妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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1話 コンタクト

 真っ黒な戦闘機が〈通路〉を抜けた。視界いっぱいに蒼い空が広がり、白い雲が染みの様に点在する。

「少尉、異常が無いか確認しろ」

「フライトシステム、オールグリーン。目視でも異常は発見出来ない」

 地球防衛機構・フェアリィ空軍 フェアリィ基地戦術戦闘航空団 特殊戦 第5飛行戦隊の1番機・雪風と13番機・レイフの編隊だった。2機は、正体不明の敵・ジャムに寝返った防諜部隊・情報軍のアンセル=ロンバート大佐の乗るテスト専用機TS-1を追跡して〈超空間通路〉を抜けたのだった。

「空間受動レーダーは作動していないが、他の索敵システムは異常無し。だが大佐機は見当たらない」

 後席の電子戦オペレーター・桂城少尉が報告する。

「大佐機が見当たらない? ほぼ同じタイミングで〈通路〉に飛び込んだはずだ」

 前席のパイロット・深井 零大尉が正面のマルチディスプレイを見る。

「大佐は〈通路〉を抜けられなかったか、もしくはぼく達が違う空間に転移したか」

「考えたくはないな。少尉、地球用IFF作動、人工衛星とリンクして周辺を目視で警戒しろ」

「了解」

 そして、零は気付く。振り返り、確信した。

「少尉、レーダーを対地モードに」

「どうしてですか?」

「とにかくだ」

「了解。衛星とのリンク接続出来ず、ネットワーク自体見つからない」

「馬鹿な」

 雪風のレーダーが対地モードになる。しかし、海しか映らない。

「大尉、何に気付いたんですか」

「おかしいだろう、〈通路〉が見当たらない。南極大陸すら見えない。異常だ」

 そう、〈超空間通路〉は南極大陸のロス氷棚に刺さるように存在する。天気は快晴、〈通路〉も南極大陸も無いということは――

「ここは地球じゃない」

「ジャムが作った、地球に似た空間――」

 その時、警告音が鳴った。マルチディスプレイが自動で広域索敵モードになっており、〔UNKNOWN〕と表示が出る。

「大尉、不明機だ。ヘッドオン、距離32000、同高度。数は5、右から左へと移動している」

 そう桂城少尉が伝え、零は搭載武装を確認した。短距離ミサイルが4、20mmバルカン砲が4000発。レイフは20mmバルカン砲はフルだが、ミサイルは全て使ってしまっている。

 地球用IFFを作動させているのに〔UNKNOWN〕ということは、ジャムだ。零は思うが、雪風は攻撃の意志を見せない。これは、雪風では無いのか?

「目標を目視で確認、敵意を見せたら反撃する。対電子戦用意」

「了解」

 とにかく、ジャムなのか確認する必要がある。それに、射程の長いミサイルは既に無い。

 零はスロットルレバーを奥へ倒し、アフターバーナーを点火させる。燃料は、つい先程空中給油したからまだ8割以上ある。雪風が加速すると、無人のレイフも続く。

 超音速飛行、メイヴの巨大な前進翼が上へと折り畳まれて揚力を抑える。

 

 

 

〔目標、接近中。いや、国籍不明機を発見!〕

〔国籍不明? どういう事?〕

〔目標に近付く不明機が2機、IFFに反応無し、データベースには似た機はいない〕

〔とにかく、確認しないと。みんな、行くわよ!〕

 

 

 

 やがて、雪風とレイフは目標を目視で捉える。

「真ん中の、黒くて大きいのは爆撃機か?」

「ジャムでは無さそうだ」

 それは、米空軍のステルス爆撃機・B-1B ランサーとステルス戦闘機・F-22A ラプターの編隊だった。

「分からないぞ、少尉。ジャムは遂に人間の兵器のコピーを始めたのかもしれない」

 零は緊張する。自然とフライトグローブの中が汗ばむ。すると、メインディスプレイに動きがあった。

〈Check on danger,Lt. It isn't friend.〉

 深井大尉、注意しろ。味方ではない。

 雪風はそう言っている。しかし、何故敵と言わないのか、零は疑問に思う。

 味方でなければ全て敵、それがフェアリィの空の掟だった。ましてや、味方をも見殺しにする特殊戦では味方から嫌われている。

 すると、4機のF-22Aの内2機がこちらへと旋回してきた。ヘッドオン、雪風が攻撃照準波を探知した。つまり、ロックオンされた。

「これで正当防衛の言い訳は出来たな。少尉、電子戦を開始」

「サー。自動妨害を開始」

 F-22Aのウェポン・ベイが開き、ミサイルが発射される。雪風は自動でジャミングを開始、生身の人間を温め料理に出来るほどの強力なECM(電磁妨害)で、ミサイルの誘導回路を破壊。零はサイドスティックを手前に引き――ほとんど動かなかったが――中枢コンピュータが零の意志を汲み取り、翼を動かす。そしてメイヴは、機体を水平に保ったまま上へジャンプ。強い加速度で一瞬ブラックアウト、目が覚めるとF-22Aとすれ違った。メイヴの胴体下のTARP(戦術航空偵察機材)がF-22Aを捉え、その画像をマルチディスプレイに表示した。

 それを見、桂城少尉が報告した。

「大尉、あの戦闘機は米軍だ。アメリカ空軍機だ」

「それがどうした。B-1、エンゲージ」

 雪風が右旋回を開始、一気に9G掛けてF-22Aの後ろを取った。ロックオン、ミサイルレリーズを押してFCS(射撃統制装置)に攻撃許可を与える。2発の短距離ミサイルが発射され、それぞれがF-22Aを追跡する。

