妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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20話 ビルダー

 調布基地の司令室に、アリス隊とブーメラン戦隊の一員が集められた。

「緊急事態です」

 デスクのヴィロワ司令が口を開き、机に開いた地図を指差す。

「機体習熟兼哨戒飛行に出ていた、アリス4・春夏秋冬 ありあ少尉とブーメラン1・深井 零大尉及び桂城 彰少尉が、千島列島の北西4kmの地点から突如消息を断ちました。今、択捉と千歳から捜索機が出ていますが、全く手掛かりは見つかっていません」

 ヴィロワ司令がそう言う。そして指を組んで命令を出した。

「よって、予定を変更します。アリス・ブーメラン両飛行隊は、北東エリアへの哨戒飛行を行ってもらいます。これで見つかるとは思えませんが、無いよりはいいでしょう」

 

 

 

 滑走路からJ-37 ビゲンとミラージュ2000-5が離陸する。F-15C イーグルとMiG-23 フロッガーは離陸許可を待つ。

「にしても、ヴィロワ司令の言い方、何か腹が立ちませんか?」

 キャサリンが、操縦桿やラダーペダルを動かして主翼エルロンやフラップ、水平尾翼を点検しながら言う。

〔そうですか? タチアナ的には、親しみやすい人だと思いますが〕

「うーん、そういうもん?」

 やがて離陸許可が下りる。

〔アリス3、テイクオフ!〕

「アリス5、テイクオフ!」

 キャサリンはスロットルレバーを奥へ倒し、P&W F100ターボファンエンジンのアフターバーナーを点火させる。

(ありあ、無事でいて!)

 F-15C イーグルとMiG-23 フロッガーが地面を蹴り、空へ上がった。

 

 

 

「お前らは、何だ?」

 零は、右隣のF-4E ファントムⅡの女性に尋ねる。すると、女性はふふっと笑った。

〔分かりきった事を。アリス4の言った通り、私は既に死んでいる〕

「という事は、ジャミーズなのかな?」

 桂城少尉が口を挟む。

「少尉、口を挟むな」

「イエッサー」

 桂城少尉が黙る。零は、黙って女性を睨む。しかし、相変わらず女性は笑みを浮かべている。

「目的は何だ? 意味が無い訳が無いだろう」

〔その通りだ、深井中尉〕

 女性が答える。

〔フェアリィ空軍 フェアリィ基地戦術戦闘航空団 特殊戦 第5飛行戦隊及び、国連軍 調布基地 第307飛行隊に告ぐ、我々と非戦協定を結ばないか、ということを伝えに来た〕

 

 

 

 北海道上空を、アリス隊の4機が飛ぶ。万年不足気味の早期警戒機を補完するために大量に配備されたF-14A改 トムキャットの後を、4機が飛ぶ。

「ありあ達、大丈夫でしょうか?」

 真っ黒なF-15C イーグルを操るキャサリンが呟く。すると、クリスティーネが応えた。

〔アーチャーと零さん、更に雪風が一緒にいるんだから、きっと大丈夫よ。仮に1人だったとしても、彼女なら生き残れる。仲間の実力は、信じるものよ〕

「……ですよね」

 キャサリンは操縦桿を握り直す。それでも、彼女には心配だった。

「そう言えば、どうしてありあの事を『アーチャー』って呼ぶんですか?」

 不安を紛らわすために、キャサリンはずっと気になっていた質問を口にする。すると、タチアナが答えた。

〔アーチャー先輩は、元々アーちゃんと呼ばれていました。それが簡略されて――〕

〔アーチャーと呼ばれるようになった〕

〔ノアさん! タチアナの台詞を奪わないでください! それはそうと、タチアナ的にはこっちの方がカッコいいと思うのです!〕

〔確かに、ビルダーをやっつけてくれそうな呼び名だものね〕

〔アーチャーの戦い方は、どちらかと言えば『ナイフ使い』だがな〕

 クリスティーネとノアが小さく笑う。

 キャサリンは、キャノピーの外を睨んだ。

 

 

 

 零は黙る。その手の提案なら、以前〈不可知戦域〉に誘い込まれた時に断ったはずだった。

 目的が分かりきらず、零は黙るしかなかった。しかし、雪風の受動警戒装置が突然警鐘を鳴らした。マルチディスプレイを見ると、後ろのシルフィードにロックオンされている。

「どういうつもりだ」

〔早く答えないと、あなたとお仲間は粉微塵になるぞ?〕

 女性は平然と応える。左を見ると、ありあがアイコンタクトをとってきた。零が頷くと、ありあはサイドスティックを手前に引いた。

 

