妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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19話 不可知戦域

 F-2A バイパーゼロとFFR-41MR メイヴが編隊飛行を行う。場所は千島列島と北方領土の上空、かつて網走ピラーがあり、そして今はミッドウェーピラーの勢力との最前線である。しかし、現在はミッドウェーピラーからの威力偵察のF-22AかF-35A/Cが数機の編隊で時たま飛んでくる程度で、その度に択捉島からF-100 スーパーセイバーやF-106 デルタダート、MiG-25 フォックスバット、Su-15 フラゴンといった迎撃機がスクランブル発進し、多少の犠牲がありながらも制空圏の維持に努めている。

 F-2A バイパーゼロは3本の増槽と4発のAAM-3短距離ミサイル、FFR-41MR メイヴは3本の増槽とAIM-9L サイドワインダー短距離ミサイルとAIM-120C アムラーム中距離ミサイルを2発ずつ搭載している。

 2機は近付くことも離れることもなく、編隊飛行を続ける。そして、ありあが沈黙を破った。

〔深井大尉〕

「何だ?」

〔あなたは、普段何も考えているの?〕

 零は、回答に困る。しばらく考え、そして答えた。

「何も、だ」

「ぶふっ」

 零の回答に、ありあは特に反応せず、桂城少尉が吹き出した。

「少尉」

「すみません……余りにも捻りがなかったので……」

 零は溜め息をつく。そしてありあに向けて言った。

「お前もパイロットなら分かるはずだ。戦闘中は、いかに生き残るかしか考えられないと」

〔……確かに〕

 そして3人は黙った。

 

 

 

「…………」

「…………」

 エディスとブリューイ中尉が、ホワイトボードを睨んで黙っている。

「あの、お2人とも、顔が怖いんですが……」

 キャサリンが恐る恐る尋ねてみる。すると、エディスがホワイトボードを指差して言った。

「おかしいと思わない?」

「はい?」

 キャサリンがホワイトボードを見る。そこには若い男の顔写真が貼られ、横に文字が書かれている。

「ジョナサン=ランコム? 例の整備班のジャミーズさんですか?」

「ええ。よく見てみて。これはさっき、ヴィロワ司令に請求した資料の写しだけど」

 キャサリンは、文字を見てみる。

 

[ジョナサン=ランコム

 階級 少尉

 年齢 20代半ば?

 所属 整備班

 経歴 小松基地 281SQ(飛行隊)パイロット

 

 FAFでは505SQのパイロット。地上整備を行っていた最中、無人の雪風の機銃掃射を喰らい絶命。その時、505SQではAICSの不調が起きており、この時点でジャムのコピー人間だった可能性が高い。また、彼はこの時より前に乗機を失い、緊急脱出して救出されている。STC、SSCは『緊急脱出して救出されるまでの間に本物とジャムのコピー人間が入れ替わる可能性が高い』としている。なお、特殊戦においては唯一深井大尉がこの条件に該当する。]

 

 ホワイトボードに書かれている概略を読み、最後の部分にキャサリンは絶句した。

「零さんは、もしかしたらジャミーズなんですか?」

「流石にそれは無いと思うわ。もし彼がジャミーズなら、雪風がとっくに気付いているだろうし、ジャミーズの存在を皆に伝えたのも彼。わざわざスパイが自分の立場が危うくなる発言をすると思う?」

「確かに」

 キャサリンが納得する。が――

「あれ?」

「何?」

「何でこの人、元パイロットなのに整備班所属なんだろう?」

 そこで、エディスが手を叩いた。

「そこよ。元パイロットが、どうしてこの基地に整備員として転属になったか、そこが腑に落ちないの」

 エディスが言う。するとそこへ、クリスティーネとノアがやってきた。

「クリスティーネさん、ノアさん」

「あらキャシー、イーグルのメンテナンスは? 今夜、ターニャと日本海側の哨戒飛行じゃなかったかしら?」

「おっといけない。じゃあまた、エディスさん」

 キャサリンが立ち上がり、エディスに敬礼する。エディスも敬礼を返すと、キャサリンは部屋を出て行った。

 クリスティーネがホワイトボードの写真を見る。

「あら、これは……」

「例の、整備班にいたジャミーズよ。春夏秋冬少尉のシルフのAICSに細工をした」

「なかなか男前ねぇ……」

 クリスティーネの発言に、ノアが彼女の頭を叩いた。

 

