妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

33 / 38
32話 ワシントン

 荒野の一本道を、ハンヴィーが進む。

 その後部座席で、零はぼんやりと外を眺める。隣のありあも同様だった。

 やがて、車列とすれ違った。ゲパルト対空戦車や9K222 ツングースカ対空戦車を載せたトレーラーの車列だ。

「そういや、お2人はどうして日本からはるばるワシントン州なんて僻地に?」

 ハンヴィーのハンドルを握るクローザー曹長が尋ねる。

「私用だ。同僚の戦死について、遺族に話しに行く」

 零が応えた。

「それは、お疲れ様です。しかし、あんな最新鋭機で?」

「メイヴを知っているのか?」

「噂を耳にした事がありましてね」

「メイヴなら、超音速巡航で早く来られるし、道中は危険だからな」

「確かに」

 ハンヴィーの中が静かになった。

 

 ありあは、窓の外を眺める。

(キャシーの、妹……)

 そんな事は考えた事が無かった。しかし、キャサリンは間違い無く人間であり、そして家族がいるという事は当然なのだ。

 

 

 

 やがてハンヴィーは、未舗装路へ分け入った。車体が激しく揺れ、零とありあは頭を天井とドアにぶつけまくる。

「すいませんねー、この道はいつもこうなんで」

 クローザー曹長が、慎重にアクセルを踏みながら言った。その度に6気筒V型ディーゼルが高い唸りを出す。正直宝の持ち腐れだ。

「こんな山奥にあるのか?」

 頭を天井にぶつけながら、零が尋ねた。

「ええ。都市部に近いと、大気汚染で品質が落ちるとかで」

 そう言いながら、ハンヴィーは進む。

 

 

 

 調布基地の滑走路から、E-2C ホークアイが飛び立った。土岐代は、それをエプロンのF/A-18E スーパーホーネットのコクピットから見上げた。

 ふと見れば、その後からMiG-29M ファルクラムとSu-37 フランカーFが編隊離陸していった。恐らくタチアナとSu-37 フランカーFのロシア人パイロット・ニーカ=レービナが自主練しに行ったのだろう。

「熱心な事だな」

 彼はそう呟き、機体から降りる。

 すると、そこにはクリスティーネが立っていた。

「何だ、あんたか」

 そう言って、土岐代は去ろうとした。が、クリスティーネが呼び止めた。

「ちょっといいかしら?」

「何の用だ? 1対1の決闘でもするのか?」

「まあ、それに近いわね」

「?」

「今アメリカに行っているアーチャー――春夏秋冬 ありあ少尉が帰ってきたら、また6対6をやってもらいたいの」

「俺はあの無人機と空戦するのは御免だな」

「当然レイフは組まないわ。その代わりに、アーチャーを組み込む」

「ああ、あの『壊れた人形』か」

 土岐代の言葉に、クリスティーネの眉がピクッと動く。

「なら、2対4でもいいぜ? 俺達から2機、そっちから4機だ」

「いいえ、6対6よ」

「…………」

 土岐代は頭を掻く。そして頷いた。

「いいだろう、『氷の人形さん』が戻ってきたらDACTしてやる」

 

 

 

 やがてハンヴィーは、目的地にたどり着いた。着くや否や、ありあはハンヴィーのドアを開けた。

 ハンヴィーを降りると、そこには広い牧場が広がっていた。零は、私服のズボンのポケットからグロックを取り出し、スライドを引いた。

「何をしているの!?」

 突然背後から声がした。零とクローザー曹長は振り返らず、ゆっくりと両手を頭の上で組む。ありあもそれに倣った。

「軍人と、日本人がここに何の用?」

 女性の声だった。すると、ありあが応えた。

「ルーシー=ウェラーという人に会いに来た」

「ルーシーに?」

「私は春夏秋冬 ありあ、彼女の姉のキャサリン=ウェラーの知り合いだ」

 すると、女性は静かに話した。

「確かに、キャシーとルーシーは私の姪よ。でも、キャシーは5年前に死んだわ」

「その事で話がある」

 すると、女性は溜め息を出し、新たな指示を出した。

「全員、持っている武器を見せてちょうだい。取り上げたりはしないわ」

 3人は、身に付けていた武器を取り出す。クローザー曹長はSIG SAUER P320自動拳銃とナイフを、零はグロック 17自動拳銃とエマージェンシーナイフを、ありあはミネベア 9mm拳銃を取り出し、地面に置いた。

 女性はそれらを見、口を開く。

「もう手を下ろしていいわ」

 3人は両手を下ろし、武器を拾い上げる。さっきから指示を出していた女性を、ありあは見る。どことなくキャサリンに似た、金髪の女性だった。しかし、表情がキリッとしており、掴みどころが無いようなキャサリンとは違うイメージだ。その手には、スコープ付のアーマライト AR10自動小銃があった。

「悪いわね、てっきり強盗かと思ったから」

 女性は謝りながら、家へ向かう。ありあは、女性に尋ねた。

「あの、ルーシーは何処に?」

「牛舎にいる筈よ。ほら、少し上がった所にあるあれ」

 女性が指差した先に、こじんまりとした牛舎があった。それを見、ありあは走り出す。

「一体何なのかしら……」

 女性は、ありあの後ろ姿を見ながら呟く。なので、零が説明した。

「実は、キャサリン=ウェラー少尉はこの間まで生きていた」

「えっ……はぁ!?」

 

 

 

 ありあは牛舎にたどり着いた。中に入ると、立ちこめる獣の匂いに、一瞬たじろぐ。

「誰?」

 奥から声がした。少女の声だ。

「ルーシー=ウェラー、でいいの?」

「ルーシーはあたしだけど……」

 奥から、金髪の少女が出てきた。ありあは、彼女を見て、一瞬涙が浮かんだ。

 彼女は、キャサリンにそっくりだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。