第307飛行隊ブリーフィングルーム――
「やはりこのフランカーFか……」
「タチアナ的にはトムキャットの人がウザいのです」
「タイフーンとラファールはともかく、殲-10が冷静沈着で厄介ね」
クリスティーネ達第307飛行隊のメンバーは、この間DACTを行った第185飛行隊について研究していた。
「アーニャさんはどう思います?」
タチアナがアナスタチアに話を振った。アナスタチアは考え、口を開く。
「アリス隊は個人の能力を重視しているのに対し、キャロル隊はチームで戦っている。タチアナがF/A-18Eを追い掛けている時に、Su-37の早いバックアップとか。アリス隊は1つの目標を決めたらしつこく追い掛けるが、キャロル隊はターゲットを自由に変える、柔軟性の高さが強みだと、私は思う」
アナスタチアの言葉に、アリス隊の面々は頷いた。
零は、雪風のコクピットにいた。私服であるスカジャンを着、雪風の各システムをチェックする。中枢コンピュータ、MADC(メイン・エアデータ・コンピュータ)、SADC(サブ・エアデータ・コンピュータ)、INS(航法慣性装置)、TACAN(無線式航法支援装置)、FCS(射撃統制装置)、EWS(電子戦システム)、ECRP(電子情報収集ポッド)等のプリチェックを行う。
エンジンも掛けたい所だが、格納庫内だ。調布基地ではエンジンのランアップはエプロンのみと定められている。
零は中途半端な思いで立ち上がった。
「深井 零大尉だな?」
突然話し掛けられた。見れば、雪風の機首の付近に男が立っていた。第185飛行隊の土岐代少佐だ。
「何の用だ?」
零はそう尋ねる。すると、土岐代は応えた。
「質問があってだな、お前は何者だ?」
「ノーコメントだ」
「そうか、国連軍の人間ではない訳だな」
「どうしてそうなる」
「簡単だ、国連軍の人間なら遠慮なく『国連軍のパイロットだ』と答える。が、あんたは答えなかった。つまり国連軍以外という訳だ」
「フムン、話はそれだけか」
零は格納庫を出ていこうとする。が、土岐代が零を呼び止めた。
「まあ待て。話はそれだけじゃない。この機体は一体何なんだ? 垂尾の無い前進翼の戦闘機なんて聞いた事が無い。B8とB13、あの機体も見た事が無い」
「世の中には、知らない方がいい事だってあるだろう」
「ふむ、言うつもりは無い訳か」
「そうだ」
「にしても、あんたの戦い方も下手だな。機体の性能に頼って工夫が無い。ただ勘が少しいいだけだ」
しかし、零にとってどうでもよかった。
「それがどうした。おれがどう戦おうが、あんたには関係無いだろう」
「個別主義者か……ところで、B13のパイロットは何処にいるか、知らないか?」
「いない。あれは無人機だ」
「なるほど、通りで素人のような無茶な飛び方をしていた訳だ」
「まだ実戦配備から2ヶ月も経っていないからな」
そして、零は歩き出した。
「おい、深井大尉――」
「おれはあんたと会話する気は微塵も無い。どっか行っててくれ」
土岐代少佐は肩をすくめた。
そして、ブリーフィングルームにエディスがやってきた。
「あ、エディスさん」
MiG-29M ファルクラムやSu-37 フランカーFの模型を手に、空中戦のシミュレートを行うタチアナが振り返りながら言った。すると、エディスは口を開いた。
「朗報かどうか分からないけれど、判明した事があるわ」
『判明した事?』
アリス隊の3人が口を揃えた。エディスは手にしたメモ帳に書いてある事を読んだ。
「キャサリン=ウェラー少尉――今は2階級特進で大尉だけど――の妹さんが見つかったわ」
「キャシーさんの!?」
「妹!?」
「待って、彼女は記憶喪失だったんじゃ?」
その反応を見、エディスはまだ彼女達にキャサリンの正体を話していなかったのを思い出した。
「本当は、彼女の正体は分かっていたのよ。事情によって明かされていなかっただけよ」
「キャシーさんの、正体……」
タチアナが呟く中、クリスティーネが口を開いた。
「その正体は、軍事機密で明かせられないんですよね?」
「ええ」
「なら、妹さんの事はいいのかしら?」
「一応、ヴィロワ司令の許可は得ていますから」
「なるほど」
ノアも口を開く。
「それで、妹とやらは?」
「ええと」
エディスがメモ帳をパラパラめくる。
「ルーシー=ウェラー、今もアメリカ ワシントン州で親戚と共に牧場を経営、両親はグレートロストの際に死亡。今ある資料には、ここまでしか書いてなかったわ」
『ワシントン州……』
アリス隊の3人が呟く。北アメリカでは数少ない、ビルダーの非影響下だ。