 機首上げをしたF-2A バイパーゼロは、機体全体で空気抵抗になって減速する。そしてシルフィードの後ろに回り込んだ。

「メイル中尉、後ろを取ったぞ」

 サイドスティックの兵装選択ボタンでガン攻撃モードを選択したありあが、ヘッドアップディスプレイのガンレクティクルの向こうに見えるシルフィードに向かって話す。右人差し指は既にガンコントロールスイッチを軽く引いており、ガンカメラがシルフィードを撮影する。

 

 零は右に振り返り、F-4E ファントムⅡを睨みながら口を開いた。

「既にその提案は、前に断ったはずだ。お前は、ジャムのスポークスマンなんだろう?」

〔せめてウーマンと言ってくれないのか? まぁ、近いが外れだ。ジャムではなく、私はビルダーの意志を伝えに来たに過ぎない〕

「ビルダーだと?」

〔そうだ。この世界では、どうやらジャムはお前達第5飛行戦隊と第307飛行隊を攻撃するつもりは無いらしい。しかし、ビルダーは別だ。だから、改めて非戦協定をお願いしている〕

 零は、その説明に納得した。しかし、何処か腑に落ちない。

 それは何なのか、零が考えていると、別の声が響いた。

〔もう待たされてたまるか。こいつは、俺達を殺した! あの時のお返しだ!〕

 そして、真後ろのFFR-31 シルフィードから20mmバルカン砲が発射された。その弾の連なりは、200mと離れていないメイヴに向かう。零には、回避しようがなかった。

 

 桂城少尉は死を覚悟する。しかし、同時にこれでいいとも思っていた。ジャムを叩き潰せなかったが、雪風はジャムに負けた訳ではない。それに、深井大尉の邪魔をする訳にはいかない、と。

 

 

 

 しかし、弾は消えた。メイヴには命中せず、代わりにメイル中尉が叫ぶ。

〔おい、よせ! 俺はこいつらに――〕

 そして、シルフィードのキャノピーが吹き飛んだ。

 

 ありあは、咄嗟にスロットルレバーのDyモードスイッチを押してサイドスティックを左に捻る。F-2A バイパーゼロは、機体の水平を保ったまま左にスライド、ありあの上半身は右に引っ張られてシートベルトが食い込んだ。

 

 桂城少尉が後ろを振り返ると、シルフィードのキャノピーが吹き飛んでF-2A バイパーゼロがそれをかわす所だった。そして、フライトオフィサ、パイロットの順に座席が射出される。しかし、あの時と一緒で、メインパラシュートどころか減速用ドラグシュートすら開いていないようだった。そして、無人のシルフィードは何事も無かったかのようにまだ飛んでいる。

 

 零は尋ねる。

「今のは、何だ?」

〔すまない、どうやらまだコピーに成り切れていない者がいたようだ〕

 女性はそう言った。

「コピーに成り切れていない? コピーとは、何の事だ?」

〔お前達の言葉で言うところの『ジャミーズ』だ。彼は、既にジャミーズとして1回死んでいるが、まだその事実を受け止められないらしい〕

 零はそれを聞き、当然だと思った。そして、自分なら「それがどうした、おれには関係無い」と言うだけだとも思った。

「それで、改めてビルダーと非戦協定を結べということか?」

〔さっきからそう言っている〕

 そこで、零はこう答えた。

 

「ふざけるな。おれ達は、生き残るために戦ってきたんだ。今更お前達と、話すつもりは無い」

 

 すると、女性が残念そうに口を開いた。

〔そうか。残念だ〕

 そして、F-4E ファントムⅡが右へと旋回し、消えた。空間受動レーダーには、消えた時に発生したであろう衝撃波が映っていた。

 

 

 

 見れば、無人のシルフィードも右旋回していなくなった。

 零は座席に身を委ね、深呼吸をする。すると、ありあの声がした。

〔深井大尉、あれで良かったのか?〕

「お前だって、今まで倒してきた相手と手を取り合うつもりは無いだろう?」

〔確かに〕

 2機は静かに飛んでいく。出口は一向に見えない。

 

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