農民(NOUMIN)が三国乱世を行く(ただし恋姫)   作:ぱっくまん

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難 産



農民ブリッツ

 

 

 

「おーおー。これはまたうじゃうじゃと、よう集まったって感じやなぁ」

 

 

 時は進み、場所は汜水関。

 

 洛陽へ続く二つの関所、その一つ目の城壁の上で、太陽の陽を浴びながら張遼は誰に向けるでもなく言う。

 

「数がなんだというのだ。兵卒を幾ら並べようが、案山子とそう変わらん」

 

 隣に立つ華雄が、その言葉を拾い、少し誇るような──擬音をつけるとしたら、どやっ、とでも付きそうな──顔でそう言う。

 

「まぁそうは言うてもそんな多く相手してたらどうしようもないっちゅーねん……華雄みたいな体力馬鹿はともかく」

「ん、何か言ったか」

「いいや? なーんも」

 

 張遼ははぐらかして、ひっそりとため息をつく。

 

 確かに、華雄がそこらの者に易々と負けるとは思わないし、それは張遼だって同じだ。

 

 しかし、数がそれを覆すのは変えようのない道理である。

 加えて、此方と同等か、もしかしたらそれ以上の武将も混じっているのだろう。

 

 

 敗戦濃厚。

 いや、もはやこれは敗北が定められているのではないかと思えるほど、馬鹿馬鹿しくなる物量差だ。

 

 その諦めに近い雰囲気は、軍の中にも漂っている。

 

 それでもなんとか持っているのは、二つの堅牢を誇る要塞と、天下無双の存在。あと、こっぱずかしいから口には出さないが、自分らを慕ってくれている兵士ばかりだからだろう。

 

 まぁ、それに小さい要因として加えて言うなら────

 

「結局、其方と呑むという話も、立ち合いの件も無くなってしまったな」

 

 そこまで考えて、後ろからかけられたその声に思考が中断された。

 脳裏に思い浮かべていた想像が、直に声をかけてきたのかと一瞬驚いたが、そんなことはおくびにも出さないように、努めて冷静に返す。

 

「そうやなぁ。全くもって慌ただしい話や。まぁ、呑むくらいやったら此処でも出来るやろ」

 

 そう言ってから、振り返る。

 その先には陣羽織を身に纏い、変わった長剣を背負う男が、表情に笑みを浮かべながら立っていた。

 

「ふ、確かにこの立派な城壁から月を愛でながら呑むというのも良いものか。何処もかしこも、何かしら風情に溢れているものだな、この世界は」

「世界とか、大げさなやっちゃなぁ。ああいや、山育ちからしたら、そんなもんなんか」

「……まぁ、そんなところだ」

 

 小次郎がうっかりとこの時代、と言わなかったところは褒めて良いだろう。

 

 冬木での時も、小次郎がもし自由に動ければ風情のある景色を探し歩けたのかもしれない。

 しかし、そんなたらればも所詮想像でしかない。結局、最後まで柳洞寺から見える景色で自分を慰めていた。

 ならば、直に観て、音を聴ける此方に、多様な風情に小次郎の胸が躍るのも仕方なしというものだ。

 そんな内心を知らない張遼は、まぁいいか、と流し、

 

「もういっこの話の、試合っちゅーと、此処来る前に聞いたんやけど、華雄は一戦既にやってんねやろ? どやったこじろーは?」

「うむ。強かったぞ。なにせ此方の攻撃が当たらんしな。当てれば一撃で持っていく自信はあったのだが」

「あっはっは。流石に私もあの攻撃を食らってタダで済むとは思わなかったぞ。まぁ、当たらなければどうということはない、といったところか」

「抜かせ。次は当ててやろう」

 

 そう言う二人に悪感情はない。

 卑怯な行動をあまり好まない華雄がこの態度ということは、この気弱そうな風貌に似合わず、単純に武技の競い合いで勝ったのだろうか。

 確かに、城に連れて行く時に発した剣気は相当なものであったが、如何せん実力を自身で見てさえもいないので判断がつかない。

 予定してた試合はそれを計るためでもあったのだが──、

 

「まぁ、直接できんもんは仕方ないわな。実戦の中で見せてもらうわ」

「ふむ、できないわけではなかろう? この戦の後にでも出来るだろう」

「────」

 

 その発言は、つまり。

 

「────勝つつもりなんか」

「無論。聞けば、名のある英傑が溢れんばかりだというではないか。それらと戦う際に勝つつもりがないなどと、無粋にも程があろう? 故に私は、千や二千、万に届こうが、それ以上であろうが、全てを斬り伏せ乗り越えていくとしよう」

