなら、もっと堂々としてくれて良いのだぞ?」

 

 そう笑いかけると、少女は武器を此方に向けた。

 

「逢い引き? 笑わせるな。此れから死に行くものに付き合う道理はないだろう」

「……ふむ、何故その思考に至ったか、教えてはくれぬだろうか」

「惚けるな! 脱獄犯め、のこのこと董卓軍の猛将が一人、この華雄の前に顔を表したのが運の尽きよ!」

「…………」

 

 脱獄犯。

 それは牢などから逃げ出した者に本来使われるものなのだろうが、

 

「え? 拙者でござるか?」

「何を白々しい! 街中で呂布を斬りつけた奴の格好は兵の口から耳に入っているぞ。 ちょうど貴様のような格好だ!」

「まぁ、そうでござるな」

 

 あっこれやっぱりちゃんと話通ってないやつでござる。

 

 とは言っても斬りつけたのは事実である。

 誤魔化すという選択肢もないので、そこは素直に肯定しておいた。

 

「衛兵が捕まえた、と聞いていたが隙を窺っていたのだろう? 何処の所属かは知らんが、まんまと私の策に嵌ったな」

「策」

「貴様が呂布に、曲がりなりにも傷をつけたと聞いた。他の兵では相手は厳しいだろう。故に、巻き込むことのない場所に誘導させてもらった」

 

 どやっ、と擬音のつきそうな顔で胸を張る少女に、小次郎は苦笑を零した。

 なるほど、確かに無用な犠牲を出させないために、一対一へと持ち込めるこのような場所を選んだのだろう。

 だが、しかし、

 

「いや、そのあとの話には続きがあって───」

「敵の甘言には乗せられんぞ! だいたい、私に対してあそこ迄気配を感じさせぬなどと、やはり危険な奴だ! お前は私が斬る!」

「ええー」

 

 また遮られた。

 しかも話を聞かぬし、もしやバーサーカーの類か。

 

「さぁ構えろ。私も武人の端くれ、武器も抜いてない奴に襲いかかることはせん」

「はぁ。どうしたものだろうか、これは」

 

 死合いは歓迎だが、相手はこれからの同僚。

 殺し殺されができず、誤解を解かねばならない。

 だが、まぁ、一度落ち着かないことには話も出来ぬ、か。

 

 ため息をひとつ吐いてから、愛刀をゆっくりと引き抜いた。

 

 

 

 




12/2 口調等修正。
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