東方鬼灯伝   作:Agies

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 メリークルシミマス。


第八話 人と妖

 私の名前は千代、この町で一番大きい宿屋の一人娘だ。年齢は十二歳。幼く見られがちだが、十二歳だ。

 身長も同い年の女の子や男の子たちと比べたら、確かに低いが、十二歳だ。よく十歳位と間違われるが、十二歳だ。

 しつこい様だが、十二歳だ。

 

 それにしても、十歳と十二歳を間違えるのは酷いと思う。

 十歳と十二歳。たった二歳差だが、この成長期真っ只中の二歳差。明らかに違うと思うのだ。大人の、例えば二十七歳と二十九歳、などという大して違いが無いような二歳差ではない。

 それほどまでに幼く見えるということに、今更ながら傷つく。

 決して、好きでチビに産まれた訳では無いのだ。ちくしょう。

 ああ、なんてこの世の中は理不尽なんだ。

 

 閑話休題。

 

 さて、ここからが本題だ。私はとある不思議な術を使う女の子に出会った。その少女は十代前半位の年齢にも関わらず、いとも簡単に、私を襲った妖怪を退けてしまったのだ。そのときの話をしようと思う。

 あれは数日前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「千代ー、悪いけど森まで山菜とってきてくれない?」

 

「わかった!」

 

 お母さんにお使いを頼まれる。採って来るよう頼まれた山菜は、この宿で提供するものだ。この宿で提供する料理は殆どが、近くの森で採れる山菜で賄われている。私はよく、その山菜を採りに森に出向く。

 今日もいつものように森へ向かう準備をする。

 背中に背負える篭を持ち、竹でできた水筒を持てば準備完了だ。

 正面玄関から表へと出ると、客の迷惑になってしまい、お母さんたちに怒られるので、裏口から回って家の前の道へとでる。

 家の前の道はいつも通り人が沢山いて、とても騒がしい。そんな中を私は一人、森へと歩いていく。

 森へと近付けば近付く程に、段々と草が鬱蒼と繁るようになり、いつの間にか周りは木だらけになった。

 

 さて、ここからは時間との勝負だ。いかに早く、どれだけの量の山菜を採れるかで、明日のおやつの有無が決まる。

 山菜の採れる場所というのは大体決まっていて、それがどこにあるのか、というのは頭に入っている。

 ここから南へ少し歩くと、拓けた所へでる。そこに目当ての山菜が群生しているのだ。

 そこを目指して歩を進めていると、何やら茂みがガサガサと揺れだした。この森は野性動物が多い。こうして、山菜採りの途中に出くわすことも屡々―――

 

「お、うまそうな餓鬼じゃねぇか。腹減ってたんだ。こりゃ丁度いい」

 

 ―――違う、獣なんかじゃなかった。人の形こそしていれど、人ではないモノ。 妖怪。

 終わった。

 逃げ出すべきだった。が、脚がすくんで全く動けない。

 

「や、いやぁ―――」

 

「なんだぁ、逃げようってか?ヘヘッ、元気があっていいじゃねぇか。尚更うまそうだ」

 

「きゃぁぁあああ!!」

 

 妖怪が私の腕を掴む。凄い力だ。振りほどこうとしても全く動かない。

 

「いや―――いやぁ―――」

 

「こんにちは、妖怪さん。こんなところでいたいけな少女を襲って、どうするおつもりですか?」

 

 妖怪の腕の中で必死にもがいていると、頭上から鈴のような音色が降ってきた。

 

「ああん?なんだてめぇ、殺されてぇのか?」

 

 怒鳴る妖怪の声が鼓膜を叩く。それだけで体が強張る。ここであの空に浮かぶ少女に助けを求めなければ、死ぬ。

 

「いやぁあああ!!助けてぇ!!!」

 

「妖怪さん。私が近くにいたのが運の尽きでしたね。別の日に人間を襲えばよかったものを」

 

「ごちゃごちゃうるせぇ!なんなんだてめぇは!」

 

「通りすがりの人間ですよ」

 

「嘘をつくな!空をとんでるし、妖力も出てるじゃねぇか!」

 

 妖怪と少女が言い合っている。あの少女は何者なのだろうか。見る限り私を助けてくれそうだが、

 

