滑走路から、JAS-39C グリペンとミラージュ2000-5が離陸する。
ありあは、部屋に閉じこもっていた。カーテンを閉め、暗い中でキャサリンの事を思っていた。
「キャシー……」
その視線の先には、決して帰る事の無い人のベッドがあった。
「アーチャー先輩……」
「駄目よ、タチアナ」
「分かっているのです……」
雪風、カーミラ、チュンヤン(春燕)、レイフが編隊で飛ぶ。
誰も何も言わない。他の飛行隊のパイロットが死のうと、彼らブーメラン戦隊には関係無かった。
「大尉、これは雑談なのですが」
「何だ、少尉」
「もしかしたら、ぼく達は帰れないのではないでしょうか?」
「どうしてそう思う?」
「これはぼくの勘ですが、ジャムはぼく達ブーメラン戦隊の出方を観察すると共に、ブーメラン戦隊をフェアリイから切り離し、特殊戦を無効化させるのが目的のような気がしたんです」
「フムン、確かに特殊戦は、戦隊機とフォス大尉を失っている。無力な事この上ないだろうな」
「だから、ぼく達はフェアリイに帰るべきか、それともここで生きるか、どっちがいいか考えたんです」
「そういうのは、帰れる選択肢が出てからにしてくれ。それに、向こうにはジャックやエーコ中尉、ピポッド大尉にしわしわ婆さんがいる。そう簡単に死なないだろうし、もし死んでもただでは死なないだろうな」
「確かにそうですね。ぼくの考えが浅はかでした」
その時、雪風の空間受動レーダーに反応、同時に銚子の防空レーダーやE-2C ホークアイが警告を発した。
〔PAN、PAN、PAN! ビルダーの大規模空爆隊を捕捉! 該当の基地は迎撃隊を緊急発進されたし!〕
その情報を受け、空中哨戒中だったF-14B トムキャットやMiG-31 フォックスハウンドが迎撃に向かい、長距離空対空ミサイルを放つ。
「おれ達も続く。B1、エンゲージ」
〔B2、エンゲージ〕
〔B3、エンゲージ〕
〈B13 RAFE, ENGAGE〉
4機は一斉にAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを全て発射した。
調布基地にスクランブル警報が鳴る。直ちにMiG-25 フォックスバットとF-15A改 イーグルが離陸した。
「アーチャー先輩! 出撃しないのですか!?」
タチアナが呼び掛ける。しかし、返事が無い。
「アーチャー先輩! いつまでくよくよしているのです!?」
「……うるさい! 黙っててよ!」
「だったら、だったらずっと閉じこもって泣いていなさい!」
タチアナは、愛機MiG-29M ファルクラムの所へ向かう。
ありあは動こうとしなかった。
〔グリム隊、ゴー!〕
MiG-31 フォックスハウンドの編隊が旋回、ビルダーのF-35A ライトニングⅡを追いかける。
ヘッドアップディスプレイ越しに捕捉、パイロットがガンコントロールスイッチを引く。MiG-31 フォックスハウンドは23mm機関砲をぶっ放し、F-35A ライトニングⅡは撃墜された。
見れば、離れた所でも、ミラージュ F1がYF-23 ブラックウィンドウⅡと空中戦を始めていた。
〔あっちでも始まった!〕
〔長い1日になりそうだ……〕
F-15D イーグルが増槽を捨て、空中戦を始める。
〔ネクロリーダーより各機、正面に散開し邀撃戦に移る! ネクロ13、スクワッド1を援護しろ!〕
F-4S ファントムⅡがバルカン砲ポッドでF-22A ラプターを銃撃するが、F-22A ラプターは推力偏向ノズルでコブラ機動を行って回避、F-4S ファントムⅡを20mmバルカン砲で撃墜した。
〔畜生!〕
RIO(レーダー邀撃士官)とパイロットが緊急脱出、パラシュートが空に浮かぶ。
〔ネクロリーダー! こちら6! タイプ35 2機にケツを取られた!〕
〔6、持ちこたえろ! 今そっちに向かう!〕
〔……駄目だ、離れてくれない!〕
〔ブレイク・ライト! フレア射出だ!〕
F-15D イーグルがフレアを撒きながら右旋回、しかしF-35C ライトニングⅡもアフターバーナーを焚きながら急旋回する。そして、F-15D イーグルの受動警戒装置が警鐘を鳴らした。
〔ロックオンされた!〕
〔くそ、もう駄目だ!〕
F-15D イーグルは左バレルロールを打ち、F-35C ライトニングⅡの25mmガトリング砲をかわす。が、いつまで避けれるか分からない。
しかし、いきなり2機のF-35C ライトニングⅡが爆ぜた。F-15D イーグルのWSO(兵器システム士官)が振り返ると、2機のFFR-31MR スーパーシルフがいた。
