〔アイオロス06、後ろだ! タイプ47!〕
〔ビルダーはどこだ!? 見えない!〕
〔アリス4、エンゲージ〕
〔ブーメラン6、FOX2!〕
様々なやり取りが行われる中、零は正面を睨んでいた。7Gもの右旋回で息が止まる。ヘッドアップ・ディスプレイに目標が見え、地図の「灯台」のようなマークと重なる。レディ・ガン。残弾はまだある。発砲、目標の殲-20の右エンジンが火を噴いた。
旋回半径を緩め、呼吸を整える。レイフとJ-37 ビゲンが横に並んだ。
〔さすが、特殊戦のエースね〕
「雪風があればこそだ。他の機に乗れば墜落してしまう」
とそこで、桂城少尉が「敵機接近、ポート」と伝えてきた。クリスティーネは右へと更に操縦桿を倒す。零はサイドスティックに左へひねる力を加え、メイヴを左旋回させた。
ヘッドオン、相手はロシアの双発艦載前進翼戦闘機・Su-47 ファーキン(ベルクート)だ。ヘッドアップ・ディスプレイを通じ、雪風が撃てと催促してくる。零はミサイルレリーズを押し、右主翼からサイドワインダーミサイルを切り離した。
〔アイオロス06、後ろに敵機! スターボード!〕
F-8E クルセイダーの後ろに、ビルダーのF-35C ライトニングⅡが着く。そしてF-35Cは胴体下のガンポッドから25mm機関砲弾をばらまいた。
〔ああああああ!〕
F-8Eの左主翼がみじん切りにされ、更に胴体の前後がおさらばした。
〔ベイルアウトしろ!〕
僚機の叫び声で、射出座席がロケットモーターで飛び出した。しかしF-35Cはしつこく狙う。
〔アリス3、FOX2!〕
タチアナの操縦するMiG-23 フロッガーがサイドワインダーミサイルを発射し、F-35Cを撃墜する。
〔今のうちに!〕
MiG-23は主翼を広げて右旋回、接近するT-50 PAK FAをロックオンした。
すると、いきなりT-50が爆ぜた。
〔!?〕
〔背中は任せろよ、お嬢ちゃん〕
MiG-23の上を、1機の戦闘機が追い抜いていく。双発、斜めに傾いた双垂直尾翼、機首下面には垂直カナード翼がある、FFR-31MR スーパーシルフだ。機体番号B-508、パーソナルネーム・ジルウェット、パイロットはアメリカ生まれの女性、イザベル=ガラント中尉だ。
ジルウェットは更にサイドワインダーミサイルを連射し、殲-31を撃墜する。
〔分かりました、頼みましたよ!〕
〔おう〕
MiG-23は急降下、それを追って降下するF-35Aをジルウェットが追う。
ノアは、愛機クフィル C2のコクピットから戦闘空域を見つめていた。
こちら側の損失は少ない。やはり、スーパーシルフと雪風、レイフが善戦している。何故か優しさを感じるデザインのスーパーシルフだが、いざ空へ上がれば猛鳥のように振る舞う。あっという間にビルダーを食い散らかすのだ。
(あれだけの機でも、やられる事があるとは――。ジャムは、そんな強敵なのか?)
その時、感じ取った。何かが、来る!