 

 

 そうなんでもなさそうに、それが当然、やるべき事だとでもいうように、言い切った小次郎に、張遼は薄ら寒いものを背筋に感じた。

 

 此奴は鬼だ。

 

 このような状況にありながら勝つと、そう言い切るその精神。

 それはもちろん、張遼とて負けるつもりで戦う事などない。

 

 それでも、恐怖はあるし、実力差と物量とを推し量って無理な時は無理とも言う。そこの線引きを見誤らなかったからこそ、これまで生きてきたとすら思う。

 

 だが。

 

 恐怖を滲ませず、しかし傲るような様子でもなく。

 唯々現実を見据え、それでもこの兵力差を、前座か何かのように超えていくとそう宣言する目の前の存在。

 

 いったい、どんな人生を歩めばこのような、一振りの剣かなにかのような人間が出来上がるのか。

 

 張遼には、想像ができなかった。

 

「ふむ……なるほど。そうだな。深く考えず、目の前の敵を全て斬れば解決ということだな。わかりやすい」

「華雄さん!?」

 

 馬鹿な事を言い出した華雄に、思わず普段ならまず呼ばない呼び方をしてしまう。

 

「なんだ張遼。柄にもない呼び方をして」

「いやいやいやいや、まず共感できんと思っとったのに、隣の馬鹿が馬鹿な事言い出したらそりゃ柄もなんも無くなるわ!」

「馬鹿とはなんだ。私とて、なんの考えもなく言っているわけではないぞ」

「……その心は?」

「私の方が、奴らより強い」

「馬鹿や……」

 

 先ほど浮かべたどやっ、と音がつきそうな顔でそう言い切る華雄に、張遼は頭を抑えながら呟く。

 同じような事を言っているのだが、小次郎とはまた別の方に恐ろしい。

 

「ところで……彼奴ら、何故攻めてこぬ? 圧倒的な数なのだろう? 一思いに此方を叩き潰す気概で攻め立ててきてもおかしくないのではなかったのか?」

「まぁ、戦に出ない奴やったらそう思うわなぁ」

 

 小次郎の首を傾げながらの言葉に、張遼はしょうがない、とでもいいそうな顔で返す。

 確かにあれだけ強く、先程のような事を言えるのであれば、個での戦いは飽きるほど経験していそうだが、大群との経験はないだろう。もっとも、個での戦いの経験すら少ないのだが張遼がそれを知る由もない。

 

「平地やろうと何やろうと、ともかく軍っちゅーのは多かれ少なかれ大所帯や。そうすると、もちろん一日で決着が付く方が少ないってのはわかるやろ?」

 

 黙って首を振る小次郎。それを見ながら張遼は続けた。

 

「平地ですらそれや。ほしたら、しんどさに輪をかけた城攻めなんかやったら、兵や将は何処で休めばええと思う?」

「……なるほど、陣を敷いているということか」

「ご名答や。ちゅーことで奴さんらは時間かけ過ぎて攻められたら笑えんから大慌て、とはいかんでもそれなりに急いで陣を敷いて、うちらはうちらで防衛の準備。せやから、今は嵐の前の静けさってところやな」

 

 まぁ、兵を率いてこんかったんならわからんでも仕方ないと思うで、と一言付け足す。

 馬鹿だ馬鹿だと馬鹿にしている華雄も、そこは頷いている。もっとも、この馬鹿の場合は感情で動きすぎるから型破りな部分が大きいのだが。

 

「ふむ。理解した。ならば私も何か手を貸した方が良いのだろうか」

「ああ、いや、準備ゆーてももう大部分は終わってて、後は詰めていくだけや。うちらはそろそろ戻るけど、こじろーは適当に休んでくれててええで」

「ん、よいのか」

「客将にそんなぽんぽん頼み事はせえへんよ。気にせず休んどき。始まってからがそりゃあもう、しんどいしな」

「うむ。休むのも仕事の内という奴だな。身体が疼くのはわかるが、来るべき時に温存しておくものだ」

「ほんま、そういうところはしっかりしてんな……これで戦術も覚えてくれたらなぁ」

「何か言ったか?」

「いいや? もう諦めてるからええわ」

 

 そんなやり取りをしている横で小次郎は顎に手を当て、何か思いついたかのように一つ頷いた。

 

「で、あるならば少し散策でも行って来るとしよう。地形などを見ておくのも良さげだ」

「おお、ええと思うで。ただ斥候なんかは出てるやろうから、気をつけな?」

「ふむ、そうだな。斥候には(・・)気をつけよう」

 