「この力を妖力と言っちゃいますか。実はこれ魔力って言うんですよ。ご存知あります?魔力」

 

「ああ?まりょくだぁ?知るかそんなもん」

 

「では丁度いい、魔力を知らない貴方に魔力についてレクチャーしてあげます」

 

 刹那、空気が爆ぜた。

 

「ぐぎゃあぁぁぁあああぁぁぁ…………――――」

 

 妖怪の断末魔が森に響く。あの少女が、私を襲っていた妖怪を葬ったのだ。それも一撃で。

 ただただ、恐ろしかった。

 恐ろしかった妖怪を、一撃で葬ってしまう少女。私が恐れるべきはこの少女だったのかもしれない。助けを求めるべきでは、なかったのかもしれない。

 だが、

 

「大丈夫でしたか?」

 

 私の安否を気にかける、その表情は到底私をどうこうしようだなんて、思えなくて。この少女はきっと心を許してもいい相手なのだろうと思う。だから、

 

「うん!怖かったけど平気!お姉ちゃんが助けてくれたから!」

 

「よかった。 ところで、お家わかります?」

 

「うん!千代ね、町で一番おっきい宿屋にすんでるの!」

 

 この命の恩人を家まで連れていき、美味しい料理を沢山食べさせてあげるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に助かった!どうもありがとう!」

 

「なんてお礼をしたらよいやら」

 

 森で妖怪に襲われていた少女、千代を助け、千代の家に到着した。そして、親に状況を説明するや否や、マシンガンのように礼を言われる。

 千代の父親曰く、

「近頃は妖怪が多発してな、なんでも、八雲紫とか言う恐ろしい妖怪もいて、本当に無事で良かった」

 

 とのことだ。どうやら、他にも被害者が出ているらしい。だったら娘を行かせたらダメだろう。そう思うのは俺だけなのだろうか。

 それにしても、八雲紫。幻想郷を作った妖怪の名前だ。俺の知る八雲紫と同一人物ならば、とうとう東方のキャラクターと接触できるわけだ。待ちに待った邂逅はいつになるやら。そう遠くない日であることを願うが。

 

「雫ちゃん、今日は本当にありがとう。お礼と言ったらなんだけど、是非家の宿に泊まっていって頂戴。お代は無料(タダ)にしておくから!」

 

 無料よりも高いものはない、とはよく言ったものだが、折角の好意なので、快く受けとることにする。

 蛇足になるが、女将さんに雫ちゃんと呼ばれたのは、日本でホウズキ・スカーレットという洋風な名前を名乗るわけにもいかず、Houzuki・Scarletとアルファベット表記したときのアナグラムが、Caretori・Shizuku、彼鳥雫となったからだ。(最初の“か”が“Ca”なのは目を瞑ってほしい)

 

「お姉ちゃん、一緒にご飯食べよっ!」

 

 そう言って千代ちゃんが俺の袖を引っ張る。

 

「いいですよ。行きましょうか、千代ちゃん」

 

「むー、千代ちゃんだなんて呼ばれるような歳じゃないよー」

 

 千代ちゃんが頬を膨らませ、異を唱える。一見十歳くらいに見えるが、いくつなのだろう。

 

「おいくつなんですか?」

 

「十二歳だよ!あとちょっとで十三歳!」

 

「え、」

 

 思ってたより大人だった。もうすぐ十三歳にしては幼くないか………?

 

「あー、今絶対幼いなって思ったでしょ!もぉー!」

 

「え、いや、やだなぁ、そんなことないですよ。予想通りです。ええ、全く」

 

 思わず笑顔がひきつる。

 

「もう、まったくもう。お姉ちゃんとそんなに年齢変わらないんだからね!」

 

「え、私二十歳ですけど……」

 

「「「え!?」」」

 

 親子三人から驚かれた。妖怪だから見た目に年齢が比例しないのは仕方ないよね。

 

「私てっきり十四歳位かと思ってた!」

 

 どうやらお互いに年齢が見た目と釣り合わないらしい。人と妖怪、種族こそ違えど共通点はあるらしかった。




 これで今年最後の投稿となります。一年間ありがとうございました。
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