妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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21話 戦闘知性体

〔ブーメラン5、FOX2!〕

 B5 アプサラスが、AIM-9M サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射する。しかし、洋上迷彩柄のATD-X X-2 心神はフレアを撒いて易々とかわした。しかし、その間にランヴァボンが20mmバルカン砲で撃墜した。

「いきなり何なんだこいつら?」

 ブリューイ中尉がサイドスティックを手前に引きながら言う。ランヴァボンの主翼付け根からベーパーが発生し、後ろにつこうとしたT-50 PAK FAを引き離す。

 

 彼らは今、ビルダーと交戦していた。ブーメラン戦隊は3機ずつに分かれ、北海道周辺の捜索を行っていた。そんな中、アプサラス、ミンクス、ランヴァボンのチームは北方領土上空でビルダーと遭遇してしまった。

 

 

 

 一方、キャサリン達は哨戒飛行を続けていた。一向に手掛かりは見つからず、日も暮れ始める。

〔Turn refueling. Good luck, Hell Alice.〕

「Thanks, Milky 01.」

 KC-135 スラストタンカー空中給油機の給油ブームが、キャサリンのF-15C イーグルの左エアインテーク脇の空中給油受油口から外れた。

 見れば、ノアのミラージュ2000-5がKC-135の右主翼から垂らされる給油ホースに受油プローブを差し込み、燃料を飲み込んでいた。J-37 ビゲンとMiG-23 フロッガーは少し先で空中警戒を行っている。

 キャサリンは、液晶ディスプレイを操作する。20mmバルカン砲を940発、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルとAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを4発ずつ、通常の装備だ。

 時刻は1821時、キャノピーの外で、夕焼けと漆黒が混じり合う。第307飛行隊の哨戒飛行終了まで、あと38分。

 

 

 

 メイヴとF-2A バイパーゼロが飛んでいる。お互い何も喋らず、ただ無言の時間が過ぎていく。

 ありあは時々振り返り、後ろを見る。相変わらず、上下を灰色の雲で挟まれた異様な空間が広がっていた。

「深井大尉」

 我慢出来ず、ありあは口を開いた。

「どうして、そんなに雪風を信じられる?」

 すると、零はさも当たり前と言わんばかりに答えた。

〔簡単だ。雪風はおれにとってかけがえのないパートナーだからだ〕

 その回答に、ありあの堪忍袋が切れた。そして、遂に禁断の質問をしてしまった。

 

「どうして、たかが戦闘機のプログラミングをそんなに信じられる?」

 

 零は黙る。確かに、何も知らないありあならそう思うだろう。

「確かに雪風は、元はただのプログラムの集合体だ。だが、今は違う。立派に自律した思考を持っている。長年の付き合いだから、おれはこいつを信じられる」

〔『思考を持っている』? そんなのは、ただの希望論だ。『感情』を持っていないのなら、ただ刺激に対してプログラム通りに反応する『機械』だ〕

 ありあの言い方に、零はいらっときた。が、ふと思い返した。

 確かに、雪風は感情を露わにした事が無かった。今までなら、それを指摘されても「雪風は戦闘知性体だから感情が無い、もしくはあっても、それを伝える手段が無い」と割り切っていただろう。しかし、ありあの問い掛けに、そう答えられなかった。

 そもそも、人工知能だってそうではないか。あれも、プログラムを自分自身で書き換えて反応を変えている、高度なコンピュータに過ぎないではないか。雪風だけが特別、そんな都合のいい話なんて無い。

 ありあの言い方にいらっときたとは、まだまだおれは人間だな、と噛み締めながら口を開いた。

「長年使っている物に愛着が湧くのと一緒だ。おれは雪風に、命を預けるほどの愛着を持っている」

 

 ありあには、何も言い返せなかった。物に愛着を持つことなんて無かった。F-1もシルフィードも、必要とならば捨ててきた。あの時の涙は、皆と共に戦えない、己の弱さに対するものだった。

「だったら」

 ありあが口を開く。4年前のグレートロストを思い出しながら。

「桂城少尉は?」

 

 桂城少尉は一瞬驚く。いきなり話を振られたからだ。しかし、すぐに答えた。

「ぼくは、深井大尉と雪風、そしてジャムがどう影響しあい、そしてどう変わっていくか、それが見たい。それだったら、雪風のFO(フライトオフィサ)席が特等席だ。最も、自分の技量次第だけど」

 

 ありあは、思わず黙ってしまった。2人は、そこまで雪風を信頼していた。

「何で……」

 腹の奥から声を絞り出す。

「何で、そこまで信じられるの……?」

〔フォス大尉風に言えば、『愛している』から、だな。相手に命を預けられる、相手を深く、もっと知りたいというのを、そう言うらしい〕

〔ぼくは個人的興味ですがね〕

 ありあは、言葉を失っていた。

 