 何か含みのある言い方であったが、まぁ、気をつけるというのだしいいだろう。そもそも、華雄に勝てるなら並の兵相手に後れをとる事も無いだろうが。

 そう思って小次郎と別れ、城の中に戻る。

 

 

 後に張遼は言った。

 

 この時。この時に小次郎を無理にでも手伝いに駆り出していればと。

 

 あんな馬鹿な真似を見過ごすことはなかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここにいる佐々木小次郎は正直、この時代に来てから常時浮かれている。

 

 理由はまぁ、色々あるが、例えば強敵がいる事。例えば自由の身な事。例えば見応えのある風景が溢れている事。挙げれば幾らかあるが、兎にも角にも、浮かれている自覚はあった。

 

 故に羽目を外した真似に出る時も、まぁそれも一興かと自制が収まらない場合がある。

 戦闘衝動もつまるところそれの一つである。

 

 だから今、小次郎は敵の陣中にいる(・・・・・・・)

 

 理由を挙げるなら、名だたる英傑達の顔を一足先に見ておこう、といった好奇心からだろうか。加えていうならば、多くの陣営が参加するというのなら、天の御使というものも、もしかしたらいるかもしれないという考えがあり、あわよくば見ておこうと思ったからというのも一つだ。

 

 まぁ、もちろん偵察紛いの事もしてみようというつもりもある。自身は暗殺者のクラスだ。ソレ(暗殺)をやるかどうかは置いておいて、気配を悟らせず、というのは得意だ。

 そもそも、敵の陣中で大立ち回りなど、そうそうしたくもない────いや、したくないわけではないが、勝手に行動して、勝手に死にました、では格好のつけようもないというものだ。

 

 そんな言い訳めいた考えを頭の中に置いて、ふらりと歩く。

 

 取って付けたような気配遮断スキルと、透化を合わせ、存在感を可能な限り希薄にした自分に、周りのものは気づかない。

 無論、勘の良い者なら気づくだろうが────今の所、平気なようだ。

 

 そうして堂々と、しかし気をつけてしばらく歩くと、人影が少なくなってくる。如何やら陣の端の方へ来てしまったようだ。

 やれやれ、無駄足かと後ろを振り返りかけ────眼の端に人影を捉えた。

 

 すぐさま近くの物陰に隠れると、声が聞こえてきた。

 

愛紗(あいしゃ)、主を見なかったか?」

「ん、(せい)か。いや、ご主人様なら見かけていないな。天幕の方にいると思うのだが、急ぎの用か?」

「いや、少々野暮用がな。なに、また後にするとしよう」

 

 影から伺うと、少し離れた場所に二人の少女がいた。

 

 艶やかな黒い髪を高めにまとめた少女と、少々際どい格好の少女は、両方共に遠目からでもわかるほどの美貌だ。

 

 その手にはえものが握られており、この二人も戦う者なのだということを理解する。

 

 ────本当に女子(おなご)ばかりなのだな。

 

 少女達はそれなりどころか、やもすれば一級の武人だろう。そんな存在も、一見ただの可憐な花なのだから侮れない。

 

 呼び合う名はきっと真名だろうことから、自身の知識にある武将かどうかは判別がつかない。

 この少女達が誰かは分からないが────主と呼ぶ存在には興味が湧いた。

 

 名の知れた者である可能性がある。一戦、とは言わないが、一目見ておく価値はあるだろう。

 そのためには彼女らの天幕に行かなければいけないのだが────さて。

 素直に聞いて答えてくれるならいいが、そうはいかないだろう。

 故にこの内のどちらかが戻る際についていけばよいか、と考えをまとめ─────、

 

 

 

 風を切る音に、横に飛んだ。

 

 

 

 破砕音。

 

 

 

 先ほどいた場所の地面は砕け、陰としていた荷物は目も当てられない惨状だ。

 その光景を目に、襲撃者に声を掛ける。

 

「────いやはや、今のは流石に肝を冷やしたぞ。何故わかった?」

「嫌な感じがしたから、殴ってみたのだ! 怪しい奴、何者なのだ!」

 

 そう答えになってない答えを返しながら、武器を構える少女は小柄であった。

 

 虎の髪飾りと、腹部を露出した服装。軽装であるが、なるほど。あの威力を出すために邪魔な物を取り払っているのだろうか。

 

