妖精とアリスが出会う時   作:土居内司令官(陸自ヲタ)

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6話 身だしなみ

 小松基地所属のMiG-21とミラージュⅢがビルダーと交戦している。

〔ケツを取ったぜ! FOX2!〕

 MiG-21がアトールミサイルを発射、しかしビルダーのJAS-39E スーパーグリペンは余裕でかわした。

〔くそう!〕

〔ヘラクレス08、後ろにタイプ15! ポート!〕

 MiG-21の後ろにF-15SE サイレントイーグルが食い付いた。

〔よりにもよってイーグルかよ!〕

 MiG-21は左急旋回、しかしサイレントイーグルも続く。

〔駄目だ、振り切れない!〕

 その途端、サイレントイーグルが弾けた。MiG-21のパイロットが驚き、振り返るとスーパーシルフが右隣を飛んでいる。

〔ブーメラン飛行隊!? 助かった!〕

〔ブーメラン6よりヘラクレス08、幸運を〕

〔そっちもな! 今度小松に来た時、一杯奢るぜ、兄弟!〕

 ミンクス、ランヴァボンがMiG-21から離れていく。MiG-21のパイロットは敬礼して見送った。

 

 

 

 ビルダーの攻撃隊を全滅させ、ブーメラン隊は調布基地へ帰投する。

(この所、ずっと一緒だな)

 雪風のコクピットで、零はふと思った。ここ最近、ブーメラン隊はずっと全機出撃している。機体やエンジンがオーバーワークで壊れてしまわないか、零は心配だった。

 

 調布基地に帰還し、すぐに雪風、レイフ、スーパーシルフはメンテナンスに回される。ブーメラン戦士達はブリーフィングルームで報告書を書き、提出すると、思い思いに行動する。

(本当に団結すら見えない……)

 クリスティーネは、ブリーフィングルームで航空機雑誌を読むミンクスのパイロット・アナスタチヤ=コヴァレフスカ中尉を見る。

「ん? 何か用?」

 クリスティーネの視線を感じ取ったのか、コヴァレフスカ中尉が顔を上げた。

「いいえ。ただ、ブーメラン飛行隊の人達って、協力はするけど団結はしないんだなって」

「生まれも年も違うから。本当、多国籍部隊というより『サラダボール(多民族の坩堝)部隊』よ。アリス隊も同じなのに、上手くいっているのが、私にとって不思議でならない」

 コヴァレフスカ中尉は足を組む。すらっとした美脚で、さらに全身引き締まったフォルムなので羨ましく思ってしまう。ただ、顔は美人なのだが、まるで仮面をつけているかのように全く変わらないのだ。

「アナスタチヤさんは、結構モテる方ですか?」

 クリスティーネは、自身の質問が空気を読んでいないのを自覚した。いつもそうだ。

「モテる? まさか。モテていたらフェアリィに来たりしないわ」

「……ですよね」

 ふと、クリスティーネは、フェアリィに来るのはどういう人間なのか気になった。しかし、今質問すべきでは無いと思い、口をつぐんだ。

 

 

 

 零は格納庫に来ていた。しかし、ブーメラン隊のではなく、アリス隊のだった。

「…………」

 目の前には、第3世代戦闘機が並んでいる。零は古臭い機械が嫌いだ、かと言って新しければいいという訳でもない。効率的で、安心できるものが好きなのだ。

『私は、あなたの本当の親ではないのよ、零』

『零、あたしは機械じゃない。何も言わない機械をずっと相手にしていればいいわ。さようなら』

 F-1を眺めていると、何故か昔を思い出した。里親に、既に分かっていた事実を告げられた時、付き合っていた恋人が離れていった時。

 零にとって忘れてしまいたい事だったが、忘れられなかった。否、アリス隊と出会い、はっきりと思い出させられた。そもそも、忘れてきたはずの過去を思い出すようになったのは、エディスと出会ってからだ。彼女は、昔の恋人に似ていたからだ。

 そして、ノアの後ろ姿が、去っていく元恋人によく似ていた。最も、元恋人は後ろ姿しか思い出せないが。

 クリスティーネの口調もまた、里親のそれを思い出させた。

『ごめんなさいね、距離感が上手く掴めなくて』

 クリスティーネがこう言った時、零は里親のそれに似ているのに気付いた。確かに、里親も最初こんな事を言っていた。

 しかし、それが何だと言うのか。昔を回想した所で、何がある?

