妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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34話 電脳社会

 調布基地 第3格納庫には、第307飛行隊の機体が仕舞われている。JAS-39C グリペン、J-37 ビゲン、クフィル C2、ミラージュ2000-5、MiG-23 フロッガー、MiG-29M ファルクラム、F-2A バイパーゼロ、そしてF-15C イーグルだ。

 F-15C イーグルの機首には、撃墜数を示す8個の赤い星が描かれ、黒い機体ではやたらと目立つ。垂直尾翼には、第307飛行隊の部隊章(スコードロン・マーク)の「血まみれアリス」、キャノピー枠には小さく「Sl.Catherine Weller」の文字、胴体右側面には白い文字で「WE ARE BUILDER BUSTERS!!」と書かれていた。

 ありあはそっと、F-15C イーグルの機首を撫でる。

「ありあ、浮気は駄目でしょ? あなたにはバイパーゼロがいるんだから」

 ふと、声が聞こえたような気がし、ありあは振り返った。が、誰もいなかった。

 

 

 

 第307飛行隊のブリーフィングルームにて、零は週刊誌を読んでいた。ジャムにまつわる情報を集めるために欠かさず読んでいるのだが、あまり有力な情報は無かった。せいぜいビルダーとの交戦で、ビルダー機を何機撃墜し、何機落とされたか、そして現在の戦況くらいで、あとはくだらないゴシップ程度だった。

 零は週刊誌を閉じ、テーブルの上に投げ出して立ち上がった。

 フェアリイに帰ろうにも、手段が無い。違う平行世界に飛ばされたら、雪風であっても対抗できない。そもそも、ジャムにはおれ達を帰そうという気はあるのか。いや、きっと無い。ジャムにとって分からない、恐怖を抱く対象である特殊戦を無力化させるには、戦隊機を切り離すのが得策だ。何度シミュレーションしても、同じ解答になる。

 悩んでいても仕方が無い、おれ達に出来るのは「死なないために戦う」事だけしかない。とは言っても、何も出来ない事が腹立たしい。

「……大尉! 零!」

 零は、ようやく誰かに呼ばれているのに気がついた。

「エディスか。何か用か?」

「用というより、雑談よ」

「その為に大声で呼んだのか?」

「立ち上がったきり、何かを考えているかのように動かないから。何を考えていたの?」

「おれ達はフェアリイに帰れるかどうかだ」

「…………」

 エディスは口をつぐんだ。いきなり重い内容だった。

「いや、暗い話は止そう。それで、雑談とは何だ? 雑談出来るような共通の話題なんかあったか?」

「あるわよ。ジャムという共通の話題が」

「ここでジャムについてか? 一体どういう事を――」

「簡単よ。『特殊戦を無力化したジャムはどうするのか』」

「……つまり、特殊戦を無力化したジャムの目的についてか」

「要約するとね。ここではあまり詳しく議論出来ないけど」

 零は椅子に座る。それに釣られ、エディスも手近の椅子に座った。

「だが、ジャムの目的ははっきりしている。地球侵略だ」

「確かにそうでしょうね。でも、特殊戦は『地球侵略は何か別の目的の為の手段に過ぎない』と結論しているし、あなた自身もそれを肯定した」

「確かにだ。だがそれは、ジャムの行動理論についてであって、ジャムが特殊戦を無力化する理由にはならない。おれ達がここに来る直前の総攻撃で、ジャムは充分FAFを内部崩壊させる術があるのが分かった。にも関わらず、FAFはあの時まで存在していたし、特殊戦もあった。ジャムはまるで、おれ達やFAFを弄んでいるようだ」

「弄んでいる、というよりわたしは、ジャムはどうすれば地球の人間社会を内部崩壊させられるか、という実験をしているような気がするわ」

「実験か。つまりおれ達はモルモットという訳か。それも弄ばれているようなものだな」

「それは人間としての主観が入っているからよ。あなたなりに例えるなら、『新たな戦術を実戦で試す』という感じかしら。勿論命懸けよ。ジャムに命があるのか分からないけど」

「フムン。ジャムはおれ達やFAFを内部崩壊させられたら、それを地球で試すという訳か。ハリウッド映画のようにデカい宇宙船で攻めてくる訳でなく」

「深井大尉、昨日の映画の影響受け過ぎよ」

 零は昨夜、クリスティーネ達が見ていた「インディペンデンス・デイ リサージェンス」に見入っていた。

「冗談だ」

「だからあなたの冗談は笑えないわよ。以前『熱い仲になるか?』と言われた時は、『特殊戦にはこんなプレイボーイがいたかしら?』と思ったものよ」

「あれは放っておいてくれ」

「あんな大きな宇宙船なら、FAFにもあったじゃない」

「バンシーか。確かによく似ている」

「話は戻って。もしジャムがその戦略を地球で試したら、どうなると思う?」

「おれに予想しろと? 人間社会はFAF程単純じゃない。勿論ジャムもそれに合わせるだろうが、中には人間社会から決別した奴もいる。一筋縄とはいかないだろうな」

「あなたのような?」

「いや。おれのような人間は放っておくさ。ジャムに抗うとするなら、反政府ゲリラのような……それこそジャムの狙いか」

「人間を皆殺しには出来ないだろうけど、もしジャムの狙いが、地球のコンピュータネットワークなら、あっという間に目標達成よ。先進国ほどコンピュータへの依存率が高く、多くの人間を操りやすい」

「確か、『1億総監視社会』なんて言葉があったな」

「何、それ?」

「おれが生まれた頃に出来た、テロ等準備処罰法に定められた共謀罪への比喩さ。テロを未然に防ぐため、全国民を監視するという法律だが、既に国民は、『もうコンピュータ関連企業に監視されている』という認識があった。各家庭には必ずコンピュータが置かれ、街中には防犯カメラが溢れ、学校の宿題から企業のレポートまでをEメールで転送する。プライバシーなんてあったものじゃない」

「それであなたは、自分のコンピュータをネットワークから切り離そうとして捕まった訳ね」

「思い出したくない思い出だ」

「ま、PACコードの出現で個人の特徴までネットワークに曝される時代なのだから、仕方無いと言えば仕方無いのだけれど。ジャムも、それを利用して先進国を崩壊させる可能性があるわ」

「そうなったら、FAFどころか国連でも無理だろう。地球に住む全ての人間に『ネットワークを見るな』という命令を下せられるものなんていない」

「いっそ電波の届かない山奥に籠もる?」

「人間の全てがそれをしたら、ジャムは実力部隊を投入するだろうな。コンピュータネットワークは乗っ取られやすく、しかもただでさえ無法地帯だが、情報共有の速さでは敵うメディアは存在しない。ジャムと徹底抗戦するのなら、コンピュータネットワークは必要不可欠だ」

 

 その時、空襲警報が鳴り響いた。

 

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