ありあは、司令室に来ていた。
「春夏秋冬少尉、あなたの新しい機体です」
ヴィロワ司令の机の上に、分厚いマニュアルが置いてある。表紙には「MITSUBISHI JASDF F-2A/B 三菱重工 航空自衛隊 F-2支援戦闘機」と書かれている。
「F-2、ですか?」
「ええ。F-16と同様の修理をし、復旧するのに成功しました。まだF/A-18E/FやJAS-39、ラファール、タイフーンは飛べませんが。第4.5世代戦闘機はまだ使えないようです」
ありあは黙っている。眼下のエプロンには、緑地迷彩にされたF-2A バイパーゼロが駐機している。
そして零は、見覚えのある人間に遭遇していた。
「久し振りだな、深井中尉」
刈り上げ頭の男が言う。会うのはこれで2度目、いや3度目だった。
(メイヴ雪風で飛び込んだ不可知戦域、あそこにいた偽スーパーシルフに乗っていたのもこいつだ)
零は咄嗟にグロックを取り出す。しかし、その男はグロックを払い落とした。
「ゆっくり話そうじゃないか。深井中尉」
その男はニヤリと笑う。零は口を開いた。
「どうしてここにいるんだ、ジャミーズ!」
「酷いなぁ。私にも名前があるのだが。ヤザワだよ、矢沢 弘司」
エディスが何かを探すようにうろうろしている。
「どうしたんですか、エディスさん?」
クリスティーネが尋ねると、エディスが答えた。
「深井大尉を探しているのよ」
「零さんですか?」
「ええ。前に呑んだ時に、思い出せない何かがあったんだけど、それを訊きたくて」
「酔って記憶が無くなったんですか?」
「残念ながらね。思い出そうとしても、靄が掛かっているように思い出せないのよ」
「あ~、私もよくあります」
そんな会話を続け、エディスはクリスティーネと別れる。
「零さんを見かけたら、エディスさんが探してたと言っておきますね」
「ありがとう。私はもう一回格納庫を見てくるわ」
ヤザワは不敵な笑みを浮かべている。
「一体、何の用だ?」
「ふ、分かりきった事を。君なら、もう我々ジャムとビルダーからの共同声明に気付いているんじゃないかな?」
そう言って、ヤザワの口角が上がっていく。零は、ジャージで隠した腰の膨らみ――エマージェンシーナイフ――を意識する。これは、本来緊急脱出した際、パラコード(パラシュートに使う紐)やシートベルトが絡まった時に使う予備の小型ナイフである。普段は耐Gスーツの一番取り出しやすい所に入れておくが、万が一のために零は持ち歩いていたのだ(勿論FAFではそんなことはしなかった)。
「春夏秋冬少尉の機体のAICSを破壊した事か?」
「そうだ。春夏秋冬、『シュンカシュウトウ』と書いて『ヒトトセ』と読むのは、情緒溢れるが、おかしく感じないか、深井中尉?」
「そんなのはどうでもいい。あんたの感性であって、おれには関係ない」
「フムン、同じ日本人なら話が通じるかと思ったが」
「あんたはジャミーズでおれは生きている。勝手に殺すな。そもそもAIC――」
「フゥム、やはり無理か。ロンバート大佐は『同じ異質者同士、話を理解してくれる』と言っていたが」
「話を脱線させるな。AICSの件だけじゃない、おれ達ブーメラン戦隊、そしてフォス大尉をこの世界に集め、アシュケナージ大尉にTYPE7型のストラップを渡し、挙げ句にジョナサン=ランコムだと? お前らは一体――」
「悪いが、君に質問権は無い。私はジャムとビルダーの合同スポークスマンに過ぎない。ま、何を話すかは私次第だが」
「何だと?」
零は語調を強める。が、ヤザワはニヤリと笑ったままだ。
「フォス大尉か。彼女をこの世界に連れてきたのは間違いだったな。最も、向こうにいられても困るのだが」
「どういう意味だ」
「そのまんまだよ。彼女は、我々にとって脅威だ」
そう言って、ヤザワは腰からグロックを取り出し、自分の首に銃口を当てて引き金を引いた。彼の手からグロックが落ち、物言わぬ死体が倒れる。
「っ――!?」
気付いた時には遅かった。銃声を聞きつけ、人が集まる。
その時、別の銃声が鳴った。P90の独特な「タララッ!」という銃声だった。零は、咄嗟に自分のとヤザワのグロックを持ち上げ、銃声のした方、格納庫へと向かった。
格納庫前で、桂城少尉とコズロフ大尉がP90を構えている。桂城少尉の足下には3個の5.7×28mm高速小口径弾の細長い薬莢が転がっていた。
「フォス大尉を離せ!」
桂城少尉が叫ぶ。その先、約15m離れた先に、背後からエディスを拘束し、彼女の首筋にメスを当てる看護婦がいた。
