妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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4話 意識

〔This is Apolon 03. All sqaudron, no contact, condition green. 〕

〔roger. 〕

 雪風は飛んでいる。真っ黒な体、巨大な前進翼、鋭く尖った先尾翼、触れたら刺さってしまいそうなレドーム、FAFに1機だけしかないFFR-41MR メイヴ、開発コード・FRX-00、機体番号・B-501、パーソナルネーム・雪風。

 主翼の端からベーパーが発生し、薄く白い2本の線を空に描く。超音速巡航、主翼には8発のミサイル、胴体下には2本の増槽が取り付けられている。しかし、コクピットには誰も見えない。

 では、この視点で見ている私は誰だ? あの機体に乗っているはずの男は? あの戦闘機は「誰が」操縦している?

 

 

 

 ありあは目覚めた。カーテンの隙間から朝日が差し込む。隣のベッドには、腹を剥き出して幸せそうに眠るキャサリン。

 カーテンを開くと、眩しい光がありあの網膜を刺激した。エプロンにはスクランブル待機をする4機のF-4S ファントムⅡが並んでいる。滑走路からちょうど、EC-121早期警戒機が離陸していった。

 

 

 

 目覚め、朝食を済ました零は格納庫に来ていた。11機のスーパーシルフとレイフ、雪風がずらりと並び、その光景は圧巻だ。しかし、フェアリィ基地・特殊戦区域格納庫ほど広くないのでさらに窮屈に見える。

 左側に掛けられたステップを登り、雪風のコクピットカプセルに近付く。スーパーシルフは基本キャノピーは開きっぱなしだが、メイヴは違う。キャノピーが巨大なため、閉め切っている。元々無人機として開発されたため、余計人を拒絶しているように見えてしまう。

 キャノピーの外からマルチディスプレイを見ると、文字列が激しくスライドしていた。雪風は今、何をしているのだろう。ジャムを探しているのか、ビルダーを倒す方法を検討しているのか、はたまた――

 零の思考が止まった。振り返ると、ピンク髪の少女が雪風の機首の辺りにいた。

「何の用だ?」

 零は口を開いた。少女は表情を変えず――最も、無表情だったが――答える。

「あなたは、戦闘機が好きなのか?」

 それを聞き、零は肩をすくめた。

「どうしてそう思う?」

「昨日の夜もここにいた。そんなに自分の機が好きなのか?」

「違う。こいつには独立した意志がある、少しでも目を離せばあっという間に置いていかれる。それが――」

「怖いのか?」

「ああ。昨日言った通り、こいつはジャムを倒すためなら人間を殺す事を躊躇わない。事実、今までに何人も殺してきた」

 そう言って、零は今までに雪風に殺された人間――システム軍団のオドンネル大尉や特殊戦の旧13番機のパイロット――の姿を思い浮かべた。

 そして零は、昨日の自己紹介の時に思った疑問を思い出し、質問した。

「あんたは、信じているものがあるのか?」

「どういう意味だ?」

「例えば、誰かや自分の機とか」

 ありあは即答した。

「無い。戦闘機はただの道具として思っているので」

「そうか」

 そう言って、零は雪風のコクピットカプセルを撫でる。勿論、雪風にはそれを感じるセンサーは無い。

「あなたは」

 ありあが口を開いた。

「自分の機を溺愛しているように見える」

「間違ってはいない、昔なら」

「昔なら?」

 零は、かつて雪風がまだスーパーシルフだった頃を思い出し、そしてその頃より喋るようになったのに驚く。こんなに自分の事を喋ったのは初めてかもしれない。

「雪風は元々この機、メイヴではなかった。他の戦隊機と同じく、スーパーシルフだった」

 零は、隣のカーミラを指差す。ありあはカーミラやチュンヤンを眺めながらステップを登ってくる。

「だが、ある時ジャムに撃墜された。その時偶然、近くにFRX-00、つまりメイヴがいた。試験飛行中だったメイヴを呼び寄せ、そして雪風はメイヴに自己を転送した」

 ありあは目を見開く。

「AIが、自身を転送……?」

「いや、雪風はAIではない。そのようにプログラムされていない、だがジャムとの戦いで『自己』を作った。そして二度と飛べない体を捨て、新しい体に乗り移った――簡潔に説明するとこういう事だ」

