妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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26話 別れの翼

 どうして、どうして――

 

 F-4E ファントムⅡがフラップを下げ、ランディングアプローチに入る。左主翼端は脱落し、左後輪が降りていない。

 そして接地、左後輪が出ていなかったがために火花を出しながら左へとそれ、滑走路左脇の芝生へ突っ込んだ。

「胴着(胴体着陸)に失敗したぞ!」

「救護班! 急げ!」

 救急車や特殊消防車が、クラッシュしたF-4E ファントムⅡへ向かう。

 特殊消防車が泡を吹きかけ、救護班がF-4E ファントムⅡに近付く。

 少女はただ、それを見ていた。何も言えず、特殊複合プラスチックで区切られた狭い空間で、無惨に大破したF-4E ファントムⅡから目が離せられなかった。

 

 

 

 数十分前――

 

 F-2A バイパーゼロとF-4E ファントムⅡがギアを仕舞う。増槽を付けていない2機は右へバンク、ビルダーの第2波攻撃隊をヘッドオンで捕捉した。

「アリス4、エンゲージ」

〔5!〕

 2機は短距離空対空ミサイルを発射、まず旋回戦に入る前に敵を減らす。そしてすれ違った。

 2機は左旋回、F-2A バイパーゼロは前縁ストレーキからベーパーを出す旋回を行い、右旋回するF-22A ラプターをヘッドアップディスプレイ越しに捕捉、再びサイドワインダーミサイルをリリースする。そして2機は分かれた。F-2A バイパーゼロは右へ、F-4E ファントムⅡは左へ旋回した。

「くっ!」

 ありあは首を回し、後ろを振り返る。同時にフレア射出、回避機動を取りたいが、高度が足りない。

 一か八か、思い切り右旋回をかけた。前縁ストレーキからベーパーが発生し、F-2A バイパーゼロは後ろのF-35A ライトニングⅡを引き離す。下手をすれば、揚力を失ってバランスを崩し、地面とキスする恐れのある機動だったが、上手くいった。

 F-35A ライトニングⅡをオーバーテイクさせ、後ろに回り込む。兵装選択、ガン。ヘッドアップディスプレイにガン・レクティカルが現れ、F-35A ライトニングⅡを囲むターゲットボックスと重なる。ありあは、躊躇無くガンコントロールスイッチを引いた。F-35A ライトニングⅡはベーパーを起こす急激な機首の引き上げを行うが、無数の20mm徹甲弾を喰らい、左主翼や左垂直尾翼をえぐり取られる。

 

 

 

 一方で、キャサリンはピンチに陥っていた。

「分かってるよ!」

 鳴り止まない後方警戒レーダーの音に、キャサリンは怒鳴る。後ろについたF-35B ライトニングⅡが離れない。振り切ろうにも、F-4E ファントムⅡが得意とするスパイラル降下を行える程の高度は無い。かと言って上昇すれば、単発機最大出力を誇るF-35に追い付かれるだけだ。

 その時、受動警戒装置が警鐘を鳴らした。

(しまった!)

 キャサリンは咄嗟に操縦桿を左へ倒し、フレアを撒きながら急旋回。しかしF-35B ライトニングⅡは離れてくれない。

 

「キャシー!」

 キャサリンのピンチを察知し、ありあはF-2A バイパーゼロを旋回させる。そして上昇、F-35B ライトニングⅡにビームアタックを仕掛ける。

 20mmバルカン砲を発砲、F-35B ライトニングⅡは砕けた。

 

 

 

「大尉、スターボード」

「了解」

 FFR-41MR メイヴは右へブレイク、ビルダーの攻撃隊を真上から奇襲する。

 見れば、レイフやミンクスも優位に戦っていた。ミンクスはF/A-18FX アドハンストホーネットの編隊相手にAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルと20mmバルカン砲で近接格闘、それをレイフがバックアップする。

 しかし、アリス5ことキャサリンは苦戦を強いられていた。やはり、旧式のF-4E ファントムⅡだからか。

 零はミサイルレリーズを押し、搭載していたAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを全て放った。当たるかどうかは半々ぐらいだが、牽制にはなる。

