~SIDE ???~
私は、母様の思いつきで生まれた存在です。
私には、他の兄弟のような『オリジナル』はいません。強いて言うのなら、父様と母様が私のオリジナルです。私の能力は、父様の劣化版のようなものですから。
それにしても、母様は横暴です。私達を生み出してすぐ、父様の保存空間送りにするのですから。もちろん事前に埋め込まれた知識で保存空間のよさは分かっていますが、もう少し外の世界に居させてくれてもいいでしょうに。
「あれ?こんな徒いたっけ?」
ですから、私にオリジナルは存在しないと……口には出していませんでしたね。失策です。
「君、名前は?」
私に名前はありません。他の兄弟のように、オリジナルの名前が名乗れませんから。
「うぅん、言語障害?僕の言ってる事、分かる?」
失敬な。
「分かります。そして、喋れます。喋らないだけです」
「いや、それはそれでどうかと思うんだけど」
そこで呆れられても困ります。私自身、どうして自分がこんな性格なのか分かっていませんから。文句があるなら、私を生み出した母様に言ってください。
「私は今のところ、兄弟の中で唯一オリジナルを持たない異分子。ですから父様の記憶にあるはずがありませんし、名前も無いのです」
「ふぅん」
これで、納得してもらえたでしょうか。どうせ外に出られないなら、早く保存空間に送ってもらいたいのですが。
「それじゃあ、僕が名前を付けてあげる」
「……はい?」
父様は、一体何を言っているのでしょう?
「だって、呼ばれる名前が無いって悲しいじゃん。だから、僕が付けてあげる。一応、父親らしいしね。納得できないけど」
名前をつける?母様の気まぐれで生まれた、異分子の私に?
「君が何を考えてるのかなんて僕には分からないけどさ。別に、人と違うことは悪いことでもおかしなことでもないと思うよ」
「え……?」
おかしく、ない?私が?
「いや、そんな驚きに満ちた顔されても困るんだけど。……まぁいいや。今日から君の名前は、‘蝶’ね。異論は認めないから。」
「蝶……ですか?」
何故?私には、あんな鮮やかなものは合わないのに。
「どうして?って顔に書いてあるよ……。あんまり喋らないけど、思ったよりも分かり易い子みたいだね。……まあ、そんなことは置いといて。強いて言うなら、自分で自分の事を異分子とか言ってたからだよ。バタフライ効果って言葉は知らない?」
「知りません」
話の流れからそれが私の名前の由来だということは分かります。けれど私は、その単語に関する情報を一切持っいません。
「本当は諸説あるんだけどね……。簡単に言えば、存在しないはずの一羽の蝶の羽ばたきが異常気象を巻き起こすって話だよ」
「なるほど。私はオリジナルを持たない、本来存在しないものですからね」
「正解。でも、一つだけ覚えておいて。たとえ存在しなかったはずの存在でも、そこに存在しているのならその事実だけが現実。『本来』や『IF』に惑わされないで。現実は目の前にある事実だけだから。……というか、他のクローンのオリジナルになってる紅世の徒自体が、本来はこの世界に存在しないはずのものなんだけど」
「父様……」
確かに、父様の言うとおりです。私は今、この世界に存在している。それこそが真実であり、現実です。架空の世界を見て悲観する必要など、ありません。
「……吹っ切れたみたいだね。本当に分かり易い顔してるよ……。あぁそれと、外の世界を見たいなら自由にしていいよ。既に解き放った徒もいるしね」
「本当ですか!?」
外を、見れる?
「嘘を吐いたって仕方ないでしょ。まぁ、自称巫女に見つかったら何言われるか分かんないから、バレないように急いで行って欲しいけど。あと、問題は起こさないでね?」
「大丈夫です。……ありがとうございました!!」
外に出れる。外を見れる。願ったことがこんなにも簡単に叶うとは思いませんでした。
本当にありがとうございます、父様。