東方鬼灯伝   作:Agies

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第十話 理想郷

 自分がどうやって生まれてきたのか、自分でもよくわからない。親の妖怪がいて、それが夫婦の営みをした結果生まれてきたのか、それとも自然と湧くように生まれてきたのか。

 そんなことを考えながら森の中をとぼとぼと歩く。昔から自分は一人だった。人より強い力を持って生まれてきたせいか、周りの妖怪は明らかに自分を避けていた。誰とも群れることなく、あちこちを旅して回った。人間のところへはよく行った。人に化け生活していく中で、私はとある考えに至った。

 妖怪と人が共存できないか、と。

 それを妖怪たちに話したら、無論、全員笑った。そして、そんなのは不可能だと切り捨てられた。私はより一層孤立した。

 そんな自分の夢ができてからは、妖怪たちに一緒に妖怪と人が共存する理想郷を作ろう、と声をかけていった。大抵は無視するか、そんなのできっこねぇ、と笑うかのどちらかだった。協力しよう、と言ってくれた者もいたが、そういうヤツは大体が私の力を利用しようとするだけのヤツだった。そういうヤツを排除していくうちに、八雲紫は化け物だ、とか、スキマ妖怪には関わらないほうがいい、などという噂がたち、より孤立した。

 妖怪たちに声をかけて、たまに人間のところへ脚を伸ばす。そんなことを続けて今日に至る。

 

「……はぁ」

 

 ふと顔を上げて辺りを見渡す。自分以外誰もいない。その事を改めて実感し、更に憂鬱になる。

 つい先程も、知り合いを訪ねて無様にも断られてきたところである。

 

「……?」

 

 憂鬱な気分を吹き飛ばすかのような、剣呑な気配が肌を刺した。

 

「妖力……?」

 

 少し先からとてつもなく大きな妖力が漂ってくる。風見幽香という大妖怪はこのくらいの妖力を持っていたが、基本的には温厚で常に妖力を出しているなんてことはないはずだ。そもそも、アイツは花妖怪。自分が育てている花たちの下を離れるわけがない。故に、この妖力はまた別のヤツだということだが。

 

「……面白そうね」

 

 今まで悩んでいたことなんか吹き飛び、俄然興味が湧いてきた。

 この妖力の近くには人間の気配がするのだ。人間を襲っているのではなく、人間と共に行動している。

 面白い。今までこんな妖怪には出会ったことがない。

 私はそう思い、直ぐにスキマを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキマを開いた先に見えたのは、武器を持った男たちの集団だった。

 そこには少女がいた。

 この男所帯に女子が一人。明らかにおかしい。十中八九アイツが妖力の発生源だろう。

 そんなことを考えてこのまま眺めたままというのも面白くない。声をかけてみることにした。

 

「あらあら、こんな大勢でどうしたのかしら?」

 

 一同がこちらへ振り向く。

 

「貴女、一体何者?そんな大きな妖力を発しておきながら人間に溶け――」

「や、八雲紫だ!!八雲紫が出たぞ!!かかれ!!」

「きゃっ!なによ!私がまだ喋ってたじゃない! いやっ!いたいっ!きゃーーー!」

 

 話しかけたら突然襲ってきた。私が話していたというのに堪え性のないヤツらだ。

 今、胸を触られた気がした。

 少し腹が立ったから、

 

「もうっ、やめてってば!!」

 

 意識の境界を弄って意識を摘み取ってやった。これで漸く静かになった。

 

「ふう、これで静かになったわね。それで、貴女一体何者なの?」

 

 パンパンと服に付いた埃を落としながら、唯一、私に襲いかかって来なかった少女に問いかける。

 

「私ですか?ただのしがない人間ですよ」

 

 嘘つけ。あからさまに妖力を発しておきながら。

 

「白々しいわね。そんな大きな妖力を持っていながら人間と一緒にいるなんて。この男たちを利用して私の居場所を探ろうとか、私を殺そうとするでもなく。どうして人間と一緒に行動しているの?」

 

「私、質問攻めにされるのって嫌いなんです」

 

 あくまでもシラを切るつもりらしい。そうやってのらりくらりと躱されるとイラっとくる。自分でやるのは好きだが。

 

「質問に答えなさいよ」

 

 少し語気が強まり、迂闊にも妖力を強めてしまった。警戒されただろうか。

 

「何となくですよ。そんなに特別な理由はないんです」

 

 私の懸念とは裏腹にあっさりと答える少女。

 

「何となく、ねぇ。ふぅん、面白いわね。貴女名前は?」

 