 

 

 その頃、F-2Aとメイヴは、ランディングギアを降ろして飛ぶF-117A ナイトホークの後ろを飛んでいた。

〔深井大尉、一体あれは?〕

「きっとジャムだ。決して攻撃するな」

 零はそう言った。しかし既にAIM-9L サイドワインダー短距離ミサイルでロックオンしている。

「大尉、〈フローズン・アイ〉に反応。友軍機、ベクター190、距離200(km)、数4、高度6000(m)」

 桂城少尉がそう伝えた。距離と方位から、択捉島からスクランブル発進した機だろう。

 しかし、レーダーに別の反応。スクランブル機を迎え撃つように、3時方向から7時方向へ移動する6機の編隊、IFFに反応が無いため、雪風は敵機とする。

〔深井大尉〕

 ありあが痺れを切らして零に尋ねる。

〔本当に攻撃してこないのか? どうしてあなたはそんなに余裕なの?〕

 それを聞き、零は初めて桂城少尉と組んだ時を思い出す。

「前にも似たような事があった。それだけだ」

 

 それを聞き、ありあは信じられなかった。

(以前と似たシチュエーションだから大丈夫だと? 毎度通用する訳じゃない、ならば殺られる前に殺るだけだ)

 そして、ありあはサイドスティックのミサイルレリーズを押した。

 左主翼端からAAM-3短距離ミサイルが発射された。

 

 零は目を見開く。間違い無く、左隣の僚機、F-2A バイパーゼロが短距離空対空ミサイルを発射している。

「おい、春夏秋冬!」

 零が、柄にもなく怒鳴った。しかし、ミサイルはF-117Aに向かって飛んでいく。零はAMM(アンチミサイル・ミサイル)モードで、AIM-9L サイドワインダー短距離空対空ミサイルでAAM-3短距離空対空ミサイルを迎撃しようとするも、出来ない。ハードウェアがそれに対応していないからだ。

 もう間に合わない。あと3秒でAAM-3短距離空対空ミサイルがF-117A ナイトホークに命中する。マルチディスプレイを見ると、ビルダーの編隊とスクランブル機の編隊がBVR(目視距離外)戦闘を始めている。

 そして、ありあが発射したAAM-3短距離空対空ミサイルが命中する直前、F-117Aが発光した。

 

 

 

 強い衝撃、機体が激しく揺れる。コクピット内に警報音がなり、零はサイドスティックを探る。

 何も見えない。煙がコクピットに充満している。火災か、いや水蒸気だ。零は冷静に分析する。

 警報音は「自機の位置を見失った」という意味だ。TACAN(電波式航空航法支援装置)からの受信が途絶え、INS(航法慣性装置)から算出される位置情報しかない。しかし、INSは精度が悪く、正確に自機の位置を知る事は出来ない。

 やがて、視界が開ける。INSのデータでは、千島列島の北西6kmの所だが、零には嘘にしか思えなかった。

 キャノピーの向こうには、上下を雲で挟まれた異様な空間が広がっている。電波高度計は380mと、気圧高度計は2400mと表示している。

「少尉、起きろ」

「……大尉、ここは――」

 何処、と言いかけた桂城少尉の口が止まる。ここは以前、クッキー基地を偵察していた最中に飲み込まれた、3度目の〈不可知戦域〉と一緒だった。

 左隣には、ぴったりとF-2A バイパーゼロがいる。しかし、コクピットのありあは気絶しているらしく、首を左へと垂らしている。

「アリス4、春夏秋冬少尉、起きろ。こちらB1」

 零が無線で呼び掛けると、ありあが目覚めた。

〔……深井大尉?〕

「起きろ。ここは戦場だ」

 