〔ブーメラン戦隊!? 助かった〜〕
〔幸運を〕
2機が左旋回、B3 チュンヤンのフライトオフィサ・王中尉が敬礼する。F-15D イーグルのパイロットとWSOが敬礼を返した。
国連軍 防空司令センターは、雪風をFAC(戦線空中管制機)に指定、2機のF-16C ファイティングファルコンが護衛に就く。
雪風のマルチディスプレイは広域能動索敵モードになっている。ディスプレイ上のフリップが多く、緑色の遊軍機マークと赤色の敵機マークで賑やかだ。
「大尉、かなりの量のビルダー編隊だ。タイプ50(T-50 PAK FA)とタイプ2(ATD-X X-2 心神)が計40機。種類不明の大型機4。爆撃機か?」
桂城少尉の報告に、零は頷く。
「恐らくストライクパッケージ(爆撃連合。爆撃機や護衛戦闘機、早期警戒機、空中給油機から成る編隊の事)だな。少尉、迎撃を指示しろ」
「了解。PAN、PAN、PAN、こちらB1 雪風FAC。606SQ、802SQ、316SQは敵編隊迎撃に向かえ」
直ちにF-104J スターファイター、F/A-18C ホーネット、Su-27 フランカーが迎撃に向かった。
〔ボギー、インサイト。ファーストアタック、ゴー!〕
40機が一斉に中距離空対空ミサイルを発射する。そして命中の有無を確認するより先に増槽を捨て、ドッグファイトに備える。
ビルダーも複数が犠牲になるが、反撃を開始する。機数16、12機がATD-X X-2 心神だ。
16機の新鋭ステルス戦闘機と、60機の旧式機がドッグファイトを開始する。
〔タチアナ、行くぞ〕
〔はい!〕
B8 ジルウェットとMiG-29M ファルクラムが増槽を捨て、アフターバーナーを焚いて加速する。ヘッドオンで捕捉、短距離空対空ミサイルをリリースする。そしてMiG-29M ファルクラムは上昇した。
急旋回するF-22A ラプターの後ろにジルウェットがつき、お互いジグザグ機動を行って後ろを取り合う。しかしそこへ、上昇したMiG-29M ファルクラムが急降下、F-22A ラプターに襲い掛かる。
〔スプラッシュ(敵機撃墜)! やりました!〕
〔まだよ! スターボード!〕
〔ラジャー!〕
2機は右旋回、劣勢のSu-22に加勢する。
JAS-39C グリペンは上昇しながらフレア射出、後方のX-32を振り切ろうとする。が、離れない。
〔くっ!〕
素早くミラージュ2000-5がバックアップ、30mm機関砲でX-32を撃墜する。
〔今日はやたらと多いわね!〕
〔ビルダーの連中、最終決戦のつもりか?〕
2機は左旋回、さらにやってくるビルダーを迎え撃つ。
ヘッドオン、2機は1発ずつAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルをリリース、殲-20と旋回戦を始める。
〔甘いわ!〕
JAS-39C グリペンがベーパーを起こす急旋回、殲-20に一気に詰め寄る。旋回機動性の高い戦闘機を相手に近接格闘は不利である。
ヘッドアップディスプレイ越しに捉えた。殲-20を囲むターゲットボックスの左脇にあるレンジバーは、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルの最小射程を切っている。クリスティーネは咄嗟に兵装選択をガンに切り替え、ガンコントロールスイッチを引いた。
JAS-39C グリペンの27mmリボルバーキャノン砲が唸り、殲-20から黒煙が吹き出る。リアタック、再度ガンコントロールスイッチを引く。27mmリボルバーキャノン砲が再び唸り、殲-20は木っ端微塵になった。
〔うわぁぁ!〕
F-104J スターファイターが爆ぜた。ATD-X X-2 心神は急旋回、F/A-18C ホーネットの後ろに回り込む。
〔クラーケン4、後ろだ! ブレイク、ブレイク!〕
F/A-18C ホーネットが右旋回、しかしATD-X X-2 心神も推力偏向ノズルでより半径の小さい旋回を行って急接近、至近距離で20mmバルカン砲をぶっ放した。
〔駄目だ、戦力が違い過ぎる!〕
〔応援を求む!〕
無線が飛び交う。辛うじて戦えているのはSu-27 フランカーやF-15 イーグル等の第4世代機くらいで、それ以外は勝負になっていなかった。
ありあは顔を上げる。目の前のベッドは、キャサリンが使っていた物だ。
(皆戦っている……けど、空に上がるのが怖くなったよ、キャシー……私は、どうすればいいの?)
それに応えるものはいなかった。