妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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15話 回想

 無事に、マイクロバスは調布基地に帰ってきた。零とエディスがバスから降りると、ちょうどミラージュ2000-5が着陸しようとしていた。

 

 

 

 部屋に戻った零は、今朝雪風が指し示していた座標を探し始めた。

 まず、雪風のマルチディスプレイに今朝の画面を再表示させる。方位と大まかな距離が分かったところで、外へ出た。雪風の情報通りなら、一番条件と合致するのは管制塔だった。

 零は管制塔の中に入る。中では、10数人がせわしく働いていた。上空を旋回する早期警戒機や空中哨戒任務機からもたらされる情報の精査、そしてその情報を元に交代機やスクランブル機を離陸させていた。

 管制塔の中をざっと見渡したが、怪しげな事は無かった。

 仕方無いので、零は管制塔を出た。すると、そこにはノアがいた。

「どうしたんだ、零?」

「いや、ただの気晴らしだ」

 そして、零は再び誰かに見られている気がした。素早く辺りを見回すが、怪しい人物はいなかった。

「本当にどうしたんだ?」

 ノアが再度尋ねた。しかし、確証が無いために答えづらい。

「気のせいだ」

「……そうか」

 ノアがどう受け取ったか、零は多少気になり、そして驚いた。前なら「おれには関係無い」で済ましていた事だが、今は違った。エディスの言葉を借りれば、「人間らしさを取り戻しつつある」のだろうか。

 そんな事を考えていたら、そこへ当の本人がやってきた。

「深井大尉、ちょうどいい所に」

 エディスが桂城少尉を引き連れてやってきた。零は訝しむ。

「フォス大尉、一体何だ? それに、どうして少尉が?」

「分かりません、いきなり捕まって……」

 桂城少尉が説明した。そして、エディスが口を開く。

「せっかくだから、久々に呑みに行こうかなと」

「……それでおれと桂城少尉を道連れにするのか?」

「日本の居酒屋なんて初めてだし、話が通じるのがあなた達くらいだし」

 零はため息をついた。

「……分かった、ついて行く」

 

 

 

 そして3人はノアと別れ(親の宗教の影響で、呑み慣れていないとか)、調布基地の近くの居酒屋に入った。

 店員に誘導された席に着き、零達は早速品書きを見る。調布基地に国連軍がいるからなのか、品書きは複数の言語で書かれていた。

 最初に注文した飲み物や料理が運ばれてくる。3人は目を見合わせて乾杯し、最初の一口を流し込んだ。

「それで、どうだったんですか?」

 桂城少尉が、馬刺をつつきながら訊いた。零が訊き返す。

「どうだったって、何がだ?」

「ですから、自分探しの旅ですよ。収穫はあったんですか?」

「……こっちの世界にも、おれがいた。そして家族を作っていた」

 それを聞き、桂城少尉が青ざめた顔になる。

「大尉が家族を? 到底信じられませんねぇ……」

「事実だ。それに、この世界とおれ達は全く関係は無い」

 そしてエディスが割り込んできた。

「言ったでしょ? パラレルワールドは無限の可能性を秘めている。つまり、何でもありって事」

「悪い冗談過ぎる。第一、何か成果があったとは思えないが、フォス大尉?」

「大ありよ。深井大尉、あなたは人間で、雪風は戦闘知性体、ジャムはコンピュータに近い異質な存在、この中で人間にしか出来ず、人間にしか感じられないモノは?」

 エディスがフォークの先を零に向ける(作者より・ご存知の通り、マナー違反です)。零は考え、ジョッキの中のビールを胃へ流す。

 そして口を開いた。

「ビールが旨いと感じる事か?」

「……味覚もそうかもしれないけれど、もういいわ。端的に言えば、『家族愛』よ」

「『家族愛』? それこそおれには――」

「以前、雪風は愛を感じる事が出来、そして愛する事も出来るかもしれないと言ったけど、あくまでもそれは『個体に対する愛情』であって、『集団全体への平等な愛情』、つまり家族愛とは異なる。この先、情報工学がいくら発達し、機械が人を愛するようになったとしても、永遠に『家族愛』を理解出来ないと思う。それはジャムも一緒。彼らにとって、仲間は全て同じ物だから。でも、人間は違う。全て異なる存在の中から対象をピックアップし、その集団を大切に思う。それこそが、人間がジャムに対抗出来る唯一の手掛かりだと思うの」

 それを聞き、零は黙る。しかし、零には家族と呼べる存在は無かった。

「しかし、おれには家族はいない」

「深井大尉、特殊戦は好き?」

 エディスの問い掛けに、零は言葉を失った。話題を変えるにしても、余りにも唐突過ぎた。

「どういう意味だ?」

「そのまんまよ。特殊戦という組織は好き?」

 零は考える。特殊戦には、雪風がいて、ブッカー少佐がいて、雪風のメンテナンスをする整備員達がいて、そしてしわしわ婆さんもいる。

「……他の隊に配属になるよりは、ずっといい。しわしわ婆さんがいるのは考えようだが」

「彼女がいるから特殊戦が成り立っているのよ。それに、まだ彼女は50に達していない」

「そうだったのか。しかし、特殊戦が好きかどうかなんて考えたことも無かったな」

「じゃあ、あなたにとって特殊戦は大事な存在?」

 零は考える。その間に、桂城少尉の注文したビフテキが運ばれてきた。

「……そうだな。雪風と一緒に居続けるには特殊戦が無くてはならない。おれにとっては、特殊戦は必要だ」

 それを聞き、エディスが微笑む。その頬は、酔っているのか少し赤かった。

「『家族愛』を知らなくても、深井大尉は特殊戦に対してそれを無自覚に抱いている、ということね。どう、深井大尉?」

「……複雑だな。特殊戦を大切に思うのが『家族愛』なのか?」

「『家族愛』と言っても、その実態はあやふやよ。人によって、家族の定義は異なるから。血縁関係の無い養子縁組だって、その人から見れば、立派な『家族』よ」

「おれにとって、特殊戦は『家族』なのか?」

「少なくとも、『家族並みに大切な存在』ってことよ。何も恥ずべきことではないわ、軍隊ではよくある心理現象よ」

「フムン……」

 横では、桂城少尉がビフテキを一口大に切り分け、パクパクと口に運んでいる。

「深井大尉、憶することは無いわ。今まで通りにしていればいい。ジャムは、それが理解出来ないから」

「……そうだな。全く、君は優秀だな。まさか、ジャムに『家族愛』が有効とはな」

「自分でも、おかしな事と思ってるわ」

 2人は微笑み合う。夜はまだ、明けそうもなかった。




ジャムって何なんでしょうね……
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