~SIDE 龍~
鮮血が舞った。けど、僕達には傷一つ無い。そもそもの話、男は引き金を引いていない。
「あ、がぁ……」
血の出所は、僕達に銃を向けた男の左胸。そこには、小石ほどの大きさの穴が空いている。
「どうやら、間に合ったようですね」
そして響くのは、少女の声。まさか彼女が来るとは思わなかったけど。
「ナーさん、いけますね?」
「キュルル!」
人のものではない、高く可愛らしい鳴き声が響く。その瞬間、僕達に銃を向けていた全ての男達が顔を土気色に変え、倒れ伏した。
「……あんまり、やり過ぎないで欲しいんだけどなぁ」
ボソリと、呟く。すずか達には聞こえないような、本当に小さな声で。
「こ、今度は何が起こってるのよ!?」
流石に、アリサも錯乱気味。まぁ、こうも連続して非日常が起これば無理もないか。
「アリサ、落ち着いて。まだ味方と決まった訳じゃないけど、少なくとも誘拐犯の味方ではないみたいだから」
ここで彼女達の素性を明かせば、アリサの不安は取り除けるだろう。でも、それでは人を呼んだ意味がない。まだ、僕と彼女達との繋がりを知られるわけにはいかないんだ。
「アイツらの味方じゃないことくらい、誰だって一目で分かるわよ!まだ味方と決まっていないから怖いんじゃない!」
「だったら尚更、下手に刺激しないほうがいいんじゃない?敵に回したら、僕たちの人生はデッドエンドだよ?」
僕の家族は気紛れ者が多いから、アリサ達の身の安全を保証はしてくれるとは限らない。実際、可愛らしい鳴き声とは裏腹に恐ろしい猛毒を吐いたあの子だって、アリサ達には何の配慮もしていない。アリサ達が無事なのは、彼女が空気の流れをコントロールしてくれただ。
……そうやって考えると、彼女が来てくれたことはラッキーだったかもしれない。僕達の中でも、トップレベルに優しい彼女が来てくれたことは。
「仮に敵だったとしても、時間が稼げただけ儲けものだよ。もうすぐ、忍お姉ちゃん達が助けに来てくれる。その時まで生き残れれば、僕達の勝ちだ。あの人達も強いから」
あの時、銃で撃たれていればアリサとすずかの命は無かったし、僕は秘密がバレていた。けれど、彼女達が来てくれたおかげで、時間が稼げた。もう、忍お姉ちゃん達がいつ到着してもおかしくない。
「本当に、大丈夫、なのよね?」
「大丈夫だよ。絶対に」
とにかく、アリサを安心させておく。実際、あの子が吐いた毒は外へ抜けたみたいだし、彼女が無駄な諍いを起こすことはないだろうし。
「キュル!」
「来たようですね」
二人が……いや、一人と一匹か。彼女達が気付いた通り、お姉ちゃん達が到着したみたい。
「すずか!皆!大丈夫か!?」
……恭弥さんか。忍お姉ちゃんの恋人だし、相当の手練だから、援軍として呼ばれるのは想定できたけどさ。
すずかの名前だけを呼んで、僕とアリサを一括りにしたこととか、現在進行形で男達を拘束している彼女に刀を向けてることとか、もの凄いマイナス点なんだけど。こんなのが恋人で大丈夫なのかなぁ。
「恭ちゃん、待って!少なくとも、皆を攫った人間の仲間ではないようだわ。できることなら、穏便に済ませましょう?」
お姉ちゃん、ナイスフォローだよ。彼女達とここで争われるのは不味いもの。
「家族と友人を助けていただき、ありがとうございます。できれば、お礼をさせていただきたいのですが」
恭弥さんと違って、お姉ちゃんは交渉事が得意だね。サラッと家に招いて事情を聞く口実を作ったよ。まぁ、僕達にとってはその方が好都合なんだけど。
「えぇ、でしたらお邪魔させていただきましょう。……積もる話もあるでしょうし、ね」
即席でこんな意味深な返答ができる彼女には、流石にお姉ちゃんでも敵わなさそうだけど。