妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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13話 ルーツ

 零達は、横浜に来ていた。休暇を取り、零の生まれ故郷である横浜へ。

 零は、マイクロバスの車内からJR横浜駅を見上げた。一目で巨大な駅だと分かるが、懐かしいとは思わなかった。

 

 

 

 前日、調布基地――

〔B1, Chohu tower, clearance for landing.〕

「Roger.」

 雪風が着陸する。エアロブレーキ最大拡張、主翼仰角6°。後輪が接地し、今度は主翼を下に向ける。前輪も接地してディスクブレーキが稼働した。そのままエプロンへタキシング、エンジン出力を上げて排気する。地上誘導員の指示で移動し、止める。パーキングブレーキをセットすると、自動で主翼が畳まれ、コクピットカプセルが後退した。キャノピー解放、零は酸素マスクとシートベルトを外し、ヘルメットを脱いで立ち上がった。

 メイヴの隣にシルフィードが止まり、コクピットからありあが降りる。零も桂城少尉と共にメイヴから降りた。

 

 そして報告書を書き終え、零は格納庫に向かった。雪風はもうメンテナンスを終え、カーミラの隣に並んでいる。

 零はコクピットに座り、マルチディスプレイを見る。すると、こんな文字列が点滅していた。

〈connect on formation flying datalink.〉

 直訳すれば、「編隊飛行用データリンクに接続中」だ。しかし、当然ながら今は飛んでいない。編隊飛行用データリンクに繋ぐ必要は無いはずだ。

 零は、一体何と繋がっているのか調べようとボタンに手を伸ばすと、新たな文字が出た。

〈Don't touch me, Lt.FUKAI.〉

 零は、思わず左手を引く。雪風は、零がやろうとした事を予測し、拒否したのだ。ここで下手な動きを取れば、座席ごと吹き飛ばされそうだ。シートベルトもパラシュートも着けていないし、そもそも格納庫の天井まで5mも無い。ロケットブースターで打ち出された座席は、優に15m上方まで飛ばされるから、頸椎損傷や頭蓋骨陥没では済まされない怪我を負ってしまう。

 それは御免だ、と零は動きを止めた。

 すると、また新たな表示が出た。

〈Attack this point. / You have control, take your action.〉

 そう表示され、零は訝しむ。レーダーには、ここからほど近いポイントが示されているが、それがどこだか分からない。

 

 

 

 同じ頃、クリスティーネは桂城少尉に尋ねていた。

「ねえ、彰さん」

「はい?」

 ステーキ特集の週刊誌から、桂城少尉が顔を上げた。

「彰さんって、出身は何処なの?」

「出身、ですか? 日本空軍 東部航空方面隊 第28戦闘航空団 第108攻撃飛行隊のF/A-15EJ ストライクイーグルのWSO(ウェポンシステム・オペレーター、兵器誘導管制員)です」

「いえ、経歴じゃなくて、生まれ故郷を訊いたのだけど……」

「ああ、すいません。佐賀です、九州の佐賀県」

「佐賀……帰りたいとか思った事は?」

「あんまり無いな。FAFでは、地球に帰るためには軍の監視下か、除隊か退役しないといけませんから。それに、ぼくが日本空軍に入ったのは、一刻も早く親から離れたかったからですし」

「どうして?」

「両親が、病的なまでに過保護で、常にああしろこうしろと……」

「それだけ、ご両親に愛されていたのね」

「なのですかね……あまりにも束縛され過ぎて、もう嫌になりましたがね」

 自虐的に笑う桂城少尉に、クリスティーネは何も言えない。本当に、特殊戦の隊員を相手にすると会話が続かないのだ。

 すると、見かねたエディスが割り込んだ。

「桂城少尉、同じ日本出身なら、深井大尉の生まれは分かる?」

「さあ、そんな会話はした事無いから……でも、どうしてです?」

「せっかく日本にいるなら、自分のルーツを巡るべきだと思ってね」

「それは、ぼくはパスします。大尉も同じように言うと思いますよ」

「確かに。でも、原点まで戻って振り返るのは、必要な事よ」

「フォス大尉、質問が」

「何かしら?」

「どうしてここまで深井大尉に思い入れするのですか?」

「やっぱり、雪風という戦闘知性体と、本来なら形成される筈が無い信頼関係を築けているから、かしら。かつては一方的な依存だったのが、こうして共存関係になれるのは、人間社会では有り得ない、それが異質な存在同士で出来ている……私としては、これからどうなるのか気になるし、出来れば完璧な関係になってもらいたい。それが人類の希望のような気がする」