「B1、アリス5の支援に回る」

〔B6、了解〕

 そして、零はふと思った。昔の自分なら、アリス5を見捨てていたはずだが、今「支援に回る」と言った。一体自分はどうしてしまったのかと一瞬思慮するが、雪風が鳴らした受動警戒装置の音で現実に戻った。

 

 

 

 しかし、雪風の支援は遅かった。F-4E ファントムⅡの後ろにATD-X X2 心神がつき、20mmバルカン砲を放った。そしてその弾は、F-4E ファントムⅡの機体を抉った。

 

 

 

「――っ!?」

 キャノピーを突き破った銃弾は、キャサリンの左足をただの肉塊に変え、キャノピーの破片が腹部に突き刺さる。

 溢れ出る血を見、キャサリンはもう、戦えないと悟った。

 

 

 

「キャシー!!」

 ありあが叫ぶ。しかし、聞こえてないのか、F-4E ファントムⅡはふらふらと飛ぶ。ありあは流れ出る涙を拭かず、霞んで見えるヘッドアップディスプレイの向こうのATD-X X2 心神へ、20mmバルカン砲を撃った。

 機関砲ドライブシステムが、射撃熱によるオーバーヒートを警告する。ありあは無視してガンコントロールスイッチを引き続ける。やがて、20mmバルカン砲が弾切れになった。が、ありあは構わずガンコントロールスイッチを引く。既にATD-X X2 心神は撃墜された。

「キャシー! 返事をして! キャシー、お願いだから、声を聞かせてよ! ねぇ!」

 しかし、無線から聞こえるのはザァーッという音だけだった。

 

 

 

 ありあ、声を聞かせて。

『アーチャー、ありちゃん、あっちゃん……しっくり来ないなぁ。何て呼べばいい?』

『……好きにして』

『じゃあ、泣き虫ちゃん!』

『――!?』

『あははは! 冗談だって! ありあって呼んでいい?』

『…………好きにして』

 ありあ、最後に会いたいよ。クリスティーネさん、ノアさん、ターニャさん、零さん、アーニャさん……私1人は寂しいよ。

 ありあのF-2……声が聞きたい、顔が見たい、そういえば、ありあが満面の笑顔で笑っているの、見た事無いなぁ……

 

 

 

「キャシー! 返事をしてよ!」

 F-4E ファントムⅡはフラップ、ランディングギアを下ろす。ランディングアプローチに入るつもりだ。

 F-4E ファントムⅡは滑走路へ南からアプローチ、しかし左後輪が出ていない。

 

「駄目だ! 左後輪が下りてない!」

「クラッシュするぞ!」

「アプローチをやり直させろ!」

 地上員達が騒ぐ。滑走路へ、被弾して傷付いたF-4E ファントムⅡが着陸体勢を保って接近してくる。

 

 ありあは、F-2A バイパーゼロをF-4E ファントムⅡの右隣に近付ける。

「キャシー! 今すぐアプローチを再開して!」

 

 

 

 ありあが何か言ってる……着陸出来ない状態なのかな……せめて、邪魔にならないようにするから……

 

 

 

 キャサリンは右ラダーペダルを踏みつける。が、反応が無い。被弾した時、方向舵の油圧系統をやられたのか。

 キャサリンは、着陸を再開出来る程の体力は残っていなかった。キャノピーが割れ、風が容赦なく吹き付けられる。ヘッドアップディスプレイは使えなくなったが、正面の2本のピラーで目測する。

 

 そしてF-4E ファントムⅡは、まるで空母に着艦するような、ランディングギアを地面に叩きつける接地を行う。が、左後輪が出ていなかったがために左主翼を地面にこすりつけ、滑走路左脇へ火花を散らしながら突っ込んだ。

 ありあは、何も言えなかった。F-4E ファントムⅡは、クラッシュしたのだ。

「キャシー……? キャシー!!」

 

 

 

 オートパイロットになったF-2A バイパーゼロがランディングアプローチを開始する。ランディングギアとフラップを下ろし、滑走路に北からアプローチ。後輪が接地、エアロブレーキ最大拡張。

 そしてエプロンへタキシング、しかしパイロットは降りてこなかった。

 

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