「あなた達こそ、そんなチャチなPDWを降ろしなさい。こんなに離れていれば、ピンヘッド(画鋲の頭を正確に撃ち抜くこと)なんて出来やしないでしょう? 帰って上層部にセブロ並みに精度の高いSMG(短機関銃)を申請するか、自分の射撃センスの無さを呪いなさい」
その看護婦はそう言った。桂城少尉は引き金に掛ける力を増やす。
「たった15mだ! お前の頭を撃ち抜くのは楽勝だ!」
桂城少尉はそう叫んだ。ドットサイト内の赤い点は、長い黒髪の看護婦の頭と合わさっている。
「だったらやってみなさい。言っとくけど、それに使う小口径弾は横風に流されやすいし、弾丸が頭蓋骨を貫通しない可能性も考慮しなさい」
「っ……!」
桂城少尉の額から冷や汗が流れる。
しかし別の人物が、看護婦の後頭部に銃口を突き付けた。
「よけてみろ」
銃声が轟く。9×19mmパラベレム弾のフルメタルジャケット弾丸が、看護婦の頭蓋骨を貫き、看護婦が倒れた。
「深井大尉……?」
看護婦の返り血を浴びたエディスが振り向いた。そしてP90を手にした桂城少尉とコズロフ大尉が駆け寄る。
そこには、2丁のグロック 17を手にした零がいた。
調布基地は、すっかりパニック状態になった。倒れていたヤザワと看護婦――マーニィ――の傷口から、コーンポタージュのような液体が流れ出て、直ちに対NBC処理班が死体のある場所の周りを徹底的に除染し、死体を焼却処分した。そして、P90を手にしたブーメラン戦隊の戦士達やM16 A4や64式小銃を手にした憲兵達が残っていたジャミーズを駆除する。
「ジョナサン=ランコム少尉はいるか?」
M16 A4を携えた憲兵達が、整備班のバックヤードへ突入した。
「はい、僕がランコムですが」
整備員達とポーカーをやっていたジョナサン=ランコムが立ち上がった。直後、彼はM16 A4から3発制御点射で放たれた3発の5.56×45mm SS109弾のフルメタルジャケット弾丸を頭部に喰らって絶命した。
硝煙の匂いと共に、3個の薬莢と死体が転がる。そして、やはり彼の頭からもコーンポタージュのような液体が溢れ出た。
「う、うわぁぁ!」
整備員達が悲鳴を上げて逃げていく。憲兵はM16 A4をもう一度物言わぬ死体にむけて発砲した。
「フォス大尉、大丈夫か?」
診察室から出てきたエディスを、零が出迎えた。エディスは、首に包帯を巻いている。
「ええ。メスがちょっとばかり首に食い込んだだけよ」
そう言って、エディスは包帯を外した。少し出血しているが、彼女は包帯を丸めて傷口に当てる。
「それにしても、深井大尉が出迎えとはね」
「さっき、クルデガルド大尉が、君がおれを探していたと言っていたからな」
そう言われ、エディスは零への用事を思い出した。
「そうだった。深井大尉、一緒に呑んだあの晩、私が変な事を言ってなかった?」
「あの晩? おれも最後の方の記憶が無いんだが」
「そう。ならいいの」
すると、零はエディスに何かを差し出した。
「深井大尉?」
「今回のような事になった時に使え」
それはグロック 17だった。スライドに「FAF 9×19 357139」と書かれている。最後の6桁の数字はFAFでの登録番号だ。
「いいの?」
「ああ。1つ余った」
そう言って、零は立ち去る。
(拳銃って余る物ではないでしょう)
そう思いながら、エディスはグロックをまじまじと見る。スライドを少し引くと、エジェクションポート(排莢口)から真鍮製の薬莢が覗いた。
スライドから手を離し、エディスはグロックをベルトに差し込んだ。
数日後――
〔Alice4, Boomerang1, clearance for takeoff.〕
調布基地の滑走路から、緑地迷彩柄のF-2A バイパーゼロとFFR-41MR メイヴが離陸する。ありあの機体習熟を兼ねた哨戒飛行だった。僚機は、くじ引きで選ばれた雪風だった。
2機は滑走路を蹴り、アフターバーナーを焚いたまま上昇した。
やったね! 殆どのジャミーズさんを出したよ! あとはメイル中尉とチキンブロス・バーガディッシュ少尉だ!
ちなみに、マーニィの口調が某少佐なのは、単純に中の人が一緒だから。つくづく色んなネタをぶち込み過ぎと、自分でも思います。さて、次は「Area88」にしようかな、それとも「ファントム無頼」にしようかな?(反省の色がない)
宣伝ですが、アドミラル56及びその他が艦これ世界に転生する小説、「艦隊これくしょん ~南雲機動艦隊、参ります!~」の連載を始めました。