「という事は、もし雪風と深井大尉が人類の希望になれば、フォス大尉はそれの立役者として記録される訳ですね」

「別に、歴史に名を残そうとは思ってないわ。ただ、彼らから目を離せられない」

 2人の会話に、クリスティーネの入る余地は無かった。

 

 

 

「ふあぁぁ! フライトの後のシャワーさいこ~」

 女子シャワー室で、キャサリンが呟く。隣のパーティションでは、ありあは無感動的に汗を流す。

「にしても、ほんとアーニャさん綺麗ですよね」

「そう? 男にモテた経験はからっきし無いけど」

「そうなんですか!? もったいない……」

「『モッタイナイ』? 私は異性に興味無いけど」

 キャサリンとアナスタチア=コヴァレフスカ中尉が話をしている。

「ていう事は、まさかアーニャさん、処――」

「キャシー!」

 たまらずありあが叫ぶ。キャサリンは驚き、ありあのパーティションを覗き込む。

「どうしたの、ありあ?」

 ありあは、頬を赤らめながら口を開く。

「そ、そういうのは訊くと失礼じゃないの!?」

「そうかな、割と普通だと思ったけど」

「本当に記憶喪失だったの!?」

 すると、アナスタチアが止めに入る。

「そこまでだ、春夏秋冬少尉。それに、ロシアでは割と当たり前にこんな会話をするぞ。勿論、女子だけだが」

「へぇ~。で、アーニャさんは処女なんですか?」

「とっくに捨てた。誰だったかは覚えてない」

 ありあはますます赤面する。キャサリンは目ざとく反応した。

「お? ちょっと赤くなり過ぎてない? てことはありあ――」

「キャシー!!」

 

 

 

 雪風のマルチディスプレイに表示された地点に、零は疑問を抱く。距離は100mと離れていない。普通に考えれば、官舎か管制塔だ。しかし、何故雪風はここを攻撃しろと言うのか――。

「やはり、ここにいたのね、深井大尉」

 声がした。見れば、雪風のレドームの所にエディスが立っている。いつもの白衣では無く、誰から借りたのか革ジャンを着ている。その下の白いTシャツの襟元は大きく開いていて、谷間がよく見える。

「何の用だ、フォス大尉」

 零が言うと、エディスは胸の前で腕を組んだ。

「深井大尉、明日は暇?」

 零は訳が分からなかった。しばらく考え、そして口を開く。

「何かのジョークか?」

「あなた程つまらないジョークは言わないわよ……出来れば、あなたの生まれ故郷を巡ってみようと思って」

「フムン。おれの里親に挨拶しに行くのか?」

「全く笑えないわ……言うなれば、あなたがより人間らしくなるための旅、かしらね」

「より人間らしく? おれは人間である以上に何か必要なのか?」

「いい? 雪風はデジタル的存在で、あなたはアナログ的存在よ。なら、互いの感性を磨いておけば、ジャムにとってより脅威になるんじゃないかしら?」

「フムン……」

 零は熟考する。確かに以前も「ジャムと戦うには、人間の立場からでなくてはならない」と誰かが言っていた。確かにそうするべきだ。ジャムは人間が何なのか分かっていない、ならその間は最大の脅威になり得る。

 ならば、雪風が指し示している地点は、人間としての視点で観測すべきではないだろうか。戦闘知性体が感じ取った危険を、人間が検証し対処する、それこそが「複合生命体」である意味ではないだろうか。

 零が黙っていると、エディスが言葉を発した。

「で、深井大尉は何処出身なの?」

「知らなかったのに提案したのか?」

「桂城少尉も知らなくてね、理由を先に言って納得させないと喋ってくれないと思って」

 零は心を見透かされたような気分になる。

「分かったよ。神奈川県 横浜市だ、一番長く暮らしていたのは。生まれた場所は分からない」

「前に、色んな所を転々としたって言ってたわね」

 そう、零には両親というのがいない。彼は捨てられたのだ。そして様々な里親を転々として成長してきた。エディスは、彼が人間に不信感を抱くようになったのはそれが一番の原因だと思っている。

 ともあれ、零の育った場所を見てみないと結論は出さないと、エディスは心の中でメモを取った。




ありあはきっと処女(土居内司令官宅にASM-1が撃ち込まれました)
りっくの方で言いましたが、来年まで投稿が不定期になります

2/19 ご指摘を頂き、桂城少尉の出身を訂正しました
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