「それで、溺愛していたというのは?」

 ありあの、自分の興味を優先する所は自分と一緒だなと零は感じた。

「昔は、雪風を自分の一部だと思っていた。いわば依存の状態だ。だが、雪風に2回も捨てられ、雪風に自己があると痛感した。以来、こうしている」

 零が言い切ると、視線を感じた。見れば、雪風の右主翼下に桂城少尉がいた。

「すみません、盗み聞きするつもりはなかったんですが」

「少尉が謝る必要はない、ただの世間話だ」

 零はステップから降りる。ありあが続き、桂城少尉は機首を回って機体の左側へと来る。

「しかし、ブッカー少佐から雪風について概略を聞いていたとは言え、初めて聞く事ばかりでした」

 桂城少尉が言う。零はまた肩をすくめ、口を開く。

「おれだって、雪風の全てを知っているわけじゃない。その都度コミュニケーションを取ればいい話だ」

 零は歩き始める。

 

 

 

 第5飛行戦隊のブリーフィングルームは第307飛行隊と共同のため、暇な連中が集まって談話している。

「この世界はすごいな。博物館クラスの旧式機のオンパレードだ」

「でしょ!? Su-22やF-8のようなレア物が――」

 タチアナが目を輝かせて語る。ガッターレのパイロット・プッツァー少尉の一言でいつの間にか航空機の話になる。

 零はぼんやりとそこら辺の椅子に座ると、隣にクリスティーネが座った。

「零さんは1番機パイロットですよね?」

「そうだ」

「ということは、隊長なんでしょう? 全くそうは見えないけど……」

 零は、クリスティーネのさりげなく失礼な物言いに苦笑しながら答える。

「いや、隊長という役職はない。作戦管理を行うブッカー少佐と、実質的な司令官のクーリィ准将が特殊戦を引っ張っていた」

「そう……何か、失礼な言い方してごめんなさいね。距離感がいまいち掴めなくて」

「敬語でなくて構わない。特殊戦では、相手がクーリィ准将とブッカー少佐でなかったら敬語を使わないという暗黙の了解があるからな」

 その時、再び警報が鳴った。そして放送が流れる。

〔コンディション・イエロー発令、コンディション・イエロー発令。アリス、ブーメラン各飛行隊は直ちに出撃準備を整えよ!〕

 戦士達はブリーフィングルームを飛び出した。

 

 

 

 飛行用装備に身を包んだ零は雪風に乗り込む。桂城少尉が後席に座り、巨大なキャノピーが自動で閉まる。そしてトーイングカーで格納庫の外へ運ばれ、武装や燃料を搭載する。

〔アリス、ブーメラン、聞こえるか?〕

 無線でヴィロワ基地司令官が話してくる。そして雪風のターボファン・コンバインドエンジン、スーパーフェニックス マークⅩⅠが始動した。

〔平壌ピラーから、ピラーのシードを搭載したであろうTu-160爆撃機が、複数の護衛と共にこちらに向かっている。既に小松からSCが発進しているが、調布、浜松に応援要請があった。アリス、ブーメラン各飛行隊はバグベアの管制に従い、小松の迎撃隊を援護しろ〕

 地上要員がミサイルの安全ピンを抜き、それをパイロットに見せる。零は右手を上げ、ラフに敬礼した。

 搭載武装は、AIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルとAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを4発ずつ、20mmバルカン砲を6000発。レイフも同じ武装で、スーパーシルフ達はミサイルの数は一緒だが20mmバルカン砲は1500発だ。

〔タワーよりアリス隊、クリアランス・フォー・テイクオフ〕

 第307飛行隊の5機の国籍も機種もばらばらな戦闘機が離陸する。ブーメラン戦隊の機も続々と離陸していった。

 

 

 

