安全主義者と戦乱の日々   作:天翔青雷

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第三十六話 事後処理

~SIDE 龍~

 

「部分形態変化、銃身。吸い込み開始」

 

 未だに心の整理は完全には付いていないし、まだ惨殺死体は直視できないけど、命を奪っておきながら放置しておくことはできない。それは、僕達の信条に反するから。

 銃身が掃除機のように、まわりの死体を吸い込んでいるのが感覚で分かる。目で見てない分まだマシだけど、やっぱり嫌悪感というか、怖気というかを感じる。

 

 ……あ、痛覚遮断すればいいじゃん。

 

 

~SIDE OUT~

 

 

~SIDE 名無しの少女~

 

「邪神様、大丈夫でしょうか?」

 

 私は今まであの方と過ごしてきて、あの方自身が思っているほど冷血な存在ではないと知りました。だから、あの表情を見ても、驚くよりも先に納得してしまいました。邪神様は、優しすぎるのです。なにせ、

 

「命を捧げた私を、自ら体を張ってでも生かすような方なのですから」

 

 だからこそ、命を奪うことには躊躇いを、罪悪感を感じるのではないでしょうか。だから、たとえ自分が更なる苦痛を味わってでも、彼らの命に敬意を表し、彼らを喰らうのではないでしょうか。

 

「邪神様の心が、壊れないといいのですが……」

 

 アラガミという存在、そして邪神様の能力を知ったときには、まるで化け物のようだと思いました。けれど、今は違います。確かに、邪神様たちの能力は化け物としか言い表しようがありません。けれど、それを行使する彼は、人間です。体が、とか、種族が、とかは関係ありません。彼は、人としての心を持っています。たぶん、元人間の私よりも人間らしい。そしてそれ故、脆い。

 

「私達は、何があっても邪神様の味方ですから……」

 

 私は呟く。この声が邪神様に届かないと知りながら。けれど私達の想いが、邪神様に届くようにと願いながら……。

 

 

~SIDE OUT~

 

 

~SIDE 龍~

 

「人間なんて、とっくに辞めたつもりだったんだけどなぁ」

 

 もう、辺りには血の一滴も残っていない。僕が全て、吸い込み尽くしたから。

 

「主は自分が思う以上に、優しいのでしょう」

「優しさなんていうのは、無慈悲な捕食者には不要の感情なんだけどね……」

 

 僕は少し無理矢理に、笑みを作って言う。……ナインは鋭いから、作り笑いってことはバレてそうだけど。

GODEATERの原作通りなら、恐らく僕が特異点、全てを暗い尽くす終末捕食の執行者。慈悲の心なんて、本当は持つべきじゃない。

 

「主、火山が噴火したときのことを覚えていますか?」

「? 覚えてるよ」

 

 突然話を変えられた。あのときの火山噴火がどうかしたのかな?

 

「あの日、主によって我は保存空間に送られました」

「うん」

 

それも覚えている。モーストの中に水が入ってきてナインが溺れそうになったから、吸い込んで保存空間に送った。

 

「保存空間には、主の記憶も保管されています」

「!?」

 

 それも当然知っている……けど、ナインの言おうとしていることはよく分かった。つまり、

 

「僕の記憶の一部を覗き見た、と」

「はい。……主が恐れているのは、終末捕食ではありませんか?」

「……まさか、そこまでバレてるとはね」

 

 終末捕食は、一度世界の全てを喰らい、生命の再分配を行うという世界のリセットシステムであり、アラガミの存在理由。もともとアラガミは、終末捕食を行うために生まれた存在だ。各地に存在するアラガミが周辺の全てを喰らい、そのアラガミの全てを、アラガミの頂点たる特異点が喰らい、集めた生命を再分配する。

 それだけならまだマシなんだけど、何より恐ろしいのが、それが原作では特異点の意思に関係なく行われたこと。いくつか外的要素も含まれていたけど、特異点が終末捕食をやめることはできなかった。主導権を握ろうとしても、捕食する場所(ホシ)を変えるのが限界だった。

 僕もいつか、世界に操られるのかもしれない。それが、一番怖い。自分の意思に関係なく、家族達を喰らってしまうことが。

 

「主が何を恐れているかは、我も分かっているつもりです。しかしここは、主の知る世界とは違います。あくまで、アラガミという存在が外から流れ込んできただけです。この世界に、アラガミに対する強制力は無いでしょう」

「希望的観測だけどね」

 

 我ながら捻くれてるな、と思う。なんで家族の配慮を素直に受け取れないかなぁ?……そういう性分だから、としか答えようがないけど。

 

「それでも、です。希望があるということは、強制的な終末捕食は決定事項ではありません。存在するかどうかも分からないことに怯えるなど、我等の主らしくありません。我等の主は慈悲深く、そして強い方です」

「僕が慈悲深かったら、彼らは死んでないよ。それに、僕が強かったらこんなに悩んでないし」

 

 心配して、励ましてくれるのは嬉しいんだけどね。

 

「いいえ、主は慈悲深い方です。我等だけなら、この者共は人間の町で晒し者になっていたでしょう。見るも無残な姿で。どうせ喰らったところで、大した物は得られないのですから」

「それはちょっとやりすぎだよ?……って、言えること自体が慈悲深いっていう証拠なのかなぁ?」

 

 純粋に、常識が有るか無いかの差のような気がしなくも無いけど。

 

「そして、この者共をただの餌として切り捨てることをせず、それでも正気を保つことはそうそうできるものではありません。」

「僕もそこまで感情移入してるわけじゃないよ?というか、ナイン達にとっては、餌でしかないんだ……」

 

 それはそれで、複雑な気分なんだけど。僕も人間にそこまで拘っているわけじゃないし、殺し自体も推奨はしないだけで忌諱してるわけでもないから、そこまで強くは言えないけどさ。一応、フォローはありがたく受け取るけど、もうちょっとマシな言い方は無いのかなあ?

 そもそも、僕は彼等を切り捨てられないから苦しんでいるんじゃなくて、凄惨な光景が目に焼き付いているのが気持ち悪く思ってるだけなんだけど。 

 

「家畜に感情移入する人間はそうそういないでしょう?それと同じで、我等は人間という『動物』に対して関心を抱きません」

 

 ……ナインにしては、かなり的を得た発言だね。確かに家畜に感情移入していたら殺すことも食べることもできないし。ただやっぱり、もう少しソフトな例えを出して欲しい。話が重いから。ついでに、家畜に感情移入する飼育者も結構いるし。そういう人を敵に回すような発現は、控えてほしいな。

 

「……主は認めたくないようですが、主は我等の誰よりも優しく、強いのです。主が恐れることなどありません。主には、我等が付いています」

「……ありがとう」

 

 さっきからずっと励まされ続けて、ようやく元気が出てきた。……とは言っても、これからは人殺しにも躊躇しそうだけど。正直、あの光景はトラウマものだ。いくらなんでも、グロ過ぎた。

 

「主の記憶にもこんな言葉がありました。『部下の責任は部下の責任、部下の手柄は上司の手柄』と」

「それは全然良い言葉じゃないからね!?」

 

 ……今は僕自身のことよりも、家族の将来について心配するべきかもしれない。

 

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