 F-22Aはフレアやチャフを撒きながら回避しようとするが、対ジャムとして開発された短距離ミサイルはF-22Aを逃さない。

 そしてミサイルはF-22Aに命中、雪風とレイフは旋回し、爆撃機に向かう。ヘッドアップ・ディスプレイに「RDY AAM-Ⅲ 2」という表示が出た。零は迷わず、ミサイルレリーズを押した。

 

 

 

〔何て奴だ……F-22Aを2機、瞬殺した〕

〔ビルダーじゃないの?〕

〔よっぽど腕のいいパイロットか?〕

〔でも、まだ三沢の迎撃隊は到着してませんよ!?〕

 

 

 

 雪風の放ったミサイルは、残りのF-22Aが体当たりして止めた。まだB-1Bは悠々と飛んでいる。

 すると、マルチディスプレイに新たな表示が出た。

〈There isn't have JAM, Lt. But, JAM is close to our.〉

「深井大尉、雪風は何と言っているんだ?」

 桂城少尉が訊いてくる。しかし、零にも意味が分からなかった。ジャムはここにいない、だが近くにいる? 直訳すればそうなるが、意味が分からなかった。

 そしてマルチディスプレイに新たな表示。不明機接近中、雪風は敵とは言わない。

「大尉、レイフが攻撃許可申請。それと不明機接近、方位310、距離13000、数5」

「レイフが? 一体何に?」

「目標は正面の爆撃機です」

「許可しろ。不明機は目視で確認する」

「サー、レイフ、交戦開始」

 雪風の同型機の無人戦闘機、FFR-40MR フェンリル、パーソナルネーム・レイフが加速する。コクピットが無いから、メイヴより攻撃的なデザインだ。

 レイフは急上昇、そして急降下してB-1B爆撃機に向かって20mmバルカン砲を連射した。

 B-1B爆撃機の左主翼が断ち切られ、回転しながら落ちていった。零はその一部始終を見、自分には出来ない動きだと思った。急降下に移る動作が早く、無駄が無い。無人機だから出来る動きだ。

 そして零は正面を注視した。不明機が来る方向へ機首を向け、集中力を研ぎ澄ます。

〔不明機、聞こえていますか? こちらは国連軍 第307飛行隊です……駄目ね、応答が無いわ〕

〔そもそも、ビルダーに『裏切り』という思考がある訳が無いだろう〕

〔じゃああの戦闘機は何だと言うんですか!? F-22を瞬殺するなんて、私達以外であり得ませんよ!〕

〔まあまあ、喧嘩しないでくださいよ。ありあもクリスティーネさんも、何で止めないんですか?〕

〔いつもこんな調子だからね~。ノアちゃんとターニャはとても仲良しだから〕

〔何処がですか!?〕

〔こんなのと仲良いなんて、冗談じゃありません〕

 突然、少女達の会話が飛び込んできた。零は驚くが、「国連軍」というワードに引っ掛かった。

「大尉、応答しますか?」

「国連軍というのが気になる。ジャムなら、こんな会話を用意したりしないだろう」

「了解、回線オーケー、通話できます」

 零は口を開いた。

「こちらはフェアリィ空軍 特殊戦 第5飛行戦隊・1番機 雪風。貴機の所属を請う」

 

〔フェアリィ空軍!?〕

〔何なんですかそれは!?〕

〔……聞いた事が無い。『妖精の空軍』だと?〕

 少女は操縦桿を握り締め、口を開いた。

「調布基地、国連軍 第307飛行隊・4番機、春夏秋冬 ありあだ」

〔ありあ!?〕

〔アーチャー先輩!〕

 

 零は更に驚いた。年端のいかない少女が戦闘機に乗っている?

「ヒトトセ アリア、日本人でしょうか?」

「分からない、油断は禁物だ」

 ヘッドアップ・ディスプレイにターゲットボックスが表示され、急接近。衝突回避警報が鳴り、すれ違った。互いの衝撃波で機体が揺れる。

〔とにかく、こちらの指示に従ってもらえますか?〕

 無線機から女の声、さっきの少女とは違うようだ。

「まず、現在地を教えてくれないか? 人工衛星とのリンクが出来ず、位置情報が欲しい」

 零が告げる。マルチディスプレイに、すれ違った不明機が旋回してこちらの後ろに回り込む様子が表示されている。数は5、しかし攻撃照準波は感じられない。

〔現在地、ですか? ここは青森県から東へ18kmの所です〕

「青森?」

「日本、だって?」

 零と桂城少尉が同時に驚いた。が、真後ろに戦闘機が付き、それどころではなくなる。

「了解した、そちらの指示に従おう。とにかく何処かに着陸したい」

〔分かりました、このまま調布基地までエスコートします〕

 2機の戦闘機が雪風とレイフの前に出た。両方とも単発だ。

〔しかし、こんな戦闘機見た事無いわ〕

〔双発の前進翼、Su-47にしては垂尾が無いし、インテークの位置も違う〕

〔片方はコクピットすら見当たりませんよ〕

 少女達の会話は、零にとって煩わしかったが、放っておいた。




 どうでしょうか? ちなみに不定期連載です。

 うむ、雪風のツンデレ具合をうまく表現できない。
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