 雪風、帰還せず。さらに他の戦隊機も行方不明になった。

「こんな事態は初めてだ」

 特殊戦 指令センターで、ブッカー少佐がスクリーンを見つめながら呟く。全戦隊機を見失い、代わりにFAFは落ち着きつつあった。トロル基地を除き、ほとんどの基地は命令系統を取り戻し、上空の作戦機のIFFは復旧した。ジャミーズ反乱部隊は、情報軍の討伐部隊とフェアリィ基地憲兵隊によって制圧されつつある。

「雪風とレイフを見失うのは分かるが、何故他の戦隊機まで……」

 ピボット大尉の一言に、ブッカー少佐は何か言いたげだったが、口を閉じる。この場では無意味な発言だと思ったのだろう。

 いずれにせよ、今の特殊戦は丸裸な訳だ。特殊戦は、指令部や消防隊、食堂、医療チームを持つ独立した部隊だ。だが保有する航空機はたった13機、そして全て見失った今、特殊戦の戦力は皆無に等しい。戦隊機を失えば、せいぜい使えるのはオートライフルやピストルのみというお粗末な状態だ。

 エディスは、手持ちのノートパソコンに入っている心理分析ツール、MAcProⅡに現状を入力する。本当はSSC(特殊戦戦略コンピュータ)やSTC(特殊戦戦術コンピュータ)に繋げば入力の手間が省けるのだが、同時にジャムに使われたり、無力化されてしまう可能性があるので、現在はスタンドアローンで使用している。

 短文で必要な事を入力し、エンターキーを押す。暫くして画面に予測データが出た。

〈特殊戦の全戦隊機は、ジャムによって抹消された可能性大〉

 エディスは息を飲む。ブッカー少佐が近寄り、画面を覗き込んで目を見開いた。

「全て、ジャムにやられた――!?」

 ブッカー少佐の声に、停止していたエディスの思考が復活する。

「そう考えるのは早計です、少佐。ここでの『抹消』が、撃墜だけを意味するとは限らない――」

「だが、連絡が無ければ死んだも同然だ」

 スクリーンを注視するエーコ中尉が話す。

「恐らく、撃墜というよりは『存在を消された』というニュアンスではないでしょうか」

 エディスは自分の考えを伝えた。MAcProⅡは自分の思考にヒントを教えてくれる強力なツールだが、読み誤れば全く違う方向へ突き進んでしまう両刃の剣だ。エディスは、ブッカー少佐の考えが短絡的過ぎる事を指摘するつもりで話す。

「『存在を消された』? それこそ殺害と何が違う――。そうか、〈不可知戦域〉か」

 ブッカー少佐は、一瞬でエディスの言いたい事を汲み取った。

「〈不可知戦域〉なら、今までのように戦隊機を呼び寄せ、閉じ込めて音信不通の状態に出来る。しかし、何故今なんだ?」

「それは――」

 エディスが言いかけた所で、クーリィ准将が遮った。

「ここで議論していても仕方無い。ブッカー少佐、フォス大尉は分析を続行、他の要員は全員戦隊機の捜索にあたれ。必要なら、上空にいるFAF機に要請しても構わない」

「イエス、メム」

 コンソールに着席し、フェアリィの空を飛んでいるFAFの戦闘機に伝える。

 エディスはノートパソコンに向き合い、次に予想される事態を想定しようとした。

「ぐっ……!」

「どうした、フォス大尉!」

 エディスの視界が揺らぐ。バケツに入っている水を掻き回した時のように視界が歪む。頭に激痛が走り、平衡感覚がおかしくなって床に倒れた。

 最後に聞こえたのは、何故かスーパーフェニックス マークXIのアフターバーナー音だった。

 

 

 

「大尉、ロングレンジレーダーにマージィ、不明機4、こちらに接近中」

「――北からか。敵機だ、BVR戦闘、電子戦用意」

「了解、スパロー発射準備よし」

 零はミサイルレリーズを押す。全スパローミサイルが発射された。

「目標到達――。命中2、不明1、生存1、ロックオンされた、電子戦開始、スターボード」

 桂城少尉が指示を出す。零はヘッドアップ・ディスプレイに表示された「ALERT」という文字列を見、ボタンを押した。

 雪風は増槽を捨てた。




そんな訳で4話ですね。最初のシーンは誰の夢か? 少なくともありあではありません。
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