結局昨日はよく眠れなかった。あの後ずっとレミリアのことや、これからのことについて考えていたのだ。
東方projectのキャラクターと接触すると言っても、何の情報もない。向こうから接触してきてくれないだろうか。そうしたら楽なのに。
まぁでも、そんなことを言っても叶わないのは、わかりきったことなので―――
「よっこいせ、と」
―――そろそろ起きようと思う。いつまでも布団でゴロゴロしている訳にもいかまい。
布団からのそのそと這い出てきた俺は、布団を適当に畳み、部屋を出る。
そのままチェックアウト(この時代だとチェックアウトではなく何と言うのだろうか?)を済まし、宿を出る。昨日二泊と言ったが、一泊で充分だった。その分の金は返してもらった。
宿を出ると昨日見た町並みが目に飛び込んでくる。朝と言うこともあり、店はかなり賑わっている。
そんな中、俺はとある店を目指して歩いていた。
それはどこか?
そう、俺が昨日行けなかった団子屋である。
昨日は金がなくて泣く泣く諦めたが、今日はある。今日は朝から団子パーリーだっ!!
◇
ホウズキは食べ続けた。
店に来てからというもの、それはもう一心不乱に食べ続けた。あとどのくらいお金が残っているかだとか、今何皿目だとか、そんな細かいことは気にせず食べ続けた。
そのくらい美味しい団子だったらしい。店主が自らうまいと言うだけはある。
「な、なんなんだ、あの嬢ちゃん。食べすぎだろ………」
「ほんとに大食らいだな………。まぁ、店としてはありがてぇ限りなんだが………」
「若ぇのは元気でいいねぇ」
どうやら周りの客と店主はホウズキの食べっぷりに、若干引いているようだった。とは言っても、見た目十二歳程の少女としては食べ過ぎ、位の量しか食べていないのだが。
ちなみに、今は六皿目である。
「おじさん!御手洗おかわりくださいっ!!」
「お、おうよ」
七皿目の注文が入る。いつもは笑顔で接客している筈の店主の顔も、どことなく引きつっている。
「お、お嬢ちゃん?」
「はい、なんでしょう」
団子を口一杯に頬張った、可愛らしい顔を店主に向けるホウズキ。
「無粋なことを聞くが、お代はあるんだよな?」
「もちのろんです!そんなことより、さぁさぁ、早くおかわりをっ!」
「も、もちのろん?」
ホウズキの返事を聞いて、どこか安心したかのような顔をして厨房に戻る店主。どうやら金ならあることは理解してくれたらしい。ホウズキのネタは理解していなかったが。
店主が頑張って団子を作っている間も、モグモグと口一杯に団子を頬張るホウズキ。相も変わらず、周りの客は引いている。
「はいよ、お嬢ちゃん。団子のおかわりだ」
「まってましたっ!」
そう言って、また団子を食べ始める。
それから、ホウズキが満足したのは、もう二皿程頼んでからだった。
◇
さて、調子に乗って団子を食べすぎて、金が無くなってしまった。無一文リターンズだ。
だから、またも狩りで金を稼ぐしかない。我ながら、全くもって計画性のないことに、ため息が出そうだ。
さあ、また一狩いくとするか。
「探知」
前回と同じよう、周囲一キロ位に魔力を広げて獲物を探す。だが、獲物が見つからない。くそう。
「ちくしょう。いねーな」
この森は広いから移動すれば見つかるだろうが、移動しながら『探知』を使うとなると、割りと魔力を食う。
いざという時に魔力切れでした、だなんてことになったら、目も当てられない。
それを避けるために、少し移動してから、探知を発動し、解除してからまた移動する。これを繰り返して行えば、魔力もそこまで使わずに、効率よく狩りができる。
その繰り返しを3セット位繰り返した頃、漸く獲物が見つかった。
「ふっふっふ、とうとう見つけたぞ。大人しく出てくればよいものを」
悪役風に呟きながら、獲物のいる方へ、草をガサガサと掻き分けながら近づいていく。
因みに見つけた獲物は、昨日より一回りほど小さい猪だった。もしかしたら、昨日狩った猪の子どもだったりするかもしれない。
「きゃぁぁあああ!!」
意気揚々と俺が獲物に近づき、仕留めようとしたその時、不意に悲鳴が俺の鼓膜を叩いた。
恐らくは女の悲鳴。
それも幼い十歳くらいの。
さっき発動させた『探知』には、人間の反応は無かった。だとすると俺が『探知』を解除してから、獲物を見つけるまでの短時間に、森に入って妖怪に襲われたわけだ。
そんな間の悪い、というか、運の無い人間はいるのだろうか。いや、実際にいるからこんなことになっているのだが。
まあ、こんなことを考えていて、少女がすぐそこで殺されてしまっても、寝覚めが悪くなるだけだから、助けに行こうと思う。
「飛翔」
魔力を使い移動すれば、悲鳴が聞こえるくらいの距離など、それこそ「あ」と言う間に着いてしまう。
着いた先では、人間の男の見た目をした妖怪が、少女を襲っていた。
「こんにちは、妖怪さん。こんなところでいたいけな少女を襲って、どうするおつもりですか?」
「ああん?なんだてめぇ、殺されてぇのか?」
「いやぁあああ!!助けてぇ!!!」
「妖怪さん。私が近くにいたのが運の尽きでしたね。別の日に人間を襲えばよかったものを」
「ごちゃごちゃうるせぇ!なんなんだてめぇは!」
「通りすがりの人間ですよ」
「嘘をつくな!空をとんでるし、妖力も出てるじゃねぇか!」
ふむ、人形の妖怪は獣の形をした妖怪より力が強いと聞いていたから、最初は警戒したのだが、俺から漏れる力を魔力ではなく、妖力と言ってしまうあたり、俺の変装を見抜けないあたり、どうやらこの妖怪は、人形になって日が浅いようだ。必然的に日が浅い方が力は弱い。
つまり、この妖怪は、警戒に値しないということだ。
「この力を妖力と言っちゃいますか。実はこれ魔力って言うんですよ。ご存知あります?魔力」
「ああ?まりょくだぁ?知るかそんなもん」
「では丁度いい、魔力を知らない貴方に魔力についてレクチャーしてあげます」
そう言って俺は右手に魔力を溜める。そして妖怪に向かって放つ。俺が最も得意な炎の魔法だ。勿論妖怪の隣にいる少女にはダメージを与えないよう、配慮しながら。
「ぐぎゃあぁぁぁあああぁぁぁ…………――――」
魔法による炎に焼かれる妖怪を尻目に、少女の方へ近寄る。
「大丈夫でしたか?」
「うん!怖かったけど平気!お姉ちゃんが助けてくれたから!」
「よかった。 ところで、お家わかります?」
「うん!千代ね、町で一番おっきい宿屋にすんでるの!」
千代と名乗った可愛らしい少女は、どうやら俺が昨日泊まった宿屋の一人娘らしかった。世の中には不思議な縁もあるものである。