「名前を聞くときは自分が名乗ってからだと言われませんでしたか? 私の名前はホウズキ・スカーレット。今は彼鳥雫と名乗ってます。以後お見知り置きを」

 

 つくづく生意気なヤツだな、と思う。と同時に面白いヤツだな、とも思う。だからこそ、

 

「小生意気な娘ね。私は八雲紫。スキマ妖怪とか呼ばれてるわ。貴女のこと気に入ったわ。どう?私と取引しない?」

 

 コイツなら私の夢を受け入れてくれるのではないかと、そう自然と思えた。

 

「取引ですか?」

 

「ええ、貴女が私の手伝いをする代わりに、私は貴女に住みやすい場所を提供するわ」

 

 人と妖怪が共存する理想郷。

 

「その手伝いというのは?」

 

 人と妖怪、そこには絶対的なルールが存在する。

 

「笑わないで聞いてくれるかしら?」

 

 妖怪は人を襲い、人は妖怪を畏れる。

 

「ええ、勿論」

 

 その絶対的なルールはねじ曲げることなど不可能。

 

「実はね、人間と妖怪が共存できる、理想郷を作りたいのよ。その手伝いをしてほしいの。それで、妖怪なのに人間と一緒にいた貴女とならできると思ったわけ」

 

 だがその理想郷なら、

 

「わかりました。その取引受けましょう。手伝いますよ、人間と妖怪が共存できる理想郷づくり」

 

 人と妖怪が手と手を取り合い、

 

「本当にっ!?ありがとうっ!」

 

 共存する。

 

「それじゃあ早速行きましょっ!ついてきてっ!」

 

 そんな夢みたいなことを受け入れてくれるヤツなんて今までいなくて。

 でも。

 コイツが、ホウズキ・スカーレットが、肯定してくれて、私は舞い上がってしまったのだろう。

 

「ぁう、いたぃ……」

 

 踵を返そうとしてドレスの裾を踏んづけて、スッ転んでしまった。

 嗚呼。

 穴があったら入りたいというのは、こういうことを言うのだろう。

 穴といえば、そうだ、私はスキマを開けるではないか。それで逃げてしまおう。

 

「……ぐすっ」

 

「………………」

 

 無言が辛い。本当に逃げてしまおうか。

 

「……まぁ、その内いいことありますよ……」

 

 あまりの惨めさに私はスキマで逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く原作キャラクターの邂逅かと思いきや、八雲紫は派手にスッ転んで、顔を真っ赤にして逃げ出してしまった。よっぽど恥ずかしかったのだろう。 だが、顔を真っ赤にしてうずくまる様子は、それはそれはとてつもなく可愛らしかったことをここに記しておこう。

 

 閑話休題。

 

 さて、八雲紫のことは一先ず後にするとして、この寝っころがっている男たちをどうしたものか。 一人や二人ならまだ担いで運べたが、流石に二十人近い人数は運べない。どうしよう。

 まぁ、考えていても仕方がない。小腹も空いたし、女将さんに貰った弁当を食べるとしよう。

 魔法でしまっておいた弁当をとり出す。弁当は昔ばなしに出てきそうなお握りだった。

 

「うむ、うまし」

 

 

「う、ううん?」

 

 お握りの最後の一個を味わっていると、男が起き出した。ちょうどいいタイミングだ。

 

「ハッ!?ここは?」

 

「おはようございます」

 

「そうだ、俺は八雲紫に……! ヤツは、八雲紫は!?」

 

 起きた男たちがそう尋ねてくる。ドレスの裾を踏んづけてスッ転んで、顔を真っ赤にして帰っていった。とも言えないので、適当に誤魔化しておく。

 

「みなさんが倒れてしまった後、私も戦ったのですが、逃げられてしまいました」

 

「うぬぅ、そうか」

 

「いや、しかしお嬢ちゃんが無事で良かったぜ」

 

「おお!そうだな」

 

 男たちがそう言う。

 

「して、このあとはどうする?」

 

「どうもこうも、目的のやつが逃げてしまったのだ、帰るしかあるまい」

 

「それもそうだな、もうじき日も暮れることだしな」

 

「ああ、暗くなり始めてしまうと危険だ。早く帰るに越したことはないだろう」

 

 どうやら全会一致で、村に帰ることになったらしい。これで千代ちゃんとの必ず帰るという約束も守れそうだ。

 

「さあ、帰るぞ!」

 

 リーダーらしき男が声をあげ、行きと同じように列を成して歩いていく。今夜も千代ちゃんの所に泊まらさせてもらおう。

 八雲紫のことは……そうだな、明日以降もここに来てみよう。アイツも戻ってくるかもしれない。




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