 

 

 遂に時刻は1900時になった。第307飛行隊の哨戒飛行は、ここで終了だ。補給と休養のため、ここから近い千歳基地に向かう。

 無言だった。誰も何も言わない。キャサリンは溜め息をつく。

 その時、先頭を飛ぶF-14A改 トムキャットのレーダーに何かが映った。

〔サムライ01からアリス隊、謎の大型飛行物体だ。ベクター06、距離260km、高度2500(フィート)、数1。ほとんど移動していない〕

〔アリス1、コピー(了解)。皆、ターン・ヘディング、ネクストベクター06〕

 クリスティーネの指示で、4機が一斉に右旋回する。空の黒は、徐々に濃くなっていく。

 

 

 

 やがて、メイヴの空間受動レーダーに反応が出た。

「大尉、ヘッドオン、距離1.0(km)、下からゆっくり上昇してくる。大型の戦闘機だ」

 桂城少尉がそう伝える。マルチディスプレイには「UNKNOWN」と表示されている。

「恐らくビルダーだ。しかし、何が目的だ?」

 零はそう言いながら、兵装選択レバーを「SRM」にする。サイドワインダー短距離空対空ミサイルのシーカーが起動し、FCレーダーが目標の位置をシーカーに伝える。

 ヘッドアップディスプレイのシーカーマークが、ターゲットボックスと重なる。しかし、発射出来ない。目標はまだ雲に隠れているから、シーカーが目標を認識出来ないのだ。

 やがて、目標が姿を現した。灰色の全翼機で、尾翼やカナード翼は一切無い。キャノピーの膨らみがある以外に出っ張りも無い。まるで、正三角形の物体にコクピットを取り付けたような、へんてこな形だった。

 雪風は自動で受動電子偵察を行うが、成果は無かった。目標は電波を一切発しておらず、受動的な索敵システムしかないか、それともレーダーをわざと切っているかのどちらか、と解析を出した。当然ながら、雪風のデータベースに該当機は無い。ただ、ジャムの超音速戦闘爆撃機であるTYPE4に酷似しているとマルチディスプレイに表示した。

 零もありあも、何も言わない。ただ、目標がどう動くか、それだけに注意を払って観察していた。雪風、そしてF-2A バイパーゼロのガンカメラが目標を撮影する。

 すると、いきなり目標が光り出した。2機をこの〈不可知戦域〉へと誘ったF-117A ナイトホークと同じように光っていた。

 

 そして2機は強い衝撃で揺さぶられた。しかし、すぐに治まった。〈超空間通路〉を抜ける時のような衝撃だった。

 すぐに零は辺りを見渡す。暗かった。雲で月が隠れ、ぼんやりと光が見える。少なくともフェアリィ星ではなかった。フェアリィには月が無い。

 直後、マルチディスプレイに新たな表示、友軍機が接近している。

 

 

 

 正体不明の物体を確認に向かったアリス隊に、F-14A改 トムキャットが警告する。

〔サムライ01からアリス隊、目標が急激に巨大化している。もう3倍だ〕

〔それ、本当に戦闘機?〕

〔未知との遭遇ですか?〕

 アリス隊は緊張する。もしかしたら、通常兵器が効かない物体かもしれない。

〔あー、待てよ。目標が縮小、だいぶ小さく……消えた? いや、2つに分裂、大きさは普通の戦闘機だ〕

 F-14A改 トムキャットのRIO(レーダー邀撃士官)が実況中継する。200kmもの射程を持つ艦隊防空用のAIM-54 フェニックス長距離空対空ミサイルを生かすために、早期警戒機に劣らぬレーダーを持つF-14改 トムキャットが、今の彼女達の「目」となっていた。

 すると、IFFに反応があった。IFFは味方と示しているが、クリスティーネ達アリス隊は信じなかった。4人は一斉にロックオン、正体不明の2機を威嚇する。

 

 

 

 突然ロックオンされたため、雪風は自動でジャミングを開始。ありあもチャフを撒き、左旋回をする。

 そして、零は危険を承知で通話をする。

「こちらは国連軍 調布基地 第5飛行戦隊 1番機 雪風。聞こえていたら返事をしてくれ」

 すると、返事があった。

〔零さん?〕

「クルデガルド大尉か?」

 

 

 

 そして、2機と4機はすれ違う。FFR-41MR メイヴ、F-2A バイパーゼロ、J-37 ビゲン、ミラージュ2000-5、MiG-23 フロッガー、F-15C イーグルだった。

 

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