「どうして、ここに?」

 振り返ると、ありあがいた。

「別に。散歩をしていただけだ」

「何か考えていたみたいだが?」

 鋭いなと零は思う。昔の自分に似ていると以前思ったが、前言撤回。昔の自分なら、気にしても口にはしなかった。他人には積極的に関わろうと思わなかった。しかし、この少女は他人にも興味があるのだ。

「昔の事だ。あんたが気にする必要は無い」

 一瞬、ありあの表情が動くが、口を開いた。

「そうか。それより――」

 ありあは零が着ているジャージを指差す。

「いつまでそのダサいジャージを着ているつもりだ?」

 

 

 

 気付いた時には、零はバスで揺らされていた。見回すと、ブーメラン隊とアリス隊全員が乗っている。

 そこで零は思い出した。ヴィロワ基地司令官の計らいで、私服その他を買いに向かっているのだ。車内には、例のジャージを着たブーメラン隊24人、そしてアリス隊の5人の他にちらほらと一般乗客がいる。そして、ちらちらとこちらを見てくる。それもそうだろう、同じジャージを24人の国籍がバラバラな成人男女が一切喋る事無くバスに乗っているのだから。

 やがてバスは調布駅前に着いた。全員バスから降り、駅前のショッピングモールに入る。

「じゃあ、集合は1740、ここで」

 クリスティーネがそう言い、皆散らばった。

 

 

 

 零は当然ながら5階、メンズファッションで私服やシェーバー、クリームを購入した。しかし、まだ時間がたっぷり余っている。男子更衣室で買ったばかりの服に着替え、1階の食品売り場に行ってみた。

「深井大尉」

「ポルガー中尉か」

 偶然、酒売り場でB2 カーミラのフライトオフィサ・フリードリッヒ=ポルガー中尉と遭遇した。彼の手にしている買い物カゴには、ビールが何本か入っている。

「日本はよく分からないな。ビールの他に発泡酒なんてある。何が違うんだ?」

「おれも分からない。というより、ビルダーの影響を受けたというのに、産業が正常に機能しているのが不思議で仕方無い」

「確かに。このビールも、つい2ヵ月前の物だ」

 ポルガー中尉がビール缶の底を見る。

 思い出してみれば、ブーメラン戦士とこんなに話す事は無かった。せいぜい一言二言で済ませていた。

「また後で、大尉」

「ああ、中尉」

 2人は別れ、ポルガー中尉は別の売り場に向かった。

 

 零はしばらく酒売り場を見ていたが、何も買わなかった。調布基地の近くに、確か居酒屋があった。呑みたいなら、そっちの方がいいだろう。

 零は6階に上がり、本屋を覗く。人はまばらで、棚もちらほら空所がある。しかし品揃えが無いわけではなかった。

 雑誌売り場に入り、適当に雑誌を探す。まずは週刊誌にビルダーについての情報を得ようと、週刊誌を手にし立ち読みをする。が、問題があった。日本語が読めないのだ。

 今までどうと思わなかったが、母語が読めないという事実に、零は衝撃を受けた。フェアリィでの生活が、故郷を忘れさせるものであったのか。

「どうしたんですか? 零さん」

 呼び掛けられ、振り返るとキャサリンがいた。手にはいくつか紙袋がある。

「いや、何でもない」

 零は週刊誌のページをめくる。すると、見開きに戦闘機が大きく載ったページだった。

 零は驚き、表紙を見る。20XX年 5月 11日号、3日前の雑誌だ。そしてさっきのページに戻る。そこには間違い無く、見覚えのある戦闘機が写っていた。

 小さめの主翼、離れた左右のエンジン、傾いた双垂直尾翼、そして先尾翼。機体は白を基調に、赤と青のラインが入っていた。

「見た事無い……零さん、一体これは?」

「TS-1……」

 それはフェアリィ空軍の主戦力、FFR-31 シルフィードのシステム軍団仕様、コールナンバー・TS-1だった。

 

 

 

「ほらほら、アーチャー、そんな飾り気の無い服なんて着てたら」

「アーチャー先輩ならこの服も……」

「や、やめてぇ!」

「この服もいいんじゃない?」

「アーニャさんも思います!?」

「いやぁ!」

 女性店員は、そっとその場を離れた。

 

 

 

「…………」

 B12 オニキスの女性フライトオフィサ・パメラ=スノウ少尉は暇だった。買うべき物は買った、しかしまだ20分はある。

 彼女は辺りを見回し、Mから始まるファストフード店に入った。

 

 

 

「おい、見ろよ」

 偶然同じ洋服屋にいた桂城少尉、ズボルフスキー中尉に、ブリューイ中尉が話し掛けた。ブリューイ中尉が指し示す先には、王中尉、ガラント中尉、ノアが並んで共用部分のベンチに座っていた。

「だから、どうした?」

 ズボルフスキー中尉が冷酷に言う。

「よく見ろ、手に持っている物だ」

 ブリューイ中尉が言う。ズボルフスキー中尉と桂城少尉が見る。

 王中尉は紙袋を膝に載せ、肉まんを頬張っている。ガラント中尉は、やはり紙袋を脇に置き、コ●コーラを飲んでいる。

 しかし、ノアの手には携帯電話が握られている。それにぶら下がっているストラップは、ブーメラン戦士達にとって嫌と言うほど見てきた物だった。

「あれって……」

「間違い無い、JAM TYPE7だ――」

 

 

 

 調布基地 司令官室――

「はい。ブーメランは予定通り、対象と接触しました。今、共に買い物に出掛けている所です。そろそろメッセージを理解するでしょう」

 ヴィロワ基地司令官が電話で話す。その部屋にはもう一人の男がいた。

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