「アリス2、エンゲージ!」
急降下、僚機であるキャサリンのF-4E ファントムⅡも遅れずについてくる。
敵機視認、殲-20を捕捉した。
「キャシー、行くぞ!」
〔はい!〕
牽制としてサイドワインダーミサイルを発射する。もちろん殲-20はフレアを撒いて右旋回回避、しかし急降下の速度でクフィルは急接近、ノアは操縦桿を手前に引いて機首上げ、すれ違いざまに30mm機関砲をお見舞いした。
見事、殲-20の腹に命中した。2機はそのまま上昇する。
F-1が踊る。たった1機だけ、場違いな緑地迷彩が施された戦闘機は、ダンスでもしているかのように機動し、ビルダーを捕食する。
すると、F-1の後ろにF-22Aが回った。ありあはスロットルレバーを奥へ倒し、操縦桿を右へ倒す。アフターバーナーを焚き、右急旋回。しかしF-22Aは推力偏向ノズルで10Gを超える旋回をかけ、F-1の後ろに居続ける。
零は素早くメイヴを急降下させる。マイナスGで血液が頭に上がり、目が膨らむような感じがする。ヘッドアップ・ディスプレイ越しにF-22Aを捕捉、サイドワインダーミサイルを発射する。
F-1を追うのに精一杯だったF-22Aはメイヴの姿を認め、フレアを撒きながら回避機動に移る。零はメイヴの機首を上げて減速、今度は減速による強力なGが掛かる。そしてF-1が左旋回し、F-22Aを追撃して20mmバルカン砲を放った。
〔バグベアより空いている機へ! Tu-160が接近中!〕
〔B13が迎撃に向かう〕
レイフは雪風から離れ、ガッターレとオニキスと共にTu-160爆撃機に向かう。搭載スパローミサイル、全発射。しかしビルダーの戦闘機が体当たりで止めた。Tu-160の護衛であったF-22AがAIM-120D アムラーム中距離空対空ミサイルを発射、しかしオニキスが強力なECMを発してミサイルの誘導回路を破壊した。レイフがF-22Aを引き付けている隙に、ガッターレがサイドワインダーミサイルを全て放ってTu-160を撃墜した。
〔バグベアより全迎撃隊、空域クリア、各基地へ帰投せよ――。しかし、何なんですか、ブーメラン飛行隊の機は〕
〔さあな。第4・5世代戦闘機に見えなくもないが、よく分からん。スーパーシルフはSu-30MK2に似ていると言えば似ているが〕
E-2C早期警戒機の下を、アリス隊とブーメラン隊の18機が飛んでいる。KC-130空中給油機から、雪風とジルウェットは燃料補給を受ける。
「こちらB1。燃料補給完了を確認した」
〔ヘーラー56、了解。セパレートせよ〕
「了解、アスターン、ナウ」
零はスロットルレバーを手前へ微妙に引き、エンジン推力を絞る。機速が下がり、雪風の背面から伸びる受油プローブがKC-130の右主翼から垂らされている給油ホースから抜けた。受油プローブを仕舞い、コーションライト消灯を確認、給油待ちのアプサラスと代わった。
零も桂城少尉も何も言わない。初めてブーメラン戦士全員で共に戦い、そして勝利したが、喜びは無かった。
(喜びも感動も無い……本当に機械のようだ)
ノアはクフィルの操縦桿を握り締める。
18機は無事に調布基地に帰ってきた。まずアリス隊が、そしてブーメラン隊の順に着陸する。
着陸した後、エプロンへとタキシングしてエンジンを切る。メイヴのコクピットカプセルが後退し、キャノピーが開いた。
零は酸素マスクを外し、ヘルメットを脱いだ。フェアリィよりも空気がうまい。雪風は既にケーブルで繋がれ、前進翼を畳んでいる。シートベルトを外し、雪風から降りた。
零達ブーメラン戦士は宿舎に向かう。途中、零の近くにありあがやってきた。
「さっきは……あ、ありがとう……」
「礼を言われるとはな」
「私が非情と言いたいのか?」
すると、キャサリンがありあの背中を叩いた。
「そんな事無いって! 周りからそう見えてるだけだって!」
「…………」
ありあは無言でキャサリンを睨んだ。
FFR-41MR メイヴ、FAFにたった1機しかないスペシャルモデルだ。FAFの主戦力であるFFR-31 シルフィードの後継として開発された無人戦闘機・FRX-99(正式名称FFR-40 フェンリル)の有人タイプで、スーパーシルフの後継、FRX-00の正式型だ。最も、雪風はFRX-00の試作1号機だが。当初、特殊戦は今あるスーパーシルフを無人化して新戦隊を編成、第5飛行戦隊はメイヴに機種変更する予定だった。だが旧雪風が撃墜され、FRX-00が「YUKIKAZE」と名乗った時、その予定は延期された。そしてそのままロンバート大佐の謀反とジャムの総攻撃が始まった。
