荒野の一本道を、ハンヴィーが進む。
その後部座席で、零はぼんやりと外を眺める。隣のありあも同様だった。
やがて、車列とすれ違った。ゲパルト対空戦車や9K222 ツングースカ対空戦車を載せたトレーラーの車列だ。
「そういや、お2人はどうして日本からはるばるワシントン州なんて僻地に?」
ハンヴィーのハンドルを握るクローザー曹長が尋ねる。
「私用だ。同僚の戦死について、遺族に話しに行く」
零が応えた。
「それは、お疲れ様です。しかし、あんな最新鋭機で?」
「メイヴを知っているのか?」
「噂を耳にした事がありましてね」
「メイヴなら、超音速巡航で早く来られるし、道中は危険だからな」
「確かに」
ハンヴィーの中が静かになった。
ありあは、窓の外を眺める。
(キャシーの、妹……)
そんな事は考えた事が無かった。しかし、キャサリンは間違い無く人間であり、そして家族がいるという事は当然なのだ。
やがてハンヴィーは、未舗装路へ分け入った。車体が激しく揺れ、零とありあは頭を天井とドアにぶつけまくる。
「すいませんねー、この道はいつもこうなんで」
クローザー曹長が、慎重にアクセルを踏みながら言った。その度に6気筒V型ディーゼルが高い唸りを出す。正直宝の持ち腐れだ。
「こんな山奥にあるのか?」
頭を天井にぶつけながら、零が尋ねた。
「ええ。都市部に近いと、大気汚染で品質が落ちるとかで」
そう言いながら、ハンヴィーは進む。
調布基地の滑走路から、E-2C ホークアイが飛び立った。土岐代は、それをエプロンのF/A-18E スーパーホーネットのコクピットから見上げた。
ふと見れば、その後からMiG-29M ファルクラムとSu-37 フランカーFが編隊離陸していった。恐らくタチアナとSu-37 フランカーFのロシア人パイロット・ニーカ=レービナが自主練しに行ったのだろう。
「熱心な事だな」
彼はそう呟き、機体から降りる。
すると、そこにはクリスティーネが立っていた。
「何だ、あんたか」
そう言って、土岐代は去ろうとした。が、クリスティーネが呼び止めた。
「ちょっといいかしら?」
「何の用だ? 1対1の決闘でもするのか?」
「まあ、それに近いわね」
「?」
「今アメリカに行っているアーチャー――春夏秋冬 ありあ少尉が帰ってきたら、また6対6をやってもらいたいの」
「俺はあの無人機と空戦するのは御免だな」
「当然レイフは組まないわ。その代わりに、アーチャーを組み込む」
「ああ、あの『壊れた人形』か」
土岐代の言葉に、クリスティーネの眉がピクッと動く。
「なら、2対4でもいいぜ? 俺達から2機、そっちから4機だ」
「いいえ、6対6よ」
「…………」
土岐代は頭を掻く。そして頷いた。
「いいだろう、『氷の人形さん』が戻ってきたらDACTしてやる」
やがてハンヴィーは、目的地にたどり着いた。着くや否や、ありあはハンヴィーのドアを開けた。
ハンヴィーを降りると、そこには広い牧場が広がっていた。零は、私服のズボンのポケットからグロックを取り出し、スライドを引いた。
「何をしているの!?」
突然背後から声がした。零とクローザー曹長は振り返らず、ゆっくりと両手を頭の上で組む。ありあもそれに倣った。
「軍人と、日本人がここに何の用?」
女性の声だった。すると、ありあが応えた。
「ルーシー=ウェラーという人に会いに来た」
「ルーシーに?」
「私は春夏秋冬 ありあ、彼女の姉のキャサリン=ウェラーの知り合いだ」
すると、女性は静かに話した。
「確かに、キャシーとルーシーは私の姪よ。でも、キャシーは5年前に死んだわ」
「その事で話がある」
すると、女性は溜め息を出し、新たな指示を出した。
「全員、持っている武器を見せてちょうだい。取り上げたりはしないわ」
3人は、身に付けていた武器を取り出す。クローザー曹長はSIG SAUER P320自動拳銃とナイフを、零はグロック 17自動拳銃とエマージェンシーナイフを、ありあはミネベア 9mm拳銃を取り出し、地面に置いた。
女性はそれらを見、口を開く。
「もう手を下ろしていいわ」
3人は両手を下ろし、武器を拾い上げる。さっきから指示を出していた女性を、ありあは見る。どことなくキャサリンに似た、金髪の女性だった。しかし、表情がキリッとしており、掴みどころが無いようなキャサリンとは違うイメージだ。その手には、スコープ付のアーマライト AR10自動小銃があった。
「悪いわね、てっきり強盗かと思ったから」
女性は謝りながら、家へ向かう。ありあは、女性に尋ねた。
「あの、ルーシーは何処に?」
「牛舎にいる筈よ。ほら、少し上がった所にあるあれ」
女性が指差した先に、こじんまりとした牛舎があった。それを見、ありあは走り出す。
「一体何なのかしら……」
女性は、ありあの後ろ姿を見ながら呟く。なので、零が説明した。
「実は、キャサリン=ウェラー少尉はこの間まで生きていた」
「えっ……はぁ!?」
ありあは牛舎にたどり着いた。中に入ると、立ちこめる獣の匂いに、一瞬たじろぐ。
「誰?」
奥から声がした。少女の声だ。
「ルーシー=ウェラー、でいいの?」
「ルーシーはあたしだけど……」
奥から、金髪の少女が出てきた。ありあは、彼女を見て、一瞬涙が浮かんだ。
彼女は、キャサリンにそっくりだった。