 横目に、破壊された場所をもう一度見る。最初は大型の鈍器か何かで攻撃されたのかと思ったが、あの長物の一撃で此処までできるものなのか、と感心すら覚える。

 華雄殿と同じ、力自慢なのだろうと当たりをつける。

 

鈴々(りんりん)! 今の音はお前か!? 何があった!」

「待て、愛紗! 誰かいるぞ」

 

 先ほどの音で、先程の少女二人が駆けつけてくる。

 このような明るい場所で、此方の存在を認識されては私の拙い気配遮断などないも同然だ。

 此方に気づいた少女達は、今まで気配一つ無かった存在に対し、警戒を露わにする。

 

 さて────どうしたものか。

 

「……見れば、結構な武人とお見受けする。どこの陣営のものかは存じないが、正直に目的を話せば手荒な事はしないと誓おう」

 

 黒髪の少女はそう言って武器を構え、油断なく此方を見据える。他の二人も、私を逃す気はないようだ。

 

 「────なに、聞けば各地の群雄が揃い踏みといいうではないか。ひとつ顔を拝見させてもらおうと思ってな。隠れていたのは許せ。美しいものを前にすると、口が回らんくてな」

「ふ、我々の前でそうも饒舌に喋る口が良く言えたものだ。所属はどこだ? 名は?」

 

 槍を構えた少女は警戒を欠片も解かず問いかけてくる。

 名、か。

 答えてもいいが────

 

「────ふむ、そうだな。ひとつ余興をせぬか?」

「……余興? 何を言い出すかと思えば」

「まぁ、そう慌てるな。本当に唯の余興だ。そうだな────私に一撃、一撃入れる度に一つずつ情報を開示していくことにしよう」

 

 その言葉に、目の前の少女達は顔を顰める。

 それもそうだろう。

 わかりやすい挑発だ。

 お前達の攻撃など、当たる訳がないと。そういう意味なのだと、目の前の少女達は気づくだろう。

 別に、私の名など所詮紛い物。勿体振る価値もない。加えて、目の前の少女らを過小に評価しているわけではないが────些か、根が優しい考え方の武人達であるようだったので、焚き付けてみた。

 

 セイバーがそうであったように、血に塗れた道を歩んでいても、気高き者であったり、心優しき者はいるのだ。それはその者の芯であり、仮に反転しようが、その残滓は何処かにこびりついて離れないだろう。

 

 だからこそ、そういう優しき者は如何しても何処かで良心が出る。この挑発でそれを無くせる、とは露ほども思わないが────死合いの流れに持ち込めたのなら、自分の譲れぬものの為に全力を出してくるだろう。

 

「さて、如何する? 私は此処で何も明かさず、自らの陣営に戻ってもいいのだが」

「それが出来るとでも?」

「出来ないとでも?」

 

 青髪の少女の問いかけに、即座に返す。

 少女らには残念ながら、私はこの者達を振りきれるだろう。

 でなければ、燕に追いつくなどそもそも無理な話となってしまう。

 

「────その余興、受けて立つとしよう」

「星!?」

 

 青髪の少女が、少し妖しく、そして何処か獰猛な笑みで了承の意を返す。

 

「愛紗、この者は本気だ。そして、元より嘘をつこうという眼でもない。ならば逃すより、情報を一つずつ頂いていこうではないか」

「……もしかして、頭にきているのか?」

「少しだけ、な。我が神速の槍を前にして、追いつけぬだろう、などと自信満々に言われれば、誇りが目の前の者を捨て置けぬと吼えたてるのだ」

「鈴々は、取り敢えず取っちめておけばいいような感じがするので、星に賛成なのだ!」

「鈴々まで……はぁ、仕方ない。これから董卓軍と戦う前だというのに、仲間同士で何をやっているのか……」

 

 小柄の少女も乗ったことにより、渋々と獲物を構える黒髪の少女。

 話はまとまったようだ。

 

 もっとも勘違いしているようだが────私は一度も、自らの陣営が連合軍だとは言っていないのだがな。

 それを教える様な詰まらない真似もしないが、な。

 

 少女達が武器を構えたのに対して、自らも愛刀を鞘から滑らせる。

 

 甲高い鋼の音が、空に消えていくような音色で響き、傾き始めた陽の光を浴びて輝く。

 

 さて────

 

 

「────では、始めるとしよう」

 

 

 

 

 




待たせているにも関わらず暖かい感想、ありがとうございます。
とても励みになってます。ところで励みってハゲみって書くとなんだか微妙な気持ちになりますね。これからもハゲみ増すとかなんか嫌なんでもないです。
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