格納庫に仕舞われたメイヴは、主翼を畳んでいるため、スーパーシルフより小さく見える。事実、胴体は小さくなっている。スーパーシルフは超音速巡航に適したスーパーフェニックス マークXというエンジンを積んでいたが、メイヴはより小さく、より高性能のスーパーフェニックス マークXIを搭載している。しかし主翼面積はスーパーシルフより大きい。これにより旋回性能を向上させて、突発的な空中戦に巻き込まれても生き残れるようにしたのだ。極音速飛行時には主翼を畳み、揚力が必要以上に発生するのを防ぐ。
垂直尾翼は無いが、若干上向きの主翼と先尾翼、そして機首下面の垂直カナード翼で横方向への制御が可能だ。エアインテークは、胴体背面と下に合計3つある。機体の水平を保ったまま上にジャンプしても吸気効率が必要以上に落ちないようになっているのだ。
しかし、メイヴの一番の特徴は、やはりコクピットカプセルだろう。勿論、緊急脱出の時にはカプセルごと飛ばされるから、超音速飛行中でも脱出できる。超音速飛行時にはカプセルは沈み込んで空気抵抗を減らし、逆にドッグファイトスイッチを入れると少し上がる。空気抵抗を増やしてでも視界を確保するのだ。
武装は翼下に取り付けるのでステルス性は期待できない。しかし、推力偏向ノズル(というより、エンジン自体が上下する)を備えているので、第4・5++世代戦闘機(Su-35とか)に分類されるだろう。最も、電子戦なら地球最強だろうが。
零は雪風のコクピットに座っていた。勿論キャノピーは開いている。腕を組み、マルチディスプレイを眺めると、朝と同じく文字列が激しくスライドしている。特殊戦格納庫にいた時より激しいため、雪風が何をしているのか全く分からない。零はもどかしく感じる。
ふと、足音を聞き、見るとノアがステップを上がってコクピットカプセルに近付いてきている。
「まだここにいたのか」
ノアが口を開いた。零は答える。
「お前には関係無いだろう」
そして、デジャヴを感じた。
「関係無くはないだろう。これから一緒に戦っていく仲だ」
「だが、永遠にとはいかないだろう。おれ達はフェアリィに帰らなくてはならないしな」
「それもそうだが……」
ノアが口ごもっていると、零は立ち上がった。
「零、どうしたんだ?」
「いや、水を飲みに行くだけだ」
「そうか……にしても、綺麗だな」
「雪風が、か?」
「そうだ。人を寄せ付けない、けど注意を引く、『高嶺の花』という奴だ」
「フムン」
ノアの言葉を聞き、零は初めてメイヴを見た時を思い出した。
『高性能らしいのは分かるが、不格好だな』
あの時とは正反対の意見だ。
ノアは前縁ストレーキの辺りへ歩き、レドームを見る。真っ黒な機体に大きく白い耐熱塗料で書かれた文字、「雪風」。ブッカー少佐の直筆だ。日本人である零よりも、イギリス人のブッカー少佐の方が達筆というのはいかがなものかと思ったが、フェアリィでの生活を思い出して自分が全く日本人らしくしていなかったのを自覚した。
「もう何年も米を食べてないな」
零の呟きに、ノアが反応した。
「そうなのか?」
「フェアリィでは日本食が一切無かった。スーパーを探せば、レトルト程度はあったと思うが」
しかし、零は基本食堂で済ませていた。特殊戦の食堂は、味は悪くないし、何より無料だからだ。勿論、日本食は無かった。特殊戦にいる日本人は零と桂城少尉だけだ(しかし、桂城少尉は既に情報軍 A6へ異動している)。
「かなりの達筆だな。お前が書いたのか?」
レドームの「雪風」を指差しながら、ノアが訊いてくる。
「いや、ジャック、ブッカー少佐の直筆だ。かなりの日本オタクで、『雪風』という名もブッカー少佐が付けた」
「お前が名付けたんじゃないのか!?」
「ああ。旧日本海軍の駆逐艦で、10を超える海戦に参加し、無傷で帰った艦だ」
「なるほど、ブーメラン隊に向いている名前だ。味方を見殺しにしても生きて情報を持ち帰る」
「だな。だが雪風自身はジャムを自ら倒したいらしい。何度かそういう動きをした事がある」
「お前を、無視して?」
「ああ。それで死にかけた事もある」
零は雪風に殺されかけた時――戦線基地TAB-14所属の第402飛行隊を襲ったのと同じ、ジャムの超高速ミサイルに狙われ、そして雪風はパイロットを無視した機動をした時――を思い出す。
「それでもお前は雪風に乗るのか?」
「おれにとって、雪風は相棒ではなく、娘のような存在だ。互いに独立しているが、お互いが必要だ」
「変わっているな」
零は、どこかノアがブッカー少佐に似ているような気がした。
ノアはステップから降り、格納庫を出ていく。その後ろ姿に、見覚えがあった。