 そして、ありあの目が見開く。

「一体、ここは!?」

〔ジャムが作った、〈不可知戦域〉だ〕

 零の声に、動揺は無い。「場慣れしている」といった感じだ。だが、勿論ありあは慣れていない。

「帰れるの!?」

〔それはジャム次第、自分次第だ。どうやって生き残るか、それだけを考えろ〕

 零の言葉に、ありあは一瞬いらっとくる。しかし、今はそれどころではなかった。文字通り、ありあは生き残る事を考える。

 

「桂城少尉、周辺を目視で監視。きっとジャムかビルダーがコンタクトを取ってくるはずだ」

「了解、『自分の目を信じて』周辺を目視で監視します」

 零の命令に、桂城少尉が応えた。3度目の〈不可知戦域〉の時の命令を、桂城少尉が復唱した事に、零は思わず笑ってしまう。

〔深井大尉〕

 ありあが尋ねてくる。

〔本当に大丈夫なのか?〕

「この状況は2度目だ。受け答え次第だが、向こうから先制攻撃はしてこない」

 零はそう答えた。しかし、無事に帰れるかは零には分からなかった。以前ですら、危うかったものだ。

 

 その時、F-2A バイパーゼロのJ/APG-2電子走査アレイレーダーに反応があった。

「深井大尉、国籍不明機が右下方からゆっくり上昇してくる」

 

 ありあの報告を聞き、零はマルチディスプレイを見る。ありあの言った通り、IFFに反応の無い所属不明機が、メイヴの右隣に上昇してくる。

「桂城少尉」

「ええ、垂直尾翼が見えます。1枚で、米空軍式の所属コードが書かれています」

 桂城少尉がそう報告する。すると、いきなりIFFに応答が出た。FAFではなく、国連軍と表示されるが、直後に雪風が「所属不明」に戻す。雪風は、味方ではないと言っているのだ。

 雲の中からゆっくり上昇してきた所属不明機の全容がはっきりする。

「F-4 ファントムⅡです。胴体に、『U.S. AIR FORCE』の文字、機首が長いから、E型です」

 桂城少尉が言う。紛れもなく、米空軍仕様のF-4E ファントムⅡだった。

「一体奴は何だ? 桂城少尉、電子戦・近接対空戦、用意」

「了解」

 零はF-4Eを細かく観察する。コクピット前席には飛行装備を一切身に付けてない金髪ショートの妙齢の女性、後席にも誰かいるが、ヘルメットのバイザーを降ろしているため顔が見えない。

 すると、金髪ショートの女性が自分の耳を指差した。零は無線の周波数を「OPEN」にする。

〔こちらは国連軍 第281飛行隊のオリビエ=ガラント中佐だ。貴機の所属を請う〕

 零は慎重に答える。

「国連軍 調布基地 第3飛行隊の深井 零中尉だ」

 ジャミーズかもしれないため、かつての階級を名乗った。

〔そうか。日本人か?〕

「まぁな」

 すると、ありあが会話に飛び込んだ。

〔零! そいつは、とっくに死んでいる!〕

「何?」

 零はF-4Eを見る。女性はふふっと笑い、後席の誰かがヘルメットのパイザーを上げた。

 短い茶髪の白人の男だった。零には見覚えがある。

「馬鹿な、バーガディッシュ少尉?」

〔お久しぶりですね、深井中尉〕

 その時、雪風の後方警戒レーダーが鳴った。見れば、後方上方から見覚えのある戦闘機が降りてくる。

「あれは、ノーマルシルフだ……」

 桂城少尉が言う。確かにFAF塗装のシルフィードだった。

〔忘れたとは言わせないぞ、ユキカゼ〕

 無線に、突然知らない男の声が混じる。マルチディスプレイを見ると、「TAB-15 505SQ α-1 FFR-31F」とある。F型という事は、量産性を重視した低性能型だ(それでも、アビオニクスは最新型だし、FA-1 ファーンよりは機体性能で勝っている)。

「お前は、誰だ?」

 零が尋ねると、男は怒りを滲ませながら答える。

〔これだから中央(フェアリィ基地等の大型基地)の連中は嫌いなんだ。TAB-15 第505飛行隊のギャビン=メイル中尉だ〕

 

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