~SIDE 龍~
「……なんか、感慨深いものがあるねぇ」
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ちょっとした独り言のつもりだったんだけど、すずかに聞かれてたみたい。まぁ、おかしなことでもないか。すずかは隣の椅子に座ってるんだし、夜の一族だから常人よりも耳は良いし。
「小学校、楽しみだなぁって」
「うん、そうだね」
僕達は今日、私立聖祥小学校に入学する。そこは、聖祥学園っていう初等部から高等部までをそろえた私立名門校。そして今僕達がいるのは、所謂スクールバスというものの中。流石、名門校だね。スクールバスが通る小学校なんて、僕の前世には無かったよ。まぁ、僕が知らなかっただけかもしれないけど。
それにしても、すずかは異様に大人しい。この世界では小学生の時点で精神が成熟するのが当たり前なのかとも思ったけど、周りの子供達は歳相応に騒いでるから、それは違う。となると、原因は彼女が夜の一族であることだろうか。
「やっぱり、実はすずかの実年齢って「龍君、何か言った?」イエ、ナンデモナイデス」
口は災いの元。危うく、余計なことを口走って碌でもない目に遭うところだった。戦闘能力的には僕の方が圧倒的に上なんだけど、生憎と僕の精神は前世の人間だった頃とそう変わっていない。要するに、恐いものとかは苦手なのだ。出会って数ヶ月だけど、月村家の人間は怒らせると恐いってことは身に染みて分かってる。
……あぁ、あの時の忍お姉ちゃんは恐かったなぁ。
「お兄ちゃん、大丈夫?顔が真っ青だよ?」
「え?あぁ、大丈夫だよ。うん、大丈夫」
今はまだ忍お姉ちゃん程じゃないけど、すずかも怒ると恐いんだよね。将来は、忍お姉ちゃんすら越えると思う。そして、こんなことを考えていることがバレても、やっぱり碌でもない目に遭う。それだけは勘弁して欲しい。
「あ、学校が見えてきた。そろそろ着くよ」
とりあえず、これ以上ボロを出さないうちに話題を変えておく。
「うん。楽しみだね、お兄ちゃん!」
……怒ると恐いけど、笑うと凄く可愛いんだよね。悪い虫がたくさん寄って来そうなくらい。
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「龍君、席、隣だね!」
「そうだね。それじゃあ学校でもよろしくね、すずか」
学校に着いて。入学式もサクッと終わった。そして今は、新しいクラスで最初のホームルーム中。小学校だから、ホームルームなんて名前じゃないけど。
ちなみに、席は出席番号順だから、苗字が同じ僕とすずかは隣同士。
「……龍君、先生の話ちゃんと聞いてた?」
え?何か話してたの?全然聞いてなかった。でも、今までの経験から察するに、ここで正直に話したら無言で睨まれるんだよね……。
「もちろん、ちゃんと聞いてたよ?」
「じゃあ先生の言ってたこと、もう一度言ってみて?」
「………………」
マズい。非常にマズい。どうにか誤魔化せないだろうか。……無理だろうなぁ。今、即答できなかった時点で既にアウトな気がする。
「龍君、これからはちゃんと先生の話聞かなきゃダメだよ?」
あれ、思ったより簡単に許してもらえた。
「次に聞いてなかったら、どうなるか分かってるよね?」
「……ハイ」
月村家の人間は、笑顔で人を威圧する。下手に怒鳴られるよりも、こっちの方が遥かに恐いんだよね。
「余計なこと考えてない?」
「滅相もありませんです、はい」
月村家の一員になって数ヶ月、頑張って練習はしたけれど、ポーカーフェイスは身に付けられなかったらしい。すずかが鋭すぎるとか、読心術を使えるっていう可能性も無くはないけど。
「……龍君?」
「はい、ごめんなさい。ちゃんと集中します」
それより先に、今は担任の話を聞かないといけない。考え事してたら、またすずかに怒られそうだし。……億単位の時を生きる邪神が小学生の吸血鬼を恐れるって、中々シュールな光景だよね。