〔タリホー! アイテールリーダーよりアポロン03、目標を発見した!〕
F-104が目標を見つけた。レーダースコープに11機映る。
〔数が多い、応援を!〕
〔アポロン03、了解〕
零と桂城少尉は同じ部屋になった。ここの宿舎は3人部屋だが、さすがに男女一緒はまずいという事でこうなった。
「…………」
「…………」
会話が無い。2人は貸してもらったジャージを着ていたが、お互い似合っていない。
「大尉?」
「どうした少尉」
桂城少尉が口を開いた。
「本当、この世界にいるのはぼく達だけですかね?」
「どういう意味だ?」
「特殊戦のメンバーがいれば嬉しいけど、FAFの誰かとか、はたまたジャムや大佐でもいい、ぼく達だけというのは不安というか……」
「つまり、フェアリィの事が幻になってしまうのでは、と?」
「まあそんな感じです。それに、雪風やレイフの修理は誰がしてくれるのか……」
「確かに、この世界には修理工場やパーツが無い。ダメージを喰らわないように飛んでも、やがて金属疲労や耐用年数に達してしまう」
そこで、ふと零は思った。FAFには寿命を全うした航空機があったか? 空中給油機や早期警戒管制機、あるいはフリップナイト等の作戦管制機ならあるかもしれないが、戦闘機や攻撃機にはいないだろう。何しろ毎日被撃墜機が出るのだから。偵察機でも、戦術偵察を行う特殊戦でも1機、戦略偵察軍団はかなりの被撃墜機を出している、寿命を全うする航空機は戦いに直接関わらない機体が多いはずだ。例えば、システム軍団のテスト機とか――
零の思考が止まった。館内放送で零と桂城少尉が呼ばれたからだ。
〈深井大尉、桂城少尉、至急管制塔までお越しください〉
零は腰掛けていたベッドから立ち上がり、桂城少尉と共に部屋を出た。
〔国連軍? それにジャムを知らない?〕
〔そうだ。それにFAFって何だ?〕
〔とにかく、現在地を知らせてくれ〕
〔いや、その前に武装を解除し、こちらの指示に従ってくれ〕
〔断る。こちらも正当防衛で攻撃する〕
零と桂城少尉は管制塔を昇る(ビルダーの出現でエレベーターが動かなくなったため)。すると、管制室では激しい無線のやり取りが行われていた。
〔とにかく現在地を教えてくれ! 敵では無い!〕
〔だったら翼下のミサイルを捨てやがれFU●K野郎!〕
「アイテールリーダー、落ち着け。こちらタワー、不明機に告ぐ、国籍と所属を伝えろ」
〔だから、国籍は無い! フェアリィ空軍 特殊戦 第5飛行戦隊だ!〕
零には、その声に聞き覚えがあった。近くの交信手からヘッドセットを借り、通話する。
「こちらB1 雪風。B7 ランヴァボン、聞こえるか?」
〔その声は深井大尉か? 何処にいるんだ? それとこいつらは?〕
「その前に確認したい。そこにいるのはランヴァボンだけか?」
〔いや、不思議な事に雪風とレイフ以外いる。おかしいだろう? 皆3機ずつに分かれてフェアリィのあちらこちらにいたのに〕
「フムン、何処まで覚えている?」
〔言葉の意味が分からないぞ、深井大尉〕
B7 ランヴァボン、パイロットのブリューイ中尉との会話で、零はジャムではないと確信した。ジャムは零の階級を知らないか、興味は無いからだ。
「つまり、おれと雪風が〈通路〉に飛び込んだ所は分かるんだな?」
〔そうだ。あの後、俺達のチームは無数のジャムに囲まれて――それで気付いたらここにいた。周りにはスーパーシルフばかりで、一瞬自分の目を疑ったよ〕
「ブリューイ中尉、他の戦隊機に管制の指示に従うように伝えろ」
〔待ってくれ大尉。一体ここは何処だ?〕
「そちらの場所は分からない、がおれがいるのは東京都 調布市だ」
〔何? トーキョーだと?〕
「ああ。ここは地球だ、だがおれ達の知っている地球ではない」
やがてエンジン音が近付いてきた。F-104に囲まれて11機の戦闘機――FFR-31MR スーパーシルフ――が見えてきた。そして1機ずつ着陸する。
続々とエプロンまでやってくる。双発、水平尾翼も兼ねる傾いた双垂直尾翼、コクピットやキャノピーは前後で分かれ、胴体下には巨大な偵察機材が備え付けられている。間違い無く、特殊戦が使用している電子戦闘偵察機、FFR-31MR スーパーシルフだ。機体番号B-502、パーソナルネーム・カーミラが目の前にいる。
その後もぞろぞろとスーパーシルフがエプロンへ入ってきた。零と桂城少尉、そしてFFR-40MR フェンリルとFFR-41MR メイヴの姿を見、カーミラのパイロット・ズボルフスキー中尉やブリューイ中尉がP90片手に降りてくる。
「驚いたな、こんな所で再会するとは」
ブリューイ中尉が言う。今、ほとんどの機はエンジンを切っていないので酷く会話がし辛い。
「そうだな、中尉」
「しかし、ここは俺達の知っている地球ではないのか?」
「ああ。詳しく話すと長くなるが」
「なら手短に」
「簡単に言えば『ジャムがいない地球』だ。忘れられたのではない、最初からいないんだ」
「……何だって?」
ブリューイ中尉が驚く。無理も無いだろう、零は官舎を指差し、こう言った。
「こんな所で立ち話していてもあれだ、向こうで話をしないか?」
「そうだな」
その後、11機のスーパーシルフは雪風とレイフの横まで運ばれた。
そして零達は第307飛行隊のブリーフィングルームに集まった。
「…………」
「…………」
無言の空気に、第307飛行隊の5人は押し潰されそうになる。なのでキャサリンが口を開いた。
「あの、皆さん仲悪いんですか?」
「おい、キャシー」
「キャシーさん」
キャサリンの一言に、ノアとタチアナが突っ込む。すると桂城少尉が話した。
「特殊戦というのは、こうした社交的ではない人間ばかり集めた特殊な部隊なんだ。人間ではなく、機械を信じ、そして自らも機械のように振る舞う」
「それって……」
「云わば、コミュ障の集団?」
タチアナの言葉をキャサリンが継いだ。当然ながら、キャサリンはクリスティーネとノアに叩かれた。
「『コミュ障』?」
桂城少尉が聞き返す。他のブーメラン隊員も同じ顔をする。
「まあ、他人との会話が苦手な人の事よ」
クリスティーネが説明すると、零が口を開いた。
「苦手、というのもあるかもしれないが、煩わしいと思っている。特殊戦はそういう人間の集まりだ。自分の事にしか興味が無い、しかし部隊として機能している」
「不思議ね」
「これも、クーリィ准将の苦労の賜物だ」
ブリューイ中尉が言った。クリスティーネ達は首を傾げる。
「クーリィ准将?」
「ああ、俺達のボスだ。特殊戦の創設者でもある」
「へぇ」
そこで、桂城少尉が立ち上がった。
「とにかく、お互いの状況を整理しましょう。そのためにここに集まっているんですから」
零は頷く。
「そうだ。まず、この世界について、説明する必要がある」
ブーメラン隊員達は、ビルダーについての説明を受けた。
「なるほど。ジャムの代わりという訳か」
ズボルフスキー中尉が腕を組みながら呟く。そこで桂城少尉が口を開いた。
「だから、深井大尉とぼくはジャムの情報や燃料、食料を要求する代わりに彼女達に協力するという交換条件を提示し、受け取ってもらった」
「つまり、『フェアリィ空軍代表』として国連軍に参加する、と?」
B3 チュンヤン(春燕)の女性フライトオフィサの王中尉が言った。
「そういう事です。彼女達の指揮下ではないから独立性を保っている。雪風がああして表向き大人しくしているのはこういう理由です」
「表向きって言ったって、ここのシステムに潜っていたり干渉していたりするんじゃないのか?」
B6 ミンクスのフライトオフィサ・コズロフ大尉が口を挟んだ。
「いや、それは無いかと思います。ここのシステムは1970年代の旧型だから、OSどころか言語が違う」
桂城少尉が説明していると、ノアが口を挟む。
「待ってくれ。『YUKIKAZE』というのは、あの前進翼の戦闘機だろう? まるで自我があるような口振りだが」
「その通り、雪風には自我がある。自分で考え、行動する。必要ならば、パイロットを殺す事もある」
零はそう言いつつ、違うと思った。殺す殺さない以前に、パイロットの生死には興味が無い。雪風が明確に「零の生死」を気にしたのは、ジャムのクッキー基地を偵察中にジャムによって不可知戦域に閉じ込められたあの時、雪風が「このまま一緒に自爆する」という脅迫行動を取った時だけだ。
雪風にとって、零や桂城少尉は「信頼出来るパーツ」としか思っていないだろうし、そもそもそう思っていないかもしれない。しかし、零は違った。雪風を、「頼れる相棒」としてではなく、「無くてはならない存在」と思っている。つまり、依存していた。
「話は戻りますが、こうしてブーメラン戦隊の全員がここに集まったのはジャムの仕業ではないかと思っています」
桂城少尉が話し、零の思考は現実に戻った。
すかさずブリューイ中尉が口を挟んだ。
「こんなのがジャム以外に誰に出来ると言うんだ。天気を見るよりはっきりしている」
「ぼくが言いたいのは、大佐の謀反やジャムの総攻撃が罠だったという事です」
思わず、零も口を挟む。
「どういう事だ?」
「ジャムにとって、我々特殊戦は予期せぬ存在、フェアリィでの戦いにおける不確定要素な訳です。当然不確定要素を排除しようとしたが、特に深井大尉と雪風によって妨害されてきた。そこでジャムはこう考えた、『ならいっそ、取り込んでしまおう』とね。故に雪風は2回も不可知戦域に閉じ込められた」
「少尉、正しくは3回だ。確証は無いが」
「えっ……」
零の訂正に、桂城少尉は一瞬驚く。が、取り直した。
「しかし、いずれも失敗した。雪風はジャムを叩き潰す事しか考えていない、そのように設計されたからだ。排除でも懐柔でも駄目、ならば――」
「存在を捨ててしまえ、か」
「そうです。ロンバート大佐の謀反を利用し、まず雪風をフェアリィから消した。そして対ジャム経験が雪風に比べ少ない、他の特殊戦機を消した。まあ、これはぼくの仮説ですが」
桂城少尉の説明が終わった。ズボルフスキー大尉が頷く。
「敵意を見せれば噛みついてくる、そして懐こうともしない、ならば餌で誘って山に捨ててしまえ、という感じか。犬のように」
それを聞き、ブリューイ中尉が立ち上がった。
「なら、噛みつく相手を追うまでだ。深井大尉の言う『協力』も、帰るためには必要だろう。戦隊機は燃料が、俺達には食料が必要だしな」
皆が頷いた。それを見て、ブーメラン戦隊の隊員がこうして一度に集まるのも珍しいが、協調しようと考えるのはほとんど有り得ないと、零は思った。
その後、ヴィロワ基地司令官の許可を得、「国連軍 FAF派遣隊 第5飛行戦隊」が編成された。